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祈るということ  作者: 吾井 植緒
帝国編
44/47

後始末というもの

精鋭部隊な青竜隊がえっさほいさと敵を運んでいる。

じーっと見ていたら、隊長に


「ミコ様に流血を見せぬよう、刃を潰し骨を絶つ戦法にしておきました。」


といい笑顔で言われた。ああそう。肉を斬らずに骨を絶つですか。

忍者の持ってるKATANAと違って、西洋剣って叩き切るイメージだから分からなくもない。けど、そんな戦法、多分圧倒的に力の違いがあるから出来るんだろうな。流石精鋭部隊。


そんなこんなで残党を片付けている最中、わたしの周りにキラキラと光が現れた。

フォーメーションMとやらでわたしを囲んでいる騎士達が警戒する中、光は集まり透け透けな人物となった!そして透け透けな人物はわたしを見て頭を下げた。

剣に手をかけた蛇王が駆け寄ってくるが、それが猊下と気付くと何だと肩を竦めた。

デタラメな神力はワープも出来るのかと驚いたが、この透け方はまるで幽霊・・・。

幽霊は居ない派で、居ても人間の方が怖い派のわたしではあるが、一瞬猊下が化けて出てきたなんて考えてはいない。


「ミコ様、ご無事で何よりです。緊急な要件により神力で声と姿を飛ばしております。」


挨拶もそこそこに透けた猊下は話し始めた。


「とある国に渡ろうとしていた初代ミコを捕らえました。」


え?


「神殿に通報がありまして、国境で捕らえました。只今神殿に護送中であります。」


「それはまことですか。」


そんなあっさり?といったニュアンスでセイが言った。猊下はちょっとどや顔で頷いた。


「もう初代ミコ派は問題ありません。担ぐ頭が無い有象無象は早急に一掃されるでしょう。現在、初代ミコには団長が護送に付き添っております。」


「よかったね、ミコ様。もう心配ないよ!」


猊下の言葉にボクっ子が喜びの声を上げる。


「なんだ、もう終わったのか。もう一暴れくらいしたかったんだがな。」


蛇王が物騒な事を言った。


そうか。テロリストリーダーは逮捕されたのか。

あんだけ色々していた奴等にしてはちょっとあっさりした結末だと思わなくはないが、もう心配要らないとなれば喜びたくもなるというものだ。


「ただ、その国が非公式ではありますがミコ様との面談を希望しておりまして。」


「褒美代わりに聖人に会いたいってか・・・。」


苦い顔になった猊下の言葉に蛇王が言った。なるほど、そう言うことなら神殿は断れないわな。


「はい。それでその面談希望の代表者が実は既にコチラに向かっているのです。帝国とも国交があるとかで・・・それで、蛇王にも立会いをしていただけ無いかと。」


透け感ばっちりの猊下は蛇王に向かって頭を下げた。帝国と国交があるから国を渡ってこれるだろうけど、代表者ってことはそれなりに偉い人なんだろう。帝国も迎える準備が必要そうだ。


「とある国ってどこなんだ?」


突然の事ながら少し考えただけの蛇王はすぐに猊下に問いかけた。猊下はゆっくりと顔を上げて言った。


「・・・機械公国です。」


ああ、エレベーターの国ね。


 ※ ※ ※


猊下が消えた後、蛇王達は今後の対応があるということで我々は部屋に帰るように言われた。


「機械公国というのは、魔導科学の発達した国なので宗教とは一線を画してるんだよね。」


くのいち達に出迎えられ、一息ついた後。

とにかくはわたしに機械公国について説明が必要だろうという話になった。講師はもちろんボクっ子である。


「あのエレベーターもそうだけど、魔石を動力にした魔導科学製品を主な産業として大きくなった国だよ。帝国の南に位置する国土の狭い小さな国だけどね。」


魔導科学とは所謂地球の科学みたいなもんかな。技術立国、日本みたいなモンか。


「でもそんな国がミコ様に会いたいなんて、なんなんだろうね。ご褒美ならもっと別のモン要求しそうな国なのに。」


「わずかながら神殿と親交はありますが、支部をおかない国ですからね。その意図は読めません。」


警戒するに越した事はないと言うセイに赤髪騎士と騎士達は頷いた。

なんにせよ。わたしはテロリスト集団、初代ミコ派が壊滅した知らせにほっと胸をなでおろすのだった。


 ※ ※ ※


翌日、神様からあっさり終結してつまんないというボヤキを聞きながら祈りを済ましたわたしは早速着いたらしい、機械公国一行を蛇王達が出迎えたと聞いた。ホント早いな。

ちなみに祈りの結果は、内乱のあった国の和解締結というものだった。平和が一番ということだ。


「いくらなんでも早すぎませんか。まるで準備していたみたいに。」


セイの言葉にわたしは思い出した。あれか。海解禁の時の王国みたいなモンか。


「初代ミコ派に通じる振りして、神殿に通報か。なかなかやるな。」


赤髪騎士がニヤリと笑うと、その肩を忍者が突いた。


「感心してる場合か。警戒を怠るなよ。」


「わぁってるよ。」


騎士達は来る面談に気合十分のようだ。わたしはというと、そうでもない。

また知らない人に会わないといけないストレスを軽減しようと、ユキとライをなでるのに忙しいのである。


来て早々会いたいとか言われたら嫌だな、と思っていたらそんな事はなく暫く部屋には誰も来なかった。忍者部隊による探りで、一行は大人しく蛇王達の歓待を受けてるらしい。こんな時、隠密行動が出来る忍者部隊は役に立つ。


