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外伝1 最強の遣い人

≪1-1≫


 ・5/25 01h:15m:26s・

 広さ6畳程度の部屋の一室に一人の男が佇んでいた。

 男は椅子に座り、時折携帯を見ては近くの床に投げる行為を無数にしていた。

 「……連絡は来ないか」

 男はため息をつきながら、うつろな目で天井を見る。

 天井には明かりが灯り眩しいはずなのだが男はそんなことを気にせずに天井を見ていた。

 「……あははははっ。まさか、最高位の存在がうろついているとは俺も神に愛されていないな」

 男は自嘲気味に笑いながら自らの運のなさを嘆いていた。

 だが男は嘆いたものの、絶望している様子はなかった。そのかわり、楽しそうに

笑い出す。そして。 

「さあて、どうしたものか」

 そう男が呟いた次の瞬間、男の目の前の壁は消え去り、その代わりに鼻息が荒い怪物が居た。

 だが男はそんな非常識な出来事に驚くのではなく、ただ静かに見るだけだった。 「ははーん。なるほど、これが噂のやつか」

 そう言った男の体を怪物の鋭い爪が切り裂こうとする。

 だが男はそんな怪物から逃げるのでもなく、立ち向かうのでもなく、ただこう言った。

 「喜べ。裁きの始まりだ」

 と、嬉しそうな表情を浮かべ、襲いくる怪物に反撃を開始した。

 

≪1-2≫


 ・同時刻・ 

 とある酒場に二人の男女が居た。

 男は見た目は20代前半だろうか。両手には厚手の手袋をはめ、背中にはテニス用の縦に長い鞄を掛けていた。

 女は見た目は10代後半だろうか。全身を真黒なドレスで包み込んでいた。

 二人の姿は酒場にしては珍しいため興味の目で他のお客に見られているが二人はそんなことは気にしないのか、もとより眼中にないのか、話を続けていた。

 「……それで、あの馬鹿をほっといてもいいのかしら」

 女は男にめんどくさそうに尋ねる。

 それに対し男は

 「……」

 無言だった。

 「はあ、あんた、いつまで怒るつもりなの?しゃべりなさいよ。」

 「……」

 男はなお、無言を貫いていた。

 なぜこんなことになってしまったのか。

 原因は10分前にある。


 ……10分前。

 酒場のドアを勢いよく開けて二人は入ってきた。

 そこまではよかったはずだ。

 だがそのあとに悲劇が待っていた。

 いや、悲劇というものほどではないのかもしれないが男にとってそれは重要な問題だった。

 それは、大事な大事なものを女に奪われたのだ。

 これは別に変な意味ではない。

 いたって普通である。

 なぜなら、奪われたものはプリンだからだ。

 プリン?

 そう思う人も少なくないだろう。むしろ多いような気がする。

 ……私は男が席を立った際に来たプリンを勝手に食べたのだ。

 たったそれだけのことしかしていない。

 だが、残念なことに男はいわゆる、プリンの為なら命を掛けることもできるほどのプリン党だったのである。

 …これが私の隊長とか、終わってるのかな。

 そう思ったのと同時にイラつきも増してくる。 

 たかがプリンで。

 「たかが…プリンだと‼」

 私の声が聞こえてしまったのか男は口を開き始めた。

 「いいか、お前が食ったプリンはな、1日15個限定のプリンなんだぞ!」

 「だから、さっき謝ったでしょ。ごめんなさいって」

 「ごめんで済むなら警察なんていらないんだよ」

 男はなお、怒り続ける。

 「はああああああああっ」

 女は遠くの景色を見ながら男に聞こえないように呟いた。

 「ごめん、才、助けには当分行けないわ」


≪1-3≫

 

 ……俺は正直なところ焦っていた。

 最初は怪物に強気でいられたものも時間が立つにつれて俺の欠点が俺自身を苦しめる形となっていた。

 それは俺に怪物を倒す決定力が無かったのである。

 それにそもそも俺は、怪物を甘く見ていた。

 奴は噂以上の怪物だった。

 何が一人で勝てるよだよ。真っ赤な嘘じゃねえか。

 ほんとに、これ以上はやばい。下手したら死ぬかもしれない。

 この俺が死ぬだと。

 ……俺は怪物にやられた右足を引きずるような形で、人気のない真っ暗な道を歩いていく。

 これは逃げではない。一時的な撤退である。

 とにかく、けがを治さないことには何も始まらない。

 ふと、二人の顔が脳裏をよぎった。

 ……あいつらなら、勝てるのかな。

 ……勝てるだろうな。

 俺みたいな多様性じゃなくて、一様性だからな。

 ほんと早く助けに来てくれ。

 光、紅玉。


≪1-4≫

 

