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祈るということ  作者: 吾井 植緒
帝国編
37/47

出迎えというもの

以前の祈りの結果の効果が続いているのか、海は荒れる事もなく。

赤髪騎士が作ってくれたトロピカルなジュースを飲んだりした優雅な船旅を終え、船を下りるとそこに居たのはグレートマッチョメンズだった!


『ミコ様歓迎』『帝国へようこそ』


と、異世界語で書かれた旗を振る人々の前にデカイマッチョメンズが数人立っている。

多分、帝国の偉い人だろう。だろうが、なんというか・・・。

彼らはワセリンを塗ってるのかテカテカとした筋肉を晒していた。そして別段ポージングをしている訳でもないのに、わたしがつい「キレてるよ!」とか「仕上がってる!」とか、掛け声をかけたくなる位マッチョだった。

さすがはマッチョ教、真のボスが治める国である。


「おい!何でお前ら上半身裸なんだよ!」


「陛下!我等はミコ様のお陰でキレキレとなった筋肉をご覧いただきたく・・・。」


「アホか!聖人に変なモン見せんじゃねーよ。」


意外とマッチョ教の真のボスである蛇王は常識人だったようで、マッチョメンズに服を着ろと命令した。しかし、まあ、凄い筋肉だ。丸太のような腕といい、好きな人には堪らないであろう。

渋々軍服らしき服を着だしたマッチョメンズは腕組みしたメロンさんに早くしろと急き立てられていた。


「武を重んじる国・・・プププ。」


こら、笑ったら失礼だろうボクっ子。

ボクっ子は何が面白いのか知らんが、一頻りクスクスしていた。

その可愛らしいアイドル顔を見て、マッチョメンズは赤面している。出会った頃より伸びたオレンジの髪は女の子に見えなくはないがその可愛らしい見た目に、騙されるなマッチョメンズ!こいつは大層面倒くさい、性別ボクッ子なるぞ。ん?神様が性別はボクっ子でいいじゃんとか言うからそれでいいとか思っていたが、そういえばボクッ子の性別ってドッチなんだろう。

気になってしまった為に今度こそ見極めようと見つめていると、ボクっ子がコッチを見た!

しまった、気付かれたか。とかわたしが内心焦っていると


「なーに、ミコ様。」


と、ボクっ子がアイドル顔をキラリとさせた。わたしは速やかに何でもないと首を横に振った。

気にはなるが、わざわざ尋ねたくは無い。もう性別:ボクっ子でいいやと思った。


「改めまして・・・ミコ様、帝国へようこそ!」


わぁー、と歓声が上がった。歓迎されるのは悪い気はしない。わたしはゆっくりと人々へ手を振って見せた。あと無駄に地面を踏みしめて花絨毯を見せたりもした。

どれにもわーわー言ってもらえて余は満足である。


「ミコ様には是非、陛下と共に城へ。」


「いや、馬車はあるので結構です。」


マッチョメンズその1が頭を下げながら言った事をボクっ子がピシャリと遮った。え、とマッチョメンズが固まる。


「しかしせっかく陛下と帝国に来られたのですから、我が国の強固な馬車に・・・。」


「いえ、ミコ様にはとてつもなく強固な専用馬車がありますので。」


にべもないとはコノ事であろう。可愛らしいと思っていたボクっ子の思わぬ強硬な態度に、マッチョメンズは気を悪くする訳でもなく困った顔をした。なんというダンディーさ。彼らはただのマッチョではない、マッチョダンディーだったのである。


「まあ、アレは俺も見せてもらったが凄いモンだったからな。神殿がそういうなら従おうや。」


そうして、意外と聞き分けの良い蛇王に取り成され、わたしは船より下ろされたあの馬車に乗り込んだのだった。


 ※


わーわーミコ様ー、と旗を振る人々に見守られながら、マッチョダンディーが言うだけあって立派な馬車の先導で港町を抜ける。王国とは違い、何となくエスニックな街並みである。

今回、馬車にはボクっ子が同乗している。よく分からんが、側近なのだから当然なんだそうな。

この馬車には蛇王も乗りたがったが、ボクっ子が神殿関係者以外ダメだと断っていた。大砲が当たってもグラつく程度の凄い技術漏洩を恐れているらしい。だが、どうせまたデタラメな神力が関係しているのだろうから心配する事もないと思う。思うが、大男の蛇王が乗ると広いと感じる馬車内がとてつもなく狭く感じると思うので断ってくれてよかったと思った。そしてボクッ子はわたしより身長は大きいが小柄な体型だ。そんなに窮屈には感じないので、許してやろうと思う。


デュランダルにはセイが乗っている。今回セイはデュランダルの為に、自分の愛馬を島に置いていったのだ。当初は警備責任者の赤髪騎士が乗る予定だったのだが、あまり知らない赤髪騎士を乗せるのをデュランダルが拒んだ為にそうなった。残念そうに馬車の御者になる事にした赤髪騎士には悪いが、デュランダルは飼い主であるわたしに似て人見知りなのだ。


エスニックであり、アラビアーンな感じの街並みを抜けると今度は乾燥したような平地が続く。


「帝国は砂丘が有名だから、まあ結局乾燥してる地域なんだよね。」


だから水分補給は怠らないようにね、とボクっ子がガイドブックを見ながらそう言った。

少しだけ、ガイドブックの内容が気になったがわたしは素直に頷いておいた。


 ※ ※ ※


城下町に入ったのか、周りがにぎやかになった。

カーテンの隙間から窓を覗くと、また旗を持った人々がわーわー言っているのが見える。

馬が上げる土ぼこりで喉をやられないといいな、と慈悲深いミコ様としてそう思った。


帝国の城はやはりというか、街並みから見た予想通りアラビアーンな宮殿風であった。

あまり外国には詳しくないのだが、アラビアーンな国の有名な建物に似ていると思う。そして白い。


噴水広場のようになっている脇を抜け、馬車は止まる。

何となく王国より城前が広々としているなと感じた。


「国力は同程度だけど、帝国は国土が広いんだよね。」


キョロキョロしていると、まるで心を読んだかのようにボクっ子が言ったのでドキっとしたが、奴はガイドブックを読んでいるだけであった。ヒヤヒヤした。心を読むのは神様だけで十分である。


