ゲームの世界に行ったら散々だ!!
やってしまった……
ま、まぁ。酔っぱらいが絡んできたと思って適当にあしらってください。
そんな小説です///
あれ?
なんだか知らないしうまく説明も出来ないけれど、
あれやこれやでギャルゲに転生するはずだったのに、何故か俺は乙女ゲーの世界に。
しかもなんかおかしくないか?
俺は男のまんまなんですけどぉおおお!?
これはまさかのblゲーム?
……
よし、逃げよう。全速力で。
こうなれば女だったら誰でもいい!!
妹でもいいと思ったら、こいつも男かよ!!
どーなってんだよこの世界!
で、でも唯一女をみつけたんだ。
それに賭けよう。そしたら抜けられるかもしれない!!
《キーンコーンカーンコーン》
授業が終った。今日も何事もなく。平和って素晴らしい。
よし。このまま何も無く逃げよう。
俺はカバンの中にそそくさと荷物を詰め込む。いらないことをしたら変なフラグが立つので慎重に、慎重に。
何?
この緊張感に満ちた学園生活。
「お? 今帰りか? 光。一緒に帰ろうぜ!」
攻略ナンバー1『市川 真夕』女みたいな名前だが、男だ。くっ。ムカつく。顔も女みたいだが、胸無いんだ。細いけど。しかも俺より身長が高いと来た。
はい、無理だその時点でありえない。
目が大きく、可愛らしいイケメンは俺に白い歯を見せて笑いかけている。俺はそれを無視するようにして立った。
「いやーー用事があるし」
「いーじゃんイコーよ~幼馴染だろ?」
どうやらそう言うことになっているらしい。知らないが。
「いやだ」
「おれ、こんなに光のコト好きなのに?」
カラカラと笑いいともたやすく吐かれるその言葉。俺は固まってしまった。
ここで何か言えば全力でフラグが立ちそうだ。きっと。
ぐっと我慢して
「……帰る」
とだけ言い、その場を足早に去った。最近付き合い悪いぞと言う言葉を背に受けながら。
……
とにかくだ。
うん。さっさとあの女探さないと。攻略されてしまう。まずい。俺はうろうと廊下を探す。
何処だ?
確かに見たんだけど!!
モブだから紛れるのか?
と言うよりこの学校共学なのに女はあれしかいないんですけど?
おい、いったいどんなゲームなんだよ?
「よう、高屋!」
考えながら歩いていると攻略対象2『春崎 隼人』だ。保健医という怪しげな教師だ。なんだかいつもながらつやつやして気持ち悪い。
三十代の何処から色気が出ているのだろう?ただのエロオヤジだ。
二人きりにはならないでおこう。絶対に。
相変わらずの髭面イケメンは廊下でタバコをふかしながら歩いてくる。教育委員会は……来ないか。
「帰るのか? 一人か? 送ってやろうか?」
タバコの煙を生徒にかけるな!俺は不快そうな顔でそれを払った。春崎は面白そうに肩を揺らしている。
「いや、いいです。何されるか分かんないし。そんな事よりーーせんせい水野見ませんでした?」
たしか、あの女の名前『水野 由香里』だった。
ん?
なんで知ってんだ? 俺?
「そんな生徒いたか? この学校の女だったら全て知ってるけど」
女いんのか? この世界。いたとしても『食って』そうだなこの男は。男も女も見境ない感じた。
考えていると肩をガッツリ掴まれた。にっこりと覗き込む髭面イケメン。
逃さない。そう言っているようで怖い。
「そう言えば。高屋。丁度保健室がーー」
「!!」
思いっきり振り払うとダッシュで逃げた。
運動場。ここまで来たら追いかけては来ないだろう。っか、おれなにもしてないのにどうしてモテてんだよ?仕様なの?仕様?
と、後に気配を感じて振り向くとそこには攻略対象3『上林 正人』が立っていた。
眼鏡の落ち着いた男で生徒会長だ。う。何となく一番まともそうだ。なんかグラッとする。その爽やかな笑顔に。
……ん?
「大丈夫ですか? 顔色が悪いですが」
ヤバイ。染まりつつあるじゃねぇか!! 俺!
新しい門は絶対に叩かない!
