超短編 『僕は君の糧になる。』
マンネリ化した日常、暖かい春の風が当たる校舎。その籠の中で極々平凡な日々を過ごす学生達。
僕は、この普通で何も無い生活を送りたい。
僕は名乗る必要もないほどの人間だ。身長も成績も平均程度。これといった特技もない。
『××くん!また今日も本を読んでるのー?』
本の表紙に顔を近づけて、君は話しかけて来る。
「そう、今日も本を読んでいるんだよ。"君こそ"大した用は無いのに、今日も僕に話しかけて来るんだね。」
『××くんが話しかけてほしそうに見えたからだよ!』
「それは天と地がひっくり返ってもあり得ない事だね。仮に僕が君に恋をしていたとしても、僕は君に話しかけてほしそうな態度は見せない。」
『ひどい言いよう! ××くんは、私の事どんな風に見える?』
君は――
「……今にも千切れてしまいそうな糸に見えるよ。」
『… あはは!それは私からそっくりそのままお返ししたいくらいだよ』
「……」
『今日もこれだけしか話さないで本に集中するの?目の前に超絶美少女がいるっていうのにさ!』
「……」
「君は、何をしてみたい?」
『おおっ!やっと普通に話すようになってくれたかー! んー……』
『私は、気持ちよく外を走り回りたい!』
『××くんは、何をしてみたい?』
「僕は、本を読んでいるだけで十分だよ。 ……もし願いが叶うなら、特に何にもなく普遍的な学校生活を送りたいね。」
『そっかー。私達は似たもの同士だよ!』
「僕はそう思わないね。君は強いよ。僕に毎日しつこく話しかけて来るんだから。」
『一人で静かにしてるより、私は誰かと会話してたい。気を紛らわすためじゃなくて、友達を作りたいんだよね!』
「やっぱり君と僕は似ていないみたいだ。」
『…怖くないの?』
「…怖いさ。だけど本を読むと、心が落ち着くんだ。けど僕は……いや、何でもないよ。」
『わざと気になるように続きを話さない意地悪。』
「大したことじゃないし、もうすぐなんだから、僕と話すよりも、家族と話していたほうがいいんじゃない?」
『むぅ…そうかも』
「僕はもう寝るから。」
『そっか!今日はたくさん話せて良かった!おやすみなさい』
「うん……おやすみ。」
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「また来たんだ。君は懲りないね。」
『××くんと友達になるまで、私は何度も話しかけにくるよ!』
「そっか、君はもう僕と友達だよ。」
『追い返すために言ったでしょ!』
「そんなまさか、僕は君と似ている仲じゃないか。」
『そんなのずるい!卑怯だ!』
「今日の午後から、僕は出かけるよ。」
『それじゃあ、今日は邪魔しちゃったね。』
「"今日も"の間違いじゃないか。」
『なんてひどい!……頑張ってね。』
「うん。僕は何もできないけど、それなりに頑張るつもりさ。」
『それじゃあ、私はおいとましますー!』
『あ!私達、友達だよね?』
「……ああ、君と僕は友達だよ。」
『そっか!良かった!』
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僕は、君と仲良くできない。君が傷ついてしまいそうで。
いつもどんな状況でも元気そうにしてる君が壊れてしまいそうで。
僕と君が次に会えたら、僕は君と仲良くできるだろうか。
小説の最新巻、来月発売されるんだった。
君の声が、文字が、だんだん遠く薄れていく。
僕は―――
目が覚めた。体が痛い。動かない。息が苦しい。熱い。
「目が覚めたか? 俺のせいで起こしたんならごめんな」
『(お父さん……)』
「無理するなよ、まだ安静にしてたほうがいいから」
『(うん…)』
それから数週間後。
『お母さん、××くんのことは聞いてないの?』
「…××君は退院したよ」
『そっか…!良かった』
「これからリハビリがあるんでしょう?」
『今日もリハビリ頑張るよ!』
「うんうん、退院できたらみんなで旅行にでも行きましょう。」
『やった!それは楽しみ!』
それから数年後、一通の手紙が届いた。××くんからの手紙だった。
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君にこの手紙が届いているってことは、僕はもうこの世に居ないだろう。
君はリハビリを終えて、家で幸せに暮らしているだろうか。
僕は助かる見込みがほとんど無い病気だったから、僕が助からなかったら、
HLPの適合度の良かった君に心臓を提供することにしていたんだ。
怒るかもしれないし、悲しむかもしれないけど、君は強く、前向きに生きていける人
だって僕は知っている。学校生活にも慣れて、君が作りたいと言っていた友達も
沢山作れていると思う。僕が君を支えることができるのなら、これからも君の糧になろう。
どうかお幸せに。
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少女の頬に涙が伝った。