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祈るということ  作者: 吾井 植緒
神殿編
21/47

一族というもの

少しだけミコ様の一族について。よくある設定です。

胸糞悪い話がでます。さらっと流してください。

『お前の一族面白いなぁ。トリッパー多すぎ。』


神様が笑う。

多分文字にすると草を大量に生やしている事だろう。

確かに一族は行方不明者が多い。あと本家筋には変わり者率が高いと言われている。

父親は本家の長男なのに、公務員という変わり者だと分家の人達には言われている。公務員、いいじゃないか堅実で。

わたしも迷ったんだが、結構多忙になると分かり民間に就職した口だ。そうしたらもったいないと分家の人達に嘆かれた。なぜだ。

どうでもいいが、行方不明じゃなくてみんな異世界トリップしてたのか。結構あることなんだな、異世界トリップ。

消えた妹に対して、畜生、わたしより先に宇宙に行きやがってとか思ってしまったじゃないか。

ちなみに父親は「てっきりお前が消えるかと思ったのに、結子かぁ。」と暴言を吐かれたので、誠に遺憾であると慰謝料を請求しておいた。「悪気はなかった。」と百円しか差し出さない父親は分家や外では人畜無害と評判である。

母親は「覚悟はしてたんだけど、辛いわぁ。」と食事が喉を通らないと甘味をむさぼり食っていた。この夫にしてこの妻ありだ。

弟はなんか一々ツッコミを入れてたようだが、聞き流してたので覚えていない。

昔は消えた後結構戻った人もいたらしい。

神様曰く、勇者してたからだそうな。勇者(笑)。妹も勇者(笑)なら帰れるかもしれないが、神様は心を読んでるくせに何も言ってこない。

まぁ、アイツは結構図太いので大丈夫だろう。


 ※ ※ ※


世界最大宗教といっても、全部の国が崇め奉ってるわけではない。

支部がない国もあるのだ。一応、創世神と認めてはいるらしいけど。


支部がある国では神殿は裁判所的な役割も担っている。あの神力で有罪、冤罪なんでもお見通しなそうだ。

ちなみに、この世界には犯罪者の人権というのはない。

他人を害している時点でそんなものはないらしい。人権が認められたいなら、そもそも犯罪を犯すんじゃないといった厳しさである。

軽犯罪でも厳しい扱いになるようだ。生きてるだけマシだろ、的な。

というのも一度犯罪の誘惑に負けると、魂に傷がついてしまう。そうなると、自分ではもう抑止できなくなるので生まれなおすしかないという神様からの教えだそうな。

そして強姦や殺人は、神殿がない国でも死刑になる。

なぜなら、再犯するというのを実証してしまった国があったからだ。


その国は特に神様を崇めてなかったので神殿も支部を置かず、各領主が裁判官的な事をしていた。

で、ある領主が強姦犯の『女が誘ってきた。あんな色っぽいのが悪い。』というのを鵜呑みにして釈放したらしい。

そいつは見事に再犯した。領主の娘を強姦したのだ。しかも幼女。胸糞悪い。

許してくれた領主の娘だから、いいだろう。そんな感じだったらしい。胸糞悪い。

もちろん、領主は犯人を八つ裂きにした。前の被害者とその両親も。

なぜなら、領主の娘をおびき出して犯人に会わせたのが、被害者とその両親だったのだ。

この後味悪い事件以降、他の国でも似たような事例が続いて、結局殺人・強姦は死刑にするしかないという事になったそうな。


あー、なんて胸糞悪い話を聞かせるんだ、ボクっ子よ。

意外とボクっ子の語り口が良かったので、つい耳に入れてしまったじゃないか。こんなのケーキ食いながら聞く話じゃないぞ。

ただでさえ生クリームで胸焼け起こしてるのに、胸糞悪い話で益々胸焼け状態になったじゃないか。


正直に言おう。

わたしは生クリームがあまり好きではない。大量に摂取すると胃がもたれるのだ。


そんなどうでもいい方向へ思考を持っていきながら、ボクっ子持参のケーキにのった生クリームを削ぐ。

多いなぁ、生クリームは少なくていいのに。そもそも生クリームなんてソース的な位置づけなのに、何でこんなに重用されるんだ。

甘さ控えめな生クリームたっぷりなら、甘い生クリームがちょっとの方がいいと思う。

そういえばわたしのケーキの食べ方について、妹には実験のようだと評されたコトがある。クリームの削ぎ方もスポンジをフォークで切るのも綺麗過ぎて、これから実験に取り掛かるように見えるらしい。

