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祈るということ  作者: 吾井 植緒
王家編
24/47

事故処理というもの

馬車の外は、ミコ様フィーバーと貴族ブーイングのカオスである。


そんな中、金髪集団が現れた!


RPGの敵出現っぽくなったが、馬に乗ってやってきた金髪集団こと王家の騎士団は貴族の馬車に群がる野次馬を追い払い始めた。中にはあの髭もいて、忙しく動き回る騎士を顎で使っている。

どうやら髭はそれなりの地位にいるらしい。

ちなみにミコ様フィーバー派はセイ達神殿騎士が睨みをきかせているのでコチラの馬車には近づけない。


(異)世界の(馬)車窓から。

ふと思い立ったせいで、例のテーマソングが脳内を駆け巡る。ナレーションは残念ながら、わたしである。

地味な演出とは言え、奇跡を起こしたミコ様である私は大砲で揺れる程度の馬車に篭っている最中だ。

馬車にはカーテンが付いているので、刑事モノのようにカーテンの隙間から外を覗いている。ブラインドでない為、どちらかというと立て篭もった犯人っぽい。

野次馬とうっかり目が合わないように覗くテクは小学校でカーテンに包まりながら習得したものだ。別にイジメられていた訳ではない。

わたしにだって、意味もなくカーテンにぐるぐるに包まれようとする無邪気な幼少時があったのだ。


荒ぶる野次馬達を金髪集団が粗方排除すると、髭が貴族の馬車の扉をノックした。

中から出てきたのは震える子供とキツい顔をしたメイド服の女性だ。

メイドが髭に突っかった。髭がメンドウだといわんばかりに頭をかいた。メイドがキーッとなっている。漫画なら湯気が出てそうだ。

金髪の一人が馬車の下を覗き込んで、髭に報告している。子供はプルプルしっぱなしで、髭にペコペコしだした。メイドが更にキーッとなっている。メイドなのに貴族っぽい子供を差し置いて、そんな態度でいいのだろうか。

これが異世界メイドの常識だとしたら、大変な事である。わたしは自分が雇い主になった気分で、あのメイドをどう指導すべきかまで妄想した。


つい妄想でメイドとやりあってしまったわたしが憤った気を取り直して外を見ると、団長が血濡れの手を水桶で洗っていた。その背後から神殿騎士が神力でシャワー的に水を浴びせているというシュールな情景も繰り広げられている。ホント何でもありだな、神力。

騎士は鎧の血を落としてるらしいが、これが物語なら団長が半裸になって水を浴びるお色気シーンになっただろう。需要があるかどうかは不明だが。


鎧と手の汚れを落とした団長が髭と合流し、何やらやり取りしている。

ウンウン頷いた団長はひょいと貴族の馬車を持ち上げた。軽々と持ち上げた団長に金髪集団は拍手を送った。遠巻きの野次馬からもナイスマッチョの掛け声が掛かっている。この地域ではマッチョへの崇拝度もうなぎのぼりなようだ。

駆けつけた神殿騎士二人が、馬車の下にもぐりこむと金属を加工する際に出る火花のような光が二度ほど光った。多分神力で修理か何かしたんだろう。何でもアリだからな、神力。

修理を終え、下ろされた馬車へそそくさとメイドが乗り込んだ。子供貴族は置き去りである。親が雇用主だとしてもそれは無いだろう。わたしは再び雇い主になった気分で、あのメイドはもう教育してもムダだからクビにするしかないな、まで妄想した。わたしはトップに立つと冷酷になれるタイプなのだ。


貴族の馬車は金髪集団の一人が御者になり、髭の馬の先導でようやく動き出した。ちなみに野次馬にボコボコにされた御者は駆けつけた医者に引き渡されて治療するらしい。

貴族の馬車を見送った団長が愛馬に乗り込むとこちらの馬車も動き出す。

ミコ様フィーバー派だった野次馬が道なりに手を振っているのが見えた。よかった、ミコ様崇拝度はマッチョ崇拝に負けてはいない。


そういえば誘拐犯であり、雇い主でもある神様から今回の時間外労働に対して

『王子としっぽりタイムなんて、どう?』

という要らぬ報酬の打診があった。神聖なミコ様に対して、報酬がシモ過ぎる。

あの王家本の主人公たちならチヤホヤお断りですよ?とか言いながらもその恩恵に浸りそうだが、神聖なミコ様とはボランティアも厭わないのだとキッパリと断った。医者だって道端で人を救って金は要求しないだろう。まぁ、一部例外もあるだろうが。

