表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祈るということ  作者: 吾井 植緒
王家編
25/47

晩餐会というもの

ダラダラしてます

広々としたパーソナルスペースに易々と侵入した挙句、偉いミコ様であるわたしをみっしり詰まった肉まんじゅうの餡にした神殿騎士たちに促され城の中を歩く。

肉まんじゅうと言ってもコンビニにあるケチなサイズではない。中華街にあるようなデカイ肉まんじゅうだ。たとえ特大肉まんじゅう的な距離であっても『近ぇよ!』と言い放ちたいわたしであるが、自分の命がかかるとなると違う。わたしは主義主張より、命を大事にするタイプなのだ。とりあえず死にたくない。王都の城で死ぬような事態になるとは思えないが、とにかく死にたくない。これこそがわたしの最優先事項である。

何しろ死んだら主張だって出来なくなるのだ。

命大事に。これ大事。


周りは鎧しか見えないので、上を見上げると蝋燭でない何かで輝く大きなシャンデリアが見えた。金髪が多い国のせいか無駄に金キラキンに輝いていて、大変眩しい代物だ。天井が高いので、その大きなシャンデリアには人も乗れそうだ。

乗れそうなサイズだからなのか、神殿騎士がシャンデリアの上からわたしに手を振ってるような気がする。いやいや、きっとこれは晩餐会が憂鬱で仕方ない気持ちが見せた幻想だろう。


なんだかいい匂いがする。

どうやら、晩餐会会場についたようだ。

そっけない神殿の長テーブルとは違って、見るからに金が掛かってそうなテーブルに案内される。少人数用なのか神殿よりは短いタイプだ。中央には生花がテンコ盛りに飾ってあった。

テーブルクロスの長さが気になったらしい団長が、布地をペロリと捲っている。覗き込んでいる所を見るとテーブルの下に不審者がいないか疑ったようだ。むしろ潜んでたら、簡単すぎて凄い間抜けだと思う。

無駄に周囲を警戒する団長の横顔はキリリと引き締まっている。その顔を見て、ふと思う。団長の顔ってよく見てなかったな、と。

ちょうどいい。わたしのイケメンストックは既に枯渇しているので、別方面からのアプローチをしようと思っていた所だ。団長の顔で表現してみよう。

団長は、死亡フラグ立っちゃいそうでヒヤヒヤしてしまう人気のある脇役といった所か。恋人にしたいランキングより、上司にしたいとか友人に欲しいとかで必ず上位にいるタイプだ。一般人で言ったら、近所のオバチャンや爺ちゃんらに家の娘、もしくは孫を嫁に貰ってよ、とか言われそうなタイプ。

む、褒めすぎか?でもピンク髪、しかもマッチョ。

ヨシ、これで上がった人気も相殺どころかマイナスとなっただろう。危なく、マッチョ教教祖の好感度上げに手を貸してしまう所であった。

ちなみに団長の目の色は赤茶色だ。オシャレに色を表現すると、瓦・・・レンガ・・・紅茶色といった所か。なかなかオサレだが、現実はティーバッグを入れっぱなしにした色が近い。

マッチョ教の教祖であった為に貶めつつにはなったが、なかなかな顔の表現が出来たのではないかと自画自賛でウムウム頷きながら、セイに引いてもらった椅子に座る。偉いミコ様なので、当然誕生席の位置だ。肉まんじゅうの皮こと神殿騎士たちは空気と化しながら、わたしの席の周りをドーナツ状に覆っている。


「ミコ様、お水を・・・。」


ドーナツ包囲網を抜け、静々とメイドにしては豪華なドレスを着た女性が近付いてきた。差し出したガラス製らしき水差しを、なぜか団長が奪う。


「うむ。悪いな。」


お前の水じゃないんですけど、と言いたげなドレスメイド(仮)を無視して、団長はわたしの席にあるグラスを取ると自ら水を汲み、カパッと開けた口に水を放り込んだ。グラスに口を付けずに飲むとは、豪快な飲みっぷりだ。余程喉が渇いていたらしい。