 「……」

 酒場の男は絶句していた。

 「どうよ、こんなの見たことないでしょ!」

 男に対し女は馬鹿にするような口調で堂々と自慢する。

 男の座る目の前のテーブルには様々なスイーツが楽しめるパラダイス、パフェと世間的には呼ばれるものがあった。 

 「これは、いったい?」

 「平凡な国のデザートのパフェというものよ」

 「パ…フェ…」

 「あんたみたいな、デザート好きな奴には大人気メニューよ♪」

 「これを食ってもいのか?勿論いいんだよなな?」

 男はさっきまでの表情と一変飢えた子犬のようにはしゃいでいた。

 ……最初からこうすれば良かったのか。

 (はあ、またいらない情報が増えちゃった)

 「じゃあ、いただきます!」

 男はパフェに手を伸ばし食べようとするが、女はパフェを男の動きよりも早く取り上げた。

 「隊長、その前にやることがあるのでは」

 そこまで言ったところで男はようやく気付いたのか。

 「ああ、すっかり忘れていた」

 と、手をポンと叩きながら

 「才、悪い、忘れてた」

 と、女に聞こえないように小さく呟いた。

 「それじゃあ、早く行きましょうか」

 「ああ。死なないうちに助けないとな」

 女はレジに一人歩いていき勘定を済ませる。

 そして酒場の主人が前を向いたときには二人は消えていた。

 酒場の誰にも気づかれないうちに男と女は暗闇の世界に消えていたのだ。

 

