第3話
りんは騒音に近い音量で音楽をかけている店が立ち並んでいる通りを早足で進んでいた。
平日の昼にも関わらず、ここはいつも人が絶えない。特に派手な身なりの若者の姿が目立つ。
すると多くの人が行き交う中に、何人かが集まってこれまた大きな声で笑っている姿を見つける。
気配を消しそのまま通り過ぎようと心掛けたが、その内の一人に気付かれ、呼び止められる。
「あ、りんじゃん。久しぶり。今他校の奴らと遊ぶ予定立ててんだけどさあ。お前も来るだろ?」
歪めた顔を瞬時に戻し、りんは笑顔で振り向いた。
「そんなこと言って智也、この間お金ないってぼやいてたじゃん。大丈夫なの~?」
「バイトの金が入ったんだよ。さすがに無一文なってやばいと思ったからな。いいバイト見つけてさ、これでしばらく遊べる」
「まじ大変だったよなあ。金ないのは俺らも同じなのにしょっちゅうたかってたし。こんなことなら毎日バイト入っとけよ」
「いいな~、バイト。私もやってみたいなあ」
「あんた金山高なんて進学校行くからできないんじゃん。私らと一緒のとこ行けば良かったのに」
「え~、だって制服が可愛かったんだもん。ね、可愛いでしょ?」
りんはその場で小さく一回転してみせる。ひだの多めなピンクのチェックのスカートがふわりと揺れる。
智也達がからかうように口笛を鳴らした。
「やっぱ可愛いな~。りん、今度制服貸してよ。彼氏とプリクラ撮りに行きたい」
「残念でした。校則で禁止されてるんです~」
「んなもん無視無視」
「まじめ校だからね。目立つことはしたくないのよ。これでも一応優等生として通ってるつもりなんだよ」
りんは胸に手を当て誇らしくあごを上げる。
それを見て、雅紀が吹きだした。
「よっく言うよ。昔は俺らと馬鹿やってたくせに。今でも昼間に堂々と制服で遊んでんじゃん」
「あー、痛いとこ突かれた」
本当は授業が午前中だけだったのだが、それは言わないでおく。
こういう奴らは笑顔を振りまいて中身のない会話をしてやり過ごすに限る。
「で、どうするよ。お前いつ空いてんの?」
思い出したように智也が尋ねる。いつになくやたら光る鼻ピアスが鬱陶しく見える。
上手く話を逸らせたと思ったのに、こういう自分に都合がいいことは忘れないのだ。本当にたちの悪い。
「う~ん、どうしようかな、なんせ忙しいし…」
何か口実をと思考を巡らせていると、視界をストレートの黒髪が掠める。
どこかを一直線に目指し、規則正しく歩を進めていた。自分と色違いのブルーのスカートがよく映える。
りんは慌ててその人物を呼び止めた。
「あ、薫~。やっと見つけた。どこ行ってたの?」
高い声で自分を呼んでいることに気付き、薫は足を止め怪訝そうに振り向いた。恐ろしく整った横顔がりんを見つける。
「まったく迷子にならないでよね。じゃあね皆。また連絡するよ」
「あ、おい」
引き止めるような声に耳を貸さず、りんは薫の下に駆け寄った。
後ろで何かを言っていたような気がしたが、すぐにりんが現れる前のものに戻る。
りんが隣にやって来ると、薫は再び前を向いて歩き始めた。
「や~、助かったよ。どうやって誤魔化そうかと思ってたんだよねぇ」
「迷子の私を見つけて良かったって?」
「口実だって。薫より確実に私の方が迷子になるのに。見つからないように気を付けてたんだけど、そういう所だけは目ざといんだから。あいつら」
先程の対応とは裏腹に、きつく毒を吐くりんを薫は横目でちらりと見る。
「ね、それより今からどこ行くの?まさかいつもの…」
「そ、ゲーセン」
「またシューティングゲーム?銃なんて使い慣れてるのによく飽きないよねえ」
「それとはまた違うの。ゾンビを打ちまくるあの快感は中毒になるね」
「私も行くー。またプリクラ撮ろうよ」
「おごりなら考えるよ」
「えー、ひどーい」
そう言って二人は人ごみの中に消えていった。
自己紹介、始めます。
はーい。私、伊吹りんっ言います。
りんってかわいい名前でしょ?私気に入ってるの。名前を付けてくれた親に感謝だね。親の顔知らないけど(笑
ピンク大好き。ハート大好き。とにかく可愛いものはなんでも大好き。
よくぶりっ子って言われるけど、これが素なんだよ。
……ま、たまに怖い顔するって言われるけどね。気にしない、気にしない。
私達の詳しいことは、前回の二人の波に乗って薫のお任せしちゃいます。
私頭良いんだけど、説明するってなると私のキャラが気になって話が入ってこないらしいの。
大真面目にやってるんだけどね。でもあまり堅いことは苦手です。
あ、もう一つ私の好きなこと言ってなかったね。
私、鬼ごっこ大好きなんだ。また一緒にやらない?
ま、普通の鬼ごっこじゃないけどね(笑