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祈るということ  作者: 吾井 植緒
帝国編
36/47

出発というもの

今回も短め

その日は朝からやたら騎士達と遭遇した。


朝のお勤めが終了し、神の間から降りてくると階段下に団長が居た。今回はカバディポーズはしていない。


「ミコ様、準備が整いましたので昼にでも出発したいと思いますが、いかがでしょうか。」


出発とは何のことやらと思いたいが、帝国行きの事だろう。そういえば、セイによれば騎士団は準備万端だったなと思い出す。


「ミコ様も準備が整っていると聞きましたが・・・。」


団長はそう言って、後ろのセイをチラリと見た。確かにパンツもレギンスも巾着に入れたわたしは準備万端だと思う。


(準備万端ですよ)


「問題ない。」


ミコ語の威厳ある言葉に団長は頷いた。


「今回、私は同行できなくなり誠に残念にございます。しかし!ミコ様の御身にあのような事が二度とないよう、島の警備を徹底的に改革しておきますので、安心して早く帰ってきてくださいね。」


団長はやたら早くを強調して言った。団長はきっと自分の責任を果たしたのを早くわたしに見てもらいたいのだな、と世界ナンバー2としてほほえましくなり、ウムと頷いた。


「では見送りに同行いたしますので、また昼にお迎えに上がります。」


そう言って、団長は去って行った。


 ※


赤髪神官にも似たような事を言われた後、祈りの結果を聞いた。

今回は謎の怪物が出現して寂れていた鉱山から、謎の怪物が消え活気を取り戻したというモノだった。

遠まわしだが、前回の宝石フラグが利いたのかもしれない。


「薄紅の花とともに消え行く怪物は圧巻でしたね!」


まるで見てきたかのように言う赤髪神官。そうでもないらしいと知ってはいても、やはり神力とは何でもアリっぽく感じてしまう。


赤髪神官と別れ、ミコ部屋に戻るとあの犬係(仮)を務めてくれた赤髪騎士がダンボールを運び出している所だった。


「あ、ミコ様。あとはこのトイレを運び出せば終わりでございます。」


そうかとわたしは頷いた。


「神獣様にも快適な旅が出来るよう、心がけますね!」


赤髪の騎士の言葉にわたしは頼むというように頷いておく。


「今回はアレクの隊が旅を取り仕切ります。」


セイの言葉にわたしはあの赤髪騎士はアレクと言うのか、覚えられるといいなと思った。

ライは旅に出ると分かっているのか、何時もと違う周囲の様子にはしゃいでセイの足元にじゃれ付いている。なぜわたしにじゃれないのだ、と少しセイに嫉妬した。


黄金の林檎を取り出し、シャクシャクしているとボクっ子がやってきた。


「あーもー、昼からだってのに。準備できてんなら早く行こうって、蛇王が煩いんだよ!」


この側近はわざわざ愚痴りに来たらしい。


「できるだけ行程に口出しさせないようにしなくちゃ。当分、島に帰れなくなりそう。」


ボクっ子の言葉にそれは困るとわたしは思った。何も無い所ではあるが、わたしは島ののんびりした生活が嫌いじゃないのである。


「メロヌールさんには、ミコ様は煩わしい事を好まないって言い聞かせてあるから、式典とか無いけどさぁ。ぜったい色々連れてかれそうな気がするんだよね。」


そう言いながらも、帝国観光ブックを取り出すボクっ子はなんだかんだ楽しみにしているようである。


『後で見せてもらえよ』


わざわざテレパシーで茶々を入れに来た神様もどこかはしゃいでいた。


 ※ ※ ※


そろそろ昼だからと林檎を取り出そうとしていたわたしにセイが呼びかけた。


「ミコ様、昼は船でおとりくださいませ。そろそろ団長が迎えに来ます。」


その言葉通り、団長はすぐにやって来た。


「ミコ様、残念ながらお時間にございます。」


ウム、と頷いてわたしは膝に丸まっていたユキを抱き上げた。

団長の先導で、トコトコ付いてくるライとセイと正面玄関に向かう。


すでに神官達と猊下、騎士団が待っていた。

リジーが駆け寄ってくる。


「ミコ様、私が差し上げたモノは身につけておりますか?!」


早速そう言うと思ったので、わたしは足元を指差した。薄紅色のレギンスを見て、リジーは安心したように息を吐いた。


「出来るだけ、出来るだけ身につけてくださいね!」


嬉しそうにそう言うリジーには悪いが、わたしは衛生的に程ほどに身につけようと思った。


「ミコ様、騎士が付いておりますから万が一は無いと思いますが、くれぐれもお気をつけくださいませ。」


リジーに続いてやってきた爺は付いていけないのが残念だと嘆いた。


「ボクが付いてるんだから、ミコ様に生水なんか飲ませないって。」


なんかずれているボクっ子の言葉に、しかし爺は頼むぞと頷いた。わたしは海外に行って生水を飲んで腹を壊す人間みたいに思われているのは、心外だと思った。


「騎士も蛇王もおりますし、早々無いと思いますが、前に言った事をお忘れなきよう。」


猊下が目をギラリとさせてそう言った。わたしは前言った事ってなんだっけと思ったが、とりあえずウムと頷いておいた。あ、そうそう一人になるなだっけか。しかしこれだけ騎士やセイが居れば一人になる事もないだろうと思う。