 「はぁ。変な客だったな」

 酒場の主人はそう呟いたものもそれ以上は深読みをせずに目の前に現れた新しい客の相手をする。

 「いらっしゃい、何にする」


≪1-5≫


 月の明かりしかない公園のベンチに一人の男が座っていた。

 男の右手は明るい光を灯っており、その手を男は傷ついた箇所に当てていた。

 「後、15分くらいはかかりそうだな」

 男は自分以外に聞こえない小さい声でつぶやく。

 ここで治療を初めて30分今のところは怪物に見つかってはいないがそれもいつまで、持つかはわからない。

 「さて、怪物の情報を組み立てるか。」

 男は左手に持つ(10×6)cmくらいの携帯端末に怪物の特徴を打ち込んでいく。

 「えーと、翼に、鋭いかぎ爪、長い尾、……あとは爬虫類みたいな箇所がいくつかってところか」

 あいつにこれを送ればすぐに教えてくれるだろうけど知りたくないなあ。

 下手したら俺の対処Lvを遥かに超えた数値化も知れないしな。

 ……俺の対処LVは60ちょいだったよな。確か光と紅玉はもっと上だったはずだけど、それでもあいつらでも適わないかもしれないな。

 それだけ、奴は強い気がする。

 研究機関の測定数値は57だとか言っていたような気がするが、あくまでもそれは現物をみてる訳ではなくて荒らされた現状から判断してるだけだしな。

 ……知りたくない。が、知りたい自分もいるんだよな。

 「はあっ」

 俺は疲れたのかいつの間にかにベンチに横になっていた。

 このままだと寝たまま殺されるかもしれないな。

 その前にあいつに聞くか。

 「送信っと」

 まあ、あいつならすぐに返信がくるんだろうな。あいつにわからないことなんて存在しないし。

 「うん。やっぱ来た」

 返信がすぐ来るのは相当やばい証拠でもるので開くのには若干勇気が必要となる。

 「はあ、いったいなんだ。あいつは!」

 メールを開き内容を読んだ男は自嘲気味に笑いながら、呟いた。

 「……終わった。なんで、こんな奴がこんな場所に居るんだよ」

 泣きそうになるのを堪えながら男は二人に再度助けを求めようとする。

 「どうした」

 今度は繋がったのか男の声がした。息が若干乱れてることから俺を助けようとしてくれてるのだろう。

 「いいか、よく聞け、隊長」

 男は震える声をなんとかおさめながら隊長に告げる。

 「敵はドラゴンです」

 「ドラゴンだと!なんでそんな高位的な存在がこんな街に?」

 「わかりません。それでLV何ですが。奴は76を超えてます!!」

 「76だと。っち」

 「隊長?」

 「ぎりぎり大丈夫かなそれなら。俺と紅玉なら」

 「隊長!俺も加勢します!」

 「いやそれは止めとけ。」

 「お前の対処LVではまだまだ危険だ」

 「まあ、俺達に任せとけ」

 電話の向こうの男は一緒に走る女に現状を伝えているのか断片交じりだが二人の声が小さく聞こえた。

 「さあて、粛清の時間だ」

 電話の向こうの男は大きく叫んだ。

 そこまで把握したところでベンチに寝転がる男の意識は遠く眠りについた。


≪1-6≫


 怪物の影響には様々な影響があるが、その中でもひときわ目立つ影響は空間の歪みである。

 怪物は本来この世にはいてはならない存在である。

 そんな怪物がもしも人間の近くに現れたらどうなるか。

 いたってシンプルな答えである。

 大きな事故が発生する。

 これは別に可笑しな現象ではない。

 過去何千年、人間たちには様々な大事故が起こったがその大半は怪物が出現したことによる影響の一つだとされている。

 かの船が沈没したのも飛行機が墜落したのも大きな地震が世界を襲ったのも世界に隕石が多数落ちてきたのも全ては怪物が引き起こした空間の歪みによる影響を受けて起きてしまったのである。

 ……思い返してほしい。

 古代の文献…いや最近のニュースでもいいが、ある湖に居るとされるネ●シーの噂、ある雪山の山頂に居るとされる雪男の噂、空を飛ぶ未確認飛行物体の噂の大半は怪物の事である。

 つまり人間は古くから怪物と出会いその度に戦っていたのだ。

 非力な人間が怪物と。

 だが物事はそう上手くはいかないのが世の常である。

 いくら戦うとはいっても人間と怪物では実力の差ははっきりしてる。

 人間は成長すると言ったところで怪物も同様である。

 ならば世界はどうするか。

 答えはいたって簡単である。

 忘れろ。

 それだけである。

 辛いのなら忘れる、それだけでいい。

 怪物に殺されるものも中にはいるかもしれないが全人口に比べたらわずか一握りである。 

 ならば見捨ててでもいいのでは?

 そんな考えは場合によっては危険だったがこの場合に関しては何も問題は生じえなかった。

 なぜなら怪物の狙いは人類などというちっぽけなものではなく、神の力を持つ者たちの虐殺だったのだから。

 世界がそのことに気づいたのはここ数10年の事だが、世界はそんなことを言い触らすのでもなく、隠した。つまりは忘れた。

 これが怪物と神の遣い人の存在が公になっていない理由の一つである。

 

                     オリンポス新聞●年○月△週号

 

 ある食堂に15歳くらいの男女が隣り合って座っていた。

 「で、これを読んだけど何これ?」 

 少年は隣に座る少女に対し疑問を聞いてみる。

 「これはね、私たちの国、オリンポスが発行している地域新聞の投稿コーナーの記事だよ♪」

 少女は自慢するようにはしゃぎながら少年に記事が書いてある新聞を見せつける。

 「ふぅん。この国にも新聞なんてあるんだ」

 「うん。びっくりしたでしょ?」

 「うん、まさかあるなんて思っても無かったから」

 少年は少女に正直に告げる。

 「しかもね、これ書いてるの何人だと思う?」

 「さあ、10人くらい?」

 「残念♪実はねこれ1人だけで書いてるんだよ!」

 「1人!それほんと?」

 「うん。この国最高の頭脳の持ち主が書いてるんだよ。しかも週一で」

 「週一?それってすごくない」

 「まあ、能力も使ってるんだけどね。彼、物知りの神の遣い人だから、基本的には何でも知ってるよ」

 「何でも…じゃあ俺が出会った怪物の名前とかもわかるのかな?」

 「うん。怪物には名前がついてるから多分だけど彼なら知ってると思うよ」

 「よし、じゃあさっそく案内してくれ、杏理」

 そうせかす少年に対し杏理と呼ばれた少女は

 「しゅん、その前にちゃんと朝ご飯を食べてください」

 と親のようにまじめに言うのだった。

 

