「変花(へんか)の姫」
お久しぶりです!
遅くなってしまいました!
始まります!
ある日、フッと考えた。
あの『歓談の宴』で見事全ての演目を最後までやりきった一番普通で、一番年上の花嫁の事を。
三男のチャラチャラした嫁は話にならなかったけど、あの次男の嫁の振る舞いは興味を引かれた。
私は実家が″あれ″だから、唄に和琴に活花、その他様々な習い事。
生まれた時から叩き込まれたのだから当然の出来なのは間違いないわ。
でも聞いた話では次男の嫁は血筋はともかく一般家庭の出。
この婚姻にしても無理矢理だったと聞いた。
あの演目に関しても嫁入り後の一ヶ月しか練習していないと聞く。
したくもない結婚。
その先の馴染みのない厳しい習い事。
そしてあの見事な出来。
一体どういう心境で取り組んできたのかしら?
さて、まずは話でもしてみるとしようかしら?
この場合は先触れを出しておかないと後で面倒な事になるのよね?
同じ敷地にはいても別邸宅なのだから。
***
今日も習い事は午前中だけだったし、どうしようかなぁ?
あくびを噛み殺しながら真珠を抱えて廊下を歩く南月。
正直歩きながら欠伸しながらと言うのは流石に女中さん達の誰かに見つかったりしたら何か言われてしまうかもしれない。
いけない、いけないと辺りに視線を巡らせながら口もとを隠す。
「奥様、こちらでしたか?」
うわっ!ビックリした!何?バレた?愛乃さん!見てた!?
「どうなさいましたか?」
あ、違ったのね?
ああ、返事をしないと。
「何?何かあった?」
うん、少しまだ動揺してる。
でも愛乃さんは気にしていないのか少し間はあったものの話を続けた。
ただその様子が心なしか暗い様な気がするけど。
「四男様の奥様が奥様と歓談の時間をと言う先触れが来ております。」
ん?四男の奥様って言うと、あの″完璧超人″の?
あんまり凄いから勝手にそう呼んでいるんだけど。
見た目も含めて。
「会いに来たいの?」
「はい。ただ先日の騒ぎもありましたし、一度旦那様に伺った方がよろしいかと。」
あ、三男さんのお嫁さんが私に八つ当たりしたからねぇ。
ただ″先触れ″が来てるって?それはすぐ来るって事なんじゃない?旦那様に聞いている暇、あるの?
「あ、ああ、はい。すぐ遣いを出します。」
「そう?じゃあ、出来るだけ早めに?」
「畏まりました。」
相変わらずの綺麗な所作で去っていく後姿を「流石だなぁ」とか思いながら見送る。
「まあ、まだ待たせるの?しかも、先触れを出しても断りかねない勢いまであるなんて。」
はい?今、何か聞こえたな?
辺りをグルッと見回して見る。
しかし人影は見当たらない。
なんで?
「次男様の奥様は随分と、おっとりしていらっしゃるみたいですわね。」
あ?
ああ?後ろ?うしろ・・・。何なんだろ、この人。
「ごきげんよう、次男様の奥様?」
振り返った先は縁側で庭に続いている。
野外とも。
だからここから人が来るとしたら、まあ至極当然なのだけど。
なんと言うか、何なんだろ。
「・・・。」
顔は見おぼえがある。
あの『歓談の宴』で見た″完璧超人″だ。
しかし何故今ここへ?
「まあ、遣いを早くする様に急かしたのはよい心がけですわ。客人を待たせない様にするのは女主人の責のひとつですもの。」
棒を飲み込んだ顔で固まってしまっている私の様子など気にも止めず喋り続ける″完璧超人″。
どうしよう?何処から突っ込めばいいの?
そもそも突っ込んでいいの?
このシュールな光景を。
日本家屋に深紅のゴシックドレス・・・。
え、どうしろと?
街を行き交うそう言う趣味の少女達なんて目じゃない勢いなんだけど。
いや、『歓談の宴』の時も似たような色合いの着物だったけど、着物だから。
今は、ゴシックドレス。
浮きすぎて何を言ったらいいのか・・・。
「あら、次男様の奥様。どうかなさいまして?」
どうなさいましたのでしょう?
あ、変な言葉になった。
これはかなり、相当動揺してるなぁ、私。
そんな私を初めて見据えて″完璧超人″は不思議そうに眉を寄せながら顔を覗き込んできた。
「あら、私が誰だか分かりませんの?」
「・・・あ、いいえ、こんにちは。四男様の奥様。」
使いなれない言葉はいけないわぁ。
よく噛まなかったものだわ。
そんな内心タジタジな私をよそに何故か満足そうな笑みを浮かべて胸を張る″完璧超人″は高らかにいい放った。
「天守家、四男の嫁『実鈴』と申します。先日の『歓談の宴』では見事なお手前、実に感銘を受けましたわ。本日はそれほどの腕前をお持ちの奥様がどんな方なのかと思いましてお話に来ましたの。」
そのままズズイッと更に寄り私の手を取ると微笑んで口を開いく。
「よろしくお願いいたしますね。お姉様?」
何だか、とんでもないのが来た。
大丈夫かなぁ?
正直、大丈夫じゃなかったりするけど。
雲行きが怪しく(妙ちくりんに)なって来ました。
貴女(実鈴)、何しに来たの?
私だったら叫びますが、安定のぼんやり設計の南月です。




