表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈るということ  作者: 吾井 植緒
王家編
28/47

離宮というもの

ミコ様は眠いので結構適当です。

離宮へは蛇王も着いて来ようとしたが、宰相と生きていた閣下によって止められていた。


「離宮と言っても牡丹宮は唯一、城に直結されてまして。ですが、通り道はこの回廊一つだけなんです。普段は閉鎖してるんですが、この回廊からは外観が見えますのでわざわざ見学に訪れる要人もいるんですよ。」


「ずいぶん古い建築物とは聞きましたが。」


「そうですね、かなり珍しい建築様式だそうで、その名の通り牡丹の花を模・・・あ、あれ?」


猊下の言葉に応えた陛下の解説が止まった。そりゃそうだ。ゴゴゴと、禍々しい擬音を発してそうな離宮では、とても牡丹宮と言う名前とは思えまい。短時間でよくココまで改造できたと思う。また何でもありな神力かな。とにかく夜だから見違えたとは言えない要塞がそこにはあった。


「え、牡丹の花を模してた・・・え、文化財が、え?」


回廊の窓に縋る陛下から視線を逸らす神殿一同。

わたしの隣でゆるふわが、今愕然としている陛下が見たら殺意が湧くレベルのテヘペロ顔をしていた。


 ※


なんとか気を取り直した陛下を先頭に一同は無言で回廊を進む。

回廊の中は牡丹の華の繊細な模様の壁紙なのに、窓からチラチラ見切れる要塞がミスマッチである。あの出っ張りは大砲だろうか。


何かブツブツ言っている陛下の背中には黒いオーラが見える。

・・・なんてね。実際に見えてる訳ではない。オーラを出せるわたしが勝手に感じているような気になっているだけだ。なぜなら残念な事にわたしは零感だったりするからだ。神に選ばれた使徒だってのに、そういった感性が無いってのはどうなんだろう。でも選んだのは神様ですしおすし。おお、また一回使ってみたかったシリーズを解消できた。でもこれ意味知らんのだが、使い方とかあってるんだろうか・・・。この世界PCは神様のトコにしかないから今更ググれないし、まぁいいか。


ガシャン!


回廊の終わりなのか、区切ってあった鉄柵が上がって天井に吸い込まれるように消えた。どうやって収納しているのだろう。


「なにこれ牢獄みたい・・・。」


「シッ!」


ボクっ子の失言に猊下が前を向いたままで小さく言っちゃいけません的な注意をしている。だが、陛下の耳に入ってしまったのだろう。陛下はブルブル震えていた。


「ようこそ、牡丹宮へ。」


白々しい歓迎の言葉を重々しく吐いたのはメイド服に身を包んだマッチョ・ウーメンズだった。

右マッチョ・ウーメンのロングヘアは結わずに下ろされていて、ゆるふわ隊だからなのか下がゆるく巻かれている。鋭い視線の顔はかろうじて女性と認識できる。豊満と言うより屈強な胸筋でメイド服ははち切れそうだ。

左マッチョ・ウーメンはサイドで髪を結っているようで、後れ毛がセクシーだ。ギラリと光る眼光のかろうじて女性と認識できる顔さえ見なければの話だが。こちらの彼女は二の腕辺りの盛り上がりと逞しい脚に目を瞑れば、スレンダー体型なのだろう身体がメイド服に何とか収まっていた。

メイド服なのに一切柔らかさが無い。女装した男より硬そうだ。よくコレで王家の侍女と摩り替え出来たなと思う。


ゴゴゴゴゴ、と左右に立つ仁王像のようなマッチョ・ウーメンズが、かろうじて残っている牡丹宮らしい繊細な造りの大扉を開く。

演出で重々しく開いているのかと思ったら、分厚い大扉の断面に鉄板らしきモノが入っているのが見えた。陛下のため息はホッとした意味で吐かれたモノではないだろう。ここ一晩しか泊まらないのになあ。この後この要塞どうすんだろう、陛下。避難所には持ってこいな感じだけどね。


「では陛下、我々はコレで休みます。ミコ様の宿泊に最適な離宮を用意して頂き、ありがとうございます。」


扉の中に入り振り向いた猊下のしれっとした言葉に、何かを飲み込んだ表情をした陛下は頷いた。


「・・・ええ、これなら警備も万全でしょう。また明日お迎えに上がります。」


顔は何とか保っているが、回廊でいろんな意味でショボンとしたオーラを出している陛下にわたしも偉いミコ様としてねぎらいの言葉を掛けてやらねばと思う。だが上手い言葉と言うのは言おうとすると思いつかないものなのだ。野菜美味かったよ・・・違うな。会場キンキラだったね・・・これは褒めてないな。うーん。


(おやすみ陛下。また明日)