≪1-7≫ 

 

 暗闇しかない世界を二人の男女がすごい勢いで走っていた。

 男の右手は黄色く輝く野球ボール程度の大きさの半透明な球体を持っていた。

 女の左手には赤く燃え上がる短剣を前に突き出すようにしていた。

 どちらも額には汗が滲んでおり、息も乱れていた。

 「光、それでどこにいるの怪物は?」

 女はすぐ横を走る男…光に対しやや緊迫感を持ちつつ小声で聞いていた。

 それに対し光は、酒場の時とは別人のようなまじめな顔で

 「それはわからんが、俺たちが能力を使ってればいつか怪物が引き寄せられるはずだ。才はそれで上手くいったし。だから紅玉俺を信じて走り続けろ。」

 と返した。

 「……まさか才、もう殺されてなんかないよね」

 紅玉は酒場の時とは打って変わって心配そうな声でつぶやいた。

 これが酒に酔ってない本来の紅玉であるのだ。

 そしてそんな紅玉に対し光はただ能力をさらに高密度にしただけだったが、それを紅玉は素直に受けとり

 「そうだよね、死んでるわけなよね」

 と、小さく、だが光に聞こえる声で小さく呟いた。

「でもなんで私たち走ってるの?」

 紅玉はふと疑問に思い素直に質問してみる。

 「ああ、それは」

 そこまで光が言いかけたところで、目の前がいきなり爆発した。

 「きたか」

 光は心底嬉しそうに呟く。

 「じゃあ、紅玉も攻撃頼む」

 「わかった」

 紅玉は光の言葉に素直に従う。

 「確か76とか言ってたよな、才のやつ」

 「ええ。久しぶりに凄い強敵ね」

 二人は目の前に怪物が現れながらも焦ることなく冷静に対峙する。

 「私たちが負けたらおしまいね」

 紅玉は真顔で光に緊張感を示す。

 だが光はそんなことは気にせずに両手の手袋を取り外す。

 「さて、粛清の時間だ」

 そう光が呟いた途端、光の体中から黄色く輝く高密度の電気が発せられる。

 「どうした、怪物、かかってこいよ」

 光は怪物を挑発し、自分に向かってくるように仕向ける。

 だが怪物は光の能力に警戒してるのか近くに来ない。

 そのかわり、怪物は大きく口を開ける。

 次の瞬間、怪物の口の中から高密度のエネルギーが発射される。

 いわゆるレーザービームという名の代物である。

 だが光はよけようとせず、むしろ右手を前にだし

 「解放 支配者(ゼウス)

 そう、、光が言った瞬間、光の右手に高密度の電気が集まり始めたのか、光り始める。

 「変幻(へんげん) 雷 霆(ケラウノス)

 次の瞬間、光の周りに集まった電撃はある武器に変化する。

 雷霆と呼ばれるゼウスがかつて使っていたとされる世界最強の武器へと。

 光は雷霆を怪物が放った攻撃に寸分の狂いなく合わせる。

 「その程度か。つまらん怪物だな」

 光は怪物の攻撃を雷霆で打消しなおかつ怪物に電撃を放つ。 

 だが、怪物は真上に飛びなんとか回避する。

 「ほぉ。意外と頭いいなこいつ」

 光は雷霆をふるい続けながら怪物の動きを止めにかかるが相手も高LVの怪物のせいか、一回も攻撃が当たらない。

 「紅玉、お前も攻撃してもいいんだぞ?」

 光は怪物と戦いながらも余裕があるのか後ろで硬直している紅玉に投げかける。

 「……馬鹿言わないでよ。私に死ねってこと?」

 「はあ?でもお前さっき戦うって言わなかったか?」

 「それは援護するって意味よ。そもそも私の対処LV以上だし無理よ。私70だもん。あなたみたいに80超える人じゃないんだから」

 「それは違うぞ紅玉。俺90超えてるから」

 「そうなの?じゃなくて、私が居なくても戦えるでしょ」

 「うーんそれは無理かな。だってこいつ90超えるくらいの怪物だし」

 「90?!ウソでしょ」

 「いやほんと、才の言っていたことは間違ってる。その証拠にさっきから俺が全力で攻撃してるのに一回も当たらねえし」

 「じゃあ、もしかして、光でも勝てないの?」

 紅玉は光でも勝てないという事実に驚愕し、その場に倒れそうになる。

 (光でも勝てないということはオリンポスの誰が挑んでも勝てないということじゃない)

