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ふたばと玲奈の決闘(デュエル)

マジックボールそれは、かつてこの世界が暗黒に包まれていた時に、人々の唯一の娯楽として広まった、原初のスポーツである。始めは、運動不足な魔術師間でのみ流行していたが、時代は移り変わり、どんな人でもプレイできるようになった。ルールはテニスに似ているが、打ち方によって様々な回転が掛かるボールと、魔術師が存在していた頃の名残で、未だに体内で魔力を生成できる現代人達によって、世界各国で愛されている、国民的スポーツなのだ。


「さあ、もう終わり?」

 双葉は倒れている加奈子達を見下しながら、ラケットの先端を向けた。まるでそれは、銃口のようである。すると、騒ぎを聞き付けたのか、白いユニフォームを着た、一人の女子生徒が現れた。


「ちょっと、何してるの?」

 そこには黒い髪の毛を腰まで垂らした、大和撫子風の美少女がいた。彼女はスラリと伸びた長く美しい脚線美をこれでもかと披露しながら、倒れている先輩方に、侮蔑の目を向けた。


「先輩達、後で顧問に言いますからね」

 ただでさえ、双葉にボコボコにされ、心身ともに窶れている先輩方に止めの一言である。しかし、かの少女は、そんなことを気にしない。すぐに、見知らぬ乱入者の方に視線を移した。


「私は火口玲奈。太陽学園二年A組よ。あなたは?」

「太陽学園二年C組の、星野双葉だ」

「え、星野って、あの星野双葉と同姓同名?」

「あ、ああ。悪い?」

「いえ、校内でも有名な星野君と同姓同名とはね。ま、アイツほど強くは無いでしょうけど」

 火口の目が鋭さを増した。だが、双葉は驚かないし、圧倒もされない。


「試してみる?」

「ふっ、吠え面掻くわよ」

「掻かせてみなよ」

 二人の中でバチバチと火花が散っている。

「星野双葉の世界大会見たわ。ふん、たまたま勝てただけよ。あんな奴、いつか私が倒すんだから」

「へえ、でも、その星野双葉を倒すには、まず、こっちの星野双葉を倒さなきゃね」


 二人はコートに上がった。サーブ権はジャンケンで、火口からになった。


「行くわよ」

「いつでもどうぞ」

 玲奈は高くボールを上げ、思い切り打ち込んだ。

「食らえええ」

 ボールは赤く発光し、キュルキュルと音を立てながら、ドリルのように前後に回転した。


「来い」

 双葉は後ろに飛んだ。そして、バウンドしたボールを打ち返そうと狙った。しかし、それこそが玲奈の作戦だった。

「甘いわね」

 玲奈はペロリと下唇を舐めた。放たれたボールは、土の上でグルグルと回転すると、そのまま僅かに土を掘ったまま止まってしまった。つまり、バウンドしなかったのである。


「ちっ、ノーバウンドショットかよ」

「どう、私のラピッドサーブは」

「ちっ」

「もう1球行くわよ」

 玲奈のサーブは問題なく、双葉のコートへ入った。

「打ち返してやるよ」

 双葉は一気に前衛に出ると、ボールか地面に付く前に打ち返そうとした。しかし、まるで、野球のフォークボールのように、相手のコートに入るなり、ストンと急降下した。


 ボールはまたしても、地面に刺さるようにして止まった。

「ふふ、2点先取ね」

 マジックボールはテニスとは違って、点数は1点、2点という風に計算する。先に5点先取すれば、1ゲーム制したことになり、コートをチェンジする。そして先に3ゲーム先取した方が勝利となる。タイブレークは無く、どちらかが3ゲーム取るまで、4ゲーム、5ゲームと続いて行く。


