「宴の花束達・他者視点」
読んで下さり、ありがとうございます!
今回は、新しい人の登場あり、新イベントの触れ込みも受けて南月も「ギャーッ」とかなりながら、蒼耶も頭抱えながら始まってます。
結婚生活も2ヶ月目に差し掛かり、花嫁達も最初の頃に見られた戸惑いはなく馴染んできた様に思える。
次男の蒼耶の嫁に関しては、しきたりの事があるが為に今も窮屈な思いをしているだろうが、何の報告もないので落ち着いてはいるのだろうと思う。
ここまで考えて「ふむ」と唸り交じりに息を吐き手元の書類から目を離したのは、この天守家・現当主「天守 襲」である。
正直、蒼耶の嫁の事を知った時にはどうにもならなかったという事は間違いなかった。
そもそも天守家の嫁に指名された縁戚の者は、人数に余裕がありやむを得ない場合を除き断る事は出来ないのが基本なのだ。
ましてや今回に至っては人数ぴったりの状態なので、さらにどうしようもない。
私とて、時代錯誤な習わしやしきたりには思う事も勿論ある。
それでもしないわけにもいかないのも事実。
筆頭司祭の家が全てのを執り行う事により、分家の家は略式という事も出来るのだと言われている。
だが、今回の件についてはさすがに不憫にも思っている訳だが。
様々な意味で。
この天守家の次男以降の子供が花嫁を迎えて1ヶ月が過ぎた頃に執り行われるのが『歓談の宴』と呼ばれる、いわば身内のみの少し遅い親睦会がある。
まあ、嫁達にしてみればそんな気軽な催しではないらしいという事を叔父上の奥方達から聞いた事があるが。
実際は集まって飲食しながらの歓談の中で、嫁達の近況を聴くというものだ。
ここで、何だか面接の様だとも思ったが。
***
何だったけ?『歓談の宴』?嫁入り1ヶ月の頃に身内が集まって飲食する会?何それ、怖いな。
愛乃さんが明後日の夕食会があるという話から、この情報を得たのだけど・・・。
嫁イビリの場とかになったりしないだろうね?
いや、嫁同士のガチバトルの方があり得るか?
どちらにしても冗談じゃないけどね!本気で嫌だよ?
何故か花弥さんは「南月様なら、楽勝です!」とか言われたけどね!
私絶対行かなくちゃダメか?
仮病とか無理かね?
***
すっかり忘れていた。
いつもの様に居間にいた南月に話し掛けられないでいた時、女中の愛乃が『歓談の宴』について話始めたではないか。
もうそんな時期なのか?まだ、全く夫婦らしくない現状でか?
いや、俺と南月の事は既に話してあるのだから夫婦らしくない現状でも仕方がないだろうと思われている筈だ。
問題が無い訳ではないが、この件に関してはどうにもならない。
では、何が問題か?
南月の事意外の何があるのか。
・・・嫌がるだろうな、確実に。
当たり前な事に頭を抱え込む。
***
台所から響く食器のカチャカチャという音。
おそらくこの時間帯なら佳純が片付けをしているのだろうと花弥は覗き込む。
案の定、踏台に乗り棚に皿をしまう彼女背中を見つけた。
この邸宅の棚などは何故か位置が高い気がする。
南月様は女中の三人よりも更に小柄なので大変な事もあるようだし、蒼耶に一度言っておいた方がいいかもしれないと愛乃も言っていた筈だ。
まあ、南月様が困っているなどと聞いた日には蒼耶様は目の色を変えて対応するだろうが。
面白いほどに。
「佳純さん、何かおやつ残ってないですか?」
「あるわよ、そこに。」
台所に入るなり要件を口にして、視線をめぐらせる花弥に振り返りながら流台脇を示しながら台を降りる佳純。
ドコダ、ドコダとパタパタ歩く花弥に改めて場所を示しながら急須に湯を注ぐ。
「時間、ちょうどいいから休憩にしましょうか。」
「うん、ヤダコレ美味しい!クレープじゃないんですよね?奥様のお手製だ!」
既におやつに手を伸ばしかじりつく花弥の前に熱いお茶の入った湯呑みを置きながら、佳純もクレープの様なおやつに手を伸ばす。
「ええ、流石は奥様です。」
「本当に。他の二人とは本当に違うんですよね?あ、いい意味で。」
何の事だろうか?と、首をかしげなから佳純はお茶を啜る。
その様子に「ああ」と気付いた花弥が次のおやつに手を伸ばしながら、口を開く。
***
女中は今回の婚姻で嫁入りした嫁一人に三人が付けられ、誰に付くかは全くのランダムだ。
ただ今回の南月の場合は少し気をつけて選ばれはしたようだが、それでもさほど差はない。
まわりには他の奥様付きの女中がいます。
二人一組で、私は愛乃さんとです。
一週間に一度、備品発注の為に集まり物によっては融通する等のための、ミーティングの様なものです。
愛乃さんは邸宅の女中頭なのでいつも出席して、二人目は順番です。
いや、正直来たくないんですけど。
何故か他の女中が恐くて。
何でそんなピリピリしているんですか?
そんな事を愛乃さんに話すと、微妙な顔をしてしまい、何か不味かったかしら?と、内心ヒヤリとした。
何故なら、話が聞こえたらしく他の女中が嫌そうなと言うか何だかよく分からない顔でこちらを見てきたのだ。
何?私何かした?
「あの我が儘相手に貴女、大丈夫?」
誰が喋ったのか?と、視線をめぐらせるとやや茶色がかったかみの女中がこちらに一歩踏み出したのが見えた。
あ、今の彼女か。
「我が儘?ですか?」
何だ何だ?誰が?
私が固まっていると、隣の愛乃さんが気が乗らない時にする調子で話し掛けた。
「それは、そちらの奥様の事ですか?」
ん?奥様の事?あ・・・。
思考をめぐらせる事なく私も「ああ」と、噂を思い出す。
まあ、簡単な話が三男・四男様の奥様はもとからお嬢様なので我が儘で女中も手を焼いているというやつだ。
うわ、他所の奥様はそんなに酷いの?
私、南月様付きで良かった。
ひとり内心胸を撫で下ろしてしまう。
その様子を見た他の女中が不思議そうにしていますが。
「貴女方のところは違うのかしら?」
別の女中が口を開いた。
噂の我が儘奥様うんぬんは聞いた事はあるが、それがどんなものなのかは分からないので南月様と比べようがないけど。
「違うかと言われても、私は他の奥様を知りませんし何とも。」
奥様の事を思い出しなからの生返事ゆえ、若干アレな返事をした気がするけど本当に会った事も無いのでよく分からないと言う答えは間違いない筈。
しかし、更に他の女中が声をあげた。
「お稽古事もサボり、偉そうに買い物ばかりで義務もはたさない奥様よ?こっちを人とも思わない奥様よ?」
低い、しかし何この圧力じみた感じ。
いや、そうじゃなくて義務放棄してる?
どんな奥様ですかその人。
思わず向き直ると、それを皮切りに出るわ出るわ不平不満。
一体どうしたの?と、言うくらいに。
それから暫く、愛乃さんの微妙な視線を受けながらも他の奥様の現状を耳にし、ついでに南月様の事を口にするとその場にタメ息がこだました。
***
「私、本当に南月様付きで良かったと思ったわ。」
話終えた花弥の様子は深い安堵そのもの。
傍らで話を聞いていた佳純も同じ事を考えてか深く頷いたのであった。
他の奥様、(テンプレですかね?)酷いらしいですね?