表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/18

剣豪の腕前


 窓からやすやすと侵入を果たしたアドルフは、部屋を見回って内部を確かめる。

 古びた大時計と年代物であろう椅子が1脚。あまり大きな部屋ではない。だが、閑散とはしていても、殺風景ではない室礼しつらいが、古き良き時代を思わせる。

 酔っぱらい兵士が言うには、この家には地下室があるらしい。そして、その鍵が古時計だということだ。


 アドルフは酔っ払いの言うことを鵜呑みにしていたわけでは決してない。だが、彼の言った事はここまで全て合っている。これで地下室の入り口でも見つかれば完璧だ。そしてそうなると、いよいよ囚われた剣士とご対面である。


 部屋の角に鎮座する時計は、既に止まっている。アンティークなデザインはかなりの年代物のように見えるが、埃一つ見当たらない。少々塗料が剥げているところはあっても、壊れている所はない。よく手入れされている事が伺える代物だ。

 文字盤はアドルフの顔とほぼ同じ高さで、振り子だけでも1mはある。たとて動いていなくとも、重厚な雰囲気も相まって、かなりの存在感だ。


「確か、ここをこうして……と」


 アドルフは振り子の収まっているガラス戸を開けて、振り子を引っ張った。スポンと抜けた振り子の根本は鍵の形をしている。


「これだな。こんなもんまで押収しちまうとは、本当に容赦ねえな」


 時計の所有者は今もこの家に住んでいるが、この時計や地下室などの一部施設をアーツ軍に奪われている。


 アドルフは鍵の部分を、振り子のあった所の奥、左側に僅かに開いた隙間へ差し込んだ。するとカチっと小さな音がして、古時計が少し浮いたように持ち上がる。それを手で壁とは反対側、左の方へ押すとにじり口のような扉が現れた。

 アドルフは思わず口笛を鳴らしたくなるのをぐっと堪える。ここで余計な騒ぎを起こしたくない。

 振り子の鍵を差し込んで、そっと扉を開いた。


 扉の奥は長い階段が続いている。踊り場をいくつか通過して、ようやくやや開けた場所に出た。廊下を渡ると、今度は普通サイズの扉に行き当たった。

 中の様子は伺えない。しかし、壁は天井まで繋がっておらず、すり抜けられるくらいの隙間がある。幸い壁はレンガ造りだ。アドルフはレンガを足掛かりに。すいすいと壁を上ってゆく。


 壁を上ると、梁が剥き出しになっている。アドルフは梁に手を伸ばし、そっと部屋の中を覗き込む。すると、男が一人、椅子に縛り付けられた状態で椅子に座らされていた。男が黒髪でなかったことに、アドルフはオウエンではないと確信する。


「大したもんだ。この状況で、こんなに殺気立てるのか」


 男は鋭い目付きで見張りの兵士を睨み付けている。対して、兵士はちらちらと男を盗み見てはパッと目をそらす。男は縛られて動けないのだからどうにもならない筈なのに、どう見ても威圧されているのは兵士の方だった。


 男はオーツから護送されて来た剣士だと聞いている。アドルフは、ここで彼を助ければ、自分の戦力になってくれるはずだと踏んでいる。

 見張りの兵士は隙だらけだ。アドルフは兵士に狙いを定めて、梁から飛び降りた。兵士の首に飛び蹴りを食らわせて、アドルフは音もなく着地する。もともと剣士の圧力に怯えていた兵士は、頭上からの奇襲に全く気が付かなかった。


「よう。オーツの剣士やらはアンタだな。この街じゃアンタの噂で持ちきりさ」

「俺を助けようというのかい。そいつぁ酔狂だ」

「俺もアンタと似たようなもんさ。この街から脱出するのに手こずってる」


 アドルフはそう言いながら、腰に差したナイフを抜いた。


「協力するなら、ということか。相分かった」

「話が早くて助かる」


 男と目を合わせると、アドルフは男の縄を解いてやった。


「俺の名はソウジロウ。オーツで治安維持部隊として勤めている」

「アドルフ。さて、ずらがるぞ。長居は無用だ」


 アドルフは伸びてしまった兵士の懐を探り、この部屋の鍵を取り出した。ついでに身ぐるみを剥がして剣士に着せて変装させる。扉を施錠し、二人は監禁部屋を後にした。


「獲物を取られた。充分に戦うためにも取り戻したい」

「回収するか」


 アドルフは男と二人連れだって、来た道を戻って行く。元の2回の部屋に戻ると、時計を元通りに戻しておく。その時、部屋の外から話し声がすると思ったら、突然扉が開いた。


「な、何奴!」


 現れたアーツ兵は、剣を抜こうとしている。それをソウジロウはすかさずなだめた。


「不審者を捕らえた。これから武器を押収するのだが、どこに置いていただろう」

「ああ、なんだ。そういうことなら……」


 明らかにほっとした風の兵士は、一階の階段下の小さな物入れにでも入れておけと言い置いて、さっさと出て行った。兵士によると、他の接収した武器類は大抵そこにあるということだ。


「ふう。助かったぜ」

「なに、お互い様さ。俺がここにいるのは君のおかげだから」


 ソウジロウはニッコリ笑い、部屋の扉を開けた。

 兵士に変装したソウジロウがアドルフを引っ立てるという体で、一階まで降りてきた。

 階段の下の壁には、確かに収納スペースと見られる扉がついている。鍵はかかっていない。


「好都合だけど、無用心だなあ。あ、あった」


 ソウジロウはさっと自らの刀を二振り見つけ出すと、まとめて握った。

 後は脱出するだけだ。二人は堂々と玄関から屋敷を出た。


「さて、このまま街からも脱出しようぜ」


 アドルフはそう言うと、潜入前にいた裏路地へと入ってゆく。そこで脱ぎ捨てたオーツ軍の鎧に再度袖を通すと、ソウジロウと連れだって大通りに出た。

 封鎖された街は見張りが多すぎて、抜け穴すら見つからなかった。街の外に出ようものなら、たとえ変装《《変装》》していても許可証を求められる。故にアドルフは脱出できずにいたのだが、今なら戦力がある。それも、オーツの最強との呼び声高い剣士が一緒だ。二人なら、突破できる。

 街の外れまで来ると、アドルフの読み通り兵士が声をかけてきた。上官と見られる兵士を真ん中に、下っ端二人が槍を使ってアドルフ達を通せんぼしている。


「おい。ここから先は許可が必要だ」


 アドルフは無言でソウジロウに目配せをすると、二人は何食わぬ顔顔で再び歩き始めた。


「止まれ! 味方であっても撃つぞ!」


 アドルフが振り返ると、上官がピストルを構えていた。それを確認すると同時に、ソウジロウが飛び出した。あっという間に、ピストルも、発泡された玉も真っ二つになっていた。


 上官は果敢にも剣を抜いた。しかし、下っ端二人はさっさと逃げてしまった。それに気付くと、上官も彼らを追うように逃げてしまった。「脱走だ」「裏切り者だ」などと叫んでいる。


 アドルフとソウジロウは一目散に走って、ようやく街からの脱出を果たした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