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祈るということ  作者: 吾井 植緒
帝国編
34/47

食というもの

わたしはゲーゲー吐いていた。そりゃもう、何も出なくなるまでにゲーゲー吐いた。


『いいから吐け!吐け、吐け!』


神様の怒気の孕んだテレパシーを受信しながら、ただただ吐いていた。



 ※ ※ ※


祈りの結果は、雨の印象が優先されたらしい。

雨が降ってるのはこの島周辺だけなんだが、洪水の多い地域の堤防がやけに立派になったと赤髪神官が言っていた。最近ずいぶんと細かい結果が多いなと思う。


メロンさんが朝食もご一緒したいと言うので、セイを引き連れながら食堂に向かう。

どうせ居るだろうなと思ったら、案の定猊下も食堂に居た。


爺が運んでくる魚と野菜の料理をメロンさんは珍しそうに見ている。

何でも帝国に来た際の参考にしたいらしい。


「ミコ様は、肉はダメで魚は良いとは不思議でございますね。」


「神であれば魚も出せませんが、ミコ様は魚を好まれてますので。」


多分矛盾にツッコミを入れたのであろうメロンさんに、猊下は説明になっていない答えを返す。不満そうなメロンさんの顔にニッコリと笑う猊下はとてつもなく強い。そういやなんで魚はOKになったんだろうな、とわたしも不思議に思った。


そんな事を思いながら、モグモグしているとなんか厨房が騒がしい。

そしていきなりガシャン!と皿が割れる音がした。突然だったので、ちょっとビクッとしてしまった。


「・・・・・ミコ様!」


給仕をしていた爺が厨房から出てくる。が、その足元はフラフラしていた。なんだか顔色も悪い。


「その皿、は・・・食べてはなりません!・・・毒です!!」


そう叫んだ爺が倒れると同時に、猊下がわたしの皿をテーブルから叩き落とした。そして、掴んでいたフォークも払おうとしていた猊下の手が止まった。


「・・・ミコ様、口に入れたのですか?」


震える猊下の言葉を聞きながら、わたしの手からフォークが落ちる。なんだか痺れてきた。毒なんて聞いたからかな。病は気からと言うし。怖いね、ホント。


なんて思っていたら、雷のような轟音が厨房から響いてきた。


『吐け!』


続いて聞えてきたのは神様からのテレパシーだった。

その命令に従うようにわたしの口から、噛み砕かれた食材が出てくる。

震えながら立ち上がるメロンさんを視界に入れながら、わたしはゆっくりと上体を折り曲げるように下げた。


そして、吐いた。ゲーゲー吐いた。これ以上何も出なくなる位に吐いた。


背中を細い手をした誰かが摩ってくれている。


『いいから吐け!吐け、吐け!』


神様の怒気の孕んだテレパシーを受信しながら、気を失うまでわたしはただただ吐いていた。


 ※ ※ ※


目を開けると知ってる天井である。ただし異世界のであるが。


「・・・ミコ様!?目を覚まされたのですね!」


悲痛な声の方を向くと青白い顔をした爺がベッド脇に座っていた。


「良かった。本当に良かった!」


爺はダーっと滝のような涙を流していた。正直、今のわたしの気分は悪くないので、具合が悪そうな爺が心配になった。


「ミコ様に盛られたのは、秘境に伝わるという特殊な毒でした。」


爺の肩に手を置き、立っていた猊下がそう言った。


「審判長がおかしいと思って神力を使ったお陰で、気付く事が出来たんです!あの毒は聖人に反応するという特殊な毒の上、神力でも中々解毒できない類でしたので、ミコ様がすぐ吐き出さなければ、危ない所でした。」


猊下の後ろに居た赤髪神官が深刻な顔でそう言った。

赤髪神官が言うには、爺は給仕だけでなくわたしの食事の毒見もしていたらしい。そして何かおかしいと違和感に気付き、神力を使ってみた所、体内で神力に毒が反応、急いで毒に侵されながらも知らせに来た、と。爺が生きてココにいるということは大丈夫だったんだろうが、結構危ない事をするなと思う。


(爺が無事でよかった)


「審判長、ありがとう。」


わたしの意を汲んだミコ語が慈愛120%でそう言うと、また爺の目に涙が溢れた。


「聖人にのみ反応する毒があるとは知りませんでした。まだまだ勉強不足な私のせいで、このような目に合わせてしまったというのに、ミコ様はなんとお優しい!」


そう言って爺はオイオイと男泣きをした。


「まあいいじゃねーか。俺が居たお陰で大事にならずにすんだんだからよ。聖人も目ぇ覚ましたし、これで問題ねーだろう。」


野太い声に寝室の扉の方を見ると、巨体が立っていた。蛇王である。隣にはメロンさんも居る。


「確かに蛇王のお陰で解毒できましたが、問題なら大有りにございます!いかに家族を人質に取られたとは言え、この島の住人がミコ様の食事に毒を盛る等、言語道断にございます!!」


