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「萎れ紫陽花」

お久しぶりです。

急展開などたばたです。

数話続きます。

一体どうなってしまったんだ?

ここで俺が「妻の様子がおかしくなってしまった」などと言ったら、誰もが苦笑いをこぼしながら「怒らせるような事を言ったのか?」や「亭主関白に徹しすぎたんじゃないか?」言う者もいるかもしれないし、「嫁姑問題がひどいんじゃないのか?」と怒る世の奥方たちもいるかもしれない。

それどころか下手をすれば「浮気がばれたんじゃないのか?」といやな顔をしてくるかもしれない。

世間で言われる”通常とされる家庭であれば”そういった事を言われる状況にあるのかもしれない。

しかし、俺の家はその”通常とされる家庭”とは事情が違っている部分が数多くある家なのだ。

故に怒らせるような事は出来ないし、亭主関白はまず長兄勤める当主ににらまれるし、嫁集と問題は別邸宅ですべての夫婦が生活し、行き来もせずに、一族のおとこ衆のみしか集わないので起きようがない。

浮気に関しては、それそのものが尋常ではない罪に問われてしまう。

何せ、神職に順ずる家系ゆえしきたりが多く、結果できない仕組みになっている。

そう、”しきたり”だ。

これがそもそもの悲劇の始まりだ。

いや、俺に関してはこの”しきたり”のおかげで妻に出会うことが出来たのだが・・・。


***


「旦那様、お聞きしたいことがあるのですが、今よろしいでしょうか?」

俺の与えられた屋敷にいる3人の女中の1人である愛乃が帰宅後、いつも以上に表情のない顔でそう言って呼び止めてきた。

本来、主人にこの様な態度はいかがなものかとされるとも言われるが兄が当主になり大分と時代にあった考えが浸透してきたように思える。

そもそもそんな時代に俺達は生まれ、学生時代もそういう生活をしていたのだからそれにならえばいいのだ。

それでなくてもしきたりが多く、その拘束力が強いのだから。

そんな事を考えつつも、目の前の女中に視線をやると何やら難しい顔をしていることが分かる。

本当に何があったのだろうか?

「何か用か?」

「奥様の事です。」

ああ、南月に関する話か。

こんな調子の女中だが、この邸宅に仕える彼女たちは非常に南月を大切にしてくれる。

こんな理不尽な事態に巻き込んでしまった彼女を気遣ってくれる3人には非常に助けられていると思う。

という事は、この所様子が変わってしまった南月の事だろうか?

何か知っているのだろうかと、いったん中断していた悩ましい事態について考えつつ口を開く。

「それは、南月の事か?」

震えそうになる声をどうにか出すと、目の前の女中は目を見開き次の瞬間には一気に眉間に深いしわが寄り口を開く。

「旦那様は一体何をなさったのですか?」

「・・・何を、とは?」

「質問を変えます。噂通りなのですか?」

噂?何の話だろうか?

訳の分からないという顔を俺はしていたのだろう。

返答がないことも相まって、再び女中は口を開く。

「噂です。女中を含む使用人の間のものではありますが、火のない所に煙は立たぬといいますのでその真偽をお聞きしています。」

「それが、今の南月に関係あると?」

「それはこの質問の答えにもよると思われますが・・・。」

どういう事だろうと思いつつも俺は先程からの疑問について口を開く。

「俺が何をといったが、噂とは何だ?」

言い終えた瞬間に女中の瞳に浮かんだのは明らかな落胆であろう光の様に見えた。

だが、次の瞬間には再び何の感情も移さぬ瞳のままで、口だけを動かした。

「三座様の奥様、紗奈様との事でございます。」

朝斗の妻の事?

ああ、あの女か。

数日前に話をしたが・・・何か問題があっただろうか?

いや、手を打ったのだから問題はないだろうが?

「旦那様は奥様をないがしろになさるおつもりでしょうか?」

思案の海に沈んでいた意識がその平坦な声に引きずりあげられ、慌てて声を上げる。

「・・・っな、何だって!?」

何の話だか分からないが、女中の冷たい声からただならぬ事である事も勿論伝わってくるが、それ以上に俺が南月をないがしろにするだと!?

「何の話だ!?」

「何の話とは何ですか?使用人たちの間では、三座様の奥方と親密にしていらっしゃるとか?これは一体どういう事でしょうか?」

あの女と?

一体どういう事かと口を開こうとするが、フッと数日前の事を思い出す。

「・・・あれの事を?」

“あれ”は正直そういう事ではない。

「何の事ですか?旦那様、三座様の奥様は色々と行ってらっしゃるようですよ?使用人たちの前でもどこでも。」

「何と・・・?」

その内容が今はとにかく知りたい・・・。

「自分と旦那様は数日前、散歩をしていたに始まり、一緒にいただの何だのと・・・。口に出す事もはばかられる事も色々と。昨日、お帰りが遅くなった時の事などもですが?」

昨晩は兄上に、当主に指示を受けたが、それに手間取って遅くなったのだ。

それを何と?

その考えが思い切り顔に出ていたのだろうが構うものか!

何とあの女は触れ回っているんだ!?

「夜間に男女が、といった事ですわ。」

バカな!

会ってもいないし、関わりそのものがない。

数日前に、とある事態解決の為に共にいたのは事実だが、一体どうしてこんな話になっているのだ!?

「正直『御目見えの宴』を迎えるまであと数日という、この奥様にとっても大変な時期に一体何をしていらっしゃるのでしょうか?」

女中の眼が吊り上がっている。

いや、それがホントなのならば確かに大ごとだ。

しかし、そんな事実はないのだ!

というか、原因はあの女か!

「・・・出てくる。」

「!?旦那様!?こんな時間からですか!」

後ろの方でそんな声がしたが、構ってはいられない。

元凶をどうにかしなくては!


***


何だか、旦那様は今夜もお忙しいみたいだって愛乃さんが言っていた気がする。

だから旦那様はお戻りにならないのだと切れ気味な笑顔で伝えてくれて「奥様、明日の手習いはストライキいたしましょうか?」なんて言ってくる。

うーん、まあ、ここ数日で聞く旦那様と紗奈さんの様子を聞くと、私もお払い箱になるかもしれないと思い始めているし、もういいかなー?とか思ってしまっているけど、流石にまだなにも言われていないし、形だけの妻でも勤めは果たしておかないと、後で何か言われたら言い返せない。

とりあえず、『御目見えの宴』でドジらない程度にはしておかないとという事を伝えたら、着物の袖で口を抑えながらも、プルプル震えながら「・・・はい」と細い返事をしてさって言った。

どうしたんだろう?



そうだ、数日前から、旦那様にあっていない。

別にいいんじゃないかとも思ったけど・・・。

孤独に離れていたつもりだったけど、1度覚えてしまった優しさがなくなるとやっぱりつらいのかな?

別にいいはずなのに・・・。


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