「欲咲き紫陽花」
前回の蒼耶視点です。
この所、南月との会話が増えている。
神話の話をした辺りからだろうか?
少しずつだが、歩み寄ってくれているのだろうと思うと嬉しくて仕方ない。
もしかしたら襲達の様な夫婦になる事が出来るのだろうか?
最初は言葉数の増えた南月に戸惑いもしたが、日に日にもっと話をしたいという思いが強くなっていた。
初めは出会いがアレだから。
南月の気持ちとは別に、俺ばかりが想いを寄せていたという一方通行で、もどかしくて仕方がなかった。
何故?と、問われても分からないがとにかく惹かれてどうにもならない。
しかし、この頃おかしいのだ。
いつも、毎日顔を合せ会話をしている。
それを幸せだと思う。
それなのに″足りない″と思ってしまうのだ。
多分、兄上夫婦の影響だろう。
そう、跡取り息子の『雅人』。
俺から見ると甥にあたるのだが、少しこの本家を離れているのだ。
これもしきたりのひとつだ。
もうそんな歳になったのか?と、甥の成長を弟たちと微笑ましく見送ったものだ。
だが、それから数日。
勤めの時間ではない。
そう言ってしまえばそれまでなのだが。
末の弟、厳樹などは「あれ、雅人が帰ってきたら兄妹増えてたりしないか?」などと言っている。
ああ、正直俺もそう思う。
勤めは終わってもまだ俺たちが本邸宅にいると言うのに・・・。
恐らく、アレにあてられたのだ。
仲睦ましく共にある兄上夫婦を見て羨ましい、と思ってしまうのだ。
楽しそうに会話する兄上夫婦を見て。
俺も南月とああして寄り添い会話出来たら。
たまに姉上の体に腕を回す兄上に、甘える姉上を見て。
俺も南月に触れて甘えて欲しい。
兄上の名を呼ぶ姉上を見て。
せめて、南月に名前を呼んでもらいたい。
考え出したら止まらなくなる。
南月の夫は俺で、嫉妬や焼きもちの類いは無縁の筈だと言うのに。
ただ、それでも立場上そうであると言うだけでもしかしたら使用人の男に目がいってしまうかもしれないという不安からか今まで以上に居住邸宅からは出ないように言ってあるが。
まさか俺がこんなに粘着質な気質を持っていたとは思わなかった。
そんな事も考えながらも今日も務めが終わり居住邸宅に戻るべく足を早める。
玄関の扉を引き中へ入ると南月を筆頭とした女中達に出迎えられる。
南月の「おかえりなさいませ」からひと言ふた言かわし、先に湯浴みにという運びになる。
もう少し話がしたかったが、湯浴みの後は夕食だ。
話はその時に出来る。
そう納得して風呂場へ向かった。
湯浴みの後は夕食で、ようやく南月と話が出来ると居間へ急ぐ。
既に膳は用意され出入口の近くで南月が待っていた。
先に席に着いていてもいいのだが。
食事が始まり会話をしながら料理を平らげていく。
この白魚とじゃがいもと舞茸の煮物、南月が作ったらしいがなかなかうまい。
味付けは醤油以外に合わせだしが使われていると言っていたがなかなか。
そんな話をしながら夕食をしていたら、俺を随分熱心な様子で南月が見ているのに気づいた。
「南月、どうした?」
「はい?ああ、別に。」
何かおかしかっただろうか?
目の前でどこか照れた様に、困ったように笑っている南月。
今はこうして笑顔を見せてくれる様になった。
だというのに。
まだ、足りない。
ハッとしてまばたきをする。
何を考えていた?
今までは殆ど顔も合わせてもらえなかったというのに。
今は目の前で笑顔を見せてくれているのに。
何が″足りない″?
話題は飼い猫の真珠の話に移った。
「真珠は本当に会話をしてくれている気がする。」
常々思っていた事だと本気で考えながら口にする。
「・・・。」
ん?今のはそんなに楽しい話題だっただろうか?
よく分からないが目の前で目を細めて穏やかな様子の南月が更に口もとをほころばせている。
俺もつられて思わず頬が緩む。
「?」
ただ南月は、直後に不思議そうな顔になっていたが何かおかしかっただろうか?
南月といられる事が嬉しくて気付かないうちに時間が随分経っていたらしく、そろそろと言う話になった。
・・・。
何だ?
夜も、もう遅い。
明日は南月も習い事があるのだし休まなければいけない。
俺も含めて。
だと言うのに。
もう少しこのままでいられないだろうか?
無理は承知。
それでも思ってしまう。
あと、一時。
しかし、目の前の南月は立ち上がろうとする。
ああ、仕方がないんだ。
そう思い自身も立ち上がろうとするがふらつき始める南月が視界に入り、咄嗟に抱き止める。
「南月!大丈夫か⁉」
顔色が悪い。
どうして気付かなかったんだ⁉
思わず南月の背中に腕を回し力を込める。
その間、めまいでもするのかしばらく頭にてをやったり、まばたきしたりしていた南月。
少しすると若干落ち着いた様子で俺を見上げながら、
今までもあった事でもう平気だから心配ないと言う事を話している。
「旦那様、もう大丈夫ですよ?もう休みますし。」
恐らく、大丈夫なのだろう。
ただ、俺は大丈夫ではなかった。
「・・・。」
これでは、南月は息苦しいかもしれない。
頭では分かっている。
だと言うのに腕をほどく事が出来ない。
どうしても。
「南月・・・。」
何故か名前を口にする。
そんな俺に慌てた様子で口を開く南月。
「あ、あの、平気ですよ、本当に。」
異性があまり得意ではないと言っていたのに。
「・・・南月。」
どうしたらいいのか?俺にも分からない。
だと言うのに、何度も名前を呼んでしまう。
だから、少し考えた。
どうしたいかを。
「嫌、か?」
それでも聞いてしまう。
嫌だと言われたらどうするのかと思いながらも。
嫌だと言われたとしても、こうしていたい。
南月を腕から出したくない。
どこにも出したくない。
俺も・・・。
「そんな事は、ありませんけど。」
耳に南月の控えめで、困ったような呟きが聞こえた。
結局、南月はそのあと現れた女中に引き取られ部屋へ戻った。
「・・・。」
自身の腕を見つめる。
暖かで柔らかな感覚を思い出しながら。
本当はあのまま、一晩中南月を腕にしていたかったのだと思う。
いや、恐らくは一晩中と言わず。
嫌ではない。
そう思っていてくれていると。
あの呟きがそのままの意味なら。
南月は俺の事をどう思っているのだろうか?
どう思っていたとしても離したくはない。
俺は、どうしようもなく焦がれている。
惹かれて、思われたくて。
俺も・・・兄上夫婦の様になりたい。
いつか。
旦那様、何だかヤンデレ入ってますかね?
ブクマと評価、ありがとうございます!
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