「破鎧意(はがい)の蕾」
続けて投稿です!
ところで、サブタイトルですが意味は、
南月の心の鎧を破壊すると言う意味になっています。
蕾は南月の事です。
サブタイトルの意味が分からないと知人からいわれたもので、あまりにも分かりにくいものは説明入れさせて下さい。
すみません!
分からないのあったら聞いてやって下さい!
始ります!
最初に聞いたと思っていたのは、事が起きた後の音だったみたい。
自分の事なんだけど、酷く遠くの事の様に思えておかしな感じだ。
まあ、今まで散々な人生ではあったけどここまでいくと何と言っていいのやら。
まあ、私の身に起こった事。
正確には″起こりそうになった事″は次の通りだ。
発表会は終わり、もうすぐこの催しも終わると安堵していた頃料理や飲み物が運ばれてきた。
何処にいたのかしら?
楽器とかが運ばれてきた時も思ったけど、サーッと現れて音もなく居なくなるのよね。
あ、愛乃さんなんかもね。
忍者?忍者なの?とか、アホな事を考えたりもしたけど。
話がそれたわ。
で、膳の上にあっという間に様々な料理が並んでいき、飲み物はお酒かお茶かと言う話を隣に座る旦那様が聞いてきたから、お茶にすると伝えた。
それを聞いて周りの使用人に話終え、誰かが近付いてきたなぁ、とか思った。
直後、体が旦那様の方に引っ張られて、水のこぼれる音と硬い陶器の砕ける音がしたのだった。
何が何だかと、板場の木目が視界に広がっているのを眺める私。
騒がしくなっていく周りの状況についていく事も出来ず、呆けている私の耳に掠れてはいたが、馴染みのある声がした。
「・・・南月、大丈夫か?」
何が?訳も分からず視線を上げると、広間に愛乃さんが駆け込んで来るのが遠くに見えた。
酷く慌てた様子だけど、まだ、私は状況が飲み込めないままでいる。
「南月?怪我はないか?」
また馴染みのある声。
ああ、旦那様の声か?随分焦った感じがするけど、どうしたのかと声の方を向く。
「・・・?」
先ず視界に飛び込んできたのは腕だ。
ただ、その腕は真っ赤になっていた。
少し、ただれた様に見える箇所もある。
まるで火傷だ。
不思議に思って、更に視線を上げると眉間に深いしわを刻んだ旦那様の顔があった。
「南月!しっかりしろ!」
視線が合うと、赤くない右腕を伸ばし私の肩を揺さぶった。
あ、私かなり酷く呆けた顔をしているんだろうなぁ。
「南月、痛い所はないか!?」
痛い所はないかって、私は何処も?あれ?
再び視線を動かす。
赤い火傷の腕。
これは旦那様の腕だ。
どうしたんだろ?何故、こんな事に?
改めて周りの様子を伺うと、いつの間にかいなくなった愛乃さんが桶を持って走りより、旦那様の腕を水に浸していく。
「奥様は・・・!」
「南月は大丈夫だ。」
「もっと早く私が駆けつけて居れば・・・!」
「なんの話だ?」
本当に何の事だろうと耳を傾けた。
何、それ。
どうしてこんな事が起きたかなど詳しい話は分からなかったけど、今旦那様がしている怪我は本来私に向けられたものらしかった。
私は事が起きた時、広間に入って来た時から下ばかり見ていたから周りの変化に気付かなかったのだ。
正直、誰とも顔を合わせたくないと反抗していたから。
何と子供じみた事を、と思った。
義務を果たすと言ったのに。
結果は旦那様に怪我をさせてしまった。
仕える人間で、守る筈の人間が代わりに怪我をした。
もっと廻りに気を付けていれば、少なくとも旦那様に怪我をさせることはなかったかもしれないのに。
最悪、だ。
義務を果たす。
それはお互いの共通の決まり事だ。
政略結婚なのだから。
同時に私はここでの行動によっては家族に影響を及ぼすとも聞いていた。
ここに来る車の中で、あの女性が喋っていた。
いくら扱いがあれでも家族だ。
だから、義務を果たさなければと考えたのだ。
だというのに、何をしているのか?
とにかく、どんな責め苦も覚悟で謝らなければと思っている間に、一時過ごす部屋へ移される事になったと言われるのであった。
「南月、大丈夫か?」
私は混乱してる。
そうだ、何としても謝り倒して家族への影響がない様にしなくてはと!