 ※


静々とオリエンタルメイドさんにより昼食が運ばれて来たので、わたしも黄金林檎を齧る事にする。

騎士達も慣れてきたのか、わたしが同席してもコソコソ食べる事を止めにしていた。


「他国に来ても毒見しなくていいから楽だよね。」


わたしを見て、そう言ったボクっ子の頭に忍者のゲンコツが落ちるのを見ながらモクモクと林檎を齧る。


そんな中、扉の外に居た騎士が蛇王の来訪を告げてきた。


「悪いな、食事中に。」


あまり悪いと思ってない、軽い口調で蛇王が言った。モグモグしながらわたしは頷く。


「どうかされましたか。」


しかしセイは、悪いと思うなら来るなよと言わんばかりに席を立った。


「今のトコは大人しくしてるが、奴がラフに会いたいとか言い出してな。どうお膳立てしようかと相談に来た。」


ラフに会いたいってなんだよ、と思っているとセイが口を開いた。


「奴?」


「機械公国の公子、つまり王子だ。奴が聖人に会いたいと言い張ってる張本人だった。今回の面談は非公式だから、あまり格式ばった会い方はしたくないんだそうな。」


「なんでまた・・・。」


そんな面倒な、と語尾を飲み込んだ顔をしたセイ。


「俺も数回会った事があるが、かなりの魔導科学馬鹿でな。そんな奴じゃなかったと思ったんだが。どうやら本当に聖人に会いたいらしい。とりあえず別の部屋で会うより、騎士も常駐してるしこの部屋を訪問させるという事でいいか?」


蛇王がコチラを見てそう言った。

わたしにしては珍しく、ウムと頷くかどうか慎重に考えてみようと思ったが、ボクっ子が即効オッケーを出してしまった。


「いいんじゃない。それで。」


「まあ、我々に囲まれていては迂闊な事もできないでしょうし。」


わたしは少しだけ、どんどん危険認定されている公子が気の毒に思えた。


「じゃあ、午後のお茶の時間に同席って事で。」


蛇王はニカッと笑うと帰って行った。


 ※ ※ ※


面談の時間となった。


「お茶菓子ないの?」


ノーブルな公子から紡がれた第一声はソレであった。



ラフに面談といいつつ、とりあえずは格式ばった挨拶があり。


「機械公国が公子です。」


長い名前があり。覚えられないと聞き流し。


「ミコ様に出会えて光栄です。」


口上があり。ウムと頷き。

お互いソファーに座り、そしてそれである。


「おい。」


「あ、そうだった。ミコ様は世俗のモノが食べれないんだったね。」


蛇王の低い声にテヘペロといった感じで公子が挨拶とは違うくだけた調子で言った。

公子の容姿は銀髪に紫の瞳。気品溢れるイケメンなお顔立ちである。ザ・王子と言った感じだ。

しかしその紫の瞳を見ると、同じ紫の瞳の爺を思い出す。しばらく会ってないが、爺は元気だろうか。


「これまでは普通に食べられたのに、毒を盛られた途端に食べられなくなるなんて面白い体質だよね。毒が効くってのも面白いけどさ。本当に食べられないの?それとも怖いだけ?」


そう言って優雅に笑った公子は、神様により体質を変えられて以来誰も突っ込まなかった事実に踏み込んできた。

そういえば神様には受け付けなくした、とされたが実際食べたらどうなるんだろう。


『吐くな。確実に。』


神様からのテレパシーは早かった。なるほど。


「で、どうなの。ミコ様。憐れな子羊に教えてよ。」


一ミリも憐れさのないいい笑顔の公子に部屋の温度が低くなる。みんながこれ以上言うなとブリザードな圧力をかけているが、公子は全然気にも留めない。


「おい、いい加減にしろよ。」


公子の隣に座っていた蛇王が更に低い声を出したが、そんなに怒るような話でもないのでこれには応えてやろうかと思った。


(食べられないですね。吐くそうです。)


「この身は神の意向によるもの。神が定めれば、受け付けん。」


ミコ語の威厳バリバリの声に公子は目を見開き、騎士や蛇王達からはほうっと感心するような声が聞えた。


「ふうん。だから、神の使徒ってわけか。どうせなら毒も効かないようにしてくれればいいのにね。」


公子のどこか悔しそうな声にほんとにね、とちょっと思った。

公子登場。

ミコ様のイケメン表現がどんどんおざなりに・・・。


次回も公子との面談の続きです。

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