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オリンポス観光

  

 

様々に彩られた林の道を二人が通っていた。

 一人は鼻歌交じりに、にこやかに。

 もう一人はため息をつきながら憂鬱そうに下を向いていた。

 

「しゅん‼ もう少し景色を楽しんだらどうですか?」

 少女は目の前の車いすに座る少年に提案をする。

 それに対し少年……しゅんは、めんどくさそうに、顔を上げ、口を開く。

 

「いや、杏理。俺も最初は楽しんだよ? でもさー、これ……何時間かかるんだ。」

 しゅんは、渇いた喉を必死に使い、車いすを押している少女……杏理に投げかける。

 

「後、もう少しで着きますよ♪」

 そんなしゅんに対し杏理は元気よく返す。


 「さっきも同じこと言われたような気がするんだけど。」

 しゅんは何回目かもわからなくなってきた疑問をいう。

 それに対し杏理は悪気もなく、目を閉じ考えるような格好をし何回か頷いた。


 「そうでしたっけ?」


 「はあ。……帰りたい」

 俺は後悔していた。 

 ……オリンポスに着いた俺は休養を取らずに、杏理の言葉に押されてしまい、なんだかんだで、案内をしてもらうことになったわけだが。

 俺が寝ていた間に、舗装された道から、一転林の中にいたわけだ。

 杏理は言わないがおそらく道に迷ったのだろう。

 ほんとに嫌な日だ。

 

「うーん、おかしいな」

 杏理はさっきから独り言を呟いていた。

 こんなことなら、地図でも持ってくるべきだったな。

 

「なあ、杏理?」

 

「はい。なんですか?」

 我慢の限界に達したのもあり、俺は杏理に道に迷ったのか聞こうとする。

 杏理は答えようとしたが、急にほころぶような顔をして。

 

「あっ、あった」

 杏理は俺に明るくしゃべりかけてきた。

 

「あれが私たちの国、オリンポスの中心都市です」

 目の前には今までと打って変わって人為的に作られた建物がひしめき合っていた。

 

「あれが……」

 俺はあまりの感動に言葉を失った。

 近代的な建物があるが、その遠くには、太陽の光に輝く神殿が佇んでいた。

 

「……綺麗ですよね、この町は(オリンポス)

 そんな俺の心情を察したのかしばらくしてから、杏理は話しかけてきた。

 

「ああ、こんな綺麗な景色初めて見たよ」

 

「それは良かったです♪」

 昨日、今日とイレギュラーなことばかりで疲れ切っていたが、なんだか疲れが取れたような気がする。

 

「ここはいいところだな」

 

「そうですよね。ここはとってもいいところなんです♪」

 杏理は自分の住む町がほめられたからか、その場ではしゃぐ。

 ……今日は人生の中でも最高の気分だ。もしかしたら、これが俺の本来いる場所なのかもしれない。

 ……なんてな。

 

「じゃあ、町の案内をしてもらってもいいか」

 

「はい、よろこんで♪」

 

「それじゃあ行こう」

 

「あれ?車いすに座らなくていいんですか。」

 

「ああ。もう疲れも取れたし、歩くよ」

 

「そうですか、じゃあ行きましょうか」

 

「ああ」



 「……それにしてもオリンポスって、でかい国だったんだな。どの方向を見てもずっと町並みが続いているし」

 

「そうですよ。ここって東京ドームで例えると500個分くらいの土地がありますからね」

 

「そんなにでかいのか」

 

「はいそうですよ。とは言っても、国のほとんどが未開拓ですけどね。だから暮らしている場所だけだったらもっと小さいですよ」

 

「ふーん。……あっ、あの大きな建物は何なんだ?」

 

「あれですか? あれは総合体育館ですよ」

 

「体育館にしてはデカすぎないか? だって建物の端が見えないぞ」

 

「普通の人間が運動をする分に関しては確かにあれで十分すぎるかもしれませんが、私たちには超能力がありますので、その練習場としての意味合いが強いですね」

 

「なるほど。 ……というよりも杏理なんでさっきから敬語っぽい言葉を使ってるの? 俺たちもう、仲間だろ? だから普通に……しゃべりたいんだけど」

 

「それは……私はしゅんの遣いですから」

 

「遣い? なにそれ」

 

「あぁ、まだ……言ってませんでしたか。……神に遣える人間には2種類あるんです」

 

「それは俺が元神で特別な存在だからってこと?」

 

「いえ、……そうではなく。 私の遣える神がしゅんの遣える神の眷族なんです。 だから私もしゅんに仕えなければならないんです」

 

「そうだったんだ。・・・なあ、杏理」

 

「なんですか?」

 

「それって絶対厳守なの?」

 

「え? それはどういうことですか?」

 

「ああ、つまり。その敬語をやめてもらえることは出来るのかって話」

 

「しゅんが命じるのならば出来ますけど」

 

「じゃあ、杏理普通に話してくれる。同じ年なんだし」

 

「ほんとうにいい…のですか?」

 

「え、なんで?」

 

「だって他の人たちは」

 

「あはははははははっ」

 

「……? どうして……笑うんですか?」

 

「あのさー、杏理は、まじめすぎ」

 

「まじめ?」

 

「うん。いちいち他の人たちと比べすぎ。俺たちはマイペースでいいじゃん♪」

 

「そうですか ……わかりました」

 

「じゃあ、さっそく敬語なしで、しゃべろう‼」

 その言葉に杏理は軽く頷き、唇を動かし始める。

 

「しゅん、えーと」

 

「なに?」

 

「えーと、もしよろしければなんですけど、この後一緒に来て頂きたい場所があるのですが?」

 

「敬語」

 

「……この後一緒にきていた……くれない」

 

「うん、いいよ。それで、どこに行けばいいのかな」

 