ていうか、いたのか王子。若い陛下だったから、弟かな。まさか他の国・・・いやいや、いらぬフラグは立てないに限る。

神様のあからさまな舌打テレパシーも無視するに限る。


 ※ ※ ※


午後から出発したせいか、辺りは夕日に照らされている。わたしの文学的表現も中々なもんだ。いやもっと捻った方がいいだろうか。街はオレンジ色に染まっている、とか。

異世界とはいえ、太陽は一つだ。色も同じである。

沈み行く太陽からは目を逸らしておく。わたしは元の世界の頃から、夕方になるとセンチメンタルになってしまう。毎夕、月曜日を控えた日曜日的な切なさを覚えるのだ。


そういえば今夜にも晩餐会の筈だが、間に合うのだろうか。

滞在期間を短くしたい神殿側の意向とは言え、船旅後に晩餐会とは結構なハードスケジュールだ。

城下町だからなのか、街道にはなぞの光源により光る街燈が立っている。

扉側の壁を叩かれ、小窓のカーテンを開けるとセイが前を指差していた。前の窓から覗き込めば、御者である神殿騎士越しに城壁に囲まれた城が見える。

あれが王家の城か。

ついでにさっきの馬車も見えた。行き先は同じだったようだ。


ご立派な城門を潜り、城の入り口前に馬車は止まった。イメージ的にはホテルの前のロータリーに車で入った感じである。

扉が開かれ、靴を履くべきか迷っていたわたしに声がかけられた。


「ミコ様、お待ちしておりました。」


なんという重低音。

さぞかし渋いに違いないと扉の方を見たが、そこにいたのは若い男だった。わたしは声優キャスティングを間違えたアニメを見た気分になった。

若い男は金髪だが少し色が薄い。金髪の人が白髪になりそうになった感じで目は濃い青だ。イケメンだが、ジャンルが難しい。北欧にいそうな感じとしておこう。そろそろ、わたしのイケメン表現のストックも尽きそうだ。


「ミコ様、私は王家にて宰相を勤めております。」


もうイチイチ名前が長いのと覚えられない事は言わなくてもいいだろう。コヤツも長い名前だったので、宰相と言う部分を覚えられただけでもヨシとせねば。


「ミコ様の出迎えに宰相程度とは。」


突然不満を述べ、威圧する団長に宰相は苦笑している。神殿的には世界で二番目に偉いミコ様を出迎るのに、宰相では物足りないらしい。

マッチョな威圧に下がった宰相の変わりに扉の脇に立ったセイに靴は不要だと促され、馬車を降りた。わたしの周りは神殿騎士達にすぐさま固められる。どんだけ危険地帯なんだ、ココは。

呆れた私の足元に現れた花びら絨毯に城の前に集まっていた人々から感嘆の声が出た。コノ程度でよろこんでいただけて何よりである。


「ミコ様、申し訳ありません。王を差し置いて私が出迎えを強行したのでございます。」


(はげしくどうでもいい)


「よい。それより用件を済ましたい。」


正直なわたしの気分を表したミコ語が威厳ばっちりに返事をする。最近わたしの日本語も本音がただ漏れになってしまって困ったものである。

とりあえず崇高なミコ様は誰が出迎えようとイチイチ気にしたりしないので、憂鬱な晩餐会をさっさと済まして帰りたい。


「そうですね。早く済まして神殿に帰りましょう。」


セイが同意する。団長と騎士たちも頷いた。皆の心は一つだ!