泣いていた爺が蛇王に噛み付くようにそう言った。


「でもよう、もうソイツには神罰が下っちまったじゃねーか。人質も神殿騎士が救出したし、初代ミコ派だか新興宗教だか知らねーが、もう対策練ってんだろ。それに何かあれば神罰下るって分かりゃ、向こうだって早々に手ぇ出してこないと思うぜ。」


蛇王の言葉に皆考える事があるのか、一瞬シンとなった。

その静まりかえった寝室にセイの声が響く。


「ミコ様はたった今目覚めたばかりでございます。今は安静にされるのが良いかと。」


「・・・それもそうですね。一旦解散としましょう。」


猊下もそれに同意し、セイ以外の皆は寝室から去って行った。


「・・・ミコ様、ご無事で何よりでございました!」


そう言ったセイは寝室の前に控えておりますと言って、寝室の扉を締めた。


・・・いや~なんだか、すごい事が起きたようだ。

毒を盛られるなんてね!

陰謀大好き神様が喜びそうな展開だ。


『喜ぶか、バカ!』


そんな事を思っていたら、案の定神様に怒られた。

そして毒入り食物から生還してなんだが、わたしは少々腹が減っている事に気付いた。食べた物を全部吐き出したのだから、仕方がない。


『・・・お前な。まあ、いい。これでも喰ってろ。』


呆れつつも、神様は結構親切だった。

そして、わたしの目の前に黄金の林檎が現れた。


『これからはコレでも喰ってろ。実は二度とこういった事が無いように、これからはこれ以外は受け付けないようにしてあるから。他のモノはもう喰えんぞ。』


えっ?


『だからこれからはそれしか喰えないから。腹が減ったら『神の衣』に付けたポケットに手を入れれば、出せるようにしてある。お前はこれからソレだけ喰ってろ。』


えええええええええええええええええ!


『どうせ、お前は食に拘りなんか無いんだろ。』


確かに拘りはないが、それしか食べれないとなるとなんだか寂しい。人間とはそういった生き物である。


『そういっても、もうお前の身体作り変えちゃったし、神官にもお告げしちゃったし。』


そうなの?


『そうなの。だから我慢しなさい。』


(えええええ~)


「なんということだ。」


嘆くミコ語をBGMに、試しに『神の衣』を触ると確かに腰の辺りにポケットが出来ていた。

恐る恐る手を突っ込むと何かに触れる。出してみると黄金の林檎だった。金の林檎って、と思いながらもお腹空いてるせいか美味そうに見えてきた。


シャキッと齧るとこれが美味い。なにこれマジ美味い。


そうしてわたしが神の林檎をモグモグとしていると、セイが入ってきた。


「ミコ様、何か・・・ミコ様!?」


神の林檎を齧るわたしにセイはギョッとしている。当然だ。この寝室に食べ物等無かった上に毒喰らった人間がモクモクと何か食べてるんだから。


「な、何を食べているのです!」


驚くセイの声を聞きつけ、まだミコ部屋に居たのか猊下が駆け込んできた。


「どうした?!」


そしてセイ同様、林檎を齧るわたしを見てギョッとした。猊下のギョッとした顔は中々レアなのではないかと少し思う。そしてギョッとしていても猊下のイケメン顔は崩れない。


「そ、それはもしや・・・お告げの林檎!」


「・・・どう言う事ですか、大神官。」


「い、いや。ミコ様が目覚めぬ間、我々神官にお告げがあったのだが林檎が輝くばかりで何のことやら分からなかったのだ。まさかコノ事だったとは・・・。」


セイの質問に応えながら、猊下はやれやれと息を吐いた。


「セイルース、心配ありません。あれはどうやら神の与えられた林檎ようです。」


(そうそう。これからはこれを食べるから心配いらないですよ)


「これからはこれを食べるから、問題ない。」


ミコ語が威厳たっぷりにそう言うと、猊下はそうですかと困ったような顔をした。


「せっかく肉体を持たれたというのに、我等が不甲斐無いばかりに・・・。」


猊下がそう目を伏せると、セイも苦しそうな顔をした。どうやらこれからの林檎生活を哀れんでくれているらしい。けどまあ、この林檎メチャ美味だし。飽きたとしてもこれしか受け付けないんじゃ、仕方がないべ、とわたしはモクモクと林檎を齧ったのだった。