この飲み方はわたしなら水をこぼすな。こぼさなくとも、わたしはラッパ飲みが出来ないタイプなので口いっぱいに水を溜める羽目になっただろう。


「問題ないな。」


団長は一杯で満足したにしては可笑しな一言だが、グラスを見つめて呟いていた。どうせ言うなら、マズイもう一杯がいいのに。

グラスは団長が神力を使ったのかキラキラしていた。会場もキラキラしているので眩しくて仕方が無い。城内は城というだけあって、色々豪華な作りなのだ。そこらじゅうが金キラしている。王都の人間は金髪ばかりなので髪にも反射してキラキラ眩しい限りだ。わたしは晩餐会の間、常に糸目でやり過ごす必要があるなと思った。


「ミコ様も飲まれますか?」


右後ろからのセイの声に頷く。喉が渇いていたのだろう団長の豪快な飲みっぷりを見て、わたしも喉が渇いてしまったのだ。喉の乾きは伝染するのである。

セイに注がれ、未だにキラキラしているグラスから水を飲む。

う、美味い!

なんだ、この美味い水は。王都の水だからか?それともグラスにかかった神力の影響なのか。正直、水に金払う気はなかったがこれなら買ってもいいレベルだ。王都の美味い水、2ℓ189円。そのうちディスカウントストアで値下がりするだろうから、値段設定はこれ位が妥当だろう。わたしは商品企画に携わった事はないので、適当に脳内で企画を纏めた。CMでマッチョがカパッと水を飲み干す所まで妄想する。


「神殿は相も変わらず、公平に、どの国も疑って掛かるようですね。居もしないネズミを追い掛け回していたのでは、何時まで経っても実りを見ることなど出来ないでしょうに。」


忘れていた訳じゃない宰相がドレスメイド(仮)を従えながら、なにやらブツブツ言っている。わたしが糸目で眩しさになれようと眺めていたら、宰相が独り言に気付かれたと思ったのか恥ずかしそうに顔を背けた。大人の男性の恥じらいなぞ面白くもないとわたしも顔を背けた。


「そうですねぇ。被害を考えたら、ネズミは居ないに越した事はないですからね。つい追い回してしまいます。どの国も、公平に、理解していてくだされば、我らも苦労しないんですけど。」


流石は大陸を股にかける宗教のボスである。一筋縄のいかなさと意味の分からなさは段違いだった。青銀髪を輝かしながら、猊下が宰相の後ろに立っていた。


「ミコ様、遅くなりました。」


ニッコリと笑って、猊下はわたしの右斜め前の席に座った。


(猊下も船と馬車で来たの?)


「未だ始まっていないから、遅くはないだろう。晩餐会とやらが、いつ始まるのかは知らんが。」


わたしの素朴な疑問はミコ語によって阻まれた。どうやらミコ語は、晩餐会は何時始まんのかなって気持ちを汲む方を優先したらしい。


「お待たせして申し訳ありません、ミコ様。ああ、陛下が参りました!」


宰相の声を合図に、会場の隅にいた生演奏の一団が音楽を奏で始めた。クラッシックっぽい何かは聞き続けたら眠くなりそうだ。入り口に目を向けると、着飾った金髪青年が花を抱えて立っていた。前と印象が、基衣装が違うのではっきり断言できないが、宰相が言うのだからアレが陛下なんだろう。

黄色が濃い目の金髪は短めだが全体的に緩く後ろに流され、キッチリセットされているようだ。装飾過多な紺色の上下は、とても二次元チックだ。これ以上表現が無理なので纏めると、コスp・・・王様っぽい。

団長の顔表現に調子に乗って、陛下の服装を表現してみたがやはりわたしはわたしであった。結局王様っぽいで纏めるならやるべきではなかったのである。


「ミコ様の為に用意しました。お気に召してくださるといいのですが。」


前よりはキリっとした陛下がのたまった。わたしは貰える物は貰う主義ではあるが、長持ちしない生花に関しては別である。


(ありがとうございます)


「礼を言う。だが、血なまぐさいな。」


建前好きな日本人らしく礼を述べたわたしに、珍しくミコ語が同調する。しかしその後に続いた言葉に宰相を始め、王都側の人間がビクリと反応した。


「まあまあ、ミコ様。彼らはネズミに成りたがる連中をボクらに代わって追い払ってくれたんだから、あんまり責めちゃダメだよ。」


わたしのミコ語に仰け反っていた陛下の後ろから、ボクっ子が現れた。居たのか、お前。


「世話係のボクが居ない筈ないでしょ。遅くなったのは大神官のせいなんだから、そんな怒んないでよ。」


(いやいや怒ってないよ?妄想はよくないよ?)