「そら、ドンドン行くわよ」

 玲奈のラピッドサーブに対する攻略法が分からず、あっという間に1ゲームを奪われてしまった。


「ふん、次はこっちのサーブだね」

 双葉はボールを強く握り締めた。そして、高く上げて打ち込む。

 ボールは青く発光しながら、ギュルギュルギュルと横方向に回転した。


「あれは」

 玲奈は驚いた。テレビで見ていた、星野双葉が使っていたスピンショットにあまりにも酷似していたからだ。

「スピンショットのサーブバージョン。スピンサーブだよ」

「打ち返してやるわ」

 玲奈は素早くボールの前に立つと、それを打ち返そうとした。しかし、ボールはベーゴマのように回転しながら、軌道を変えて、玲奈の手首に命中。ラケットを叩き落とした。

「くっ」

 玲奈は手首を押さえたまま、蹲った。痛みは無いが、手の先がまるで、静電気が走るようにピリピリとしている。


「はぁはぁ、やるわね」

「まだまだ、ほら、構えて。行くよ」

 双葉はさらにスピンサーブを放った。ボールは弧を描きながら、玲奈の走る方向と、見事に逆に飛んで行く。

「何なのよ。もう」

「スピンサーブは俺のさじ加減で、途中で軌道を変えられる。よく見てないと、触れることすらできないよ」

 先程、双葉が玲奈のサーブを取れずにゲームを取られたように、今度は、玲奈が一方的に点を奪われてしまった。


「デュエル星野双葉リード。ワンデュエルストゥーワン」

 いつの間にか審判もいる。それどころか、他のユニフォームを着ている、レギュラーメンバー達も勢揃いだった。


「まるでサーブ対決ね」

 玲奈は自嘲気味に笑った。

「でも、私がリードしているわ。先にポイントを取った私のが有利。次にあなたからサーブでゲームを奪って、その次奪われたとしても、その次にはまた私のサーブ。先に3ゲーム先取した方が勝利なのだから、私が最初にサーブ権を得たのが運の尽きね。ま、運も実力の内よ」

 マジックボールにはデュースも無い。運の要素も絡んでくる。完璧な意味で公平なゲームとは呼べないものの、運すらも味方に付けなければ勝てないシビアなゲーム性もまた、魅力だった。故に、双葉は絶望しない。


「次、あんたがゲームを奪えるなんて、誰も言ってないけど」

「はぁ?」

「ラピッドサーブだっけ。あれ、もう一回打ってみなよ」

 双葉は前衛に出た。シールドのすぐ前にピッタリと付いて離れない。

「ふん、そんな付け焼き刃の作戦。お見通しよ」

 玲奈はラピッドサーブでは無く、普通に双葉の後方へ向けてサーブを打った。双葉は前に出すぎているので、後ろのラインギリギリへのボールへは追い付けないと踏んだのである。


「ふ、遅いボールだね」

 双葉は、右足一本で後ろに跳んだ。まるで縮地の術のように、背後のラインまで瞬間移動したのである。

「な、嘘」

「雷神ステップ」

 双葉はガラ空きとなっている、玲奈の右エリアへ打ち返した。

「くううう」

 点数でリードしていても、あんなものを見せられたのだ。最早、玲奈に余力は残されていない。


「待ってよ。雷神ステップって言ってたけど。それは後ろにしか行けないの?」

「いや、本来は前へ行くのが正しい使い方かな」

「なら、私のラピッドサーブだって、打ち返せるじゃ無い。まさか、手加減してたの?」

「一匹のウサギを狩るのにも、百獣の王は全力を出す。でも俺は人間だからね。相手によって力の入れ方も変えるさ。あんた凄いよ。素人のクセに、俺に雷神ステップ使わせたんだから」

「あんただってアマチュアでしょ」


 双葉の優勢は揺るがない。結局、玲奈にとって、唯一の勝つチャンスであった、このデュエルも落としてしまい、2-1となった。そして、3デュエル目は、双葉にサーブ権がある。彼女のスピンサーブを打ち返すことは、玲奈にはできないので、結果は目に見えていた。

「ジャッジメント。ウォンバイ星野双葉。スリデュエルストゥーワン」


 用語


 デュエル 試合のこと。第1デュエルをファーストデュエルと予呼び、以降、セカンドデュエル、サードデュエルとなっていく。


 ジャッジメント ゲームセットの意


 サーブ テニスと同じ用法


 シールド テニスや卓球におけるネットの役割。両者のエリアを分断するように中央に存在。シールド発生装置によって、自動で作られる、青透明な壁で。ボールを何度かぶつけると、ヒビが入り、割れてしまう。一度割れたら、そのデュエル中は直らない。また、シールドを破壊することはルール違反では無く、敢えて破壊する戦法もある。シールドは横一列で8枚並んである。


 魔力 この世界の人間が持つ力、日常生活でも様々な場面で用いられているが、マジックボールの世界では、もっぱら、ボールに込めるもの。身体の一部分に集中させて機能を向上させたり、水をお湯にしたり、はたまた味をわずかに変えたりもできる。


 回転 マジックボールにおいて、魔力と並ぶ重要な要素。これをボールに加えることで、バリエーションを付けられる。回転の数、方向によって、打球の強さや早さ、また曲がったり、跳ね上がったり、様々な変化がある。


 

 





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