表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈るということ  作者: 吾井 植緒
帝国編
33/47

服というもの

「ミ、ミコ様・・・もしやそのお姿で乗馬をなさったのですか?なんたる破廉恥な!」


なんか唐突にリジーに怒られた。

乗馬が終わって、脚ガクガクだぜーとか思いながらフラフラと部屋に戻ろうとしたら途中でリジーに出会ったのだ。修行の後なのだろうか、リジーもヘロヘロしている。


「あああ、ミコ様のおみ足が、野蛮な騎士共に晒されてしまった!なんたる事!私のバカ!詰まらない事を気にしてミコ様の御身を気に掛ける事を怠るだなんて!」


いやいや、『神の衣』は乗馬中だろうが絶対に捲くれなかったし、もしかしたら伸びてんじゃないかと言わんばかりだったので全然足は出てないんだが、リジーの勢い的に聞く耳持ってなさそうなのでそのまま様子を見る事にした。

リジーは大仰な仕草で天井を仰いだ後、ちょっと待ってくださいと去って行った。それまで空気だったセイが気にせず行きましょうとかヒドイ事を言うが、慈悲深いミコ様としてはちょっと待ってやろうと手で制しておく。


この廊下はリジーの部屋に近いのか、存外早くリジーは戻ってきた。手に何か黒いモノを持って。


「いくら裾が長いからと言って、油断は出来ないと私が製作しておいたモノにございます。どうぞ、お履き下さい。特に乗馬の時には絶対に履いて下さい!!」


差し出された黒いのはスパッツのようなズボンのようなモノだった。ココはオシャレにレギンスと呼ぼうと思う。どうやって作ったのか不思議だが、結構伸びがいい。ストレッチ素材なようだ。

廊下で履いてみせるのもどうかと思ったので、とりあえずリジーには礼を言って部屋に戻る事にした。なぜかリジーが付いてくるのをセイが嫌そうな顔をしていた。


「さあ、履いて見せてください!サイズはピッタリの筈です!!」


部屋に戻るとすぐにそう言われたが、二人の目の前で履くのもあれなので寝室で一人履いてみる。履き心地は悪くない。やはりレギンスのようで脚にピッタリとフィットした。パンツといい、宣言通りジャストサイズを把握しているリジーに少し怖くなっていると


『デ・デーン!ミコは”呪われたスパッツ”を装備した。』


神様からのテレパシーを受信した。おい、呪われたとか悪い冗談はやめろ。


『もう、リジーのスパッツは外れない!・・・なんてのは冗談だがな。これからは、何でもかんでも気軽に身につけるのはやめておけ。危ないだろう。』


神様に怒られた。しかしわたしは貰える物は貰う主義であるからしてうんぬんかんぬん。


『神官からのはまあ問題ないが、これからは本当に気をつけろよ。『神の衣』は大抵のモノは防ぐが、身につけてから発動する呪いの類なんてのは防ぎようがないんだからな。』


oh・・・そうだったのか。『神の衣』も万能ではなかったのだな。気をつけよう。


居間に戻ろうとしたら、リジーがそわそわと寝室の前に立っていた。どうやら待ちきれなかったらしい。


「どうですか、履き心地は?」


(なかなかいいと思います)


「・・・悪くない。」


食い気味に聞いてくるリジーに若干引いたミコ語だったが、それでもリジーは嬉しそうに笑った。


「ようございました。これでミコ様が乗馬をされても、そのおみ足が晒される事なくすみますね。ミコ様に馬が献上された時点で、もっと早くに気付くべきでしたのに・・・。乗馬服等、野蛮な騎士共や男連中は考えもしないでしょうしね!」


いや、安全を考えると『神の衣』以外は着る気がしない。それに一度でも別の服を着たら、果てしなく似合わないが神様は喜びそうなドレスフラグが待っていそうで怖いのである。


「しかし、ミコ様の衣は神の聖なる気も纏われておりますから、安全の面で考えますとやはりそれを身につけられていた方がいいような気もしますし・・・相応しい服を作ろうにも私では、まだ聖なる気を布に纏わせる事が出来ないのです!」


なるほど、何でもアリの神力でも出来ない事があるんだな。


「これから私はお世話係として、もっと修行をして布に神力を纏えるように努力します!!」


妙にお世話係を強調したリジーはこれからまた修行だと言った。そんなに修行して祭事長の仕事は本当に大丈夫なんだろうか。というか、わたしとしては『神の衣』以外着る気がないので、出来ればリジーの修行が功を奏しない方が有難い。


