表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

双葉とふたば

「嘘だろ。はぁはぁ」

 双葉は寝て起きるなり、自分の身体の変化に気が付いた。あるはずのモノが無く。無いはずのモノがある。慣れ親しんだ、朝になればそそり立つ相棒はおらず、自称、男らしい見事な胸板には、小振りな膨らみがあった。


「あ、あああ」  

 パジャマのボタンを引き千切って、胸元を露わにする。清らかなる桜色の乳頭が見えて、双葉は顔を真っ赤にした。

 この年齢で、女性の裸体など見る機会も無い。特に、マジックボールのみに打ち込んで来た、少年からすれば、グラビアの写真集ですら、卒倒ものに違いない。


「あががが」

 鼻血のプールに溺れて、双葉は気絶した。そこに、剛造が駆け付けて来た。

「あ、ああああ、双葉、どうしたんじゃ、その身体はぁぁぁ」

 慌てて、孫の身体を持ち上げて、地下にある、自分の実験室に連れて行く。


「はぁはぁ、じいちゃん、ああ」

「落ち着いたか双葉よ。驚いたなぁ。何故、こんなことに」

「何故だと。おい、じじい。お前の飲ませたスポーツドリンクに何か入ってたんだろ」

「な、馬鹿な。ワシは本当に、お前のため思ってスポーツドリンクを作ったのに」

「クソじじい。嫁に先立たれたからって、俺を女にして、慰めて貰おうとしたんだろ」

「アホ、お前はアホじゃ」


 双葉は寝かされていたベッドから起き上がると、大きな鏡の前に立って、改めて自分の身体を見た。

 

 オレンジ色の髪の毛は、柔らかなウェーブが掛かっていて、肩まで伸びている。触ってみると、男の時とは髪質が違って、フワフワとしている。若干だが、良い匂いもした。肌もスベスベで、透き通るように白い。週刊誌のトップを飾れるレベルの美少女だった。最も、元々、中性的な美少年だったのだから、この変化も無理が無いように思えるが。


「しかし、ワシのドリンクが原因というのは正しいじゃろうな。それ以外に考えられん。取り敢えず、ワシは飲んだドリンクの成分を調べるから、お前は、学校に行け」

「学校になんか行けるか。この身体見ろ。男子の制服が入るのかよ」

「確か、冗談でお前に着せようと思っていた、女子制服があるじゃろ」

「あ、ああ。じじい。やっぱり変態だな。狙ってたな」

「もう、何とでも言え」

 剛造はぶっきらぼうに答えると、それきり、双葉に背を向けて、いつものように実験室に籠もった。


「クソ」

 着慣れない制服は予想以上に厄介な代物だった。スカートは、ズボンと違って、足下が空くので、スースーして気持ち悪い。ブラなんてしないから、シャツが乳首に擦れて、痛いやら擽ったいやら、何とも言えぬ不快感があった。


 学校に着くと、ジャージを着た女子生徒と、白いユニフォームに身を包んだ女子生徒らが、コートで素振りやら、走り込みやら、朝練に勤しんでいた。


「女子マジックボールか」

 双葉の通う太陽学園は、マジックボールの名門校の一つである。最も、プロにしか興味の無い双葉は、所属することは無かった。剛造も、お前がやると、強すぎて逆に風紀を乱しそうだからと、暗に入らないことを推奨した。


「ん?」

 ふと、視線の先に一人の女子生徒が映った。彼女は赤い髪にポニーテールという出で立ちで、青いジャージを土や埃でボロボロになった状態で着込み、同じく青ジャージ姿の先輩らしき、タチの悪そうな連中に囲まれていた。


「ほら、日向。避けない」

 先輩らしき女子生徒の一人が、ラケットでボールを打った。

「ぎゃ」

 回転するボールが、日向と呼ばれたポニーテールの少女の右肩に命中した。


「ほうら、日向。しっかりしなきゃ。もう1球行くよ」

 意地悪そうな女子生徒がさらにもう1球、球を打った。ポニーテールの少女は、言い付け通りに、避けようとせず、そのまま目を閉じた。  


 瞬間、目の前で閃光のようなものが走るのを感じた。目を開けると、そこには、オレンジ色の長い髪の毛をした少女の後ろ姿があった。彼女は手に、マジックボール特有の長ラケットを持ち、立っていた。


「な、何よあんた」

「ふうん、速い打球だけど、回転も掛かって無いし、魔力も籠もってない。これなら、テニスとか卓球に乗り換えなよ。どうせ、弱いだろうけど、今よりはマシになるんじゃない?」

 少女は不敵に微笑んで見せた。ポニーテールの少女は思わず少女に訊ねた。

「あなた、名前は?」

「星野双葉。太陽学園二年生。あんたも先輩も弱そうだから、俺がレクチャーしてやるよ」


 双葉は先輩の方を見た。

「ねえ、弱いもの苛めしたいなら、俺で試しなよ」

「生意気な奴ね。私は三年よ。二年のくせに」

「御託は良いから、早くして。少しイラついてるから」

 双葉は勝手にコートに入るなり、ボールをコートの上でバウンドさせた。


「先輩風吹かせるなら、サーブ権は後輩に譲ってね」

 双葉はボールを高く上げた。そして、それを思い切り打った。

「ちっ、太陽学園三年、星屑加奈子を侮るなぁ」

 加奈子は放たれたボールを打ち返した。ボールは僅かに回転しながら、双葉の眼前目掛けて飛んで行った。


「回転掛けられるじゃん。じゃあ、これならどう?」

 双葉は顔目掛けて飛んで来たボールを避けると、バックバンドで打ち返した。ボールは青く発光している。


「まさか」

「魔力を込めたボールだよ。これが打ち返せないなら、レギュラーにはなれないよ。きっと、残り一年間もずっと青ジャージだね」

「くそおおおおお」

 加奈子は前に出た。そして、半ば突っ込むように、激しく回転と発光を繰り返すボールに向かった。


「ぎゃああああ」

 ボールは僅かに軌道を反らすと、そのまま、加奈子の右肩に命中した。

「痛い、痛あああああ」

 ダンゴムシのように、その場で丸くなり転がるように悶え苦しむ加奈子。双葉はそんな加奈子を見下ろして言った。

「さっきの仕返しだね。ほら、あんたもあの娘の右肩にボールぶつけたろ」

 最早、その後は試合にならなかった。結局、加奈子は1ゲームはおろか、1ポイントすら得られなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