 ※ ※ ※


「おいたわしや、ミコ様!今後は食事を楽しめなくなるとは・・・!」


もう寝てるのも飽きたので、ソファーでのんびり寛ごうとしたら猊下に経緯を聞いた爺に嘆かれた。


「おい。辛いのは聖人だろうに、あんまり言うんじゃねーよ。」


蛇王もメロンさんも解散と言ったのに、ミコ部屋から出てなかったらしい。メロンさんには、起き上がれてよかったですねと言われた。

そういえば、わたしはすぐ吐き出したので対した事は無かったが、神力によって毒を反応させた爺は結構やばかったんではないだろうか。爺を見るとその顔はまだ青白い。


(そういえば蛇王、爺を助けてくれてありがとう)


「蛇王。審判長を救ってくれた事、感謝する。」


ミコ語が慈愛に満ちた言葉を発すると、蛇王とメロンさんがキョトンとした。


「聞いたか、メロヌール。聖人に感謝されたぞ!」


「ええ、大変名誉な事にございますね!」


キャッキャと二人は嬉しそうに笑った。確かに世界ナンバー2からの感謝の言葉は名誉な事だ。喜んでくれて何よりである。


「しかし蛇王の放蕩がお役に立つ事もあるんですね。」


「まあな。俺だって伊達にフラフラしてんじゃねーんだよ。」


決して褒めてはいないだろうメロンさんの言葉に蛇王は鼻の下に指を当て、ヘヘヘと笑った。


「ミコ様、不甲斐無い私の為にそのようなお言葉を!」


そんな二人を見て、爺が悔しそうな感動してそうな微妙な表情をしていた。


「ミコ様。落ち着いたら、すぐ帝国に行こうな!気晴らしになるぜ!」


てっきり毒事件で流れるかと思った帝国行きは、続行らしい。蛇王は嬉しそうにそう言った。


「ゆっくり帝国を見てまわりましょうね!」


メロンさんの続けた言葉に、猊下と爺は嫌そうな顔をしたものの何も言わなかった。


 ※


わたしがソファーで寛ぐ姿を見て安心したのか、ようやく一同はミコ部屋から去って行った。

そうして静かになった部屋で、心配してくれるのか膝から離れようとしないユキと足もとに丸くなるライを交互に撫でていたら、ボクっ子がやって来た。


「ボクはミコ様の心配なんかしてないんだからね!すぐに来れなかったからって寂しがらないでよね!」


ボクっ子はなぜかそう腕を汲んで仁王立ちをして言って来るが、わたしは別段寂しいとか思ってはいない。

何かを期待する眼差しを感じて、どうしようか迷っているとボクっ子はソファーにわっと伏せてしまった。


「ヒドイ、ミコ様!こんな時側近のボクが居ないなんてとか、ちょっとは寂しいとか思ってよ。確かに役立たずな側近だけど!」


そんなボクっ子の誘い受けな言葉に、あ、メンドクサイと思ったわたしに罪は無いと思う。


「煩い番犬を指揮して、黒幕を探ったりしてたからすぐに来れなかっただけなのに!」


そう言って、チラっとコチラを見るボクっ子は本当に面倒な奴だと思う。


「嘘うそ、ミコ様。怒らないで!ボク林檎しか食べれないミコ様の為に、林檎を用意してきたんだよ。」


ジト目で思わず見てしまったせいか、ボクっ子が焦ったようにどっから取り出したのか赤々とした林檎を差し出してきた。しかし残念ながらわたしは神の林檎しか受け付けない身体の筈。

どうしようかと林檎を見つめていると、再びボクっ子はソファーに突っ伏した。


「ヒドイ!側近のボクを疑ってるんだね、ミコ様。」


(違うから、食べれないらしいんだよ。マジで)


「悪いが、これしか食べれないのだ。」


めんどくさくなりながらも、わたしはボクっ子に説明しようと神の林檎を取り出して見せた。


「ナニコレ。これが神の林檎?」


不思議そうに黄金の林檎を見るボクっ子に、そうだとわたしは頷いてみせた。


「・・・食べてみてもいい?」


ボクっ子の言葉にわたしは神の林檎を差し出した。ボクっ子は恐る恐る齧る。


「うわっ!」


そう言ってボクっ子が放り出した神の林檎をセイがキャッチする。


「ナニコレ、まっずーい!」


「・・・あの武装神官は穢れてますから、きっと神の林檎に相応しくないのでしょう。」


叫びながらボクっ子がベロを出してるのを横目に、セイが神の林檎をわたしに渡しながら結構辛辣な事を言った。試しにライに齧らせてみるとおいしそうに食べていた。犬って林檎食べるんだな。


『神獣は特別枠。人間にソレは食えんぞ。ものすごく不味く感じる。』


今更な神様のテレパシーにより、他人にこの林檎は食べれない事が判明した。


毒かよ、大変だなー。程度のミコ様。悲壮感はありません。

でも爺は無事でよかったと思うミコ様、慈悲深いですね。


次回もミコ様視点。

蛇王も来ちゃったし、そろそろ帝国行きます。

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