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祈るということ  作者: 吾井 植緒
帝国編
43/47

城外乱闘というもの

丘の上で昼ご飯となった。

わたしがピクニック気分で林檎を食べていると、周りの騎士達も遠慮がちに弁当を食べ始めた。


「サンドイッチ、うまー。」


諸君、わたしは気にしないからボクッ子の鋼の心臓を見習いたまえ。

弁当を隠しながら食べられると、中身がショボイのだろうかと目を逸らしたくなってしまうではないか。


そんな感じで静かに昼食をとっていると、丘に登ってくる人影が見えた。

あの青い軍服は帝国の兵士だろう。


「どうした?」


青竜隊の隊長が兵士に言った。


「た、大変です。」


「その前に、合言葉はどうした?」


焦ったように大声を出す兵士を宥めるようにマッチョダンディーその1が肩を叩くが余計に彼は咽てしまう。


「ゲホッ。合言葉、ですか?」


「そうだ。合言葉だ。山!」


マッチョダンディーその1はそう言うと、山の言葉と共に両腕を挙げて力瘤を作るポージング『ダブルバイセプス』をした。


「どうした?なぜ応えない。・・・貴様、まさか!」


「クソッ、バレたか!・・・グワッ!」


驚愕の声を上げたマッチョダンディーズその1にニヤリと笑った兵士は、しかしすぐに青竜隊隊長に殴られて気絶した。鮮やかな手並みであった。


「城へ戻るぞ。」


一連の出来事を見ていた蛇王はそう言ったが、丘の下を向いて舌打した。


 ※


黒尽くめの一団がサンドシャークを蹴散らしながら丘へと駆け上がってきていた。


「ミコを渡してもらおうか、蛇王!」


「我等、筋肉教を神殿に認めさせるのだ!」


黒尽くめ達はそう言うと、魔法を唱え始めた。

ビュウウと凄い勢いで風が舞い、丘に生えている草を吹き飛ばしていく。


「フハハハハハ!サンドシャークの餌食となりたくなくば言う事を聞け!」


敵の言葉に蛇王は無言で剣を抜いた。風で髪が舞い上がる。こっちは立っているのがやっとなのに、蛇王は平然と前へと進んで行った。


「ミコ様、ご安心を。」


セイも平然と立ち、そう言ってきた。風でわたしは目が糸目になりながらも、ウムと頷いた。最悪、『神の衣』の絶対防御があるので心配はあまりしていない。


「今こそ、フォーメーションMの真価を発揮する時!」


「「いざっ!」」


掛け声と共に周りを囲っていた赤髪騎士隊が丘に剣を付きたてた。

バリバリバリ!

鋭い音を発して、剣が輝く。

すると周りは荒れ狂う風が吹き荒れているのに、円の中は静かになった。


「フン!防ぐだけでは意味が無いぞ!」


もっともな事を敵は言った。しかし騎士達の目は鋭い光を保ったままだ。

まだ何か秘策があるのだろうか。わたしは不謹慎にもワクワクしていた。


「ミコ様さえご無事ならそれでいいのだ!」


騎士の一人がそう叫んだ。え?もしかして防御だけ?そう思ったのはわたしだけではないらしい。


「魔法を防いだからと言って・・・。」


敵の一人がそう言って剣を抜いた時だった。


「聖人さえ無事なら、活路はコッチが開くっての!」


騎士が剣で作った結界を飛び越え、蛇王が横なぎに剣を振りながら黒尽くめの一団へと飛び込んで行った。

その後をマッチョダンディーズと青竜隊が続いていく。


「魔法は使われる前にぶった切れ!」


むちゃくちゃな蛇王の叫びに「おお!」と青竜隊が女性とは思えない返事をしている。

ボクっ子が目隠ししてきたので良く見れなかったが、結局敵は蛇王にフルボッコにされてしまった。


倒れ付した黒尽くめは青竜隊によって、丘の端へと追いやられている。


「急いで城へ戻るぞ。」


蛇王の言葉にわたしが頷くと、なぜか変な顔をされた。


「まあ、あの防御があれば何かあっても大丈夫か。」


一人納得した蛇王の合図でピクニックはお開きとなった。


 ※ ※ ※


「街道は封鎖した筈なのに、おかしいな。」


「どうしてこんなに湧いて来るのでしょうね。」


蛇王のぼやきにメロンさんが同意した。

城への道に、またしても黒尽くめがいたのだ。


「フハハハハ!何度倒されようと、筋肉教は不滅なのだ!」


「そのような貧相な身なりで筋肉を語るとはおこがましい奴等め!」


マッチョダンディーズその2が黒尽くめの高笑いに吐き捨てるように言うと、青竜隊のマッチョウーメン達が同意するように頷いた。なるほど、確かに黒尽くめ達はマッチョダンディーズやマッチョウーメン達には及ばない体型に見える。


「えーい、うるさい!筋肉教は筋肉に憧れる者に等しく恩恵を与えるのだ!」


(恩恵ってどんなですかね?)


