「天守家」
やって参りました!
戦場です!
暗い、深い森のさらに奥にその屋敷はあった。
『天守家』。
古くから栄える司祭の家。
いまだに国の中枢を担う者達に崇められる、国の裏。
高速道路をおりて、いくらか走ったところで森と言うか山と言うか私有地らしき場所に入った。
ただ、ただ長い一本道。
全く、こんな不便な場所に家なんて建てて何が楽しいんだろう?
何でこの山はこんなに暗いのだろう?
何で自分がこんな訳の分からない事に付き合わなければならないのか?
とにかく不満しかない。
親から聞いたのは「見合い」をしろという話だったが、相手は旧時代の考えしかないようないけすかない金持ちだ。
自分達の決めた事の通りに全てが動くと思っているのだろう。
顔を会わせれば最後。
即刻、嫁入りだろう。
だから、荷物をまとめさせたのだとしか思えなかった。
それにしても、と横に座る女性に視線を向ける。
勿論、ルームミラー越しに。
内容は勿論の事、しゃべり方から何から何まで嫌な人だ。
人を見下して、まるでお前はうちの所有物とばかりに話もきかずに、半ば引きずられる様に車に乗せられたのは記憶に新しい。
ハンカチでも噛んで「キーッ」とか言ってそうな、中年よりやや上の女性だった。
***
彼女が勝手に語ってきた内容から花嫁選出の際、主家に列をなす従者の様な家が幾つもあり、その中の花嫁担当の家がこの女性の家らしい。
何がなんでも連れていく!と言っていた様は必死で、連れて行けなかったらそんなに恐ろしい事でもあるのかとも思ったが、どうもその逆らしい。
何がなんでも逃がさないのはご褒美の為らしかった。
私を車に押し込んだ後、満足気に鼻息荒く語る女性の話を運転手は苦笑いを交えて聞いていたのだ。
本当に、そんな事の為に私の人生は潰されるのか。
第一、私は年も三十路を越えているし、見目もせいぜい普通。
内臓を患っているから健康な子供は生まれないかもしれない。
どんなメリットがあるのか?
まさかとはおもうが、憂さ晴らしでもする為の花嫁とか?
長男は既に既婚者で跡継ぎもいるので次男以降の息子達の花嫁となるらしいが。
それ、いるか?
実直な感想である。
もう、花嫁要らないんじゃ・・・。
この感想に女性は「しきたりです!」と胸を張り、私は頭を抱えた。
そうして、今までの事を反芻しているうちに、視界の端に渋い緑?濃紺?とにかくそんな色の屋根が写り込んできた。
***
車から引きずり下ろされ、視界いっぱいに広がる屋敷を見上げる。
こんな山奥に屋敷なんて建てて、金持ちは分からない。
何故か飽きれてしまう。
「さ、南月さん。貴女は明日の婚姻の儀の支度です。」
「・・・。」
予想はしていた。
本当にろくでもない予想はよく当たる。
天守家には長男を含め息子が4人もおり、明日の婚姻の儀が何と、次男以降の全ての息子への嫁入りになるらしい。
本当に何がしたいの?
ただ、その前にお互い顔を隠したままでの、御簾越しの対面がありそこで誰がどの花嫁を迎えるか決めると言う。
不思議な力がある一族だとしても、御簾越しで何がしたいのかと内心頭を抱える。
年齢、名前はその息子達は知っているらしいが。
着いてすぐに屋敷の敷居を跨いだ私はそのまま奥に女中さんに連れられて入って行く。
ちなみに、私を引きずってきた女性は門前までしかこられないらしい。
これもしきたり?面倒くさい。
眉をしかめながら道中、あの女性が勝手に語った事を思い出す。
この『対峙の儀』が終わり、衣装合わせ。
そのまま休み、朝一で『婚姻の儀』。
そして、初夜・・・なのだが、いきなりはそうならないらしい。
私はこれには驚いている。
これだけ強引に花嫁を連れて来たのだから、儀礼的な流れで終わるのだろうと思っていた。
たが、そもそも何故長男以外の一斉結婚なのか?
まあ、いわばストックとして様子を見る時期が終わったからだそうだ。
ある時期までは長男もどうなるか分からないので、次男以降の息子達は待機していたが、もう大丈夫だとの事で今回の結婚になったと言う。
ただし、次男以降は子供を残すか否かも自由だが、血筋は決まった家としか結べず、年の合う娘がいるかもあるので今回の様に年齢、人数共にギリギリの時は私の様な騒動が起きるらしい。
全く迷惑すぎる話に、イラッとして話している女性をにらんだ。
ただ、本家内ではそうして集められた花嫁に弱化申し訳なく思うのか、落ち着くまでは慣らしの期間として、何もせずに過ごす事になると言う。
その間は結婚したにも関わらず、旧姓で名乗ってもいいらしい。
正直、そんな事なら花嫁を無理やり連れてくろるなと思うが、これもしきたり、なんだな。
本当にろくでもない。
年齢的な事もあったのかもしれないけど・・・。
私は、天守家、次男『蒼耶』の花嫁に決まる。
しきたりって、意味はあるんでしょうけど、意味が分からないものが多いですよぬ。
(これは、架空のしきたりですが)