……っか怒涛だな今日。なんでいろいろな奴に捕まんだよ。俺が頭を抱えていると怪訝な顔をして正人は俺を見ていた。
「あ、いや。ありがとう、大丈夫だから」
「そうです?」
彼は肩を竦めて立ち去った。よかったまともに去ってくれて。俺は息をついて正門を見ると可愛らしい少女が立っていた。
……いや、あれは。弟だ。なぜかスカート穿いてるが。
攻略対象4『高屋 海』ーーなんで、これまで攻略対象?いやこの際女だったら攻略しようとした俺が言うのも何だけど。
……ゴメンナサイ
「に~ちゃん!!」
猫なで声で弟は小さな身体を俺の体に埋めた。嬉しそうに。悪くはない。俺今まで一人っ子だったから。こういうのは嬉し……。
「キスしようとするの止めろよ。クソガキ。そして変態」
ギリギリと近付いてくる可愛い顔を俺は押さえつけると弟は不満そうに俺を見た。
感慨を返せ。
「良いじゃん。男同士なんだし。減るわけじゃないよ?」
いやいやいや、心が磨り減るから!! 俺の! で何?その言葉遣い。半眼で見ると弟はニッコリとした。
「何かを棄てれば心が軽くなるよ?」
「重いままで結構! ーーてか、何のようだ?」
言うと弟は口を尖らせた。まるで小動物だ。可愛い。不覚にもそう思う。
「え~。用がないと来ちゃ行けないのかよ?」
「ないな。むしろ来んな」
「ち。分かったよーーせっかく兄ちゃんが大好きな親戚のおじさんが来てるって伝えに来たのに」
なんだと?
俺は固まってしまった。攻略対象5『高屋 宇宙』喫茶店経営のダンディなオッサンだ。なぜか俺のことを溺愛してこないだなんか監禁されそうになった。しかもなぜかいつも手錠など持参してやがる。俺を拘束する為だけに。さっきの教師より質が悪い。
わるいが早く捕まればいいのに。
が、とにかくヤバイ。怖っ。俺は右回りを直線的にした。
「……そ、そうか。う、俺は今日学校に泊まると伝えといてくれないか」
「そうは行かないよお」
弟は困った顔で言う。その後、だってーーと付け加えると校門柱の影から中年の男がニヤリと笑いながら出てきた。ええとききたいのだが、手に持っているものはロープが何か?
「買収されたな? この野郎」
「だってぼくで試すとか言うんだもの、なら兄ちゃんを見てる方がいいかなって」
笑顔。俺は舌打ち一つするとまるで運動会の時のように綺麗なフォームで駆け出した。だが。
耳に届くのは空を裂く音。刹那叩きつけるような音が耳元で響いた。
まじか。マジでか。なに、そのーーゲームなら何でも有りなのかよ?お巡りさん。助けて。
カタカタと震えながら俺は音の先を見つめた。
鞭だ。鞭。叩きつけた地面は埃が舞っている。その向こうで笑っている男はその双眸に変な輝きを浮かべている。
「さぁ!! 私と巡り巡く世界に行こう! 光くん!!」
クッ、クッ。と喉を鳴らした。や、ヤられる。いろんな意味で。なんのプレイをする気なんだ?
ザリっと地面を擦るように近づく男に俺は身動き一つ取れない。ジワリと浮かぶ汗。カタカタと震える手。
その時だったーー。柔らかな温もりが俺の掌を引っ掴み身体をむりやりにでも移動させた。
「え?」
ヒラリとスカートが翻る。久しぶりに見た細い身体。耳元で纏めた黒い髪が踊った。
「女!?」
「まっ!!」
直感する。これは『水野 由香里』なのだ。と。今までとこにいたのだろう。とにかく彼女は俺を掠め取るようにして危ない奴から引き離していく。ご自慢の鞭を振るう間もなくだ。
……
「大丈夫?」
校舎の裏。掴んでいた俺の手を離すと仰ぐように空を見て息を付いた。ーー疲れた。一つ呟いて。ペタンと地べたに座る。
「あ、ありがとう。ーーええと、水野」
少女は顔を上げた。ソバカスだらけの小柄な少女。決して美人というわけでもないのだが、どうしてだろう。何かを思う前に心臓が反応する。
ただそれに合わせるようにして彼女は微かに困ったような顔を浮かべた。
「やっぱりーー覚えてないか。まぁ、いいや、帰ろうよ。光。迎えに来た」
「え? 帰る」
なぜ、彼女は俺の名前を知っているのだろう。彼女が発した言葉よりもそちらが気になった。
「ーーうん。元の世界に。帰りたくない? 私がいる事でこの世界のゲームバランスおかしくなってるし。崩れるよーーつまり消えるんだけど、このままじゃ精神飲まれるよ?」
俺って転生したわけではないの?この世界に。目をぱちぱちしていると水野は何かに気づいた表情で俺を見る。その顔は若干強張るというよりは泣きそうなものに代わっていた。
「な? もしかしてーー好きなのここ? まっ、まさ、か。もうエンドを迎えた、とか」
ーー考えただけでも恐ろしい。突き進んだらどうなるかは興味あったが。俺は勢い良く頭を左右に振った。
「そ、そうなの?」
息をつく。
「でも、戻るって?」
もうなんでもいいや。この世界から逃げたい。生まれ変わって無くて心底ホッとした。
「光は、この世界に精神飲まれて入るだけだから。すぐ帰れるわーー全て夢だったって思えるわ。目覚めが悪いけど」
よいっしょと立つと彼女は俺に小さな手を差し出した。なんとなく可愛い。
「ありがとう、水野も向こうに居るんだろ?」
どうしてか少しの間のあと、彼女は『ええ』と笑った。
「さあ、導くわ。手を取ってね。離さないでーー」
絶対に。
そう言う彼女の顔は何故か哀しげに見えた。
《カタン》
ーー何かが落ちる音で俺は目を覚ました。気づけば薄暗い部屋。カーテンは閉め切ってある。どうやらネットゲームをしていて寝落ちしたらしい。画面は自動にログアウトされていた。
何一つ変わらない俺の部屋だ。なんだか、酷い夢を見た気がした。肩が酷く重い。
足元には一枚の記憶メディアが転がっている。これが落ちたのだろう。しかしーー俺は拾い上げると顔をしかめた。
こんなギャルゲもってたか?