「おやすみ、陛下。」


結局ミコ語も上手い事を思いつかなかったらしく、無難な挨拶になってしまった。しかし陛下は嬉しそうな顔をしてくれた。


「は、はいっ!ミコ様、おやすみなさい!」


陛下が王様らしからぬペコリとした感じで頭を下げると、扉係のマッチョ・ウーメンズによりギギィーっと大扉が閉まった。流石、神殿の扉係は良いタイミングで仕事をする。あのまま待たれてたらお互い間が持たない所だった。


「では我々はこれで。シャミ、ちょっと来い。」


猊下とわたしに挨拶した団長が一団から抜け、ゆるふわを呼んだ。


「ええー、団長空気読んでぇ。これからミコ様とガールズトークのお時間なんだからぁ。」


「いいから来い、ごるぁ!」


「へーへー。」


ゆるふわは和風チンピラ族長、もとい団長の怒号もどこ吹く風とふらふら団長に着いて行った。


「団長は警備の為に、シャミの隊に魔改造された離宮の構造をチェックしないといけませんから。」


セイが独り言のように呟いた。どこか疲れた声に、また忘れていた眠気が蘇る。なんか今日は盛りだくさんで疲れたのだ。


「ようこそ、牡丹宮へ。」


廊下の奥から華やかな声と共に腰に帯剣している偽メイド部隊が現れた。武装したメイド部隊でよくすり替えが出来たなと思う。しかし扉係とは違い、こちらは女性らしいメイド部隊である。みんな髪がカールされてるのがゆるふわの部隊っぽい。


「ミコ様、隊長に代わって私が一番いいお部屋へご案内します。他の方々はコチラへ。」


「いや、その前にミコ様にお話が・・・。」


「猊下もお疲れでしょう。ミコ様はもっとお疲れなんですよ。ささっとお部屋に行きましょうね。」


「ちょ、こら。待て!」


抵抗空しく、偽メイド部隊に猊下達は連行されていった。お話を聞く気が無いわたしは適当に手を振って見送った。


「ミコ様ー、無いと思うけど何かあったらすぐ叫ぶなり何なりしてねー!」


ボクっ子は妙な警告を残して行ったが気にしたら負けだ。


「じゃあ、参りましょうか。お疲れでしょうから、お手を拝借しますわミコ様。」


一人残った灰色の髪をした偽メイドさんの手は騎士らしくゴツゴツしていた。


「・・・ミコ様、私がお供します!ご安心を。」


しかしダッシュで戻ってきたセイに握った手をカットされ、マッチョで無い灰色偽メイドさんは舌打した。神力の無駄遣いで火花を散らす二人にわたしはついアクビをかみ殺す。それが苦い顔に見えたのだろう、偽メイドさんは慌てて部屋に案内してくれた。


 ※ ※ ※


廊下の奥にある豪華スイートルーム的な部屋に着くと、二人はどっちが部屋に残るかでまた無駄に神力を使い始めた。今夜泊まる部屋なので、出来れば破壊しない程度にしていただきたい。暫く見守っていたが、実力が拮抗しているのか睨みあいが続いたのでもう放っとく事にした。とにかくわたしは眠いのだ。


お部屋訪問の要領で適当に扉を開けまくる。寝室はどこだ。

ここはバスルームのようだ。猫脚バスタブが見える。しかしもう遅いので風呂は明日だ。

次に開けた所は鏡ばかりの部屋だった。クローゼットがやたら大きいので衣装部屋だろう。なぜかドレスが収納されているがその点には触れない方がいいだろう。ゆるふわ部隊がわたしの為に用意したとか要らぬフラグである。あといくつか何の部屋が分からない部屋があった。ある意味世界で一番贅沢できる人間なのだが、こんなに部屋は要らないなと思う。迷子になりそうだし。


ようやく寝室を発見した。一枚ガラスの大きな窓があり、大きなベッドがある。白が基調の天蓋付きベッドだ。要塞となった今は牡丹模様の布団が空しく感じる。


大きな窓からは月が見えた。異世界でも月は一つだ。

月明かりが結構眩しいので、豪華な刺繍のカーテンを閉めようかと思ったが、普通の造りとは違うらしく閉め方が分からない。

しかたなくベッドに寝転がり大きな月を眺める。

地球からなら、月の高地と低地で明暗が分かれるからいろんな模様が見える。だが異世界ではどうなんだろう。

そう思いながら異世界の月を眺めていたわたしは眼を見開いた。

月に饅頭の影があった。あの、神様作画の触手の生えた饅頭の影だ。どう見ても、あの独特なシルエットが月に黒々と鎮座している。というか、おかしいな。触手の影が蠢いている。

・・・いやいやいや。一旦薄れてはいるが、眠気のせいで幻覚を見たのかもしれん。ここは望遠効果が望めるかもしれない薄目になって、もう一度じっくり見てみるべきだろう。

しかし、薄目になったわたしは再び眼を見開いてしまった。ま、饅頭がさっと動いて消えたのだ。う、動いたという事は、だ。インスパイアな異世界の月は異世界の太陽によって輝いているのだろうから、あの饅頭姿の宇宙生命体は月と太陽の間の宇宙空間に漂っているという事になる。


って、アイツそんなにデケーのかよ!この星ヤベーんじゃねーの?


