「食い違い(おんどさ)」
常々、もう少しペースを上げたいと思っているのですが、色々悩みます(あれこれつめ込みたくて。バランス悪くなりますので、考え中です。)
最悪だ。
ついさっき『対峙の儀』が終わった。
そして、私はこの家の次男『蒼耶』の花嫁になるらしい。
どうしてこうなった、私の人生。
どうしてしたくもない結婚をする事になったのか。
同時に、慣れるまで自由にとか、訳が分からない。
申し訳なく思うのなら何故いまだにこんな旧時代のしきたりなんかに従い続けているのか?
だが、もうどいにもならないのだろう事も分かっていた。
一応この天守家に、不本意ながら厄介になるのだ。
嫁は無理。
でも、いる以上義務は果たさなければならないのだろう。
ああ、本当にろくでもない。
***
「・・・。」
部屋の前の廊下には窓がある。
勿論目隠しに障子があるが、その時は微かに開いていた。
その隙間から室内が見えるな、閉めておかなければと思いながら、今から入る部屋について考える。
この中に自分の妻がいる。
『婚姻の儀』の前に挨拶をしにいくのだ、今から。
花嫁達には先程の『対峙の儀』の後に知らせてある。
だから俺が来る事は知っているはずだ。
軽くノックして、1拍置き口を開く。
「失礼する。」
言って、木戸を静かにスライドさせて中に入り斜めを向き閉める。
それからすぐに正面に座る花嫁に向き直り顔を上げ、相手の顔を見る。
これでようやく自身の花嫁に本当に対面か、と見つめる。
「・・・。」
「・・・?」
相手は眉をひそめている。
まあ、現れるなり俺が固まってしまったのだから怪訝に思うのは当たり前だろう。
だが、俺が固まっている事だって可笑しな事ではないと思う。
確か俺の選んだ花嫁、『音袙 南月』は御年32歳ではなかっただろうか?
まっすぐだが、ややフワッとした日本人形を思わせる黒髪に二重の大きな目をした小柄な女性か俺の前に座っている。
だから彼女が俺の花嫁の南月なのだろう。
ただ、聞いていた年齢よりは随分幼く・・・いや、若々しく見えるが。
その時俺は、随分愛らしい花嫁が来たものだと頬を緩めたのだった。
「音袙 南月、だな?」
とにかく会話をと口を開いたのだが、表情は固く眉間の皺がひどくなってしまった。
何か不味かっただろうか?
首をかしげようとして動いたと同時に彼女の、あの声が響いた。
ただしその声は、随分と刺々しい調子で俺に刺さったが。
「いきなり呼び捨てで、もう自分の従者呼ばわりですか?さすが、貴殿方の様な方々は高慢極まりないですね?」
愛らしい花嫁から放たれた苛烈な台詞にガチッと動きが止まる。
・・・何だ?
今しがた自身に刺さった言葉を思い咀嚼し飲み下す。
そうしてゆっくりと、改めて目の前の花嫁に視線を向ける。
まだ慣れてないから、と言う態度ではないな。
あからさまに、刺々しい視線だ。
まだ、呼び捨ては嫌と言う事か?
ああ、それは確かに馴れ馴れしいかもしれないが、従者呼ばわり?高慢極まりない?彼女の中の俺達は一体どういう認識なんだ?
「あ、いや、いきなり呼び捨てにしてすまない。」
「・・・?」
今度は何か酷く意外そうに目を見開かれた。
高慢極まりないと思っていた俺が謝った、からか?
そんな呑気な事を考える俺にまたもや苛烈な台詞が飛んできた。
「謝るくらいなら、謝るくらいなら何故こんな!私は、結婚なんかしたくなかったのに!」
表情は怒りと泣きそうなのとが交ざった様な、苦しそうな。
声も最初はしっかりしていたが途中から絞り出す様な声に変わっていった。
同時に彼女の言う゛結婚なんかしたくなかった゛の一言に一瞬固まり、だがすぐに口を開く。
「ちょっと待ってくれ!何だと!?なら君は!?」
ああ、いかん俺もパニックを起こしてる。
深呼吸を数回繰り返して、彼女に一度落ち着くよう頼み込む。
何て事だ。
あれから実に20分は経過しただろうか?
興奮状態の南月を落ち着かせて今までの経緯を聞く事10分。
何でそうなった?無理矢理連れて来られただと?
確か彼女を連れて来たのは柏木家の女主人だったはずだ。
確かに花嫁を連れて来たのだからと祝い事の一環として礼は渡すが、彼女はその為に無理矢理・・・。
流石にこれは予想していなかった。
いや、していなかったと言うより、そういった趣旨の役目ではない。
その結果が哀れだ、と今視線を向けている彼女だ。
当家の不手際でとんでもない事が起きてしまった、と思う。
だが、どうにも出来ないのも事実。
まだ『婚姻の儀』はしていないが、実質上は先程の『対峙の儀』で届け出は行われ、すでに書類は提出されているのだ。
受理もされているだろう。
普通ならこんなに早くはないが、この天守家は特殊なのだ。
残念だが、彼女を逃がす事は許されない。
***
逃れられないのは『対峙の儀』が終わったすぐ後の書類への著名、捺印の段階で分かっていた。
勿論、それ以前に天守家の門をくぐった時点でどう足掻こうと意味を成さないと言う事も。
それでも、呼び捨てうんぬんくらいの事で謝るなら、今他にはないのかと内側にくすぶっていた怒りやら悔しさやらが一気に吹き出し、気付いたら声を荒げていた。
ただ、あらかた騒いだせいか、僅かに気持ちは落ち着きを取り戻した事と、流石にこちらの話を聞いてくれている相手を前にこれ以上何か言うと言うのも、今後の事を考えると引き際を見誤りそうなので、一度黙る。
『残念だが、もうこの家から離れる事は出来ない。』
私の夫に決まったこの男性、『蒼耶』はすまなさそうに見える表情でそう告げた。
ーーー離れる事は出来ない。
頭に何度もその言葉が響く。
本当に物になった様な気分だ。
何気にバトル開始です。
恋愛はまだ遠いですね。
主に片方が。
何があっても、イライラしてしまう南月ちゃんです(ちゃん、て歳ではありませをが)。