しかもなんだか破損してるし。動かねぇな。と呟いてゴミ箱に投げ捨てる。
ガタンと見事にゴミ箱に入ったそれに俺は気を良くしたが、ふと脳裏に『水野』と言う名前が浮かんだ。
ーー誰だよ。それ。
ため息一つ。俺はカタカタとパソコンを操作してメールを開くと二件の見慣れないメールが届いていた。
『水野 由香里』その名前にドクンと心臓が反応する。見覚えのない笑顔が浮かんでは消えた。
おれ、変になったのかと不安を抱えながらメールに目を通す。
『突然ゴメンナサイ。私のこと覚えてますか?中学の時一緒だったーーて、言っても覚えてないよね』
『でも、昔ね、光くんは私に傘を貸してくれてーーお礼を言ってなかったし、返してもなかったからこうしてメールをしてしまいました』
『本当は、返したかったしお礼もいいたかったんですが、実はあの後入院をしてーー』
『今では動けなくなったのでメールでごめんなさい。元気になったらと思ったんだけど、忘れそうだったので』
『もう一度言います。ありがとうございます、光くん、とても嬉しい、記憶でした』
そこでメールは終わっていた。過去形に、嫌な予感がして震える手で次のメールを開く。
アドレスは同じだ。
『娘、水野 由香里はこの度他界致しましたーー数々のご好意を御礼申し上げます。ーーつきましてはーー』
俺はこの女を何一つ知らない。そう言えば中学の時体を壊して入院をしている奴がいるとは聞いたことがあったけれど。
知らない。傘も貸したことなど覚えていない。ーーだけどどうしてこんなにも悲しいのだろう。こんなにも。あの笑顔が蘇るのだろう。そばかすだらけのあどけない笑顔。
嗚咽とともに涙が溢れた。
ーーお礼言わなければいけないのは俺の方なのに。
「水野ーーごめん。おまえ、俺を助けてくれたんだな?」
何があったのかは綺麗に忘れてしまっているけれど。そんな事はどうでもいい。大切なことは彼女が俺を助けてくれたことだ。もしかしたら助ける為にあそこにいたのかもしれない。
ーー死んだのは俺のせいかも。心臓が痙攣するようだ。
と、ふとメールが新しく届いた。アドレスーーは俺だ。俺が俺宛に送ったらしい。全く記憶がないのだが。
『俺はどうやら帰ってきたようだ。って、こんな恐ろしい、ゲーム二度と。するか! ーーてか、それも忘れかけてるので記録を俺に残す。俺は変なゲームの中で襲われかけてた。で水野が助けてくれたーーそれはいい。おい、おれ。水野の事だけは死ぬ気で思い出せ! アイツがいなければ俺はどうなっていたか。ーーそれに分かるだろう? とにかくヨロシクな!』
俺が俺に送るのはなんだか、変な感じがした。送信は俺が起きる前くらいだろうか?
「……よろしくって言われても」
俺はぼんやりと呟いた。もうこの世に居ない人間に何をどうやって伝えればいいのだろう。
『離さないで』
温かな温もりが手に残っている気がした。ふと掌を見るとそこには油性マジックでーー傘が描いてある。拙い絵。でもその横には『元気で!!』と添えられていた。どうやって。いつ書いたのか、彼女の字だ。そう思う。
悲しまないで欲しい。どうしてかそう言われている気がした。
ぐっと拳を握りしめたあとで、俺は窓に掛けられたカーテンを開ける。いつの間に朝になっていたのだろうか。太陽の光が俺の目を眩ませる。
そして俺は部屋から出ていた。もう、随分と出ることのなかった世界から。一歩を踏み出していた。