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「さ迷い華」

お久しぶりです。

遅れてすみません。

始まります。

ああ、どうしようか?

確か、『御目見おめみえの宴』?

そうそう『御目見えの宴』だった。

本当にいろいろな催しのある家だわ、ここ。

依然の『歓談の宴』で言われた顔見せらしいけど、色々することがあるらしいって愛乃さんが言ってたのを思い出した。

というのも、昨日の夕飯の時に旦那様が「もうすぐ『御目見えの宴』の時期が来る」とか言ってて私も思い出したのだけど。

何したらいいんだか分からないんだけど・・・。

そう言ったら愛乃さんは「四座様の奥様にお聞きになるといいかもしれません」って言って送り出してくれた。

完璧超人こと『実鈴』さん。

確かに彼女に聞けば何かわかるかもしれない。

主に、どう立ち回ればいいのかとか・・・。

そう思い先ぶれを出したら「是非いらしてください、お姉さま!」って、なんだか変なテンションの返事が返ってきた。


少し斜め後ろに佳純さんが歩いている。

わざわざついてこなくても道もわかるといったのだけど、何でもお付きとして女中を侍らせるのは必要なことなんだとか・・・。

やっぱりややこしい、旧家の習わし。

正直1人がよかったよ?実鈴さんの家についてから、やはりテンションマックスの彼女と色々話をしてためにはなったものの周りは女中さんだらけ。

周りにも実鈴さんがヒートアップしてる時の話はなんか気恥ずかしいから聞いててほしくないんだけど・・・。

いや、旦那様への愛がどうとかいうあれね・・・。

本当に何を勘違いしたんだろう?

私が頑張るのは「旦那様への愛ゆえだ!」とか力説したり、「旦那様も間違いなく私を愛している!」とか言い出すし・・・。

どっからそんな話が来たのかと聞けば、私が頑張る理由は今やそれ以外には考えられないのだとか?

まあ、旦那様の為というか、もう他に行く場所もないし、何だか旦那様が頑張ってくれているから私も責任を果すとか以外にも考えてみようと思ったのだからある意味間違っていないけど、旦那様が私を愛してるのところでは本当に意味が分からずジト目になっちゃうわ。

理由を一応聞いたら『歓談の宴』で身を挺して私を守ったことを言われたんだけど、あれ義務とかからだと思う。

そんな会話があれ以降我が家(?)に頻繁に出没する実鈴いもうとさんとの間に繰り広げられている。

まあ、確かに旦那様のそばは何だか安心する気もするんだけど・・・。

そんなこんなで色々話していたら、結構な時間が経っていたらしくお暇することになり今に至る。


「愛ゆえにって・・・何なんだろ。」

思い出してため息交じりに呟くと、少し後ろを歩いていた佳純さんがクスクス笑いながら「そのままですよ」と返事をしてくるのをさらに重いため息とともに肩を落としながら首を振る。

旦那様の愛って何かな?

最悪の出会いだったし、今は打ち解けてはいるけれど・・・。

家族愛?

親愛?

その辺のような気がする。

私も、親愛なのかな?

しかし、何となくそれらしいことを話した時の旦那様は元気がなくなった気がした。

その時は一体何事かと目を向いてしまったけど、やはり敬愛そんな関係ですらまだないということなのか?

「居心地は、いいんだけどなぁ。」

佳純さんに聞こえないようにつぶやくのであった。



「あ、いけない。」

思い出した様にぽそっと佳純さんが呟く声が聞こえる。

振り向くと、口にする気もなかったらしく「あ・・・」と口に手を当てる彼女が見えたので声をかける。

「何かあった?」

首をかしげながらも見上げて問うと、佳純さんは眉を寄せて視線をそらしながら口を開いた。

「メモ帳を置いてきてしまったみたいなんです。」

実鈴さんの家の女中さんと何やら情報交換した際にそのままにしてきてしまったようだ。

「じゃあ、取ってきて?待ってるから。」

ここにいればいいだろという思いから、そういって実鈴さんの家へ戻って取ってくるよう言うと、すまなそうに頭を下げながら走りだす佳純さん。

たぶんそのメモ帳は他のことも書かれていて、ないと業務にも支障をきたすのだろうと頷きながら見送る。



佳純さんを見送って5分ほどたった頃、背にしていた竹などで出来た仕切りの向こうにある庭園に誰かがやってきたのか話声が気負えたので隙間に視線をやる。

いや、別に深い意味はないよ?