「筋肉の神とやらはどのような恩恵を与えるのだ?」


黒尽くめの言葉にちょっと興味を引かれて思わず尋ねると、ミコ語が威嚇ありな威厳バリバリな厳しい声で問いかけた。


「うぐっ。」


「そうだな。創世神が神力を与えるように、存在しない神はどんな恩恵を与えるのか。神の使徒の問いに、是非とも答えてもらおうじゃないか。」


詰まった黒尽くめに蛇王が続ける。黒尽くめはフルフルと震えだした。


「う、うるさい、うるさい!信じてれば立派な筋肉に・・・。」


「「ばかもん!」」


喚きだした黒尽くめにマッチョダンディーズが揃って恫喝した。


「筋肉は一日にしてならず。」


サイドリラックス


「鍛錬もせずに、筋肉を得ようとは言語道断。」


サイドチェスト


「仮に得たいの知れぬ力にて筋肉を得たとしても、それは真の筋肉にあらず。」


ラットスプレッド


「所詮はハリボテの宗教。恥を知れ!」


モストマスキュラー


どどーん!と後ろで爆発がおきてもいい位のキレッキレのポージングでした!

なぜか蛇王は額に手を当て溜息を吐くが、黒尽くめは圧巻と言った感じで身動きも出来ない様子。


いや~、素晴らしかったですね。神様。


『あ。俺、今メインヒーロー攻略中だから見てないや』


試しに脳内で言ってみたら、律儀に神様からテレパシーが来た。どうやら神様は乙女ゲーム中らしい。


『聞いてくれよ。メインヒーローなのに激ムズなんだよ、コイツ。選択肢が鬼だよ、鬼。こりゃライバルなんて要らないね。パラ上げと選択肢で一杯いっぱいだもんよ』


うん、どうでもいい。

けれど律儀に答えてくれた神様だったので、リロード駆使してがんばれと言っておいた。


そんなこんなで脳内会話をしていたら、気がついたら黒尽くめは青竜隊に制圧されていた。敗因はやはりポージングに魅了されたせいだろう。これで目を覚まして地道に鍛錬の道へ励んで欲しいものである。


 ※


「街道は封鎖した筈なのに、おかしいな。」


「どうしてこんなに湧いて来るのでしょうね。」


先程と同じ会話を蛇王とメロンさんがしている。

道を進んでいくと、ワラワラとまた黒尽くめが出てきたからだ。


「ワハハハハ!ミコを手にするまでは諦めんぞ!」


最初の勢いはいいが、結局青竜隊に制圧されていく黒尽くめ。弱い、弱すぎる!


「ぐぬぅ。我等を倒そうとも同志たちが・・・グワァッ。」


負け惜しみな黒尽くめを蹴り倒しながら、青竜隊隊長がぼやいた。


「我等が付いて、なおかつ陛下まで居るというのに。なぜそこまでしてミコ様を浚おうとするのでしょうか。」


「まあ、ミコ様に宗教として認めてもらおうとか思ってんだろうけど。ミコ様がそもそも創世神の御使いだからねぇ。無駄な事してると思うよ。」


ボクっ子があきれたように言うと、マッチョダンディーその1が言った。


「裏では初代ミコ派の残党と繋がっているとも噂されてますが。」


「グッ。貴様、なぜそれを!」


「あ、ホントに繋がってるんだ。でも初代ミコでしょ、大方まとめきれて無いんじゃないかな。」


「ググッ。更になぜそれを!」


口が軽い黒尽くめは逃げようとしたが、結局青竜隊に捕まっていた。


「何か大変な事になったなぁ、ミコ様。」


黒尽くめを制圧し終えて蛇王がわたしの肩を軽く叩いた。

大変な事が思いつかず、首を傾げると蛇王は苦笑する。


「初代ミコ派だよ。まとめきれて無いっつってもコレだけの事が出来るんだ。大化けする可能性はあるぜ。」


大化け、神様も言ってたしなぁ。強大な敵になりうるって事か。

正直面倒臭いなぁと思わなくは無い。

わたしは荒事に向いていないのである。



ちなみに、合言葉は山でダブルバイセプス。川でリラックスしていないリラックスポーズです。

興味がある方はググッてください。


次回もミコ様視点予定。

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