表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

超短編 『僕は君の糧になる。』

作者: 小雨 紫音

マンネリ化した日常、暖かい春の風が当たる校舎。その籠の中で極々平凡な日々を過ごす学生達。

僕は、この普通で何も無い生活を送りたい。


僕は名乗る必要もないほどの人間だ。身長も成績も平均程度。これといった特技もない。


『××くん!また今日も本を読んでるのー?』


本の表紙に顔を近づけて、君は話しかけて来る。


「そう、今日も本を読んでいるんだよ。"君こそ"大した用は無いのに、今日も僕に話しかけて来るんだね。」


『××くんが話しかけてほしそうに見えたからだよ!』


「それは天と地がひっくり返ってもあり得ない事だね。仮に僕が君に恋をしていたとしても、僕は君に話しかけてほしそうな態度は見せない。」


『ひどい言いよう! ××くんは、私の事どんな風に見える?』


君は――


「……今にも千切れてしまいそうな糸に見えるよ。」


『… あはは!それは私からそっくりそのままお返ししたいくらいだよ』


「……」


『今日もこれだけしか話さないで本に集中するの?目の前に超絶美少女がいるっていうのにさ!』


「……」


「君は、何をしてみたい?」


『おおっ!やっと普通に話すようになってくれたかー! んー……』


『私は、気持ちよく外を走り回りたい!』


『××くんは、何をしてみたい?』


「僕は、本を読んでいるだけで十分だよ。 ……もし願いが叶うなら、特に何にもなく普遍的な学校生活を送りたいね。」


『そっかー。私達は似たもの同士だよ!』


「僕はそう思わないね。君は強いよ。僕に毎日しつこく話しかけて来るんだから。」


『一人で静かにしてるより、私は誰かと会話してたい。気を紛らわすためじゃなくて、友達を作りたいんだよね!』


「やっぱり君と僕は似ていないみたいだ。」



『…怖くないの?』


「…怖いさ。だけど本を読むと、心が落ち着くんだ。けど僕は……いや、何でもないよ。」


『わざと気になるように続きを話さない意地悪。』


「大したことじゃないし、もうすぐなんだから、僕と話すよりも、家族と話していたほうがいいんじゃない?」


『むぅ…そうかも』


「僕はもう寝るから。」


『そっか!今日はたくさん話せて良かった!おやすみなさい』


「うん……おやすみ。」


―――――――――――――――――


「また来たんだ。君は懲りないね。」


『××くんと友達になるまで、私は何度も話しかけにくるよ!』


「そっか、君はもう僕と友達だよ。」


『追い返すために言ったでしょ!』


「そんなまさか、僕は君と似ている仲じゃないか。」


『そんなのずるい!卑怯だ!』


「今日の午後から、僕は出かけるよ。」


『それじゃあ、今日は邪魔しちゃったね。』


「"今日も"の間違いじゃないか。」


『なんてひどい!……頑張ってね。』


「うん。僕は何もできないけど、それなりに頑張るつもりさ。」


『それじゃあ、私はおいとましますー!』


『あ!私達、友達だよね?』


「……ああ、君と僕は友達だよ。」


『そっか!良かった!』


―――――――――――――――――――


僕は、君と仲良くできない。君が傷ついてしまいそうで。

いつもどんな状況でも元気そうにしてる君が壊れてしまいそうで。

僕と君が次に会えたら、僕は君と仲良くできるだろうか。

小説の最新巻、来月発売されるんだった。

君の声が、文字が、だんだん遠く薄れていく。

僕は―――



目が覚めた。体が痛い。動かない。息が苦しい。熱い。


「目が覚めたか? 俺のせいで起こしたんならごめんな」


『(お父さん……)』


「無理するなよ、まだ安静にしてたほうがいいから」


『(うん…)』


それから数週間後。


『お母さん、××くんのことは聞いてないの?』


「…××君は退院したよ」


『そっか…!良かった』


「これからリハビリがあるんでしょう?」


『今日もリハビリ頑張るよ!』


「うんうん、退院できたらみんなで旅行にでも行きましょう。」


『やった!それは楽しみ!』



それから数年後、一通の手紙が届いた。××くんからの手紙だった。


―――――――――――――――――――――――


君にこの手紙が届いているってことは、僕はもうこの世に居ないだろう。

君はリハビリを終えて、家で幸せに暮らしているだろうか。

僕は助かる見込みがほとんど無い病気だったから、僕が助からなかったら、

HLPの適合度の良かった君に心臓を提供することにしていたんだ。

怒るかもしれないし、悲しむかもしれないけど、君は強く、前向きに生きていける人

だって僕は知っている。学校生活にも慣れて、君が作りたいと言っていた友達も

沢山作れていると思う。僕が君を支えることができるのなら、これからも君の糧になろう。

どうかお幸せに。


―――――――――――――――――――――――



少女の頬に涙が伝った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