意味が分からないので、会社でケーキを食べる時に雑談として同僚に披露したが何故か納得された。

あのプレミアムなロールケーキってあんなに生クリーム要らないよねって言った時同様の疎外感を感じた。


「何か、綺麗だけど・・・食べてるって感じじゃないよね。切り分け方が実験染みてるって言うか。」


ボクっ子、お前もか。どうやら妹の感性は異世界にも通じるらしい。


「ミコ様、生クリーム苦手なんだね。」


わたしの弱みを見つけたかのように得意気な顔をするボクっ子をシカトして、ふわふわなスポンジを口に運ぶ。


「あの絵、かなり好評価だったよ。あれはあれでいいけど、ボクは生身のミコ様のが面白くて好きだな。」


(そりゃどーも)


「そうか。」


ボクっ子の気持ち悪い言葉はミコ語で流すに限る。

リア充の言う面白いなど、当てにならないのだ。これほど上滑りして中身のない言葉はない。

そういえば例のあの別人のミコ様絵は、民に見せる為に用意したモノなので、各支部の祈りの間に飾ってるらしい。

ちなみに神官たちは神力でわたしの姿を知っている。イメージ的にはパソコンの共有ファイルにある画像を見たような感じだ。

神力の持ち主が見た映像は共有可能なんだそうな。ホント何でもアリである。


「こんなに酷い人なのにね。なんでだろう。」


斜め横のソファーに座るボクっ子をチラリと見ると、大人っぽい表情を作ってわざとらしい溜息をついている。そんな顔もアイドルフェイスなので、雑誌の1ページのようだ。

つーか、酷い人とは心外である。不敬なボクっ子に対しても慈悲深く、黙って接しているというのにどこが酷いというのか。誠に遺憾である。そのうち纏めて謝罪と賠償を請求しなくては。


「ま、王様には優しくしてあげなよ。」


わたしが内心プンスカしているのに気付かないボクっ子がのたまう。

陛下に優しくか。わたし的には無視しないだけ十分優しくしていると思うのだが。あの残念上司っぷりではそれ以上優しくしても無駄に思える。

世界的ヒエラルキーナンバー2のミコ様としては、下々である陛下にはもっと上司らしく頑張れと道を示すべきなのだろうが、わたしの直属部下でもないのにそこまで教育する義理はない。


「王弟は心配ないけど、王様は萎縮しちゃってるから。優しくして惹き付けておかないと攻略できないよ。」


攻略って、乙女ゲーかよ。

この場合、上げるのは好感度じゃなくて崇拝度だけどな。ボクっ子の態度も崇拝度を上げれば変わるのだろうか。

神官達は崇拝度マックスっぽいな。あのウザさはきっとそうだ。


「あのねぇミコ様、ある程度は媚びないと人気なんて続かないモンなんだよ。」


なんと、アイドルみたいな事を言うアイドル顔である。

つい驚いて二度見してしまったわたしにボクっ子はドヤ顔で言った。


「世話係として、忠告したからネ。」


おい、お前いつからわたしの世話係になったんだ。


 ※ ※ ※


「もうしわけありませんっ。」


晩餐会の打ち合わせがしたいという猊下に食堂に来いと呼びつけられたので行けば、待っていたのは騎士団の土下座であった。

なんかよく分からんが、よいよいと手を振りながら前を横切り、セイの引いてくれた椅子に座る。


土下座の騎士達は男女混合で見かけた事がない人が多い。部屋がそんなに広くないので、三角形ではなく横並びである。


「ミコ様、会食は王家にて行われることとなりました。」


猊下の言葉に眉が上がる。思わず、え?なんだって?とジェスチャーしそうになったが、猊下は遠くにいるのでやってもおかしくない動きの筈だ。


「初代ミコ派殲滅の件で王家に借りができてしまいましたので、ミコ様が王家に招かれる羽目に・・・。」


土下座で上目遣いの団長が言う。わたしに近い位置にピンク頭のデカイ人がいたので多分そうだなと思っていたが、団長が土下座組みにいた。

殲滅担当が並んでいるらしい。セイは犬係だから免れたようで、忍者もいなかった。


「我々が、不甲斐ないばっかりに!」


再び頭を下げた団長は動かない。困った。何がなんだか分からないわたしとしては説明が欲しい。

ミコ様としては慈悲深く許してやりたいが、流石に出張となると別である。

言い訳でもいいから、何でそうなったのか知りたい。出張を免れる為には内容の穴を突く必要があるのだ。元の世界でもそうやって・・・ゲフンゲフン。


(何の話なんすか?)