 「それはまだわからない。だけど負けることは無いと思う」

 「なんでそう言えるの?」

 「もしもの場合は俺が究極元素(ラストエレメント)を発動させてでも皆は俺が守るから」

 そう言う光の目には強い意志を感じ取ることが出来た。

 ……こういうときの光は止めることが出来ないんだよな。

 「わかった。私がなんとか怪物の動きを一瞬止めるからその隙に光が最高出力の雷撃で怪物を吹き飛ばして!」

 「おう」

 それまで怪物と喋りながら戦っていた光は後ろに居る私と立ち位置を交代する。

 「1分だけ稼いでくれ。そしたらおれが怪物を吹き飛ばす」

 「うん。頑張る」

 私は右手に持つ短剣に能力を集中させる。

 「解放  炎 神(プロメテウス)

 少しずつだが空気中の熱源が短剣に吸収されているのか赤く光始め、先から徐々に炎が包みはじめる。

 「変幻 炎剣」

 これが私の扱う武器 炎に包まれた短剣 炎剣(フレイムダガー)である。

 私は怪物の攻撃対象を光から私にするために怪物に炎剣の剣先を向け

 「炎球(フレイムボール)

 と言う。

 直後炎剣の剣先から高密度の火の玉が飛び出し怪物の足に当たる。 

 「グラアアグエエア」

 怪物は意味不明の唸り声を上げさっき光に放ったレーザー光線を打ってくる。

 どうやら光から私に攻撃対処を変えたようである。

 私は光線をよけずに炎剣を使い高密度の炎をぶつける。

 当然行き場のなくなったエネルギーは怪物と私の真ん中で爆発する。

 次の瞬間私と怪物は反対方向に吹き飛ばされる。

 

 それにしてもと、私は光に対し話しかける。 

 「まだかかるの、光」

 「うーん、後もう少しかな。」

 「早くしてっ。そもそも1分たったじゃない」

 「まだ30秒だよ。」

 「早くしなさいよ、私が殺されちゃうでしょ!」

 「よく言う、紅玉、君も元神の一人なら1分くらい稼いでくれよ」

 「確かに私は元神だけど、さすがに支配者(ゼウス)にはかなわないわよ」

 「そうでもないさ」

 「はあ、あなたって自分の希少価値に気付いていないでしょ!」

 「ん?なんでそうなる?」

 「はあ、もう疲れた。あとはよろしく、隊長」

 「ああ。了解した」

 

 「さて、またせたな怪物」

 「お前には苦労させられたよ、だがそれもここまでだ」

 光は怪物に対し話し始めるがさっきまでとは一転憐れむような目で怪物を見ていた。

 光は右手を点に伸ばし勢いよく人差し指を怪物に指し叫ぶ。

 

 「天候操作 落雷(サンダー)!!」


 次の瞬間、天空に存在する雲の中から光り輝く雷光が地面に垂直に落ちてくる。

 光は右手を細かく動かし怪物の真上に落ちるように調整する。

 そして落雷は怪物の周辺にすさまじい勢いで落ち、空気中に存在する物質と大きな爆発を起こした。 

 当然爆風は私たちのほうに向かってくる。

 光さーと私は絶望しながら言う。

 「これ、私たちも死なない?」

 「あー、やばいかも」


 目の前で爆発が起き私たちは怪物同様吹き飛ばされると二人とも思ったがどうやらそうはならず、最悪の事態は回避できたようである。


 「大丈夫ですか、二人とも」

 光と紅玉の前には一人の男性が立ち右手にはシールドを張っていた。

 だからか爆風は来なかったようである。

 

