宴もたけなわというもの
故・灰色の脳細胞よ、蘇れ!
そんな風にわたしが思ったのには訳がある。
『ミコ語のレベルが上がってたんだよ。』
神様のテレパシーを受信したのだ。
眠すぎて、内容がりかいできない。かんじもへんかんできないありさまだ。
わたしは学生時代にその短い一生を終えてしまった灰色の脳細胞の力を借りようと、何とかミコ的な何かで蘇らそうと気合を入れてみたが、半目がクワッと開いて目が乾いただけだった。やはりというか自分に奇跡は使えないらしい。所詮神の使徒なぞ、他人の為に生きてるようなモノである。
『レベルアップ効果で聞えてた訳も大分変わってただろう。』
黄昏ていたわたしの前に、目に優しい発光体が腕を組んでるのが見えてきた。眠気も過ぎると幻覚症状を引き起こすようだ。もうすでに寝てるんじゃないのかとか思ってはいけない。思ったら負けだ。寝たら死ぬのと同じである。
『これからもドンドンイベントこなそうぜ。イベントこなすとレベルが上がるのって、常識だし?』
神様が偉そうに腕を組んで肩まで竦める器用な姿にイラっとする。神様は発光体で、顔がツルリとしてるから表情出せない分ジェスチャーがウザいのだ。
常識ねぇ。イベントやらせる為に毎度レベルが上がる必須能力なんて、ゲームなら酷評くらいそうだ。ミコ語のレベルが上がるのは悪い話ではないと思うが旨みは少ない。それにイベントとは多種多様、大抵は丸裸なパーティーメンバーと挑むもんだと相場は決まってる。そして、まかり間違って団長を丸裸にしたらマッチョ教信者が増えてしまうかもしれないではないか。よって、金輪際イベントをこなす必要は無いだろう。
『多種多様と言いつつ、なんで脱退イベントなんだ。しかも団長脱退させようとするな。それよりこれからは加入イベントとか胸キュンイベントやろうぜ。今回新キャラ出たし、ハイソサエティな逆ハーレムでトキメキの予感しないか?これからは乙女なイベント盛りだくさんにしよう。そうしよう。』
そっちこそ偏りすぎだ。なんだ胸キュンイベントって。
それにハイソサエティつったって、こちとら世界的ヒエラルキーナンバー2だ。偉いミコ様が頭が高い、控えろ、ついでに馴れ馴れしくするなと言えば成り立たないのである。
それに加入イベント、新参者って大抵レベル1なんだよな。加入した段階で同一レベルになるならまだしも。経験値乞食なんてこちらからお断りだわ。ずっと棺おけで引き摺ってやるわ。
『お前主人公を序盤でレベルMAXにするからって、弱かったら仲間を排除するのか。良い男かもしれないじゃないか。いや、ゲームはもういい。とにかく、面倒なやり取りがどんどん噛み砕いて聞えるようになるんだから、これからも頑張ってミコ語のレベル上げてこうぜ!』
何で仲間が男限定なんだよ、神様。しかも無理やり纏めやがって。
つまり、ミコ語のレベルが上がるとは、即ちわたしが聞く異世界語を訳す能力が上がるという事だな。という事は、だ。あのネズミ云々も異世界語ならもっと高尚な政治的駆け引きになっていたと。いやいや、あれはもっと噛み砕いて貰わないと湾曲表現過ぎて意味分かんないよなぁ。決して、わたしが聞く気が無いからではない。ミコ語のレベルが低いからいけないのだ。かと言ってイベントをこなす気は無い。もうクソゲー仕様でいいから、歩いて経験値上がるとかすればいいのに。
「ミコ様?」
おや。ウンウン考えていたら、目の前から発光体が消えていたようだ。しかも突然声をかけられたからか、ガクッて来た。
(うぉっ)
「なんだ?」
ミコ語は上手い事すっとぼけたが、うつらうつらした時によくある高い所から落ちたように感じるアレの余韻は半端ない。立ったままなのでよろけそうになった。
わたしは冷や汗を『神の衣』にフローラルに分解してもらいながら、パチパチと目を瞬かせていた。コチラを伺う面々は疑惑の表情を浮かべている。マズイ、ミコ様としての威厳の危機だ!
今こそ、ナイスな言い訳の出番である。
(今の深く瞑想してただけだから、寝てないから。)
「どうした。話が済んだのなら帰ろうではないか。」
ミコ語が重々しい感じになったのは、きっとナイスな言い訳のお陰だと思う。気持ちキリッと姿勢を正してみたりした。効果はバツグンだ。奴等、疑惑の表情じゃなくなったぞ!