「どういう事だ?」


多少イラッとしてるわたしの気持ちを汲んだミコ語は厳しい声になっている。土下座中の騎士達は頭は上げないが、揃ってビクッとしていた。


団長が何も言わないので、長いテーブルの向こうにいる猊下を見る。

ヤレヤレと深い溜息をついて猊下は頭を振ってから、口を開いた。

猊下が言うには、初代ミコ派の勢力を削いだのは王家の宰相と閣下で、借りが出来た形になった神殿としては、良かったら王家に来ませんか?ってのが断れずって事らしい。

そういや、前にどっかが暴れたお陰でどーのこーのと言う会話を耳にしたかもしれない。


そんな猊下の長ったらしい説明に飽きたのか、土下座組みの騎士達はおしゃべりをしている。


「王弟に引っ掻き回される前にとっとと始末すりゃよかったんだよ。お前らが。」


「ミコ様は今が大事な時期。お守りするのが騎士の急務だ。」


「そんなん俺らの隊がやるから、いーんだよ。責任とって左遷しろ。」


「お前こそ左遷しろ。結局始末したのは私の隊だしぃ。ミコ様にお褒めの言葉貰っちゃったりして・・・キャハッ。」


「いやいやミコ様はお前だけは褒めないね。お前だけは。」


「大体なんで王弟が出張るわけ?ミコ様の情報探ってたわけ?ストーカーなわけ?死ねばいいのに。」


「ミコ様に来いなんて何様だよな。ストーカーのくせに。」


「ストーカーなら処罰の対象じゃね?ヤれるって事じゃね?」


「そうか、アレが消えればミコ様も行かずにすむしな。」


結論、閣下はストーカーなので死刑。騎士達の一方的な裁判は満場一致で採決となった。

最初はコソコソ言い訳染みていたのに、途中からどうどうと話し始めた騎士達に呆れて黙ってみたんだが、これは酷い。猊下もポカンとしている。

じゃ行って来ますか、と剣片手に立ち上がった騎士たちが出入り口で止まる。

団長がカバディポーズで塞いでいた。


「ちょっと待て、お前ら。」


「団長、さくっと消してきますんでどいてください。」


「アホか、お前ら。そんな事したって解決にはならないんだぞ!」


「大丈夫ですって。俺らで掛かれば国のひとつやふたつ。」


「そういう問題じゃない!王家を皆殺しにして、ミコ様はいかなくて済んだとしよう。」


なんか団長の前提が酷い気がするんだが、止めるんじゃないのか。


「で、誰が治めるんだ?アノ国を。俺は嫌だぞ、ミコ様のお傍にいないといけないし。」


ミコ様の傍離れたくないから、王家の暗殺やめようぜって説得してるように聞えるが気のせいだろうか。


「えー、ソコは団長に決まってんじゃないですか。私がサクっとヤってサッサと帰ってくるんで、頼みますよ。」


「そうですよ。俺が傍にいますんで、安心して王家の代理・・・いっそ王になったらいいと思いますよ。」


代表なのか女性騎士と男性騎士がアーン?といった感じで団長を挟んで睨む。団長も負けず劣らず凶悪な顔になっているのでヤンキーような睨みあいは終りそうにない。

出入り口は猊下が近いので、さっさと止めればいいのにと思っていると、騎士達を見ていた猊下がコッチをチラリと見た。そうして又騎士を見た後、再びコチラに体を向き直した。じーっと真剣な顔でわたしを見ている。

なんか『止めないといけないけど、めんどくさい。ここは偉いミコ様が止めてくださいよ。躾は大事だよね。』的な。イケメン顔が表情豊かに語っている。こっち見んな。


仕方がないので、フーッと声になりそうな位の溜息をつく。ミコ語は声にならなければ対応しない。

睨み合っていた騎士達がこっちを向いた。


(日程決まってるんですかね)


「出発はいつだ?」


「先方の希望もあり、明日の午後にも。」


猊下が素早く回答する。そうこなくっちゃって顔するな。


(早いなー、めんどくさい)


「そうか。護衛だけ付けてくれ。それ以外はナシだ。」


ミコ語が王家に行くから護衛だけしろ、侵略的行為はダメって含みを持たせた。猊下も騎士団も了解したと頭を下げている。その後誰がついていくかで揉めだしたが、それについては知ったことではない。


「お疲れ様です。王家には私が付いて行きますので、ご安心を。」


終始空気になっていたセイが紅茶を差し出してくれた。まったく、気が利く犬係である。


ミコ様の血筋はどうも異世界に飛びやすいです。勇者(笑)も結構いたようです。ミコ様っぽい人が多いのでテンプレフラグはことごとく破壊してそうですが。

父親に悪気はありません。お互い冗談だと分かってやりとりしています。

ミコ様が公務員忙しいと言ってるのは、司法試験に受かってるからです。公務員一種も持ってます。意外と優秀なミコ様です。


アノ場にいた騎士たちは隊長クラスです。女性の隊長もいます。ミゲルも隊長ですが、隠密系なので土下座組みにはいませんでした。

みんなミコ様の傍にいたいので、初代ミコ派の討伐に行くのを渋ってました。誰が行く?お前行けよって感じです。相手が来たらフルボッコに出来るので、後回しにしてたようです。


自称世話係が増えました。ボクっ子は元幹部なので、真面目にやれば話し上手だったりします。神官なので、説法もできます。


次回は王家へ行きます。宰相がやっと出てくる予定。

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