「城の美しさも有名だから、今回はせめて外観だけでも改造させないよう気をつけなくっちゃ。」


ガイドブックから顔を上げたボクっ子はそう言うと、目を細めて城を見た。

王国のアレはゆるふわ隊に居る魔改造に特化した騎士のせいだから今回は大丈夫だろうと思った。だが、ボクっ子のシリアスな顔を見るにどうやら赤髪騎士の隊にも似たような神力の者が居るようだ。それとも先行した忍者隊に居るのだろうか。

しかしボクっ子の心配は余所に馬車から降りた蛇王はのんきに伸びをしていた。


「じゃあ、ミコ様にはとっておきの部屋を用意してあるから、さっさと行こうぜ。」


ボクっ子の顔に緊張が走る!ボクっ子は騎士達を睨んだ。騎士達はフォーメーション肉壁を行った。


「て、違うけど・・・まあ違わないか。ミコ様、行きましょう。」


え、違わないのか?!てっきりわたしはボクっ子は改造すんじゃねーぞと、騎士達を睨んだと思ったのに。ボクっ子は騎士達が勘違いしてフォーメーションを組んだのを否定しなかった為に、結局わたしは肉饅頭の餡となって城へ入ったのだった。

ちなみに帝国の人はその状況もあらかじめ知っていたのか、スルーして付いてきた。


 ※ ※ ※


白亜の宮殿。

肉壁の隙間から外を覗きながら、なんとなく思い浮かんだ。この城は白を基調としているからだ。

日に焼けたというか、褐色の肌の人が多いのでその対比がなんともいえない。

王国は金髪でキンキラだったから、今回は眩しくなくていいと思う。


蛇王とグレートマッチョダンディーズの案内で城を進む。

赤髪騎士とセイは今回肉壁に参加していない。肉饅頭の両脇を固めている。相変わらずの厳重警護である。

ボクっ子はというと、斜め後ろでメロンさんとガイドブック片手に談笑していた。まさかあのガイドブックは城内部の事まで書かれているのではないか、とわたしは少し気になった。


「このホールを抜ければ、居住区になります。」


そう言って振り返ったマッチョダンディーはピチピチの服を着ていた。蛇王はそうでもないのに、何故だろうか。彼らは多分、軍の人間なんだろう。帯剣をしていた。筋肉に見合った太い剣である。わたしは拳で戦ったり頭からビームが出てもおかしくないな、とハゲてもないのにそんな事を思ってしまった。


美しい装飾のされた階段を上り、上へと上がる。

結構上がる。

まだまだ上がる。


多分最上階だろう位まで上がる。


『神の衣』を装備してなかったら、息切れしそうだと思った。『神の衣』は隠れ機能として体力が上がるのだ。


ここはもしやあのホイップクリームを絞ったような形の部分なのだろうか。

肉饅頭の中に居るので窓を眺められないが、隙間から見えただけでも景色は良さそうに思える。


「ここはとっておきの客人にしか使わせないんだ。」


蛇王が肉壁の隙間から笑いかけてきた。途端に壁を閉じるのをやめた方がいいと思う。流石に蛇王に失礼である。


どこから現れたのか、忍者隊と思しき神殿騎士が繊細な意匠のされた扉を開く。


広々とした一室である。

わたしは芸術的表現が苦手というか、下手なので簡単に言えば豪華スイートルーム・アラビアーン風である。今にもでっかい扇子を持ったアラビアーンな女子が出てきそうな感じだ。


窓は大きくはないが、ベランダへと続く扉もあった。

かなり高い所にいるので、眺めは良さそうだがちょっと怖そうだなと思った。


「いいねぇ、ミコ様。」


ボクっ子が部屋の中央に出て振り返った。わたしは頷いたが、それよりこの肉饅頭を解除してほしいと思った。


「気に入ってくれて何よりです。」


マッチョダンディーその1が腰に手をあててそう言った。ピチピチの軍服から胸筋が盛り上がるのが見えた。その見事さに、しかしわたしは上手い掛け声が思いつかずに黙っていた。


「暫くこのお部屋でゆっくりしていただきまして、昼食後に近隣をご案内致しましょう。」


マッチョダンディーその2が腕を組んでそう言った。わたしには一々ポージングに見えてしまって仕方が無い。とりあえず心の中で「その2、デカイよ!」とだけ掛け声をかけておいた。


「んじゃ、また後でな。」


蛇王がそう言って、帝国の人々は部屋から去って行った。

忍者隊が素早く扉を締める。


「何部屋かあるから、ミコ様は一番気に入った部屋を使ってね。」


ボクっ子がそう言って、各部屋の扉を開ける。どの部屋も素晴らしい内装だった。

しかし、ソレよりも何よりも。わたしは肉饅頭の解除を切に願っていたのだった。



ミコ様はエスニックとアラビアーンの違いがイマイチ分かっておりません。

それと、良い人=ダンディーのようです。

ミコ様がしょっちゅう言っている掛け声はボディービルダーへかける掛け声の事です。調べたら結構面白いので興味のある方はググってください。


次回、白亜の宮殿の魔改造を巡り、ボクッ子と騎士の間に亀裂が(うそ)

ミコ様視点でのんびり観光になるかと思います。

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