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4人のベルセポネー  作者: 望月 薫
第2章:魔法戦士に憧れて
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第1話


 ゆらりゆらりと、複数の影が近づいてくる。

 時折、肩をがくりと落としながら腕をぶらつかせている姿は、見るに堪えない滑稽さがあった。

 獣のように目をぎらつかせてはいるが、死んだ魚のように黒ずんでいた。

 その不気味な目で自分の存在を認めると、うまく動かない足を引きずりながら向かってくる。

 もう何体倒しただろう。もう少しだ。あと少しで全てが終わる。私の目的は達成されるのだ。

 血の海に私は立っている。

 そこには飛び散った肉片や指が浮かんでいた。そしていくつもの死体が血の海を泳いでいる。

 私はやってくる標的を数える。8体。倒せない数じゃない。

 こいつらにあるのは敵を倒す本能だけだ。だから身を省みず体一つで向かってくる単細胞でしかない。

 夜の廃墟であるはずのそこは、目が慣れてきて妙に明るく感じる。それともやつらのぎらついた目がそう感じさせるのか。

 大丈夫だ。まだ体力は残っている。少し襲われはしたものの、大きな傷を負ったわけではない。

 私は手に持っていた銃を構える。名前も知らない使い古された銃。

 落ち着くんだ。いつもの私なら大丈夫。冷静に物事を見るんだ。

 やみくもに撃ったら弾の無駄だ。的確に、そして素早く相手の急所に撃つことを求められる。

 私は深呼吸すると、目の前まで迫ってくる奴らの眉間に照準を合わせた。

 そして慌てることなく引き金の引いた。


 だんっ。


 弾がねじ込まれた個所から、勢いよく血が噴き出す。

 相手が倒れる様子を見届ける隙もなく、私はほかの奴らに狙いを定めた。


 だんっ。だんっ。


 仲間が倒されたことで逆上したのか、ほかの奴らが牙をむいて襲いかかってくるも、すっかり流れのペースに乗った私は慌てなかった。一体ずつ確実に、一発で仕留めていく。


 だんっ。だんっ。


 だんっ。だんっ。


 撃つことで生まれる反動も、長年の銃の扱いで慣れている。薬莢が音を立てて地面に落ちる。

 そして残り一体。

 私は銃を構えなおし、ゆっくりと間を持って引き金を引いた。


 だんっ。


 立っている影が自分以外いなくなる。

 銃口からわずかに煙が出る。やはりその銃は古く、あちこち傷だらけだった。

 私は腕をだらんと下ろし、小さく呟いた。




「Complete」








 画面に大きく、そして背景に映っている廃墟とは対照的に派手な字体で『Complete』という文字が出る。

 薫は息を吐き、手に持っていた銃を元の場所に収めた。すぐ隣で見ていたりんが声を上げる。

「すごーい!タイムも早いし、あんまりやられてないじゃん。これ結構高スコア出るんじゃないの?」

 すると画面に、スコアが表示され、今までで一番の点数をたたき出していた。

「わっ。薫また新記録出たね。これやる度に記録伸ばしてるじゃん」

「やりこんでるからね。敵の攻撃パターンとか覚えちゃうんだよ」

 画面には名前を打ち込む表示が出る。これまでの高スコアを出した人は、名前が残るシステムだ。

 薫は慣れた手つきで『IKUKO』と打ち込む様子を見て、りんは首を傾げた。

「ねえ、『IKUKO』って何?いつも気になってたんだけど、薫って匿名にするときいつもその名前使うよね」

 すると薫は口角を吊り上げ下を出した。

「内緒。教えてあげない」

「えー、なんでそんな意地悪するの?薫らしくない」

「りんは知ってるよ。忘れてるだけで、ね」

 言葉の意味が分からず、りんは首を傾げる。が、次に現れた表示を見て飛び跳ねた。

「あ、薫歴代一位だよ!すごいね、初めてじゃないの?」

 ゲームセンターだけあって、騒音に近い音がガンガン鳴っている。だがりんの高い声はしっかり耳に届いた。

「本当だ。今日はついてるかも」

「一位記念!プリクラ撮ろ!」

 りんはずっとそれを待っていたのだろう。薫の腕を引くと、プリクラの機械が立ち並ぶエリアへと進んでいった。

「そうじゃなくてもやるつもりだったくせに」

 薫は笑った。











 ゲームセンターとは相容れない、重い空気が立ち込める法廷では、今まさに被告人に判決が下ろうとしていた。

 傍聴席に座る沙恵は、遺影を抱えて被告人の背中を睨みつけている。

 そして少し離れた所に、沙恵と同じように遺影を抱えた女性が座っていた。

 手錠を付け、その空間にただ一人立っているのは、まだ20代後半の若い男だった。

 前が見えているのか定かではない長い前髪から覗き見る目は光が灯っていない。

 被告人より高い位置にそびえ立つ裁判長が、その空気に圧をかけるような重い声で言った。

「被告人を、法の名において終身刑とする」

 弁護側、検察官側の人間が息を飲むのが分かった。その言葉の意味を知っているが故の反応だ。

「これにて閉廷する」

 変わらず続く沈黙の中、判決を受けた被告人が連れて行かれる様子を、沙恵は黙って目で追っていた。

僅かに見えた口元が、笑っているように見えた。


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