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「話し種」

遅くなってすみません!

始まります!

うん、どうしてこうなった?


私は居間で待つお客さんについて考える。

天守家、四男の嫁『実鈴』。

『歓談の宴』では着物だったから気付かなかったけど、物凄いゴスロリ趣味の″完璧超人″。

趣味はともかく唄も琴も活花もとにかくハイレベルなハイスペック。

年齢は三人の嫁のうちで最年少。

しかも、かなりの高飛車な生粋のお嬢様。

正直私、釣り合わないよね?価値観とか色々。



「お待たせしました、実鈴さん。」

今、みんないないのよねぇ。

近くにはいるけど。

まあ、お茶ぐらいは私にだって出せるし私を訪ねてきたのだし。しかしお盆に茶器一式を乗せて現れた私を見て″完璧超人″は驚いた顔で口を開いた。

「まあ、お姉様?貴女が自らお茶を?」

「え?ああ、はい。今は誰もいませんし、お茶ぐらい自分で入れてますよ?」

子供じゃないんだから、それくらい出来るさ。

正直どうという事もない動作だった。

だったんだけど、何故か目の前の完璧超人は正に「仰天!」とでもいう風に目を見開いて私の様子を見ている。

どちらかと言うと、伺っているという感じにも思えるけど・・・。

「・・・。」

「・・・。」

何だろう。

そんなにジッと見られていると、別に悪いことをしているわけじゃないんだけど色々とやり辛い。

「・・・何か、あります?」

思わずくちをひらいた。

すると「実に興味深い」といった雰囲気をバッチリ含んだ声がした。

「いえ、特に何も・・・。」

絶対何かあるでしょ?この人。

「なら、何故そんなに見てるんですか?」

「・・・なんとなく、ですわね。」

「はあ・・・。」

本当に何なんだろう?

いや、別に嫌がらせの類ではないと思うけど・・・。

考えている間にお茶を注ぎ、湯呑とお茶請けのようかんを完璧超人と自分の前に置く。

「どうぞ・・・。」

「はいお姉様、いただきますわ。」

言い終わると1度私の方を軽く見て茶碗に手を伸ばす。

そのまま茶碗に口を付ける。

「・・・。」

正直見入ってた。

何がと言われると困るんだけどねぇ?

何て言うんだろう?

ものすごく所作が綺麗なんだわ。

服とかの趣味云々がすっ飛ぶくらいに。

やっぱり本物のお嬢様は違うのかもしれないなぁ、と私もお茶を飲む。

あ、おいしいなぁ。


「今日はお姉様に聞きたい事があってまいりました。」

あらかたお茶を飲み、ようかんを食べ終えた頃に完璧超人が口を開いた。

聞きたい事?

一体何だろうか?

私が答えられる様な事があったっけかな?

頭上に疑問符をどっさり降らせながら首をかしげていたら完璧超人が先に口を開いた。

「お姉様はこの婚姻も気が進まず、それでなくても慣れない環境でお稽古事もした事もなかったにもかかわらずあの腕前。私、大変感心しました。本当に素晴らしかったですわ。」

「あ、ああ、ありがとうございます。」

あれ?その事なの?いや、まあ言われてみれば自分でも必死だったしよくやったとも思ってるけれどね?何せあの時はちゃんと嫁をしないと家族が何かされると思っていたし。

「だからこそ気になったのです。何故そこまで必死でいられるのですか?」

「ん?」

何故?いや、だから家族が何かされそうだと思ったから・・・。あれ?

「あの日以降も随分熱心に、いいえ更に熱心に日々を送っておられるとの事ですが。お姉様をそこまでさせるのは一体何なのですか?」

何なんだろう?

確かに前より頑張っている気はする。

えーっと、何だっけ?

あ、そうそう、旦那様も頑張っているし今度はちゃんと勤めをお互いはたそうって思ったんだったわ。

「義務、もですが旦那様も頑張っています。だから、私も頑張ろうと思っただけですよ?」

「・・・は?」

今度は完璧超人が固まってしまった。

どうしたんだろうか?