頷いたわたしに満足したのか、猊下もウムと頷いた。


「セイルース、目を離すなよ。」


訂正、全然信頼されてませんでした。

セイが猊下にしっかりと頷き返していた。


噴水傍のデュランダルの脇には蛇王が立っていた。


「おう、ミコ様やっときたか!」


待ちきれないという態度を隠さずに蛇王はとっとと行こうぜと言う。

煩いなと思っていたら、慌ててやってきたメロンさんに耳を摘まれどこかに連れて行かれていた。


今回はユキを抱えているので、デュランダルに乗る事は出来ない。どうせすぐ付くのだから歩いて行くんでもいいんじゃないかと思う。

セイがデュランダルの手綱を持つと、赤髪の騎士が言った。


「出発!」


「「いってらっしゃいませ!」」


頭を下げた神官一同にわたしはウムと頷いた。


「ワン!」


行ってきますと言うように鳴いたライは本当に賢い犬だと思う。ユキを抱えていなければ撫で繰り回していた所だ。


 ※


王国に行く時と同じ道をのんびり歩き、港に付いた。

気のせいか、前より船が大きく感じる。


「帝国は王国より遠いですから。船も違うモノになっております。」


わたしの疑問に気付いたセイがそう言った。


「今回は馬車も持ってくからね。大きいのじゃないとダメなんだよ。」


わたしの後ろを歩いていたボクっ子がそう言った。どうやら王国の時とは違い、帝国にあのデタラメな馬車を用意してないらしかった。


「あんな馬車そうそう何台も作れないからねぇ。帝国にミコ様が行くってならなきゃ、王国支部に置きっぱになっただろうね。」


王国は近いから行く機会もあるだろうと、前もって用意していたのだとボクっ子は言った。行くとなったらわざわざ拒否はしないが、どうせならどこも行かずに済めばいいのに、と引きこもり体質のわたしは思った。


ボクっ子、わたし、ライ、セイの順に船に乗る。

今回はお忍びという訳でもないので裸足のままだ。機会があれば海を歩いてみたいと思う。


「ミコ様、今回は船で寝泊りする事になりますので、専用の船室を用意しております。神獣様をお連れになってはいかがですか?」


赤髪騎士がやってきてそう言うので、案内してもらった。


中々広い、そして白い船室である。


早速ライがクンクンと匂いを確認している。ユキは下ろすとすぐにベッドにゴロゴロし始める。

窓を開けると潮風が入ってきた。周りは海である。


「あまり甲板に居ると蛇王に纏わりつかれそうだよね。」


付いて来ていたボクっ子がそう言うと、セイが同意するようにウンウンと頷いた。


「ミコ様は蛇王が苦手なのですか?」


赤髪騎士が赤い目をパチクリしながらそう言った。

わたしは別に苦手ではないので、首を横に振った。意外な事にわたしは他人が嫌いだが、苦手と思った事はないのである。


「そうですか。」


ホッとしたように言った赤髪騎士は蛇王が好きなのかもしれないと思った。


「流石に蛇王を殺るとなると骨が折れますからね。」


違ったようだ。無闇にSATUGAIするなと騎士団に通達してある筈なのに、恐ろしい事だとわたしは迂闊な事は言わないように気をつけようと思った。といってもわたしは余り喋らない性質なので、問題ないだろうが。


赤髪騎士が去り、昼食は既にとったというボクっ子の隣で林檎を取り出す。

そういえばセイはずっと傍に居て、食事を取ってないじゃないかと思い出した。


(セイは昼食を食べなくていいの?)


「セイ、食事をしなくていいのか?」


ミコ語が慈悲深い言葉を発するとセイは首を横に振った。


「ミコ様のお傍を離れる訳には行きません。」


幾らなんでも気合を入れすぎだろう、とわたしは思った。


(いいから食事しなよ。倒れるよ)


「わたしは大丈夫だ。食事はキチンと取れ。」


ミコ語は少し厳しい声になった。セイが気持ちションボリしたような顔をする。


「何ならコッチに持ってくれば?」


ボクっ子が珍しく優しい声を出した。


「いえ、そういう訳には。」


セイが断ると、ボクっ子はキリッとした顔をした。


「なら、ミコ様に心配かけないよう食事はキチンと取りなよ。ココにはボクもいるし、心配要らないから。」


武装神官で忍者と互角に戦えるボクっ子の言葉に、セイは渋々と部屋を出て行った。すぐ戻りますと言うセイの背中に、ボクっ子はゆっくり取ってきなよ!と返している。


「こんな船上で何かある訳ないのにさ。神経質になりすぎなんだよ、番犬は。」


そう言いながらも、潮風に吹かれたボクっ子優しい顔をしていた。

わたしが林檎を齧りながらもウムと頷いているとボクっ子が変な顔をした。


「それにしてもミコ様良く気づいたね。いつもは興味ないって感じなのに。」


いい傾向なんだろうけど、ちょっと薄気味悪いとボクっ子が言う。心外だな、とわたしは思った。

食にこだわりは無いが、人間食事は大事である。日頃傍にいるのだから、その人間を気遣って何が悪いとわたしは思う。わたしは慈悲深いミコ様なのである。


「まあ、ミコ様は慈悲深いから当然と言えば当然なのかな。」


その調子でボクの事も気遣ってくれていいんだからね、というボクっ子の言葉にはわたしは聞えない振りをしたのだった。



やっと帝国へ出発。

馬車も乗せてるので大型の船になります。専用船室もあり。


次回、船旅は早々に飛ばして帝国着予定。

ゆかいな脳筋の国でミコ様がマッチョ教と戦います(うそ)

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