「待っていてくださいね、ミコ様!」


しかしギラギラした眼で見つめられると、うむと頷かずに居られない小心者のわたしなのであった。


「色違いも近いうちにご用意しますから!」


とりあえず、その熱意に免じてスパッツだがレギンスだがは乗馬の時には必ず履く様にしてあげようと思った。


 ※


また修行に向かうと言うリジーと入れ替わるようにして、ボクっ子がやって来た。

勝手に側近になってから、ボクっ子はしょっちゅうやってくるようになったのだ。


「ミコ様の場合、荷物が少なくていいよね。ボクら神官は着替えとか正装とか用意しないといけないから、面倒臭くって。」


なんか、ボクっ子の言葉に気になるワードがあった。正装だと?神官服が正装なんじゃないのか?そう、気にはなったが、わざわざ聞くほどではないので諦める。


「なんか何時にするのかと行程で揉めててさ。メロヌールさんが手強くて、中々決まらないんだよね。帝国は長居してほしいし、こっちはそんなつもりはないしでね。下手に長居すると他の国にも長居しなくちゃいけなくなるし、勘弁してほしいよね。」


そうか。帝国には何時いくのかも、どの位になるのかも知らんかったが、それはまだ決まってなかったからだったのか。

王家には日帰りのつもりが一泊する羽目になってしまったし。あまり長期だとライとユキを置いて行くのはしのびないな。何泊かするのなら連れて行きたいと思う。


「神獣様達はどうするの?連れて行く?」


ライとユキを見つめていたわたしの視線で気が付いたのか、ボクっ子がそう言った。中々気が利く側近である。わたしは了承の意味を込めてウムと頷いた。


「だからウムじゃなくて言葉にしなさいって。・・・ワカリマシタ、猊下には伝えておくから!」


言葉にせずとも察するのが側近だろうと、極限な糸目でボクっ子を見つめてやったら、ボクっ子は降参ポーズでそう言った。伝わったようで何よりである。


「そうなると、荷物は神獣様のトイレと餌か。しっかし、この神獣様のトイレだけどすごいね。神力に満ち溢れて。これの人間用が出来たら、便利なのになぁ。」


ライとユキのトイレは一見、地球にあったペットトイレなんだが、実は神力に満ち溢れているらしい。神様が用意したもんだから当然と言えば当然か。特に掃除しなくても勝手にきれいになってるしな。

エサも高級な匂いがするのでもしかしたら、これも神力に満ち溢れてるのかもしれない。そんなモン喰ってたらライとユキは本当に神獣になってしまうかもしれん、とちょっと心配になった。


「にぃあぁ~。」


文字にすると愛らしいが、実際は濁点の多い低い鳴き声でユキが鳴いた。ボクっ子の前だと言うのに、珍しく腹を出して膝に擦り寄ってきた。ああ、カワイイ!と腹を撫で繰り回してやる。


「ミコ様、動物にする位他人にももっと心を開いてくれないかなぁ。」


ボクっ子の言葉にわたしはちょっと意味が分からないな、と首を傾げた。


「動物との触れ合いみたいにさ、他人ともっと言葉を交わしてほしいんだけど。」


(結構話してるとおもうんだけどな)


「・・・なでられたいのか?」


わたしの疑問をどう汲んだのか、ミコ語がすごい事を言った!ボクっ子は真っ赤になった!


「ちちちち違うよ、ミコ様!」


ブンブンと首を横に振るボクっ子にわたしは内心ホッとしていた。撫でられたいと同意されても撫でる気は全くないのだ。多分、普段フラグがどうこうのたまう神様の意向をミコ語が汲んでしまったのだろう。


「・・・もう。猊下みたいに地道に努力するしかないのかなぁ。」


両頬に手を宛てながら言うボクっ子は、カメラ目線な女子アイドルのようであった。


 ※


「え?ミコ様の衣装はこれのみなのですか?」


メロンさんが夕食の後にやってきてそう言った。今日はどうも服について言われる日であるようだ。

ウム、とわたしが頷くとメロンさんはフラフラと首を横に振った。


「そんな、王国ではたまたま一泊になった為に同じ衣装になったのだとばかり・・・!」


嘆くメロンさんに、一々『神の衣』の説明するの面倒だなと思ったが、この場に説明してくれそうなボクっ子もいなかったので仕方がない。


(これは汚れないし、安全なので着替えません)