 二人は大きく深呼吸しそして前にいる男に話かける。

 「はあ、助かったよ、才」

 「ほんとありがとう、才」

 二人にそう呼ばれる最初に怪物と戦っていた男…才は二人に対し笑顔で答える。

 「俺、攻撃は苦手ですけど防御に関しては二人よりも得意なんですからね」

 「ああ、わかってるよ」

 「うん、知ってるわよ、ほんと才ってちょうどいいタイミングで来てくれたわ。」

 「いやあ、ほんと我ながらベストでしたね。あー、でも二人とも」

 「なんだ?」

 「なに?」

 二人は同時に声を上げる。

 それに対し才は笑いながら言う。

 「俺たちチームなんですから今度は早く助けに来てくださいよ」 

 「ああ、わかってるって」

 「当然でしょ」 

 二人はさっきまでの酒場の出来事など忘れたのかそれともただ単に言わないだけなのか遅れた原因は言わない。

 それに対し才は目を細め、それにしてもと二人に話しかける。


 「……普段はケンカしてもいいですけど、仲間がピンチの時くらいは止めてくださいよ」

 それに対し二人は。

 「……」

 黙り続ける。

 二人とも怪物相手の時以上に額に汗が滲んでいた。

 「……どこまで知ってる?」

 そもそもの原因でもある二人のうちの一人、光はおそるおそる才に訪ねる

 それに対し才は笑いながら言う。

 「それはもう全部知ってますよ」

 「……誰に聞いたの?」

 今度は紅玉が才に対し誰が言ったのかを聞く。

 それに対し才は。

 「あはははははっ、言うと思いますか?」

 「はあ、それで私たちは何をすればいいの?」

 「お前の事だからどうせろくでもないんだろ?」

 「ひどいなあ、俺ってそんな人間に見えますか?」

 「……」

 「要件は一つだけですよ、俺の役職を解除してくれるだけでいいんです。それも1週間だけでいいですよ」

 「役職ってことは、先生を止めたいってことか?」

 「ええ、そうです」

 「なんでやめたいの?あなたって生徒から評判いいじゃない?」

 「ちょっと、事情があるんですよ」

 「それってなんなの?」

 「今は言えません。ですがそのうち言いますよ」

 「はあ、わかった。ただし1週間だけだからな」

 「ありがとうございます隊長」

 「まぁ隊長がいいなら私からは何も言えないわね」

 「二人とも認めてくれてありがとう」

 「じゃあ早く帰りましょう。国に怪物が近づいてくるってここに来る前にあいつが言ってたし」

 「ああそうだな。でもちょっと俺たちは後始末があるから紅玉先に戻ってくれ」

 「ええ、わかったわ」

 紅玉は笛を取り出し勢いよく吹き音色を響き渡せる。

 次の瞬間何もなかったはずの空間からペガサスが飛び出してくる。

 「それじゃあ、お先!」

 「ああ、お疲れさん」

 紅玉はペガサスに乗り遥か遠くの国に飛んでいく。

 

 「……それにしてもさすが俺たちの隊長ですね。俺が嘘をついてることなんてバレバレってわけですか」

 才は目の前で怪物の破片の後始末をする光に嫌味を込めつつ言う。

 それに対し隊長…光は笑いながら言う。

 「お前のことなんて何でもわかるさ」

 「まあ、そうですよね。小さいころからずっと一緒ですもんね」

 「まあ、その話は置いとくとして、才お前も気づいてるんだろ?」

 「ええ、まあ、怪物のことですよね?」

 「ああ、怪物は……」

 「生きている」

 「その通りだ、残念ながら逃げられてしまったようだ」

 「それにしても隊長の全力モードから逃げ切るなんてあいつ結局なんだったんでしょうね?」 

 「さあな、わからん。……だが俺たちはあの怪物を簡単に見逃すわけにもいかないしな。」

 「そうですね、世界で暴れても俺はどうでもいいんですが万が一俺たちの国に強襲しにでも来たら……」

 「ああ、そんなことになればまたあの悪夢が再来してしまう可能性があるしな」

 「それだけはなんとか食い止めないといけないですね」

 「だから力を貸してくれないか?」

 「隊長に助けがいるとは到底信じることは出来ませんが今回だけは相手が相手ですしね」

 「……すまないな才」

 「別に気にするほどではないですよ、それよりあいつも誘ったほうがいいんじゃないですか?」

 「あいつは必要ないだろ、それにあいつを連れていくとろくなことにならないしな」

 「それもそうですね。それでは行きますか」

 「ああ、今度こそ怪物を殺すぞ」


 二人はその場の後片付けが終わったのか暗い道をゆっくりと進んでいく。

 その場にはさっきまでの戦いが嘘のように静寂に包まれていた。


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