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祈るということ  作者: 吾井 植緒
帝国編
42/47

観光というもの

翌朝、祈り用の個室を用意してもらうのが面倒なので、そのまま部屋で朝の祈りを済ます事にした。

皆を締め出して、しっかり鍵をかける。



そして無が訪れた。



目を開ければソコは神の間の中だ。


『よーし、ヨシヨシ。』


神様はなぜか一緒に来てしまったライをワシワシしている。神様からかなり離れた場所で、ユキはのんびりと尻尾をゆらしていた。


『どうだ、神の手に掛かればワンコなどこれこの通り!』


神様は腹を出したライを指差してどやっとした声を出した。発光体のツルリとした顔でなければきっとどや顔をしているのだろう。


「はー、すごいすごい。」


ウザイので棒読みで言ってやったが、すでに心を読んでいるのか神様は気にした風ではない。


『まあ、いいけど。それよりさ。観光でワイルド系イケメンのハートゲット、がんばれよ』


「やだよ」


『だが断る!ですら、ない・・・だと』


なぜかガックリしている神様。ツボがよく分からない。


『いや、ホントにハートゲットされて、帝国の嫁にでもなったら困るんだけど。だが断る!までが様式美でしょ』


様式美はどうでもいいが、そもそも帝国のヨメとやらになる気が無いのだが。


『だってミコってば、マッチョに妙な憧れ持ってるじゃん。初代ミコ派が各新興宗教に声掛けして対抗組織作ってるから、強大な敵に立ち向かう内に芽生える感情とかあるじゃん』


しゃがみながらのの字を書く発光体はウザイ事この上ないが、それより話の内容が気になった。


「あるじゃん、じゃねーよ。ていうか、そんな事になってんの?」


『今は個別攻略の時期だからのんびり行こうとか思ってたら、そんなことになってたよ。そろそろ、下界でも調査結果として出るんじゃないかな。どうせなら逆ハーでキャッキャウフフが成立してからにしてほしいのにな。強大な敵に立ち向かう逆ハーメンバー、俺、これ終わったらミコに告白するんだ・・・なんてな!』


いや、最後のそれは死亡フラグだと思う。

色々衝撃の事実が分かったが、それより様式美らしいので言っとくか。


「だが、断る!」


『あ、今日の祈りの結果は西の大陸の地割れが修復されただから』


様式美で終わった事に満足したのか、神様がヒラヒラと手を振った。もう片方の手にはなぜか乙女ゲーム攻略本がある。本当にふざけた神様である。


 ※ ※ ※


「朝のお勤め。」


「お疲れ様でございます。」


「「お茶をお持ちしますか?」」


神の間の中から出るのは、扉に触れれば元の場所に戻る。部屋の鍵を開けて出れば、くのいち達が待ち構えていた。

喉も渇いていたのでくのいちにお茶を貰いながら、取り出した黄金林檎で朝食をとる。ちなみに林檎は1個食べれば満腹になる。騎士達は食事はすでに済ましたらしい。ちょっとした冒険?をしたライとユキもガツガツご飯を食べていた。


「ミコ様、使いの者が暫くしたら迎えに来るとの伝達がありました。今日・・・やはり予定通り視察されますか?」


セイが心配そうな声で言った。神殿的に観光はマズイのか視察になっている。


「新しいフォーメーションも考えたんだし、大丈夫でしょ。それに昨日の今日で襲撃は無いんじゃない。」


楽観的な意見のボクっ子に赤髪の騎士が同意なのか頷いている。


「新しいフォーメーションは完璧だ。帝国も敵も寄せ付けないぜ。」


「そうだ。何かあっても我ら騎士団で守ればいいだけの事。今度は帝国にも手出しはさせない。」


居たのか、忍者。


「それはそうなんだが・・・。ミコ様の精神的なショックを考えると。」


心配そうなセイの言葉にボクっ子が笑う。


「なに?セイルースはそっちの考えなんだ。むしろ神の御使いなんだから、そんなん超越してると思うけどな。」


ボクっ子の言葉にわたしは内心で首を横に振った。いやいや、平和な日本人は暴力沙汰になれてませんから。ドキがムネムネしちゃうから。そんな思いでいたので顔が引き攣るかと思いきや、やはりというか表情筋は仕事をせず。わたしのそんな様子にセイ以外の騎士達は感心の目を向けるのであった。


