陰謀というもの 中編
この世界に遺伝子という概念は無い。
なぜなら遺伝子という要素は、元の世界の神様グループが開発したスペクタクルな仕組みだからとか。
太っ腹にも情報は全公開されてるらしいんだが、神様はその難解さにサジを投げたそうな。
まぁ、組み合わせは無限大だからね。
頑張って取り入れてる神様もいるらしいが、複雑な組み合わせはメンドイのでせいぜい色素遺伝がイイトコらしい。
ちなみにこの世界、肌の色は白・黄・黒が大多数である。インスパイア元がわたしのいた世界なので仕方ない。
もう丸パクでいいんじゃないかな、と思っていたけど神様曰くパクるのも知識が無いと大変なようだ。
肌の色に先祖や親の色は関係ない。なんと、神様によるくじ引きの結果だそうな。
思わず、一々生命体が生まれる度にくじを引く発光体を想像したが、実際にはそうではなく宿った段階で結果が出てるようになっているとか。
なんかコンピューターみたいにシステム化されてるようだ。
大当たりすると赤とか、青色の肌で生まれてくるようになっている。当たりとしても嬉しくない色である。
当たり色は少数なので差別されそうだが、これらの色は神様から加護と言う名の才能が貰えるので大事にされるらしい。
神殿にお達し済みだと笑う神様に、抑える所は抑えてるなと感心するべきなのだろうか。
髪の毛と目は大体同系色になる。忍者のように稀に違う人もいるが、肌ほど倍率は高くない為オマケ的な才能は付かない。
というか、この辺は適当らしい。肌を考えるのに疲れて、面倒になってしまったのだろう。
肌色の1等は紫だが、未だ当選者がいないようである。
特賞として柄模様を付け足そうか迷ったと言う神様が断念してくれて良かったと思う。
流石にそんな肌は凄い才能があったとしても嫌過ぎるだろう。
※ ※ ※
顔色が悪い。
パンの耳を見たわたしの感想である。
いや、違った。ミーミ・ブレッド氏を見たわたしの第一印象が『顔色が悪い』である。
いつもよりはやくおきたせいか、わたしは少し頭がはたらいていないのだ。
油断すると、かんがえもひらがなになりがちである。気をつけよう。
パンの耳は某宇宙戦艦の総統みたいに青い顔をしている。もしかしたら地青なのかもしれない。
分かりにくいかもしれないが、地黒の青バージョンって意味である。
とにかくもともと青い肌の色だとしたら、彼は当たりくじな人間と言える。
だが、それを差し置いても顔色が悪い気がする。
「はぁ・・・。僕はミーミ・ブレッドと申します。ミコ様を描く栄誉をいただけて光栄に存じます。」
溜息、のち、棒読み。
棒読みだが、フランス映画に出てきそうな艶かしい声をしたイケメンである。歳は20代後半のようだ。
金髪にこげ茶色の目をしている。ほどよく焼けたトーストのようだ。流石パンの耳である。
なぜかパンの耳はわたしの上を見ては、目を泳がせている。まるで他人と目を合わせられないわたしのようだ。
これにはかなり親近感を覚える。才能のある画家らしいし、これは偉いミコ様としては破格の対応をしてあげなくてはいけないな。
「えー、本日は僕が同行する事を許していただけないでしょうか。」
どうやらパンの耳は動くわたしを見たいらしい。
絵のモデルなんてしたことがないわたしは、カッコいいポーズでジッとしてろとか言われても困る所だったので快諾する。
ちなみにカッコいいポーズ談義はお互い譲れないポーズで決裂したとボクっ子が言っていた。むしろ決まったら、そのポーズをさせられそうだったので良かった。
(いいっすよ)
「好きにしろ。」
おい、ミコ語。ちょっと硬いよ、軽く返事したわたしの意向を汲んでくれよ。
「あ、ありがとうございます・・・・・助かった!」
益々顔を青くさせながら、パンの耳はわたしの上を拝んだ。なんだろう、彼はわたしの上に何か見えるのだろうか。守護霊的なモノならいいが、それ以外はちょっと困るな。
「ミコ様、そろそろ時間です。」
正面にいるパンの耳と一緒に来た筈のセイはいつのまにか後ろに控えていたらしい。背後からの声に反射的に『うむ』と頷いてみたが、パンの耳がブルブル震えるのが気になって仕方が無い。
やはり体調が悪いのではないだろうか。健康体なわたしは今まで気にした事がなかったが、そういえば医者はこの神殿にいるのだろうか。
それともアーティスティックに、朝は弱いというヤツなのか?
「ソレは加護持ちなので、ミコ様がご心配する必要はございません。」
(そうなの?)
