表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈るということ  作者: 吾井 植緒
神殿編
6/47

勤めというもの

業務は朝のお祈りだけ、簡単なお仕事です。

わたしが目を覚まして思ったこと。


あの声が無くとも目覚める事ができるのだということ。


時間です、と60秒キッカリまで繰り返すあの声はもう二度と聞く事はできない。


ああ、さらば。時間です、お姉さん。


神様が携帯電話の持ち込みを禁じたので仕方が無い。

わたしは携帯のアラーム音を目覚ましにしていたのだ。

勝手に時間ですお姉さんと名付けていたのは、すでにどうでもいい思い出である。


すっきり目覚めることができたわたしは昨夜は入れなかった風呂に入ろうとバスルームへ向かった。

トイレと風呂が別なのは素晴らしい。

大理石みたいに高そうな石が使われた浴槽は結構広い。

わたしはもちろん裸足なので、薔薇を踏みしめながら浴室へと入る。

もちろん装備という名の『神の衣』は外してある。


朝の祈りと言うと、やはりその前にするのは禊ではないか。

なんとなくピンと来たので初日の業務と言う事もあり、わたしは少しばかり殊勝な気持ちで水のシャワーを浴びてみようと思ったが冷たい水がちょっと跳ねただけで、すぐにお湯に切り替えた。

わたしはミコ様なので、別に聖職者のようにマゾくなくてもいいはずである。

浴槽にお湯を溜めて裸足で入ったら、本気になれば海を渡れる最強の裸足はどうなるのかを思いながらシャワーを済ます。

わたしは楽しみは後に取っておく方である。浮いたらどうしようとビビったわけではない。

シャンプーやらボディーソープのようなモノがあったのは幸いだ。泡立ちも向こうと大差なくいい匂いである。

オシャレな陶器っぽい容器に入っていた。この状態で売っているのだろうか。

そういえばシャワーもあるし、トイレも水洗のようだったが仕組みはどうなっているのだろう。

気にはなるが、追求するほどではない。

わたしは現状に甘んじるタイプなので、あれやこれや突っ込んだりしないのだ。


脱衣所の棚に置かれていたタオルはふかふかである。

ちなみにパンツは一枚しかないので、風呂で洗った。

シャワーヘッドに引っ掛けてきたパンツについては、夜には乾いているだろうと思う。

神様曰くこの部屋にはミコの許可がなければ誰も入れない筈なので、どこに干そうとわたしの勝手である。

貴重なパンツは大事にしなくては。

まあ、今日は不本意ながらノーパンにて過ごすという事になるがパンツは普通のパンツなので洗わないといけないのだ。

あとは絶対に捲れないという『神の衣』効果を信じるしかない。

わたしは貢物がもらえるなら、パンツを所望しようと心に誓った。

ちなみに髪は、『神の衣』を装備したら綺麗に乾いた。便利な装備である。


ライが中庭に出たそうなので、窓を開けてやる。

中庭はガラスドームのようになっているので、外に出て迷子になる心配はない。

中庭も部屋同様侵入できないようになっている。しかも神様がライとユキに加護とやらを与えてるので、害される心配はない。

寝室を覗くとユキが腹を出して鼻をブヒブヒ言わせていた。

愛らしい子猫的見た目に反して、ユキはよく不可思議な音を発するのだ。

わたしには妹がいるのだが、ヤツはユキの鳴き声を聞いてからアレは猫ではないと言い出した。

真面目な顔で、ユキは宇宙ネコだと言い出した時には近所で神童と言われた妹もハタチ過ぎればただのアホなのだと安心したものだ。

その後冗談だと言われたのだが、それすらも真顔なのだから我々姉妹は表情筋に問題があるのかもしれない。

そういえば、ヤツは通勤中に電車からキャトルミューティレーションにあって戻ってこないのだが何があっても動じない妹ならば、今頃本物の宇宙ネコに遭遇しているのかもしれないなと思った。


なんとなく、しんみりした気分でわたしは部屋の扉を開けた。

視界の端にピンクが見えて、扉を閉める。


ゆっくりと扉を開ける。


目の前にピンクの髪色をしたマッチョが跪いていた。


「おはようございます、ミコ様。」


マッチョが俯いたまま挨拶してきた。低くて太い声はマッチョに相応しいといえる。


(おはよう、ございます)


