外伝2
砂漠気候の町ルーホには水脈が無い。
かつては水源が豊富であり、一年に一回、水霊祭と呼ばれる死者を伴う祭りが行われていたが現在は水不足のため行われる予定は皆無である。
そんな街の住民は一人、また一人と消えており現在では私、一人を残すのみとなっていた。
だがこの日だけは違った。△月〇日。いつもは私以外の声が聞こえないはずの町に二人の声が響いていた。
どうせ道に迷ってしまったのだろう。それ以外にこんな街に来る人なんていないのだから。
……それでも少しは期待してしまう。……もしかして居なくなった人たちが戻ってきてくれたんじゃないかって。そんなはずはありえないのに。
私は謎の声が気になり玄関にある、のぞき穴から外を見てみる。
するとそこには二人の男が居た。
どちらもリュックサック一つしか背負っておらず軽装である。
呼吸を静かにし聞き耳を立ててみると声がかすかだか聞こえる。
「だからな、光すまなかったって。まさかペガサスから落ちるとは思わなかったんだって」
「はあ、まあいまさら怒ってはいないさ。それより才、ここはどこだ?」
「はぁ~良かった」
私は二人の声を聞き安心する。どうやら私と同じ言語を話せるみたいだ。
話から推測するに、ペガサス?から落ちて道に迷ってるみたいだ。
それにしても、ペガサスってなんだろう。乗り物の名前かな?
かわいそうだしここがどこか教えてあげるか。
私はゆっくりとドアノブを開けていく。
男たちは家から15m先の広場にいたがドアがきしむ音が聞こえたのかこちらに目を向け注目している。
は、恥ずかしい。
二人ともそんなに見つめないでほしい。
た、確かにこんな寂れた場所に少女が一人だけでいたら変なのかもしれないけど
「あ、あのぅ。道に迷っているのですか?」
私は勇気をだし二人組の男に声を掛ける。
「ええ。そうなんですよ」
それに対し男たちはそう言いながら近づいてくる。
「はじめまして、お嬢さん。俺の名前は光だ。そしてこっちが才」
男たちにはどうやら常識があるようだ。はあぁ、安心した。
「は、はじめまして、凛です」
それに対し男はにこやかに話しかけてくる。
「それで、さっそくなんだけどさ。ここがどこなのか教えてくれないか?実は私たちは道に迷ってしまってね」
「ええいいですよ。それでどこを目指しているのですか?」
私の問いに対しずっと黙っていたもう一人の男が鞄から地図を取り出し指を指しながら私に見えるようにする。
「えーとですね、ホールという町に行きたいのですがどちらの方向にあるか知っていますかね?」
どうやら人は見かけによらないようだ。まるで先生みたいな口調に声質だ。
私も雑な言い方にならないようにしようと決心し地図を見てホールという町を見る。
そこには私が暮らす街ルーホの場所だった。
……もしかして。
「あ、あのう」
私は驚きながら男に答える。
「うん、なにかな?」
「えーと今あなたたちがいるこの場所がおそらく探している場所だと思いますよ。だってこの指してる場所ホールって名前じゃなくてルーホという町ですし」
「えーとマジ?」
「マジです」
私は驚く光と才に対してすぐそばにある郵便ポストの住所を見せる。
「ルーホの151番地?」
「はい、この町には番地で住所を管理しているんです。」
「へえ、そうなんだ。あ、そういえば他の人たちはどこにいるのかな?」
光からの鋭い質問に私の気分が最低ラインまで落ち込んでしまう。せっかくいつも食料を配達してくれる人以外が理由はどうあれ来てくれたのに。
もう、この町には私しか住んでいないんだよな。
はあ、たぶん残念がるだろうな。
「あの、いません!!」
私は元気よく答える。せめていい気分のまま帰らしてあげたい。
「いません?それはどういうことだ」
「言葉の通りです!私以外この町に住んでいなんです」
私が言い終わると二人ともポカーンとしていた。
あれ、私もしかして言い方間違えちゃった?
「あ、あのう、大丈夫ですか?」
私からの問いに対し才が目をパチッパチさせながら訪ねてくる。
「この町には君しか住んでいないってことですか?」
「はい、そうです」
「どうして君だけ?」
もっともな疑問だ。私は旅人に答える時と同じことを言う。
言い過ぎてもう私の頭に文章として記憶されている説明文を。
「ふーん、なるほどなあ。皆がこの町で暮らしていくことは無理だから皆水がある大都市に避難したと、そういうことか」
「水は重要ですから、仕方がありません」
私は納得した二人に言う。
「それにしても、たった一人でもこの町に残ろうとするなんて勇気ありますね。尊敬しますよ。」
「いえ、そんなことないですよ」
私は照れ隠しのため謙虚に言う。
「そんなことはありますよ」
男は笑顔で肯定してくる。なかなかにいい人だ。
「あの、なんでここに来たのですか?」
私はすっかり打ち解け仲良くなった光と才に訪ねる。
「ああ、祠を探しているんだ」
祠?なんだろうそんなものがこの町にあったかな?
私の疑問が表情に出てしまったのか才が口を開く。
「祠とはいっても祠ではありませんよ凛さん」
祠だけど祠じゃない?ますます訳が分からなくなってきた。
「うーん説明するのは難しいですよね」
「ああ、えーといいです。私には理解できそうにありませんから」
才はそんな私の返答を聞いても食い下がらない。
「簡単に言うとこの町が衰退した原因が祠なんだ」
祠が衰退した原因?……でも水が枯れたのは使いすぎって大人たちは言ってたような?
「祠はいったい、なんなんですか?」
私は未知の祠について才に聞く。
もしかしたらこの町の水源が復活する可能性があるのかな?
そしたらもしかして皆戻ってきてくれるかもしれないな。
才はバッグから携帯端末を取り出し、とある情報共有サイトを開き私に見えるように反転させる。
私が画面を見るとそこには祠についての細かい知識がずらっと書き込まれていた
「祠は通常神を祀る小規模な殿舎ですよね。ただしこの町にある祠には神様の代わりに怪物が潜んでいる可能性が高いんですよ。その影響で水が枯れたのでしょう。」
怪物?なんかの動物の事を表現しているのかな。
「怪物ってなんですか?」
私は才に怪物の正体について聞いてみる。
才はすぐ返答せず光のほうを見て目でコンタクトをする。
もしかして聞いちゃダメだったのかな。
「怪物はまあ、とっても怖い奴だよ。その辺にいる動物の何百倍もの力を持っているから、君がもしもの話だけど怪物の前に立ったら一瞬で殺されてしまうよ」