「人の世の事情など、どうでもいい。会を始めないなら、わたしは帰るぞ。」


イラッとしたわたしの気持ちを反映して、ミコ語もイラッとしている。

そうだ、このままズルズル先延ばしになるなら晩餐会など中止にするがいい。偉いミコ様になってから、早寝早起きしているのでそろそろオネムの時間なのだ。


「ああ、すいませんっ!スグ始めますから!」


陛下が慌てて、誕生席の向かいに走った。宰相もドレスメイド(仮)2号と名付けた、さっき水を持ってきた人とは違う人になにやら耳打ちするとすぐに席に着く。

一時止まった生演奏が再開されると、ドレスメイド(仮)軍団が列を成して食事を運び込んできた。

ちなみにボクっ子はわたしの左斜め前にちゃっかり座っている。どうやら奴も出席者とされているらしかった。自称世話係の癖になんて奴だ。


「毒見は済んでますから、あまり過剰な事はしないように。」


猊下に窘められて、団長とセイは不満そうだが従った。

モグモグしていたわたしはようやくその意味に気付く。あ、あれか。水。わざわざ毒見したのか。どうも強制イベントこなしたり、初めての外出でわたしの注意力も散漫になっていたようだ。命大事に、がモットーの筈なのに情けない。やはり平和な日本人の危機管理能力など、たかが知れているのだ。これからは偉いミコ様に相応しく、隙の無い行動を心掛けようといつも以上に野菜をよく噛んだ。

そう、ここでもわたしは野菜尽くしなのだ。


「ミコ様、次があったら魚を出してもらおうね。」


子供に言い聞かせるような口調のボクっ子も、珍しく黙って食べる猊下も。糸目にした目を凝らせば、皆野菜尽くしだった。どうやら世界的ヒエラルキーナンバー2たるわたしに合わせたようだ。長い物にそこまでまかれなくともいいだろうにと、慈悲深い気持ちになったが黙ってモグモグを続行する。別に長くなりそうな会話は面倒だから避けよう等とは思ってもいない。


「魚?ミコ様は魚は大丈夫なのですか?」


宰相がボクっ子の発言に食いついてきた。コイツも喋って食べてが得意なタイプか。向かい側の陛下はわたしと宰相を見ただけで何も言わない。彼はモグモグ仲間なようだ。仲間を見つけてちょっと和んだので、わたしは宰相の発言に頷いてやった。


「そうですか。王都は神殿にない魚も取れますし、是非今度は魚料理でもてなしさせてください。」


いや、魚だけ産地直送してくれればいいから。モグモグの最中でなければ、そう提案したのだがタイミングが悪過ぎた。わたしはモグモグしていると喋れないのである。


「そうですね。帝王が別室で待ち構えて居ないのなら、考えてもいいですね。」


代わりに返事をしたのは、食べて喋ってが得意な猊下だった。

今度は帝王?何か神殿出たら色々盛りだくさんだなぁ、と他人事に思った。

これ以上人に会っても名前どころか顔も覚えられないかもしれない危機に直面しようとは、この時のわたしは思ってもいなかった。なんてモノローグを考えていたら、ボクっ子にメッと睨まれた。


「ミコ様、ホントヒドイよね。」


そうだな。わたしは慈悲深いだけのミコ様ではない。そう開き直って見つめ返してやった。


カッコ内を声に出さないと面白いかもしれない小ネタ

神殿騎士「フォーメーションM【ミコ様】!!」

ミコ様「フォーメーションM【まんじゅう】?!」


ミコ様はイベントこなしたりして大変オネムな様子。

更にイケメン表現ストックは枯渇していた事が判明。団長の容姿が始めて出ました。相変わらず分かりにくいですが。


次回、帝王とやらのせいで陛下の影が更に薄くなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