表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4人のベルセポネー  作者: 望月 薫
第2章:魔法戦士に憧れて
9/48

第4話

 薫との会話を思い出しながら、愛美はグレープジュースを一口飲んだ。

 差し出した好物のはずのイチゴ牛乳を抱えたまま、沙恵はしゃがんで俯いている。

 その様子を、緑が挙動不審になりながら見つめていた。

「大好きだったの。兄さんが」

 ぽつりと呟いた声を、二人は聞き逃さなかった。

「いい人だったもんね。優しかったし」

 愛美と緑は、一度沙恵の兄に会ったことがあった。家に遊びに行った際、手作りのクッキーを出してくれて、勉強も見てもらった。

「沙恵のことよろしくね」

 照れくさくしている沙恵の隣でそう言った、なんとも妹想いで暖かい人だったことを覚えている。

「兄さんには夢があったの。警察官になっていろんな人を守りたいって、いつも言ってた。国家試験に合格するために毎日がんばってたのに……」

 正義感の強い人だった。里中の策にはまり、その夢叶わず亡くなった。

 致命傷と思われた心臓に達する傷のほかに約20箇所も刺され、全身に激痛を負いながら死んでいったのは間違いなかった。薫に写真を見せてもらったとき、死体など見慣れていたが、無惨に遊ばれた体を見て思わず眉をひそめた。

 決して突発的な行動からものではない。獲物を定め、口元を歪ませながら行為に及んだ様が浮かんできた。残虐かつ計画的な犯行だ。

「兄さんの遺体に会ったとき、ひどい姿だったわ。全身包帯で巻かれて、かろうじて顔が分かる程度だった。あの兄さんの姿が忘れられない。生きてた頃の兄さんを思い出したいのに、どうしてもあの青白い顔が出てくるの。もう気が変になりそうな毎日だった」

 沙恵は頭を抱え、大きく横に振った。沙恵の背中に緑が手を当てる。

「せめてあいつが死んでくれれば、少しは楽になるかもしれない。そう思って今まで頑張ってきたのに。何でなの?なんであいつは今でものうのうと生きてるの?」

 パックを抱えた手はひどく震え、ひどくしゃがれた声だった。

 手すりにもたれ空を見上げていた愛美は黙って聞いている。ジュースはとうに飲み干してしまい、頼りなく空の缶を持っている。

 弱々しかった声が途端に叫び声になったと思ったら、普段の沙恵とは思えない言葉を発していた。

「死ねばいいんだわ……。そうよ、あんなやつ……。死ねばいいのよ!!」

 己の叫びが引き金となり、沙恵はわあわあと泣き出した。きっと今まで耐えてきたのだろう。

 最高裁での判決が下り、愛美の言葉でたタカが外れたのだ。無理もない。

「沙恵ちゃん……」

 緑が沙恵の背中に腕を回し頭を撫でる。

 愛美も隣に座り、沙恵の手を握った。



『私達は皆の幸せのために戦う!』


 愛美の頭に流れた、昔の古い映像の中の人物はそう言った。

 鮮やかな原色のコスチュームに身を包み、満面の笑顔でポーズを決める姿。


『そう、全ては……。』


「全ては正義の名の元に」

 声を発することなく呟いたので、緑と沙恵は全く気付かなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