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祈るということ  作者: 吾井 植緒
神殿編
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降臨について  ある神官の呟き

ミコ様の異世界降臨を出迎えた神官視点。

軽い部分がありますが、広い心で読んでいただけると助かります。

世界の中心と呼ばれる島。

その島の神殿の最上階には神の間がある。


否、神の間と呼ばれる薄紅色の扉がある。

塔のように細長く造られた最上階の壁にその扉はある。

つまり扉の先に部屋は存在しないのだが、神の間があるのだと言い伝えられている。

誰も開く事ができないその扉はノブも蝶番も付いておらず、神のみが開く事ができるのだと言う。


 ※ ※ ※


深夜、この最上階には灯りがない。

神殿騎士達が灯した蝋燭の炎は窓がないフロアを揺るぐ事なく照らしている。

我々は皆同じように興奮を隠しきれない顔をしている事だろう。


なぜなら、今まで音信不通だった創世神より夢つげがあったのだ!


ここ数年の天変地異で神はこの世界を見捨てたのではないかと言われ始めていた。恐ろしい事に、居もしない神を作り上げる新興宗教とやらまで出る始末である。それでも、我々上級神官は信じていた。

たとえ中々神官の祈りに応えをくれない創世神であったとしても、神は世界を見捨てなどしないと!

それを支えに、我々は毎日毎日経費だのなんだのという俗世に塗れた書類仕事に追われていたのだ。

基本お布施で運営される神殿は、明朗会計がモットーだ。不明瞭な部分があっては誰も寄付をしてくれない。ただでさえ、神の存在が危ぶまれる昨今。我々幹部神官は率先して、清貧に努め、汚職を廃し、神に必死に祈る毎日を送っていた。


書類仕事中に私は見たのだ。仕事中にうつらうつらするなど上級神官にあってはならない事ではあるが、神からの夢つげなので仕方がない。

それにしても素晴らしい夢つげであった。

何代目かの大神官猊下が作った客室からガラス張りのドームになっている中庭に抜けると咲き誇る神の花!

(正直なんの目的で作られたのか分からない開かずの部屋だ。大神官は私欲で資金を使えないし、結局誰も住まずに放置されている。)

そして、神の間から現れた高貴な存在。

(夢つげを幹部神官たちで協議した結果、光が眩しくて何だかわからなかったがきっと高貴な存在だろうという事になった。)


カミングスーン。神の囁きが聞えて目が覚めた。

部屋から慌てて出ると、同じように同僚幹部たちがワラワラと部屋を出てくる。

言葉は要らなかった。

目線だけで確かめ合った我々は大神官猊下の部屋まで向かった。


そうして神殿騎士を伴い、大神官猊下を筆頭に我々は神の間の前にいる。

今か今かと、大きな一輪の薔薇があしらわれている扉が開くのを待っている。


ギ、ギィーッ


音がして、ビクリと隣の同僚の肩が震えるのを感じた。

なんと!蝶番が無くとも、神の力さえあれば扉は開くのだ。ゆっくりと薔薇が中心から割れるように開いていく。ずっと1枚の扉だと言い伝えられていたが、実は2枚の扉だったようだ。


無信心者に言わせれば、扉の向こうには深夜であっても曇天の空が見えるはずだった。


だが、淡い光が割れた薔薇から漏れていた。

神々しさに皆息をのんでいたが、気の早い隣の同僚は感激で涙と鼻水が垂れ流しになっていた。扉の間から見えたのは、まさしく神の間だった。人、一人分開いた両扉の奥に見慣れた曇天の空はない。光の中に薄紅色の花びらが舞っていた。


長いように感じた神の奇跡が終った。

感動と少し残念そうな溜息が皆から漏れていた。

ああ、もう閉じてしまうのかと。


だが扉の前に、未だ神の奇跡はあった。ゆったりとした白い服を着た者がいたのだ。きっと夢告げの高貴な存在に違いない。ミコ様が降臨なされたのだ!