目の前で少しの間「え?え?」とあれこれ考えている様子の彼女。

何かおかしい?

相手も頑張っているんだし、私もする事しなくちゃ。

それに、天守家ここにいるしか私には道はないしさ。

ここでは旦那様といるのが1番落ち着くし、そうあるなら努力しなくちゃいけない。

だから頑張っているんだけどなぁ。

「・・・次男様の為ですか?」

「ん?あ、いや、まあ他にいる場所はないですし、一緒にいるのならきちんとしないといけませんから。」

「・・・。」

なんかおかしかった?



「そうでしたの。」

少しの間が空いた後、ようやく完璧超人が口を開いた。

そうって何が?

「お姉様は次男様と一緒にいたくて努力をなさっているのですね?」

ん?そうなのか?

「夫の顔を立てる為に自身を磨く・・・内助の功ですか。確かに、相応しい家の嫁の生き方としては相応しい心構えですわ。そしてその心も真の物とは・・・。」

何?何が?内助の功?私?何か妄想スイッチ入った!?

「え、そういうのじゃなくて・・・。」

「望まない環境、事柄にとらわれず自身を貫く潔さ。感銘を受けましたわ、お姉様。なるほど、年上の行動には習うべきものがあると実家でも言われましたがそれも格式高い家に嫁いだものの責務。意に添わなくとも義務を果たす事は正に名家の血を引く者のそれですわ!」

何か、納得してる。

うん、別に何がってんじゃないし、そんな格式云々は考えてなかったんだけど・・・。

まあ、義務を果たさないなら権利はないっていう考えもあるからなぁ。

社会人としてはそれもあるかな?

そんな事を目の前で持論をまくしたてる完璧超人を眺めながら考えている私。

うん、間違ってはない。

そこまで考えていたら彼女がこちらに向き直るのが見えてそちらを見る。

うん?何?

「お姉様は次男様を愛していらっしゃるのですね!」

「・・・!?」

何!?え?どっからこうなった!?

あぶな!吹き出しそうになった。

よく耐えた、私!

・・・じゃなくて、あ、いや、確かにこのところ旦那様のキラキラにあてられてたり、一緒にると落ち着いたり楽しかったりするし、いなきゃいないで何か違和感あるなぁとか思う事もあるけど・・・。

愛、ですか!?

さっきの話から、どこをどう通ってそこ行ったの!?

「次男様と夫婦として常に寄り添う為に尽力なさるなんて・・・。お姉様の状況であれだけの努力をなさるなんてそれ以外には考え付きませんわ。」

それ以外も考えてね?

「私は正直その様な物を夫に感じてはいません。政略結婚ですから。母もその様な結婚をしましたが夫婦仲は悪いとは思いませんでした。どうしてだろうかと幼い時に聞いた際に、相手への敬愛の心を持ち歩み寄り寄り添えば、同志や盟友を経て本当の理解者に成りうる事も出来ると聞かされて育ちましたが、そういう形もあるのですね?」

幼い頃に聞いたの!?凄いね!私には分からないよそんなの!

あと、どのような形!?

どんな形に見えてるの!?完璧お嬢さん!?

もはや驚愕の領域へ突入した話に私パニック、お嬢さん興奮。

何コレ・・・。

でも、まだ続くのか。

「不相応な形にへそを曲げ、周りを見ないで殻に閉じこもる・・・。今の私はおそらくそうなのでしょうね。」

「・・・。」

えっと、この人もノリノリで嫁いできたんじゃないんだ?

政略とか言ってたな、そういや。

「しかし、そんな中でも考えて歩み寄り何かを見つける事が必要のなのですね。」

あ、それは少しあるかも。

あの事件以降、少しずつ旦那様について考えだしてから、天守家ここが前ほど嫌な場所ではなくなった気がするし。

みんなもいるからってのもあるけど。

旦那様も私の事を気にかけてくれていたみたいだし、応えないとね。

「まさに愛!」

そんな事はない!

