「語り花」
女中さん達視点で騒いでいるお話です。
これは気不味いわ。
「どうしたの?佳純さん。」
私に支えられ廊下を進む奥様ーー南月様が不思議そうに話し掛けてくる。
あ、はい、どうって。
私、物凄く間が悪いとか思っているんですけど。
愛乃さんが奥様の体調があまり良くない筈なのに、随分遅いからお茶でも出すがてら様子を見て来てと言うから覗いて見れば。
お、奥様⁉
旦那様!
奥様に何をなさっているのですか⁉
内心、叫んでいたわ。
平然を、全力で装いつつ。
だって旦那様が奥様を抱き締めていらっしゃるから・・・。
あ、いや、夫婦なのですしおかしな事ではないのかも知れませんが。
″普通の夫婦″ならば。
確かに最近は会話も増えて、雰囲気も柔らかになられたとは思いますが。
それでもまだ、と見ていたもので動揺してしまいました。
まあ、体調不良で倒れられた奥様を受け止めたとの事で。
え、ええ。あ、いや、ええっと。
奥様はそう思っていらっしゃるからいいのですが。
旦那様の目、何だか雰囲気そんなじゃなかったですよね⁉
正直「うわ、コワッ!」て、思いましたよ?
何だか去り際にチラッとみたら「餓えた猛獣がようやく手に入れたご馳走を取られた!」みたいな凄い目で見てましたし。
物凄く物欲しそうと言うか、何というか。
***
佳純さんから話を聞いて見に来ました。
旦那様の部屋の前です。
奥様が倒れられて、先程お休みになられた事を報告に来た彼女は「愛乃さん!旦那様の様子が何か怖いのです!」と。
にこやかな方ではありませんが怖いとは穏やかではありません。
何より明日も奥様と顔を合わせるのですから、少し様子を見ておいた方がいいかも知れませんし。
見に来て良かったのでしょうか?
障子の隙間から室内を伺っていますが何というか。
「・・・南月。」
随分、弱ってらっしゃる気がするのですが・・・。
それはもう、今にも泣き出しそうなくらいに。
文机に頬杖をついて、虚ろな目で。
あ、恋する少年の様にも見えますわね?
そんなお年ではない筈ですけれど。
しかしこれは、何と申し上げましょうか?
別に放置しておいても問題はないように見られますが。
・・・少し、いいえ。大分あやしくは見えますが。
「・・・これから、南月のもとへ。いや、それでは夜這いになってしまう。」
前言撤回致します。
相当、危険です。
悪くはないかもしれませんが、まだ奥様には刺激が強うございます。
一応は自制していらっしゃるからとも思いますが。
何の拍子に狼に転じてしまわれるか分からないので、寝ずの番をいたしましょう。
非常事態宣言です。
明日、他の二人にも伝えておきましょう。
あら、旦那様が机につっぷしてしまわれましたか?
安心は出来ませんが。
いざという時の為に何かひっぱたける物でも用意しておきますか?
***
「花弥さんも気をつけておいて下さい。」
今朝の打合せの際に愛乃さんが語られた昨晩の出来事。
う、うん?
あの、それは放置しておいてもいいのではないですか?
私が抱いた感想を含めた胸中での第一声です。
あ、いや、奥様には確かに刺激が強めかもしれませんけど荒療治と言うのもありますし・・・。
たまにこの女中二人は過保護過ぎるとも思えるのですが。
何より旦那様の方は、それで大丈夫なのでしょうか?
溜め込んだ状態の方が大変な事になるのではないかと思うのですが・・・。
思いながらも横で生地をこねる奥様に視線を向けます。
嗚呼、旦那様が気にしたい気持ちが痛いほど分かります。
同じ女である私でも奥様はお可愛らしい、と。
勿論、変な意味もそちらの気も一切ありませんよ?
この小動物感はいつしか佳純さんも仰っていた通り、あざとくもあるのに癒されます。
私のが年下ですのに。
旦那様だって、奥様とイチャイチャしたいのではないでしょうか?
あれはどう見ても『ゾッコン』と言うやつでしょう?
思わず、死語が出るほどの。
今朝の様子を見ていましたが構いたくて、構ってほしくて。
でも何だか出来ない!
流石にどちらかにしては?とも思いましたが。
奥様が″いってらっしゃいませ″で少し笑顔を見せただけで「ハウッ⁉」となってらっしゃいましたし。
もう、放っておいても良くないですか?
まあ、同衾はまだ少し早いかも知れませんし、少し見守りは必要かもしれませんが。
実際、奥様の中ではどの程度までならアリなのでしょうか?
不意に生地を練り終えた奥様に調子を尋ねるついでに・・・。
「旦那様に″ギュッ″てされたのは大丈夫でしたか?」
勿論ワンクッション挟んでからだが尋ねてみた。
女中最年少は意外とアレな態度も好奇心と見てくださり楽です。
もとより、大概の事は奥様は気になさらないですし。
そんな時の態度もまた愛らしいなんて・・・。
本当に変な意味無しで癒されます。
「ん?うん、何だか大丈夫。逆に何故か安心したし。何だろ?」
奥様はポヤンッ、と返事なさいます。
「・・・そうですか。」
心配しなくても大丈夫ですよ、きっと。
いいじゃないですか!コレ!
ラブラブですよ?
むしろ、放置しましょ‼
うまくいきますって!
旦那様の暴走は気になりますが、一度様子を見ましょう?
私はこの後、この話題を持って佳純さんの所へ直行しました。
そうしてしばらくキャッキャッと奥様達の恋ばな妄想に花を咲かせるのでした。
女中さん最年長者から、過保護・普通・(意外と)なかなか好き勝手と続きます(笑)。
さいごは佳純さんと花弥さんでキャッキャッしてますが。
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