「私の家に来てくれない? しゅんに渡したい武器があるの」

 

「武器? 剣とかそんな類のもの?」

 

「うん。かつてオリンポスにいた。先代ポセイドンの遣い人が持っていた水剣をもらってほしいの」

 

「先代?それはどういう?」

 

「私たちには神の力の一部が宿っているのは話したよね。でねもし遣い人が死んだら神の力は違う人に宿るの」

 

「ってことは、俺の前に一人ポセイドンの遣い人が居たってことか」

 

「うん。その人はもう死んじゃったけど」

 

「で、その人が使っていた武器が水剣だったと」

 

「うん」

 

「ん?なんで杏理は剣を持ってるんだ?」

 

「それは。えーとね、先代は私の兄なの。それで遺産として貰えたの」

 

「杏理の兄が使っていたのか。でも、そんな大事なもの、貰ってもいいのか」

 

「うん。兄の遺言には、もし俺の後継者が現れたら渡してほしいと書いていたので、ぜひ貰ってあげてください」

 

「……そういうことならありがたく貰うよ。でも、驚いたなあ。まさか杏理のお兄さんが先代だなんて」

 

「うん。実は私も驚いたの。まさか助けた男の子が兄の後継者だなんて♪」

 

「……一つ聞きたいんだけどいいかな」

 

「なに?」

 

「嫌だったら答えなくていいんだけどさ。先代ってどんな人だったの?」

 

「……」

 

「あー、ごめん。不謹慎だよね」

 

「いや違うの‼ただ」

 

「ただ?」

 

「お兄ちゃんの事を…話せるのが…うれしくて」

 僕にそう話す杏理は嬉しさと怒りと絶望が混ざり合ったような表情を浮かべていた。

 ……僕は馬鹿だ。

 まだ、会って2日しかたたないのに杏理が一番辛いことを聞いてしまったのだ。

 僕にも辛い過去はたくさんある。もしも会って間もない人にその部分について聞かれたら僕だったらいい気にはならないだろう。

 だが杏理は後悔し始めた僕に優しい声で話してくる。

 

「お兄ちゃんが死んでしまったことについては気にしないでください。」

 杏理は苦しそうな僕を見て静かに微笑みながら

 

「……お兄ちゃんが死んだのは私のせいなんです」

 と、杏理は唇を噛みしめながら呟いた。

 

「杏理……のせい?」

 僕は訳が分からなくなる。

 

「うん。5年前に私たちは怪物に襲われたの」

 

「それは、杏理も僕と同じような目にあったってこと?」

 

「そうじゃなくて、怪物は…オリンポスに現れたの」

 

「オリンポス? でも、ここは怪物が来れないようになっているんじゃないのか?」

 

「うん。今は騎士団が必死に怪物を追い払っているから居ないの。でも5年前は今ほど戦力が居なくて」

 

「そうだったんだ」

 

「うん。その際にお兄ちゃんは私たちを守るために一生懸命戦ってくれたの。でも、気を休めたすきに怪物は町のほうまで来てしまったの」

 

「町まで‼」

 

「うん。その時に私は本当は家に隠れていけなければならないのに、心配のあまりお兄ちゃんのところに行っちゃったの」

 

「……それで?」

 

「その時に私は怪物に殺されそうになって、その時にお兄ちゃんは自らの命を犠牲にして、究極元素という禁断の技を発動させて技の後遺症で死んでしまったの」

 

「だから……私の……せいなの。お兄ちゃんが死んでしまったのは」

 そこまで話したところで、杏理は昔のことを思い出してしまったのかその場に蹲り泣き始める。

 ……俺は……何をしているのだろう。

 軽い気持ちで聞いてしまったがために杏理を苦しめてしまったのだ。

 なんとかしないと。

 

「杏理」

 杏理はもう俺の声が聞こえていないのか俯いたままだ。

 

「くっ」

 何か俺に出来ることは無いのか。

 考えろ。

 俺は杏理に助けてもらった。

 結果的には怪物を殺したのは俺だが。

 それでもなお、やってのけることが出来たのは杏理のおかげだ。

 だから杏理の為なら俺は……

 俺は意を決して言う。

 

「杏理‼俺は死なない」

 色々考えたがやはり一番最初に思いついたことを杏理に向けて言う。

 

「杏理、俺は杏理の側にずっといる。例え怪物が目の前に現れようと。」

 

「えっ?」

 杏理はいきなり叫んだ僕を不思議そうな顔で見てくる。

 

「杏理は俺が守る。俺は、杏理の騎士になる。」

 

「……騎士?」

 

「ああ。そうだ。この国には騎士団が居るのかもしれないけど、それでも杏理は俺が助ける。だから泣かないでくれ」

 

「兄の代わりには到底なれないけどそれでも、俺は杏理を助けたい」

 

「なんで……」

 

「だって、俺たち友達だろ」

 

「とも…だち…」

 

「ああ。友達ってのはそういうものなんだよ」

 

「…あり…がとう。しゅん」

 そう言う杏理の目には涙の跡はあれども涙は無かった。 

 どうやら、杏理を救うことが出来たのかもしれない。

 

「杏理。今日はもう帰ろう」

 

「えっ。でもまだ案内するところはまだ」

 

「疲れたでしょ」

 

「疲れてなんか」

 

「嘘はダメだよ。その証拠にさっきから杏理ずっとふらふらしてるよ」

 

「……やっぱり、しゅんは、・・・・・」

 

「え?なんか今言った?風の音がうるさくて聞こえなかったんだけど」

 

「何でもないです♪」

 

「?」



 そう言う杏理の顔は今日で一番の笑顔だったが疲れている俺は気づかず、そして杏理も自分の気持ちに気づいていないのか、二人は長い長い道をゆっくりと歩いていた。

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