「ミコ様、身も心もお守りいたします。」


頭をかるく下げたセイにわたしはお前だけが頼りだという意味で、ウムと頷いた。


 ※


帝国に女性の兵士は居ないのか。

そんな事はない。この世界は男女平等である。


暫くしてやってきた迎えのマッチョダンディーズと共に城を出る。

すると、そこには白地で中央に青いドラゴンの旗を掲げた茶色いマッチョな軍団がいた。


「わぁ~、すごーい。」


ボクっ子がなんともいえない顔で棒読みした。


いや、凄いんだ。号令と共に繰り広げられるキレキレのポージングとかマジで凄いんだ。思わず掛け声をかけたくなる位凄いんだ。上半身裸だと気付かなければ。なんで裸なんだ!いやしかしよく見れば・・・。


「いや~お恥ずかしい事に、彼女らは何度軍服を支給しても、任務の度に破ってしまいますからな。ラクな服装を、と指示を出したらこうした部隊になってしまいました。」


おいおい。破るからって、上半身三角ビキニでいいのか。

彼女らって事は、やはり女の人なのか・・・。

しかしよくよく見れば、背中で紐を結ぶタイプの三角ビキニは帝国の軍服に合わせたのか鮮やかな青である。そしてかろうじて筋肉だけでない盛り上がりの人も何人かいるのでセクシーに見えなくもない。


そう、彼女らはゆるふわ隊に居たあのマッチョウーメンズを凌ぐ、一回り筋肉的な意味で大きいマッチョウーメン達だったのだ。


「スゲー。」


普通、男ならセクシービキニに注目しそうだが、赤髪騎士が感心しているのはその筋肉の艶だ。


マッチョダンディーその1に手招きされ、ベリーショートな茶色い髪をしたマッチョウーメンが一人コチラにやって来た。

鳩尾の辺りで両拳を突き当てるような姿勢をするので、上半身の筋肉が寄り一層盛り上がる。


「ミコ様。」


声は可愛らしいソプラノだった。いや、顔はちゃんと女性だし。精悍だけど、女性だし。


「陛下専属の近衛隊では女性が居りませんので、我ら青竜隊が今後の警護に付きます。ご安心を。」


マッチョダンディーズですら、軍服を破かないと言うのにそれを毎回破ると言う事は確かに精鋭部隊なんだろう。筋肉的な意味で。いやはや、なんだか心強いな。


「ぬ、我らも負けては居れぬぞ。散!」


一緒に付いて来ていた忍者が妙な対抗心を燃やして号令すると、忍者隊が散った。


「よし、俺らも新しいフォーメーションだ!」


赤髪騎士がそういうと騎士達がゾロゾロとわたしの周りへと集まってくる。


・・・結果、大きな円に囲まれました。


新フォーメーションて、肉壁の円周がでかくなっただけかよ!


 ※ ※ ※


前後をマッチョウーメンズの青竜隊に、周りを赤髪騎士隊に囲まれ、隠れて忍者隊も居る筈。な、わたしの警護は結構大所帯になってしまった。

ちなみにセイとボクっ子はわたしの両脇を固めている。


「なんかスゲー事になってんなぁ。」


やって来た蛇王が円の外で苦笑している。騎士達の間は開いてはいるので、通ろうと思えば通れるのだが蛇王はピリピリしている赤髪騎士隊に配慮しているらしかった。しかし外から見られてると、肉の檻ということもあってか動物園の動物になった気がしてきてしまう。

わたしはどうせなら一緒に行こうぜと手招きしてみた。一人じゃないが、なんか仲間が欲しかったのだ。


「ミコ様、なぜ蛇王を招く等と!」


隣のセイにそう言われたが、無視していると蛇王がごめんなすってと手を上げて円の中に入ってきた。肉の檻の中へようこそ。


「まあ、せっかく俺が案内すんのに離れてんのもおかしいもんな。」


そう言った蛇王に同意するようにウムと頷くとセイがしょぼんとした。


「それは、確かにそうですが・・・こちらとてガイドブックで学習済み。移動中は傍にいる必要等無いのでは。」


セイはボクっ子が掲げるガイドブックを指してそう言った。


「俺は現地民だぞ。ガイドブックに載ってない話も移動中できるんだぜ。それにミコ様のお招きだしな。他の連中は寄せ付けないから勘弁してくれよ。」


そうニカッと笑った蛇王にセイはぐぬぬと歯軋りをしていた。


「メロヌール女史ならまだしも・・・なんでこんな奴を。」


「しょうがないよ。まさか忙しい筈の蛇王が案内役になるとは誰も思わないじゃん。」


ブツブツ言うセイの肩をボクっ子がまあまあと叩いていた。


 ※


メロンさんがやってきて、ナニコレって顔をしたので彼女も檻に招いてみた。これで檻の出し物は『ミコ+蛇王+メロン』となった。ちなみにマッチョダンディーズは檻の外にいる。