危機感でわたしは今夜眠れそうにないと思ったが、そんな事はなかった。


 ※ ※ ※


チュンチュン・・・ジュッ。

ピルピ・・・ピーッ・・・ジュッ。


気のせいか不穏な音が聞えた気がして目が醒めた。

夢も見ないでぐっすり寝たのは久しぶりな気がする。


大きな窓からは朝焼けが見える。昨夜は気づかなかったが、ここは自然に囲まれた要塞のようだ。霧が出ているのか木の間に白いもやが見えた。珍しい木なのか、幹に所々黒い模様があった。


「お目覚めですか、ミコ様。」


寝室に扉は無いので、セイが声を掛けて入ってきた。そういえば放置した灰色偽メイドさんとセイは寝れたのだろうか。


「昨夜は入れませんでしたので、お湯の用意はできておりますわ。是非私にそのお世話を。」


(遠慮します)


「私に世話は不要だ。」


両手をわきわきしていた偽メイドさんに悪寒を感じて即断った。しかしまさか偽メイドに異世界テンプレをかまそうとされるとは思わなかった。もちろん『だが断る』で押し通す所存である。


「そ、そんなミコ様、なんてつれないお言葉。」


よよよと古い態度で泣きまねをしながら着いて来た偽メイドをバスルームから締め出してセイに引き渡す。どうでもいいが、『神の衣』の絶対防御は人を押し出すのに最適な事が判明した。

猫脚バスタブの湯にゆったり浸かって、『神の衣』を纏えば偽メイドさんの出番は無い。


昨夜は見つけられなかった居間らしき部屋に案内され、セイから水のグラスを受け取りながらフカフカのソファーに座る。さて、今日はどこで祈ろうか。


「ミコ様、この牡丹宮には小さいですが礼拝堂もございます。よろしければご案内致しますが、いかがされますか。」


わたしの考えに気付いたのか、そう言ってくれた偽メイドさんにウムと是の意味で頷いた。まあ、別に祈るのはどこでもいいのだが、祈るわたしの姿が問題となる。どう見ても無になってるわたしは寝てるようにしか見えないと思う。出来れば鍵の掛かる個室で祈りたい。トイレとか。


(そこ個室ありますかね)


「その礼拝堂が、祈るに適していればいいが・・・。」


わたしの懸念に同調したミコ語がアンニュイに黄昏た声を出した。セイがどうなんだ、と偽メイドさんを見る。


「大丈夫です、ミコ様!礼拝堂には改造の神力に特化した隊員が控えております。気に入らなければいくらでもおっしゃってください!」


あ、やっぱこの魔改造は神力だったんだ。要塞造るとなると流石に特化してないとダメな辺り、何でもアリまくりという訳ではないらしい。


「朝食はお勤めの後になさいますか?」


「そうだな。」


偽メイドさんの問いに、わたしの代わりにセイが即答した。いつも祈った後に朝食なのは、犬係だが警護にも駆り出されるセイは熟知しているから何の問題もない。決してわたしの頷きが遅い訳ではない。


「なんでアンタが返事すんのよ、セイルース!」


「ミコ様の前で煩いぞ。」


「ぐぬぬ。」


またもや火花を散らし始めた二人にわたしは面倒だが声を掛ける事にする。長引いて、朝食が遅くなるのはいただけない。ハラペコになってしまうではないか。


(いいから礼拝堂に案内してくだしあ)


「早く礼拝堂に案内してくれ。」


さりげなく使ってみたかったシリーズを言ったわたしはドヤ顔の気分だったが、表情は一ミリも動かないのであった。


ミコ様はネット上で使ってみたかったシリーズをミコ語が変換するのをいい事にとうとう口に出しました。

ゆるふわ部隊は髪をゆるふわにするのが特徴のようです。女性が多い部隊です。武装偽メイド達は摩り替えの際、武力で相手を黙らせたのかもしれない。


月の模様どころか、触手付き饅頭が実在してる疑惑が出ました。でもたぶん引っ張らない。

神力はなんでもアリです。しかしなんでもアリ過ぎじゃないようです。個々に特化する事も可能な模様。


次回は他者視点。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