「その事ですが・・・。厳正なる協議の結果、ミコ様には今夜は王家の城にお泊り頂くこととなりました。多少胡散臭い点はありますが、初代ミコ派の残党が出たという事もあって、この暗い中を船まで戻るのは危険と判断しました。神殿の王家の支部は審判長のお陰で神官の受け入れ態勢はいいのですが、構造上問題があるので致し方なく。」
厳正な協議とやらの為か、何時の間に立ち上がったのか陛下と宰相と猊下と蛇王が集まっていた。どこか悔しそうな猊下に続いてボクっ子が言う。
「あそこ建物は豪華なのに、あけっぴろげなんだよね。」
あけっぴろげ、つまり開放された神殿か。わたし的にはそんな他人とふれあい広場になりそうな神殿に行く気はないが、ミコ様らしく信者にはいいんじゃないかなと思っておく。
「離宮をご用意してあります。牡丹宮をご利用ください。」
そう言って、陛下がペコリと頭を下げると隣の蛇王がギロリと陛下を睨んだ。
「・・・牡丹宮って、テメー。」
そういや猊下も結構高身長の筈なんだが、蛇王は頭一個抜け出ている。2メートル超えてそうだな。筋肉質で縦にも横にもデカイ蛇王。奴は真のマッチョ教教祖かもしれない。なんと、帝王が裏ボスとは・・・ゴクリ。
「なんで聖人泊めんのが、テメー用の後宮なんだよ!」
ドット絵で裏ボスグラフィックを考えていたら、蛇王が正に裏ボスと言いたくなるような表情になっていた。対して陛下はヘタレとは思えない程ツーンとしている。
「生憎、泊められる離宮は牡丹宮しかなくてな。牡丹宮が、たまたま本日掃除されていて良かった。」
「嘘つくな、コラ!聖人相手に何考えてんだ!」
「他は手付かずなんだ、牡丹宮以外となると王族の私室になるぞ。客室は蛇王のせいで開いてないから、そうなると・・・。」
「どっちにしても、危ねぇじゃねーか!だったら俺の客室を聖人にくれてやるわ!」
「って貴様、そうやって慈悲深いミコ様に相部屋にしてもらおうとか思ってんじゃないだろうな!」
「腹黒なお前と一緒にすんな、ボケが!」
「んだと、脳筋!」
流石にこの頃になると宰相がワタワタしだした。どうやら最近、和風チンピラが異世界では流行ってるらしい。両者とも王とは思えない位凶悪だ。元祖和風チンピラ族である神殿騎士達が白ける勢いだ。
「大神官、これ以上ここに居てはミコ様のお耳を汚すだけ。ココは危険を冒しても船に帰るべきでは?」
そんな和風チンピラ族長、もとい団長が猊下に提案したが猊下は首を振った。わたしとしてはどっちでもいいから早く寝たい所である。偉いミコ様でなければ、立ったまま寝てしまっただろう。
「もう王家には借りを返す以上の恩を売れたのでは。先行隊も同行しますので、帰りましょう。」
団長の言葉に、否定的に首を振ったが猊下は迷っているようだ。
その時、会場の上部にある窓ガラスを突き抜けて何かが飛び込んできた。ガッシャーン!とすごい音がしたので、第何波かでやってきていた強烈な眠気がちょっと引いた。
「どっせい!」
気合の入った声とガラス片と共にドスン、と会場の床にめり込まんばかりに降り立ったのは女性騎士だった。屈んで空気椅子っぽい体勢から両足を踏ん張ってスクッと立ち上がると、スラリとした女性騎士はわたしを見てニコリと笑った。
「キャッ、ミコ様。お久しぶりですぅ。」
先程の声よりかなり高い声で、女性騎士はゆるふわの髪を揺らしながら両手を頬の下で組み片足を挙げた。ちょっと古い気もしないでもないが、所謂ぶりっこポーズである。
「もう、離宮にミコ様を囲おうなんて!男ってホント不潔よね!でもミコ様、ご安心くださいねぇ。王家が突然牡丹宮の手入れなんて、不審な事してたからぁ。わたくしが侍女を全て隊員に摩り替えておきましたの。不埒な男は一匹も侵入できないように改造もしておきましたわ。うふっ。」
そう言うと、褒めて褒めて~とゆるふわヘッドを突き出して女性騎士が迫ってきた。しかし、女性騎士は荒ぶる犬係セイにその頭を鷲掴みにされていた。
「わたくしがミコ様に褒められるという感動の場面に嫉妬したのね、セイルース。」
「・・・死ね。」
ゆるふわ騎士が頭を取り戻し、フフンと笑うとセイが聞いた事もない低音で言った。気のせい気のせいと思っていたが、やはり荒ぶる犬係。セイは不穏な事も結構言うらしい。