「そうか。」
うむと頷きながら、なんだ肌は地青か~と思う。
パンの耳がブルブル震えるのは偉いミコ様に謁見しているからだな。今までの下々でこんな震えるのは居なかったから思わず心配してしまったじゃないか。
ミコ様らしく、わたしの慈悲深さも自動的に発揮されているらしい。いい事である。
「私の事はその辺の虫程度に思っていただければ「おい、ミコ様がいらっしゃるこの神殿に虫がいるわけないだろうが。」・・・ヒィッ。」
なんか卑屈になりすぎてかわいそうなパンの耳の発言にセイが低く被せてきた。
イケメン台無しな顔でパクパクしているパンの耳がチンピラに揚げ足取られた小市民のように見えてきた。
(セイ・・・どうした、オマエ)
「やめろ、セイ。」
「ハッ。」
振り向いて、ミコ語でたしなめるとセイがいい返事とは裏腹にショボーンとした顔をした。
なかなか器用な犬係である。
おお、そうか。セイは犬係だが、神殿の人間ではないパンの耳と対面しているミコ様の為に気合を入れすぎてしまったのだろう。
団長やらがいないのだから犬係のセイの気合が暴走しても仕方が無い。しかし、今後出世するだろうセイの為にもこれはキチンと言い聞かせないと。
(パンの耳・・・いやミーミ・ブレッド氏には悪気がないんだから、イチャモン付けるのやめなさい)
「煩わさないようにとの、画家の気遣いだ。過剰に反応する物ではない。」
おお!ミコ語が久々にわたしの言葉を大体合ってる感じに伝えたぞ。
「流石はミコ様。寛大なお心でいらっしゃる。」
ちょっとミコ語に感動している間にセイが頭を下げた。
なんつってたか聞いてなかったが、頭を下げてるという事から分かってくれたようだ。
(とりあえず、お勤めしないといけないから行くか)
「祈りに行く。付いて参れ。」
なんかキリッとしたミコ語にハハーッと言う感じで二人が頭を下げた。
うむ、と頷いてミコ部屋を出る。扉係もヘヘーッと頭を下げていた。慈悲深さだけでなく、ミコ様の威厳も絶好調なようである。
※ ※ ※
出勤は同伴できても、流石に勤務中はお見せできないのが残念である。
嘘です。
わたしの祈ってる姿なんて、無になってるから自分では見れないんだが、恐らく寝てるようにしか見えないだろう。
跪いて、荘厳な雰囲気なんか出せたらいいのだが、出来ないのだから仕方が無い。
祈りの後は神様との雑談タイムである。
神様はワクワクしているのをワキワキとした動作で表現している。
古いな。そう思うと、ちょっとガックリしていた。
いい加減、心を読むな。
『加護持ちは始めてだろう。どうだ?』
「青い。」
『確かに。』
神様とはミコ語を介さずに話せるから楽である。
「パ・・・ブレッド氏は絵の才能だけなのか?」
『ん?霊的なモノなんてこの世界には存在しな・・・創るか?』
「断る。」
神様のええ~、せっかくだから創ろうよぉ、という猫撫でテレパシーは無視する事にする。
そうなると、パンの耳が頭の上を見てブルブルしていたのは何なのだろうか。
とりあえず深く追求しない性質であるわたしは霊的な何かではないと言う事が判明したのでヨシとする。
わたしの防御はカンペキだか、攻撃手段はない。なので、攻撃は騎士団に頼る事になる。
霊的な何かと対峙するとなると、騎士団も荷が重いのではと少々心配していたのだ。
まぁ、あのデタラメな神力なら霊的なモノもビーム的な何かで滅せそうだが。
『今日は、アレだ。パンがふっくらしたぞ。』
「ん?」
意味が分からない。
『オマエが加護持ちの事を考えていたからだろう。イースト菌が活性化したんだ。』
どうやら祈りの結果らしい。
『いや~、米は大体網羅できたんだが、パンは上手くできてなかったから助かったよ。やっぱ持つべきモノは異世界のミコだね!』
なんと、わたしは神様のパクリに力を貸してしまったようだ。
そういえばこの世界でパンはまだ食べたことがない・・・というかパンがあったのか。
『せっかくだから、頼んでみれば?祈りの結果を確かめたいとか言えば、出してくれるんじゃね?』
そうだな。あの赤髪神官ならもう結果は把握済みだろうし、もしかするともしかするかもしれない。
パクリの片棒を担ぐ羽目になった原因である、パンの耳が待つであろう扉の前に出るとパンの耳は萎れて・・・おっと失礼、グッタリしていた。
何があったのだろうか。え、衛生兵はどこだー!と叫ぶ兵士の気分になりながら、キョロキョロするが階段の前にいつもいる筈のセイがいない。
パンの耳の為に医者でも呼びに行ったのだろう。気が利く犬係である。
「ミ、ミコ様。」
(大丈夫っすか?)
「大丈夫か?」
「ぼ、僕は駄目な画家です。こんな大役、受けるんじゃなかった・・・もう、許してください。」
ガクッと項垂れ、白目をむいていたパンの耳にわたしはゆっくりだが駆け寄った。
し、死ぬなパ・・・ミーミ・ブレッドォオオオ!二次元ならここで次回に続くとなり、哀しいBGMが鳴り響いていたに違いない。
すでに色々脅され済みなミーミ・ブレッド氏登場。
騎士団は抜かりがないので、事前打ち合わせでしっかり脅しています。ミコ様は自分の威厳にびびっちゃったかぁ、まいったなぁ的な気分でいるので、全然気付いてません。セイはミコ様がちょっと画家に優しいので画家に殺意が沸いてます。
ちなみにミコ様は人間が怖いので霊的な人型も怖いとは思っています。ただ一般的な怖がり方と違い、生きてる人間相手と同じ対応になります。
いい加減陰謀とは無縁な次回は、仕事が速い赤髪神官がふわふわパンをミコ様に献上する予定です。
パンの耳は生きてます。たぶん。