「わたしは『神の衣』以外着る気はない。」


神様の事だからドレスフラグに喜んで同意するかと思ったら、そうではなかったらしい。安全面を配慮してくれたミコ語は威厳たっぷりに断ってくれた。


「たしかに同じ衣を着続けているのは、実に聖人らしいと思いますがそれにしても・・・。」


つまり汚いと言いたいらしいメロンさんは語尾を濁した。


「ミコ様の衣は神の聖なる気を纏われた衣、穢れとは無縁であります。」


それまで空気になっていたセイが前に出て説明してくれたお陰で同じ事を言わずに済んだ。


「そうなの、ですか?」


疑わしげにメロンさんがコチラを見るから、わたしはウムと頷いた。


「ミコ様を聖人として崇めてくださるなら、余計な事は考えないでいただきたいものですね。」


そう言って、猊下が入ってきた。猊下を不審者扱いするつもりはないが、最近のミコ部屋のセキュリティーはどうなっているのだろうか。


『説明面倒だろうから、助け舟として入れてやったんだよ』


なんだ、神様のお陰で猊下は入れたのか。ちょっと安心したが、そういう事は一言言って欲しいものだと思う。神様相手に無駄だと思うが思ってみる。


「それにミコ様は神の使徒なのです。人間のように考えられては困ります。」


「ですが、ミコ様は肉体を持たれているではないですか!」


「確かに肉体を持っておりますが、それでもミコ様の本質は神の使徒。人間ではないのです。」


人外、人外強調する猊下。どうやら神官達は今までわたしの事を人外だと思っていたらしい。

確かに装備といい、能力といい、人外染みてるからもう人外でいいやと思った。


「・・・神殿はそうやってミコ様を偶像化しているのですね。」


メロンさんの言葉に猊下は肩を竦めた。どうとでも取ってくださいという態度だが、正直神殿に偶像化されてるとは・・・あのインチキな絵姿とか思うと確かに偶像化されてるような気もしないでもない。


「わかりました。・・・ミコ様、これで私は失礼します。」


何が分かったのか知らんが、メロンさんは去って行った。代わりに猊下がソファーに座る。


「どうも各国は神殿に対し、誤解をしているようですね。神殿の勢力を増す為にミコ様を利用している等と思っているようです。」


(そうなの?)


「違うのか?」


へー、知らなかったとわたしが発した言葉をミコ語は威厳たっぷりに変換していた。


「滅相もございません!と言えたらいいのですがね。世界が安定し始めても、暗躍する新興宗教はおりますし、違うとも言えないでしょう。」


猊下は苦笑していた。まあ、わたしも神様も神殿を利用していると言えなくもないし、その程度ならウィンウィンて事でいいんじゃないかなと思った。ダメだったら神様もココからわたしを出そうとするだろうし。


(まあ、いいんじゃないかな)


「その正直さに免じて、多少は目を瞑ろう。」


ミコ語が威厳に冷気を込めて発言した。猊下は目を伏せ、ありがとうございますと言った。


 ※ ※ ※


世界が安定し始め晴天は続いていたものの、作物の為に多少の雨は必要である。

その日は久々に雨が降っていた。冷たい雨である。


ガラスのドームに覆われた中庭で、ライと空を仰ぐ。


「くぅーん。」


日向ぼっこが出来ない為か残念そうなライの頭を撫でた。


「ミコ様、セイでございます。」


迎えに来たセイの声を聞き、扉に向かった。


「行ってくるね、ライ・ユキ。」


朝のお勤めの時間である。

普段は外の明かりで明るい廊下も、今日は電気のような明かりで照らされていた。仕組みが気になるがわざわざ調べる程ではない。


時折すれ違う神官が頭を下げる。

苦しゅうないとウムウム頷きながら、神の間へと向かう。

途中、早起きなメロンさんが同行したいと言ってきた。またメロン関係の結果になりそうな予感はしたが、どうせ神の間にはわたししか入れないしと頷いておく。


神の間へと続く扉を見てメロンさんは感嘆の声を挙げた。


「これが神の間・・・。」


最近、この扉のフロアはわたしが祈らない時間帯には、観光名所にもなってるらしい。

金は取らないけど、お布施は随時募集中と張り紙が階段下に張ってあった。


わたしが扉に触れると扉は静かに開き始める。


「ああ・・・!」


メロンさんの感動する声を背後にわたしは神の間へと入っていった。


扉が閉まれば、後は無になるだけである。



リジーの修行の結果によってはミコ様は別の服を着る事になるかもしれない。

神様はもちろんミコ様の安全を最優先に考えております。


次回もミコ様視点予定。

一体何時になったら帝国に行くのやら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