だが、何だかおかしい。
謝り始めたら旦那様は最初に目を見開き、視線をあちこちにやり最後にそれでなくとも近い位置にいたのに更に近くへ、正に目と鼻の先と言っていい距離に詰めて座る。
「まだ、落ち着かないか。仕方ないが。」
話し掛けるでもなく、ポツリと呟きながら肩をさすって引き寄せる。
多分まだ動揺している私を落ち着かせようとしているのだろうと思う。
ただ、それは分かるが逆に落ち着かない!
「もう、私は落ち着いてます!大丈夫です。」
流石に慌てて押し返し、距離を取る。
いや、どうしてそんなにくっつくんです?
すると、旦那様も慌てて少し離れて座り直した。
「いや、その、すまない。」
心なしか寂しそうに見える。
これでは私が何かしたみたいだ。
「別にそんな。あ、あまり男性は馴れてないだけですから。」
そう言えば、私は今まで家族以外の異性に仕事の付き合い以外で関わった事がなかった。
はたと思い出した。
何せ異性と関わる度に嫌な思いばかりしていたし、誰も私を異性として扱ったりした事もなかった。
人としてはまあ、役にたっていると思えたけど、女性としては正に落第点だろう。
自覚はある。
家族、主に父だが勝手な事をすると機嫌が悪くなるので色気付いたと見られそうな事や色恋事は避けてきたから。
お陰で年齢が彼氏のいない年数になってしまった。
その手の事はしてこなかったので異性に苦手意識ばかりが育ってしまった。
だから今の反応にも悪気はないのだと慌てて、まるで言い訳の様に説明した。
「異性に苦手意識・・・。そう、だったのか。」
「はい、だから、あの・・・。」
「いや、俺もいきなりすまない。あと、南月は今回の事は気にしなくていい。何より、家族に影響がと言う話は聞いた事もないし、大方おとなしくさせるための文句だろう。」
あの女性の言った事は嘘だと言い呆れた様な顔をする。
何だ、大丈夫なのか。
聞くなり安心して肩を落としまだ話の途中と言う事もあり旦那様の顔に視線を向ける。
気付いた旦那様も頷き、話を続ける。
「だから、俺に謝る事はない。君が無事だったのだから。」
「はい、あの・・・。」
そこまで話して、不意に今は袖で隠れている火傷に視線を移す。
しきたりか義務かは分からない。
それでも自分を庇って怪我をさせてしまったのだ。
態度もあまり良くなくて愛想もない、しきたりだからと決められて嫁を貰うことになったのも不本意かも知れず、この人も嫌だった筈である意味無理矢理嫁入りさする事になった自分とあまり変わらないのかもしれない。
いや、生まれた時からならもっと辛かったかもしれない。
自分ばかりではなくこの人もそうかも知れないのだ。
それなのに身を呈して庇ってくれたのだ。
つんけんと意地を張り、反抗ばかりしていはいられないと思った。
だから″諦めただけじゃなく、違う意味で抗おう″と思った。
人として。
今までとことんこの人には意地を張り続けてきたからまだ素直にはなれないけど、確かに私を落ち着かせようとして肩をさすってくれた時は久しぶりに安堵したのだ。
大丈夫だと。
そうして接してくれたこの人に私も誠意を。
だから、その最初の一歩として私は口を開く。
「庇ってくれて、ありがとうございます。」
多分、いつも以上に変な顔をしているだろう。
でも、もう反発心で睨んだりしないように。
「・・・。」
あれ?旦那様が固まった。
やっぱり、良くなかったかなぁ。
何事もいきなりは良くなかったかもしれない。
そう思うと、視線は下を向いてしまう。
仕方ない、自業自得だ。
これから何とかしていこう。
多分、私にしてはこの旦那様は苦手だと思っていないみたいだし。
考えて顔を上げ、再び視線を会わせる。
本当に反応がないな。
流石に気まずい。
「あの、すみません。旦那様?」
「あ、ああ。いや、俺もすまない。」
視線がウロウロしているけど、本当に大丈夫かな?
考えていると今度は旦那様から視線を合わせてきて、口を開く。
「いや、本当にすまない。だが、もう絶対にこんな事は起こさせい。南月は俺が守る。」
うん、と言うふうに頷いて締める旦那様。
「・・・?」
何だろう?ああ、旦那様はイケメンだった。
それでか、うん。
南月の中で蒼耶に対する考えが変わりました。
因みに最後のは蒼耶のキラキラスマイルに見とれてしまったようで・・・。
旦那様、イケメンだった。
思い出した南月でした。