水面下の戦い
土曜日、日向海月からメールが届き、指定の公園にて待つふたば。まさか、週末にクラスメイトの女の子と会うことになるとは思わなかった。相手からすれば、遊びのつもりだろうが、ふたばからすれば、初めての異性とのデートということになるのだろうか。
「おーい、ふたばちゃん」
「あ、日向さん」
海月は登場するなり、ふたばに抱き付いた。
「ちょ、何だよいきなり」
「へへん、ふたばちゃん、あったかい」
「止めろってば」
まさに海月のように吸い付いて来る彼女を、ふたばは何とか引き剝がした。
「今日はふたばちゃんを、私がコーディネートしてあげようと思ってね」
「はぁ、何だよそれ」
「ふたばちゃん、この前も男性用のトランクス穿いてたし、折角可愛いのに、それじゃあ勿体ないと思ってさ。今日だって、下はジーンズで悪くないけど、そういうボーイッシュな格好は麻美ちゃんの方か似合うよ。ふたばちゃんは、もっとこう、スカートにワンピースみたいな、乙女っぽい感じが良い」
「あのなぁ、俺は動きやすければ何でも良いんだよ。それに、試合で着る、レギュラーウェア。あれは白いスカートじゃん。あれで良いよ」
しばらく、二人で話していると、遠くの方から、見慣れない、黒いブレザーに、茶色のベレー帽を被った、女子の二人組が、珍獣でも見るような目で、ふたば達を見ていた。
「あらん、あれは太陽学園マジックボール部の生徒さんじゃない。ふふ、相変わらず見窄らしいわね」
「あ、心愛ちゃん」
海月が駆け寄って、抱き付こうとすると、心愛と呼ばれた少女は、彼女の顔面を掴んで、無理矢理に止めた。
「気安く呼ばないで。日向さん、噂ではレギュラーにまたなれなかったんですって?」
「あ、うん、そうなんだ。あはは」
「ふうん、才能無いなら、もう辞めちゃえば?」
刺さるような言葉。海月の顔が一瞬だけ暗くなった。それでも、彼女は笑って見せる。
「えへへ、でも、私、マジックボール好きだから」
「下手の横好きって奴ね。ま、良いんじゃない。あなたがそれでよければ」
心愛はクリーム色の長い髪を靡かせながら、意地悪そうに言った。まるでフランス人形のような美しい容姿とは裏腹に、性格はかなりキツそうだ。そして、その慎重は、海月の半分ほどしか無い。隣にある、もう一人の女子は、黒いショートカットヘアーに色黒の、彼女とは対称的に、背が高く、170センチは有りそうだった。のペッとした顔をしていて、遠くの方を見ている。
「ところで、そっちの娘は?」
心愛は見覚えの無い、ふたばの方を見た。
「ああ、彼女はふたばちゃん。マジックボール部の新生にして、次の大会のレギュラーなんだよ」
「へぇ、あんた、そんな新人に抜かれたんだ。可哀想」
「おい、いい加減にしろよ」
ふたばは心愛に詰め寄った。すると、心愛は冷ややかな目で、ふたばを見るなり、言ってはいけないことを呟いた。
「何よ、ブス」
「ブ、ブス?」
ふたばは素っ頓狂な声を上げた。余程ショックだったのか、まるで殴られたかのように、一歩、後ろへ下がった。
「ブス、ブスだと」
「もっと言ってあげるわ。ブスブスブス。あんた鏡とか見たことある?、マジで、超ブスだからね」
大ダメージだった。まさか、こんな端的な言葉で、これほどまで傷付けられるとは。いや、寧ろ、短いからこそショックを受けやすいのかも知れない。
「酷いよ心愛ちゃん。ふたばちゃんは可愛いよ」
「本当に?」
涙目になりながらふたばは言った。海月は力強く首を縦に振る。
「うん、私が保証する。オタサーの姫って感じだよ」
「それ、褒め言葉なのか?」
しばらく、不毛なやり取りが続いた。すると、心愛はサッと、踵を返し、顔だけをふたば達の方へ向けた。
「明後日は、全国大会の予選ね。予選は本戦とは違い、4つのブロックに分かれたリーグ方式。各ブロック3位までの学校が、本戦へと進める。我ら、水晶学園は、どこのブロックであろうと優勝確実。そして、帝東学園、聖ルーミア女学院、キングス大付属学園なども本戦の常連校として、順当に勝ち上がるでしょうけど、太陽学園はどうかしらね。ほとんど知らないようなルーキーを、レギュラーにして、果たして、どこまで行けるのやら」
「おい、なんなら、ここで勝負する?」
ふたばは目をぎらつかせて言った。だが、心愛は相手にしない。寧ろ、挑発するように…。
「ふん、まずは目の前のハエを追ったらどうかしらん。明日はいよいよブロックの発表よ。精々祈りなさい。どうか、水晶学園に当たりませんようにってね」
それだけ告げると、心愛は自分の傍らで棒立ちしている、長身の女子生徒を引き連れて、喧騒の中へと消えて行った。全国大会予選はいよいよ明後日にまで迫っていた。




