招き猫
「灼熱苦行~本日晴天一切無情~腹減腹減・・・」
店の前に托鉢僧が現れた。
どうにも胡散臭いが、あまり素気なくもできない。
50円ばかり喜捨すると手を合わせ、帰っていった。
「今日はまだましね」と妻が苦笑する。
そういえばこの処、宗教関係者が毎日訪れる。
昨日は“ゴルゴダの求道者”と名乗る女性が現れて「終末が近いので早く改宗するように」と言いながら独自の解釈本を売りつけにきた。
21世紀に入って次々と旧約聖書に書かれていたことが事実だと分かってきたのだと言う。
あまりにも説得力があったので思わず本を買ってしまうところだったのを、妻が追い出してくれた。
「あれは昔ユダヤ人がバビロニアのネブカドネザル2世にバビロンの捕囚として連れて行かれた時、その地にあった歴史書“ギルガメッシュ”を読んだことで、それが旧約聖書に記述されているのよ」
そう言って妻は笑った。
その前日は“仏の豪力”とかいう、先日旗揚げしたばかりの宗教団体員がやってきて、早口でまくし立てながら「末法の世で唯一、真理を語る教祖様にすべてを委ねるべし」と言い放った。
すべてを任せた結果が目の前にいるこの人であれば、入りたくないなあと思ったが、これも仏教に関しては某新聞社が出した“お経大全”で、初期の“ビナヤピタカ”から後期の“法華経”まで読破した妻が矛盾を指摘し、追い出した。
3日前はスキンヘッドの外国人。
なんでもインドの本部で修行したとかで英語を交えながら血走った目で教義を唱え、こちらが辟易しながら小冊子を受け取ると、その分のお金を要求して来た為、妻が箒で履き出した。
毎日一人、一団体、呼んでもいないのに現れる。
「どうせならいっぺんに来て、表で論争大会でもしてくれればいいのに」ぼやくと、妻から「ただでさえお客さんが少ないのに、そんなことされたら大迷惑でしょ」と怒られた。
そう、このごろ商店街にやってくるお客さんがめっきり減ったのだ。
新聞やテレビでは景気が良くなり失業率が下がっただの株価が上がって高級品が売れ出しただのと言っているが、少なくとも庶民の町までは波及していない。
そのことを息子に電話で話したら、「それなら、招き猫でも置けばいいよ」言って数日前、変わった色のまねき猫を送り届けてきた。
息子の話では「肌色の招き猫は強力な集客効果がある」ということだったが・・・、
「集まってくるのはおかしな宗教団体の信者さんだけね」と、妻が溜息をついた。
それにしても肌色の招き猫とは珍しい。
そこで息子の言うことが本当なのかどうかインターネットで調べてみると、これはカツオシというデザイナーが創りだした「聖者を家に招き、繁栄をもたらす」という大人気グッズとわかった。
「聖者? あれが?」
妻がいぶかしがっているので念のため招き猫の裏をよく見ると、100円ショップで売られている某国製のニセモノで、その名も“招きムジナ”とあるではないか。
なるほど、ニセモノの“招きムジナ”が呼ぶ聖者もやっぱりニセモノだったのだ。
( おしまい )