「イデデデデ。後でちゃんと仕事するから抓るな、抓るな!」


どうやら仕事をサボってきたらしい蛇王がメロンさんに抓られるというひと悶着があったものの、帝国観光は大所帯での出発となった。


今回の行き先は歩いて行ける砂丘である。城の近くにあるらしい。


「本当はもっと大きな名所に行きたかったんですけど、昨日の今日ですから。予定を変更しましたの。」


メロンさんに街道沿いの珍しい植物等を聞きながらのんびりと歩いた。城から城下町は離れているからか、歩いている人は殆ど居ない。


「警備の為に今朝街道を封鎖したんだ。今回は徒歩だし、何があるか分からんからな。」


なるほど。だから人が居ないのか。良かった、肉檻に入った珍獣ミコ様を見る人は居ないんだな。


「あそこは規模は小さいですけど、今の時期なら凄いのが見れますわよ。」


メロンさんがバチン、ときれいなウインクをした。わたしはウインクできないので羨ましい限りである。

ボクっ子が高速でガイドブックを捲っていたが、メロンさんに現地に行くまでのお楽しみだと窘められていた。


街道の周りの植物が段々とサボテン的なモノへと変わった頃。

踏みしめていた土は砂地に変わり、一面砂地の大きな場所へと抜ける。


砂丘だ。


「わぁっ。」


隣でボクっ子が感嘆の声を上げた。わたしも思わず、三分の二位は目を見開いた。

開けたそこは緩やかな丘になってはいるが、完全に砂地の砂丘である。

とはいえ、所々に植物が見えるのが砂漠との違いなのか。あと石もあるのか黒い塊が点々と見えた。


前に居た青竜隊が止まる。先ほどのマッチョウーメンが檻の傍に来て言った。


「陛下、追い込み漁を致しますか。」


「ああ、頼む。」


追い込み漁?

蛇王の言葉に頷くとマッチョウーメンが腕を振る。すると後ろに居た青竜隊が砂丘へと駆け込んで行った。わーっと走って行ったと思うと、わーっと掛け声を上げてコチラに戻ってきた。


ズシャァッ!


音を立てて砂が盛り上がると、黒い大きな何かが飛び出してきた。キラキラと舞う砂が光る。


ザシュッ!


音を立てて、黒い大きな何かは砂に潜っていく。


「なにあれー!?」


ボクっ子が叫んだ。


「サンドシャークですわ。」


サンドシャーク?


「生態がいまひとつ分かって無いんですけど、この時期になるとサンドシャークはこの砂丘に現れますの。子供など一のみですから、この時期は漁をする者以外近寄りません。」


シャークと言うだけあって結構獰猛なんだな、サンドシャーク。


「とって、どうすんの?食べるの?」


「ええ、臭みさえ抜けばとても美味しいですわよ。」


ボクっ子の質問にメロンさんが答えた。そうかぁ、美味しいのかぁ。食べられなくて残念である。

サンドシャークは青竜隊に追い込まれて、砂の中をグルグルと泳いでいた。時折見えた黒い塊はサンドシャークの背びれだったようだ。


「サンドシャークの生息地を抜ければ、砂丘全体が見渡せる場所になります。」


時折飛び跳ねるサンドシャークは青竜隊に退けられ、我々は砂丘を歩く。


砂丘を上がっていく草が多くなった。

サンドシャークはこの草が苦手なのか姿を見せない。


メロンさんの言う通り、上に到達すると砂丘全体が見渡せる。


「へえ、規模小さいっつっても結構広いんだね。」


ボクっ子の言う通り、小さい丘がいくつも見えた。


「一説によると、サンドシャークはこの砂丘の砂金を食べているとか言われてますわ。」


メロンさんがフフフと笑いながら言った。


「今時、そんな話信じてる奴なんていないがな。」


迷信の類なのか、蛇王の言葉にメロンさんが更に笑った。


「砂丘の虫を食べるよりロマンがありますわ。そう言って陛下だって、子供の頃確かめに行ったじゃありませんか。」


なんと、この砂丘から砂金を見つけるのは大変な作業だろうに。


「あの時は大騒ぎでしたなぁ。従者が飲み込まれたかもしれないと必死でサンドシャークを殴る陛下を見つけた時は肝が冷えましたぞ。」


マッチョダンディーの中でも年長と見られるマッチョダンディーその1が檻の外で笑った。蛇王は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。



ちなみに陛下の従者は無事でした。


次回、砂丘観光の続き。

ピクニック気分でだらだらといきます。

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