「おはよう」


わたしは自分からはしないが、された挨拶にはキチンと返す派である。

反射的に返すとミコ語の威厳たっぷりの声にビビッたのか、マッチョの肩がピクっとした。

マッチョは鎧を着ているので、ガチャっとしたの方が正しい。

しかし、ピンクの髪の毛のマッチョである。

わたしの勝手なイメージではマッチョの二次元的な髪色と言えば、赤やオレンジといった明るい色である。ピンクはおねぇキャラかチャラいとかちょいエロいキャラとか、そういったキャラが纏う筈。

それとも目の前の彼はそういったキャラなのだろうか。


おねぇ言葉を話すマッチョを妄想していたわたしに彼は自分が騎士団長だと名乗った。

名前は洋風で長いので一度には覚えられない。

とりあえずわたしは彼を団長と呼ぶことにした。

偉いミコ様は下々の名前を覚えなくても怒られたりしないはずである。


(団長、わたしは仕事に行かないといけないので失礼します)


「わたしは勤めに向かう。」


「はっ!」


扉を閉めて、昨夜降臨した神の間へ歩きだすとなぜか団長が付いてきた。

特に話しかけてもこないし、もしかしたら向かう方向が一緒なのかもしれない。

後ろをチラリと見ると、付かず離れずの距離にいる団長。

神官たちのボスもでかかったが、団長は筋肉の分迫力があって更にでかく見える。

鎧を着ているのに、ガチョガチョした音は聞えてこない。

仕組みが気になるが、尋ねる程でもないので先を急ぐ事にした。


神の間へと向かう階段には、そこかしこに窓がある。

わたしは建築に詳しくないのだがこれは塔なんじゃないかと思った。とにかく神殿から長い螺旋階段を経て神の間のフロアに上がる構造である。

途中階段の窓から見える空は雲に覆われ、わずかに明るい事から今は昼間である事がわかる。

わたしは体力に自信がない方なのだが、『神の衣』のせいなのか長い階段でも息は切れない。

団長も涼しい顔で付いてくる。

なんで付いてくるのか不思議だったわたしも偉いミコ様なら護衛が付くのが当たり前と言う事に気付いたので、胸を張って前を歩く。

神の間があるフロアに付くと団長は階段を塞ぐように立ち止まった。

どうやら護衛というのは間違っていなかったようだ。

わたしは神の間へと行く為に、扉の中心の薔薇へと手を伸ばした。



祈りとは心を無にすることである。


神様がそう告げると、わたしの意識は無になった。



神様はわたしの漠然とした幸せになりたいという想いを元に世界が幸せになるよう力を振るう。

多少わたしの状態や願望が反映されることもあるらしい。

初回と言う事で気合の入っていたわたしと神様によって、その日の結果は凄い事になってしまった。


神殿の神の間がある塔の先端より放たれた光により、常に空を覆っていた曇は払われ太陽が姿を現した。そして、世界各地に神の花である薔薇の花びらが振ったらしい。


しかもその花びらは朝食抜きだったわたしのせいなのか、飴へと変わり人々の飢えを満たしたという。


平等に一人一個。

譲渡、売買禁止の神様の呪い付きである。


初回にしては凄い効果ではないかと思ったわたしに

目立ちたくないと言いつつ、チヤホヤされたいお前の願望が出たなと神様はニヤリと笑った。

そのような願望に心当たりのないわたしとしては不本意である。

やっと力を行使できた神様のせいで派手な結果となってしまったので、無になった状態で抑え目に結果を出すのはどうしたらよいのか考えなくてはいけない事になるとは本当に不本意な事である。決して、図星を差されたせいではない。



ミコ様は内心でも正直な気持ちを吐露したりしなかったりします。

妹が行方不明中なのにあっさりしてるように見えますが、別に冷たいとか仲が悪いという訳ではありません。そういう弱い部分を見られないように、常に外面でも内面でも何かに対して取り繕うのがミコ様の性格です。


『時間ですお姉さん』とは携帯に入っていたアラーム音にミコ様がつけた名前です。女性の声で「時間です」と言うので『時間ですお姉さん』安直なネーミングなミコ様です。機種によって違うかもしれませんが、最初から入っているデータなので思い当たる方は聞いてみてください。60秒はミコ様が目覚ましとして設定していた鳴らす時間になります。


次回は下僕と言う名の神官達と戯れるミコ様の予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