我々の興奮は最高潮に達していた。幹部神官としては冷静態度を崩せないが、少なからず興奮していた私は隣で同僚が小さくガッツポーズをするのを見逃してあげた。


ミコ様は服の胸辺りにある膨らみから恐らく女性かと思われた。

耳の下あたりで無造作に揺れる黒髪に長めの前髪から覗く黒い瞳は半分閉じられている。

青白い肌に薄紅の唇は笑みもなく、その半分閉じられた瞳と無表情からか人間味が感じられない。


ミコ様が足を踏み出そうと前に出したのを見て、裸足だという事に気付いた。

常に磨かれているとは言え、普段土足の床に神の使者の足が直に触れるのはマズイ。

そう思った時には薄紅色の花びらがミコ様の裸足を包んでいた。

神の花をその足に踏みつけるなど、神に許された存在でしかない。

それほど神に愛された花なのだ。


一歩、一歩。ミコ様が歩くとその足元は花びらが包み、進んだ後はすぐに消えていく。

なんと神々しいお姿か。


気がつけば、ミコ様は大神官猊下の前まで来ていた。

実は私は大神官猊下の斜め後ろにいたのでミコ様が神の花の香りを纏っているのに気付き、その甘い香りにうっとりしていた。隣で同僚が


「ミコ様にこちらまで歩かせるなんて、いいのか。」


と呟かれてるまでは。


「いや、よくないだろ。相手はこちらより上の存在だよ?例え数歩の距離でもこっちが迎えにいかないとマズイに決まってる。」


青ざめた私が囁き返すと別の同僚がのんきに会話に参加してきた。


「いや、ミコ様ほどの方なら寛大な心で許してくれるんじゃないの?」

「そうだな。体は小さいが、器まで小さいミコ様ではありますまい。」

「とりあえず怒ってたら全力で謝ろう。」


後ろで我々がコソコソとそんなやりとりをしている中、ミコ様に見上げられていた大神官猊下が尋ねた。


「ミコ様、であらせられますか?」


若いが普段冷静なやり手の猊下も神の奇跡で動転しているようだった。ミコ様へ尋ねた声は恐る恐るといった様子で、いつもの張りが感じられなかった。

だが無表情のまま見上げるミコ様は応えない。しかもミコ様には聖職者でも多少は纏う神気が感じられなかった。本当にこれが神の使者なのだろうか、と我々に疑念がよぎった瞬間だった。

ミコ様の半分に閉じられていた瞳が開かれたのは。


神気だった。

目に見えずとも、感じる力は聖なるものであってもその神気は圧倒的であった。これはまさしく神の領域。害はない力であったが、その迫力を眼前にした大神官猊下は膝をついていた。

我々はもちろんミコ様に全力での謝罪の意を込めて、地に伏していた。


「誰だよ、ミコ様を疑ったヤツ!」

「ミコ様は普段神気を隠しているのか。奥ゆかしいお方だ。」

「私はミコ様を疑ったりしてません。神に誓って。」


同僚たちの囁きがミコ様の耳に届かないように私は神に祈っていた。


「ミコ様、お許しください。どうか気を静めてくださいませぬか!」


神気を発したまま無言で佇む使者を見上げ、意を決した大神官が声をかける。するとその声が届いたのか。瞳が再び半分に閉じられ、緩む神気に我々はホッと息をついた。私としては同僚の声が届かなかった事にもホッと息をついた。


夢つげにあった客室は、人が住める状態に整えてある。大神官猊下もそこへミコ様を案内しようと立ち上がったのだが、その前をミコ様は素通りした。


「よい。話は明日聞く。」


ミコ様は女性にしては低く、男性にしては高い威厳のある声をしていた。

先ほどの神気は疑り深い我々への牽制だったのだろう。

怒らせたら、ヤバイ。

創世神に通じるものを感じて、ミコ様への敬意が一層上がる。


ミコ様が足を止められ、白い小さい獣の方を抱き上げた。そういえばミコ様に注目しすぎて忘れていたが、ミコ様は茶と白の神獣らしき獣を連れていた。

茶の神獣が尻尾をゆらりと揺らした。再び、階段へと進みだしたミコ様とそれに続いた茶の神獣を見送ってしまった我々は慌てて後を追った。


その白い足元に薄紅色の花びらが現れては消えるのを見ながら、ぞろぞろと我々は無言で続いた。明日話を聞いて頂けるとの事だったので、アレコレ質問したりして機嫌を損ねてはいけないと思ったのだ。