ここは何か間違った盛り上がり方してるし!



「今日は本当にありがと言うございました。お姉様の歩み寄る姿と自身を貫く様には私も考えなければいけないものがある気がいたしましたわ。だから、短期間であれほどの事が出来たのだと思うと見習うべき事は多いですわ。」

うん、何だか為になってよかったよ。

「私も夫に愛情を持てるよう歩み寄る事や周りを気遣う事を考えますわ。それも名家の者の役目ですもの。」

使用人さんには優しくね、うん。

あと、愛情は違うから。

これは、最後に言っとこ。

「あの、実鈴さん?」

「お姉様、私の事は実鈴とお呼びください。天守家・次席たる方の奥方が格下の嫁にさん付けなどしなくて結構ですわ。お姉様は妹に敬語を使うのですか?」

あ、そうか、義妹になるんだったっけ?

でもなぁ・・・。

「じゃあ、敬語は普段は言わない。でも、呼び捨ては勘弁ね?」

「・・・それがお姉様の曲げられぬものならば。あ、それで何ですか?」

おっと、忘れるとこだった。

「私が頑張っているのはさっきも言ったけど脅されてたからだよ?」

愛とか甘いものではないよ?言ったよね?

でも、そんな私の言葉に実鈴さんは「いいえ」と静かな迫力を込めて首を振り私を見る・・・。

正直、ちとコワイ。

「その誤解が解けた後は次男様といると安心感を覚えるなどの心境の変化があったと言われたではありませんか?」

うん、結局全部話した。

なんか、ちゃんと聞いてくれるから。

「それは、愛情ですわ!少し違うとしたら、恋ですわ!」

こら!違うでしょ!

今度はキラキラした方に行った!



結局何だか良く分からないが、面白い義妹と仲良くなったみたい。

話せばわかるってやつかなぁ?

話してる途中で女中さん達が帰ってきてかなり驚いてたけど。




「おかえりなさいませ、旦那様。」

夕刻。

1日の勤めを終えて戻った旦那様を玄関先で迎える私達。

「ああ、ただいま。南月。」

「・・・。」

うん、本当にキラキラスマイルだなぁ・・・無駄に。

それに、確かに今安心感みたいなのがあるんだけど・・・。

「どうした、南月?」

「あ、いいえ、何でもありません。さ、お風呂へどうぞ。」

「ああ、ありがとう。」

「・・・。」

離れていく旦那様。

背中を目で追いながら考える。

私は異性は苦手なはずだ。

身内以外は、時には身内すら近付かれるのは苦手なはずだった。

それが今は形はどうあれ夫がおり、一緒にいると安心感を覚えるに至っているなんて・・・。

”恋ですわ!”

いや、違うって、実鈴さんや。

これはそういう甘い物じゃない。

誰もそんなものは私に求めていないのよ?

いたらいいと、考えた事もあったけどね?随分、かなり昔。

でも、そんな人はいないと年を追うごとに気付いたから。



そんな事を考えているはずの私だけど、何故だか旦那様に離れられる様な事は起きてほしくないと考えていたという事がその日の夜中に起きた時フッと頭に浮かんだ。

「・・・触発されたかなぁ?」

呟いて旦那様の部屋の方を窓から眺める。

どういう感じ何だかもわからない感情。

でも、確かに旦那様から離れるのは嫌な事だと思って眠りつくのだった。

・・・完璧超人、妄想癖大爆走なお話でした。

実鈴は良くも悪くも完璧主義者です。

成すべき事をしっかりした同じような立場の南月の事認められるかもと話をしに来たら、

妙に(勘違い含めて)気に入ってしまったみたいです。

アレな人ですが悪い人ではなく、まっすぐな子です。

高飛車すぎですけど。


2017/4/2に漢字を何か所か修正しました。

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