「や~ん、ミコ様!こんな黄緑頭より、こげ茶色なわたくしの方が彩り的にもミコ様には相応しいと思うの。同じ女性だしぃ。だから、お傍に置いてぇん。」
クネクネがうっとおしい、ゆるふわ騎士は懐かしい日本的なこげ茶色の髪をしている。だが、目がなぁ。なんでピンク?しかも結構濃い色だ。
そういえばイケメンストックは尽きたが、女性はまだリジーしか表現していないから余裕がある筈。だが、イケウーマンは元々ストックが無かった。ハリウッド女優なんて大抵ボンッキュッボンだから表現しようがないのだ。実に残念である。ゆるふわ騎士はブリッコがイラッとならない程度にはカワイイとだけ言っておこう。
※
「こら、聖人一人占めしてんじゃねーよ。」
クネクネしているゆるふわ騎士を押しのけて蛇王がやって来た。セイはクネクネし続けるゆるふわの傍から、何時の間にか退避してわたしの背後に立っている。なぜ気付いたかと言うと、蛇王が来た途端に背後でゴオッとセイが荒ぶる気配を出したからだ。世界的ヒエラルキーナンバー2の責任として、わたしは片手でそっとセイを制した。
「なんだ。番犬抑えられんじゃなーかよ、ミコ様。」
今更だが、蛇王は他人には【聖人】と言い、わたしに話しかける時には【ミコ様】呼びになるようだ。何か意味があるんだろうか。まあ、こちらに話しかけてると判断しやすいからいいが。
「ミコ様、酒は飲めるか?」
セイのごうごう唸る黒い気配を警戒してか、蛇王は立ち止まった。こそっと言ったようだが、大分距離があるので皆にも聞える声だ。
(アルコールはあんまり)
「いや、私は酒は好まん。」
首を横に振ると、蛇王は分かりやすくガッカリした。酒好きによくある反応だ。
しかし聖職者は宗教によって飲めない場合もあるが、猊下達が何も言わない所を見ると飲酒は問題ないようだ。わたしは飲まんがな。社会人として付き合い程度は飲めるが、どうしてもアルコールは美味いと思えないのだ。
「何だ。夜はまだまだこれからじゃねーか。酒でも飲みながら、色々話したかったのに。」
「申し訳ありません、蛇王。朝早くのお勤めを控えておりますので、ご容赦を。」
愚痴る蛇王に、自称世話係のボクっ子がお断りを述べている。下手だったり、偉そうだったり。今一神殿の立ち位置が分からん。世界で2番目に偉い私は不動の地位なのは確かだが。
「しょうがねぇ。夜這い防止に清廉王でも誘うか。」
「そうして頂けると助かります。ミコ様の警護を担う者達が、世話になっている国の王を血祭りにするなど、何分外聞が悪いので。」
「怖ぇなぁ。」
まったくだ。ボクっ子まで、身内とも言える神殿騎士をSATUGAI犯扱いするとは怖い世の中になったモノだ。まあ世界は崩壊寸前まで行ったし、世も末なのはある意味間違ってないが。
「陛下。」
「分かっている。蛇王からミコ様を守れるのは私だけだ。」
何かあっちでも盛り上がっている。よく分からんが、ミコ様とは蛇王と陛下から命を狙われる存在なようだ。下克上か・・・面白い。わたしには神様印の絶対防御があるからな。単体では無敵だぞ。攻撃できないけど。代わりに迎え撃つのは、和風チンピラ族とゆるふわ部隊か。あいつら実力はあるんだろうが、なんとも際物な感じがしてカッコがつかないな。忍者部隊が居ればなぁ。刀を持て!とか言ってみたい。
「・・・では牡丹宮へ案内します。」
わたしが時代劇的な戦場を妄想していたら、やっと移動する事になったようだ。
あとちょっと遅かったら、射られながらも不動立ちする団長の背をセイが飛び越えるという感動の場面になったのに惜しい事をしたものだ。
ミコ語がレベルアップしてました。ゲーム大好きなミコ様の為に神様も色々手を尽くしてるようです。
そして色々勘違いをしているミコ様。懸命な信者ならすぐ分かるかと思います。とりあえずイケウーマンはイケメンの女性版のようです。
ゆるふわ騎士はいつぞやの土下座の時にいた隊長の一人です。正真正銘女性です。☆ミとか平気で語尾につけちゃう人です。どっせい。
次回、ゆるふわ部隊に魔改造された離宮にお泊りします。