用意していた部屋は普段人が入れない複雑な場所にあるというのに、ミコ様は見知った道のりであるかのように進んだ。神殿で愚かな行為があるとは思えないが、この客室は守りに適した場所にある。もしかしたら何代目かの大神官猊下はコノ事を予見していたのかもしれない。ミコ様が迷うことなくたどり着いた部屋の扉に掛かっていた筈の鎖の鍵がなくなっていた。鎖を掛けた担当の同僚が青くなり首を横に振っている。しっかり南京錠までしていたらしい。


茶の神獣がミコ様の後に続き、更に続こうとした猊下の前でピシャリと扉は閉まった。


「ミ、ミコ様?」


突然閉まった扉の前で我々は戸惑った。明日話してくれるにしても、いきなり締め出す事はないだろうと思っていたのだ。思わずノブを回した大神官猊下が開かないのを見て、同僚は再び首を振る。


「こ、コノ部屋には内鍵もありません。」

「ミコ様!」


慌てて、皆で声を掛けるも返事がない。

何度も扉を叩いて、開けようともしたが力自慢の神殿騎士でもビクともしない。何か聞える気がすると騎士の一人が扉に耳をあてるのを見て、我々も扉に耳をあててみた。


「ビァ~。」


聞えたこの世の物とは思えない低い音に同僚がヒィッと声を上げる。

なんて恐ろしい泣き声だ。あの茶の神獣の威嚇だろうか。

それともミコ様を害す悪の存在の声が中にいるのか?

扉から離れてしまったがミコ様に何かあっては一大事だと、焦る我々の前で大神官猊下は声を張り上げた。


「ミ、ミコ様、扉を開けてください!!」


必死に声をかけ、すぐに扉に張り付いた大神官に続き、我々も再び扉に耳を当てる。先ほどの音はせず、中は静まりかえっている。

ミコ様は無事なのだろうかと、たとえ先ほどの音だろうと聞えないかと祈るような気持ちで耳を澄ます。


「何事だ、静まれ。」


ミコ様の声と何か吼え声のようなモノが聞えた。


「ミコ様、ご無事ですか?」

「先ほどの声は何ですか?恐ろしい声が。」


口々に尋ねる我々をミコ様が一喝した。


「静まれ。」


しゅんとなる我々に代わり、大神官猊下が謝罪する。


「申し訳ありません、ミコ様。しかしお姿を確認いたしませんと心配で・・・。」


「明日から勤めに入る。わたしに構うな。」


ミコ様はあまり構われるのは好まない方のようだ。

しかし明日から神の使者としてお勤めしていただけるとは!なんと勤勉なお方なのだろうと我々は再び感動に包まれた。


「かしこまりました。」


大神官猊下が答え、見えないだろうが恭しく扉へ礼をした。我々もそれに習う。


「おやすみなさい、ミコ様。」


空気が読めない同僚が掛けた声に、一瞬息をのんだが


「おやすみ。」


ミコ様から慈愛に満ち溢れた返事が聞えて、ようやく我々は肩の力を抜いた。とたんに夢つげの予兆にあったような眠気が襲ってきた。再び神からの夢つげを期待した我々はそれに逆らわなかった。

大神官猊下は神よりミコ様を煩わすなと夢つげがあったようだが、残念ながら我々には無かった。それでもいつになく安眠できた我々はとてもいい表情で朝の勤めに励んだ。



ミコ様の降臨について

後の文献に神官らは扉の前で朝まで神の使者への祈りを捧げていたと記されている。


ミコ様、目を見開いて光るどこじゃなかった模様。

神官たちは神様がやっと応えてくれたので、その使いのミコ様に対しては好意的でした。

あと幹部と言ってもガチガチな人はいないと言う事で。

ミコ様の視点で今後も進みますが、要所要所で神官たちの視点も出したいと思います。たぶん今後も神官たちはこの調子です。

後の文献ではどう誤魔化したかも表現していければと思っています。

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