入学
「瑠璃子、辛くなったら私を思い出して...」
あれは誰だったかしら?
瑠璃子は何故だかとても懐かしい気持ちになった。そう、あれは...。
そのとき目覚まし時計がすごい音を立てた。
びっくりして飛び起きる。
「大変!今日は入学式なのに!」瑠璃子はベッドから降りると居間にむかった。
「おはよう。瑠璃子」父が新聞から顔を覗かせくすくすと笑う。
「今日は長谷川さんが送ってくれるからら大丈夫よ」母は居間に座る中年の男性に目配せした。
「お嬢様。今日はいよいよ入学式ですね。あの小さかったお嬢様がこんなにも大きくなって。私は嬉しゅうございます」長谷川は瑠璃子にかけておいた制服を渡すと「さ」と言って、瑠璃子を更衣室へと導いた。
瑠璃子は桜色の胸元に雛菊を象ったブローチのついたセーラー服を来て更衣室から出てくると、レースのついた白い靴下を上げながら居間へ向かった。瑠璃子が座ると母が瑠璃子の前に目玉焼きとベーコンをおいた。最後に可愛いおむすびを横におくと瑠璃子は「ありがとう。いただきます」と言って朝ごはんを食べ始めた。瑠璃子が夢中になって食べていると新聞を読み終わった父が「新入生の言葉は覚えられたの?瑠璃子」とすかさず突っ込んだ。瑠璃子は「え、えぇ。まぁ」といいながらむせた。父は瑠璃子に紅茶を渡しながら「父さんはね。別に瑠璃子がうまくできなくても構わないよ。とにかく堂々とやりなさい」と言ってウインクした。瑠璃子は「ありがとう。父様」と言って口を拭くと、キャメルの大きめな学生カバンを持ち上げて「行ってきます」と言った。「瑠璃子、頑張ってね」母はガッツポーズをした。父は「最善をつくすように」と言って瑠璃子の頬にキスをすると、瑠璃子は居間をでた。玄関で新品のキャメルの革靴を履くと長谷川さんと外にでた。