「ねえ、蒼耶さん。悪い話ではないでしょう?」

蒼耶?ああ、旦那様だ。

声の主は確か、『歓談の宴』で騒ぎを起こしたという紗奈さんだったっけ?

どうして旦那様といるんだろう?

不思議に思って思わず隙間から静かに覗き見る。

そこには、旦那様と紗奈さんがいた。

旦那様は背をこちらにしているが、着物も背格好も漏れ聞こえる声も間違いない。

その旦那様の腕に紗奈さんがしだれかかる様にしがみついて見上げ、猫なで声でしゃべりかけている。

・・・何だろう?身内とはいえ他人にああいった事をするのは、ありなのかな?

何故か胸にチクリとするものを感じつつ、なおその場面を見つめる。

「そうそう、お礼としてはぁ、ワタシでどうかしらぁ?夜、奥様と何もないんでしょ?嫌々嫁いできたんだし。満足させて差し上げますわぁ。ですから、おつきあいしてくださいなぁ。」

猫なで声が響き今度は正面から抱き着く彼女と、その内容に目を見張る。

この人は何を言っているんだろう。

それとも、身内でそういうことをするのはこういった旧家では不思議なことではないのだろうか?

天守家ここは独特のしきたりも多いし・・・?

考えながら、妙な息苦しさが広がる。

「・・・。」

旦那様が何かを話しているが、呟くような声だからか内容が分からない。

しかし、紗奈さんの表情は「パァッ」と明るくなり、さらにしがみつき顔をうずめる。

「ええ、大丈夫ですわ!でわ・・・。」

「・・・。」

何だか分からないけどこれ以上聞いていられないと頭を振り少し離れて背を向けたところで走ってくる佳純が見えた。

「奥様、お待たせいたしました!」

頬を上気させながら走り込んでくる佳純に無理やり口の端を持ち上げた顔を作り手を振る。

「じゃあ、戻ろうか?」

とにかく何か別の話をして、別の事を考えて・・・。

どうしてこんなに嫌な気持ちになるんだろう?

どす黒い気持ちになるんだろう?

旦那様と私は政略結婚で、今はいわば同志のようなものの筈なのに・・・。

「・・・奥様?どうかなさいましたか?」

ほら、佳純さんも心配そうにしてる。

これはよくない。

「ううん、ちょっと実鈴さんのテンションに充てられたのかも。嫌じゃないけど疲れちゃった。もう若くないんだし、当然なんだけどね?」

冗談交じりで笑顔を張り付ける。

少し眉をひそめた佳純さんも私が笑いながら歩き出したので、切り替えるようにメモの入っている着物の部分をトントンッと叩き微笑む。

「奥様まだまだお若いじゃないですか。」

「いや、年言ってるから。三十路みそじ行ってるから。」

自虐ネタだったけど、おかしな空気になるよりはいい。

私はお飾りの妻で、ワタシと旦那様の婚姻は政略結婚でしかないのだから。

カッコつけて同志だとか思ってるけど、本当はもっと遠い関係なんだから。

ただ、血筋と年齢が一致しただけの・・・。

そこまで考えると、旦那様の帰宅時と夕飯の時間がとても憂鬱で気まずいものに感じられた。

―――夜、奥様と何もないんでしょ?嫌々嫁いできたんだし。満足させて差し上げますわぁ。

ああ、確かに男女の関係とか全くない。

それ以前に、女扱いされた事がないくらいの身体だ。

あの紗奈さんの言う満足には程遠い・・・。

私の価値は隣で責任を全うする事で、そういう役目はないと思っていたけど旦那様はやっぱりそういうのも必要だったのだろうか?

正直、そんなお役目は出来そうにないのだと高をくくって接してきたつもりだったけど。


旦那様とどういう風に接したらいいのか、今の私にはわからなかった。

ジェットコースターのごとく叩き落してしまいました。

旦那様と紗奈の会話・・・。

実は裏があったりします。

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