「ミコ様、先ほどは申し訳ありません!」


心が一つになっているミコ様一行に子供のような高い声がかかった。壁になっている神殿騎士が一斉にその方向を向いた。護衛として優秀なのかもしれないが、肉壁の内側としてはちょっと怖い光景だ。

宰相が声の主を窘めている。


「侯爵、突然声を掛けるなど・・・。」


「申し訳ありません、兄上。」


「ここでは宰相だと言ったでしょう。」


「あ、申し訳ありません。宰相殿。」


宰相の傍に歩み寄ってきたのは先程の貴族の子供だった。どうやら彼らは兄弟らしい。そう言われると金髪が薄い所とかがそっくりだ。

二人は顔は似ていない。子供侯爵は天使画とかに使われてそうな可愛い系で、宰相は端正なタイプ。大人になったら子供侯爵も端正になるのかもしれないが、大人になっても似ない兄弟もいるから何とも言えない。たとえばわたしと妹とかな。ちなみに弟は小さい頃はわたしに似ていると言われていたが、今はどうなっているだろう。

なんて、どうでもいいことをわたしが考えているうちに兄弟間の報告は終了したらしい。


「馬車に細工がしてあったとは言え、ミコ様のお手を煩わせたようで・・・誠に申し訳ありません。」


肉壁の隙間から二人揃って頭を下げているのが見えた。

うーむ。確かに何やら修理はしていたが、あの馬車には細工がしてあったのか。陰謀渦巻くサスペンスが大好きな神様なら飛びつきそうな話である。


「ミコ様のお陰で、被害にあった子供は無事との事。何とお礼を申したら。」


「侯爵、だったな。」


肉壁前方を固めているセイが一歩前に出ていた。

しかしセイの開けた穴はすぐに団長によって塞がれる。連携はバッチリなのはいいが、わたしには情景がよく見えんのが難点だ。


「ミコ様は慈悲深きお方ゆえ、下らぬ陰謀に巻き込まれた民を捨て置けなかっただけだ。」


肉壁がセイの言葉に一斉に頷く。


「決して貴様の為ではない事を覚えておけ。」


またもや頷く肉壁の隙間からブルブル震える子供侯爵が見えた。わたしは宰相あたりがこの空気を変えてくんないかなぁと思ったら、アチラもそう思ってたらしくコッチを見ていた。こっちみんな!わたしは場を治めるのが苦手なのだ。


「それと宰相、今後ミコ様を煩わせる可能性がある者を近づけたら神殿で処理させていただくので心してもらいたい。」


「ミコ様の慈悲はそういった者には及ばないのですかね。」


「そのお陰でこの国があるのを忘れたとは言わせないぞ、宰相。」


宰相の嫌味ったらしい言葉に肉壁が密着度合いを増したので、後に聞えた不穏なセイの言葉は酸素不足のせいだと思う事にした。わたしは『神の衣』効果で気温的な暑さ寒さは感じない筈だが、筋肉的な暑苦しさは別なようだ。実に暑苦しい。


「そうでしたね、失礼致しました。ミコ様に目障りな侯爵は先に行かせますので、ご安心を。」


わたしに濡れ衣を着せた宰相に促され、子供侯爵はトボトボと城へ入っていった。目障りだなんて言ってないからな!とその背中にテレパシーを送ってみたが残念ながら神様ではないので届かない。


「さて、今宵の晩餐会はかなり力を入れております。ミコ様もきっとお気に召すでしょう。」


すでに暗くなっている中、どういう仕組みか知らんがライトアップされた城内へなんとも曲者な宰相に促されながら、神殿騎士の肉壁に囲まれたままのわたしは渋々と進んだ。

憂鬱な晩餐会の始まりである。


王家の城下町でマッチョ崇拝度も上がりました。ミコ様は少々ライバル心を持ったようです。


宰相と弟の子供侯爵登場。ありがちな話で、兄が宰相になるから弟が侯爵継いだとかそんな感じです。

画家のブレッド氏と違い、なんの興味もないのでミコ様はセイに威圧される子供侯爵を庇ったりしません。宰相とのやりとりも見てるだけで完全他人事です。途中筋肉が暑苦しいので聞いてなかったりもします。


次回晩餐会本番。ミコ様が黙ってモグモグします。

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