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祈るということ  作者: 吾井 植緒
神殿編
17/47

陰謀というもの 前編

肝心の陰謀については深く考えずにお読みください。

忍者は気配を消しているだけかもしれないと周囲を見回すが、やはり姿がない。

だが、ヤツは忍者である。沸いて出てこれるなら、突然消えてもおかしくはない。

しかしこの部屋に秘密の出入り口があったら嫌だな、後で神様に相談しよう。

わたしが折角思わせぶりな事を思ってみたのに神様からのテレパシーはなかった。

今更プライバシーに配慮したのだろうか。

そんな事を思いながら、膝にいるユキはの喉に手をあて、その振動を確認する。ユキはゴロゴロ音を立てる猫ではないので、喉に手を当てないとご機嫌かどうか分からないのである。

神様からは『プライバシーポリシーは守ってます』という意味の分からないテレパシーが来た。

人の思考を読んで返事をした時点でおかしいと言う事に気付いてほしいものである。


「ィギャーゥ。」


ご満悦なユキの鳴き声に団長が硬直するのが見えた。まぁ、ユキはとてつもなく愛らしいネコだから釘付けになるのも致し方ないのである。だが、そのせいで団長の拘束から抜けたボクっ子がソファの後ろに回り込み、上半身を乗り出して話しかけてきた。


「やつらはねぇ。ミコ様の姿を知ってるのは一部だけだから、そいつら殺して摩り替わる計画だってさ。」


わたしの姿はこの神殿の人間はほぼ知っている。幹部は初日に勢ぞろいしてたし、大名行列のように練り歩いたから、下っ端の神官もわたしの姿を見ている筈だ。あとは王家の人達か。そうなると、結構な人数になると思うのだが、それを殺してとなるとかなり大掛かりな計画となるんじゃないだろうか。

まあ、相手がボクっ子だから適当に言ってみただけかもしれないなぁと思っていると、猊下が重々しく口を開いた。


「初代ミコ派はこの神殿には出入りできませんので、正確な情報は掴めていない為そのような計画を立てていると思われます。警備は厳重になっておりますし、初代ミコ派には監視をつけておりますが、万が一と言う事もございます。そこで、ミコ様に一つ提案があるのですが。」


監視か。忍者のせいで、隠密部隊が天井裏に潜んでいる図しか思いつかない。

しかし、そうなると初代ミコ派はよっぽどアレでない限り、杜撰な摩り替わり計画を実行するとは思えないんだが。ホンキで実行できるとなると、もうテロリスト集団か軍隊でも持っている事になる。


(まあ、万が一があったら困るわな)


「では大神官、提案とはなんだ?」


「はっ!お披露目をさせていただけないかと。」


頭を下げた猊下にわたしの半目は糸目になっていた。

皆にお披露目と言えば、暗殺である。バルコニーで下々に手を振るわたしに矢が刺さるとか、どっかでパレード的な感じで練り歩くわたしに沿道から刺客が襲い掛かるとか。

もしや、猊下はわたしに万が一が起きてほしいんじゃないかと疑惑を持っていると、ボクっ子がエヘンとわざとらしい声を出して踏ん反りかえった。


「ミコ様の絵姿が広まれば、摩り替えなんて出来ないもんね。」


絵姿を広めるのか。それなら、わざわざ出向かなくてもお披露目できるな。

わたしは公衆の面前での暗殺フラグが回避されたので少しホッとした。


「万が一、ミコ様に近付けなどさせないが、確かにそうだな。だが、ミコ様の神々しさを描ける画家など、そういるわけもないだろう。」


団長の鼻で笑う声にボクっ子がドヤ顔をした。


「あのミーミ・ブレッドだよ!」


「なんだと、ミーミ・ブレッドだと!」


なんだ、そのパンの耳みたいなヤツは。

つーかわたしの肖像画を公開するよりも、とっととその危険な集団を何とかした方がよくないか?ミコ様が許すから、騎士団頑張れって。何の為の武装なんだよ。

『そうそうもっとサスペンスっぽく、初代ミコ派のスパイは誰だと疑心暗鬼になる騎士団、くらいには頑張ってほしいよな。』じゃないよ。神様は2時間ドラマでも見てろよ。


「ミーミ・ブレッドかぁ。なるほどな。」


神様にツッコんでる内にわたしの脳みそにその名前は見事刷り込まれたようだ。

異世界人にしては短い名前だからか、パンの耳!いや、耳パンだからだな。

惜しいな。イヤー・ブレッドなら完璧なのに。

いやいや、そんな事に興奮している場合ではなかった。


「ええ、あの、ミーミ・ブレッドならミコ様のお姿を描くに相応しいかと。」


「王家の宰相のコネって凄いよね。」


「お礼に会食程度で済んだのが何よりです。さっさと済ましてしまいましょう。」


テヘペロとしたボクっ子とシレッと言う猊下を見て、わたしは閃いた。


これは、陰謀だったのだ。

初代ミコ派の陰謀ではない。

王家との会食とお披露目をしたいが為に猊下が仕組んだ、茶番劇だったのだ。


『なんだってー?!』


棒読みだったが、ノリのいい神様に免じてわたしは猊下を許そうと思う。

テロリスト集団に狙われるのに比べれば、会食や絵のモデルなど大した事ではないのである。


 ※ ※ ※


爺が夕食を持ってきたというのに、まだ猊下一味はミコ部屋に居座っていた。

わたしが追い出す労力と寛大に放置するを天秤にかけてる内に夕食タイムになってしまったのだ。

団長まで参加して、どのポーズがカッコいいかと相談し始めた頃にはわたしの寛大値はマイナスになっていて追い出す気力もなかった次第である。


「ミコ様待望の魚料理でございます!」


爺の言葉に思わず身を乗り出してしまったわたしに罪はないであろう。

死んだ魚の目と評判のわたしの目も生きた魚の目位には生き生きとしているに違いない。


「ミコ様魚好きなの?」


名も知らぬ異世界魚は白身をしていて、中々美味である。

久々の魚に寛大さが回復していたわたしは、ボクっ子に返事をしてやる事にした。

 

(どっちかというと肉よりは魚派かな)


「わたしに好き嫌いはない。」


ドヤ顔をしなくてはいけないミコ語にイラついたが、わたしの表情筋は相変わらずである。


「ボクはねー、甘いものが好き。ミコ様は?」


そういえばリア充はさりげなく自分の事を知ってほしがるよな、とボクっ子のどうでもいい情報を聞き流しながら質問には答えてやる事にする。わたしは実に寛大なミコ様である。


(出されれば、食べる程度だな)


「嫌いではないが好んで食する事もないな。」


「そうなんだー。今度オススメのケーキもって来るから一緒に食べようよ!」


あー、失敗した。ウソでも嫌いと言っておけばよかった。だが、アイドルスマイルなボクっ子を見ていると、おそらく嫌いと言えば嫌いな人でも食べれるのを勧めてくるのではないだろうか。

寛大なミコ様としては、今更いらんとも言えないのでとりあえず頷いておく。社交辞令かもしれないしな!


「肖像画が出来次第、各神殿に配布しましょう。」


ポーズ談義に飽きたらしい猊下の一言でお開きになり、奴らは帰って行った。

ちなみに絵の配布方法は神力を使うそうだ。ホント何でもありだな、神力。

そういえばわたしだけ夕食を食べたが、ヤツらはこれから取るのだろうか。しかし久々に他人と長時間過ごした割りには思ったより不快感がない。やはりヒエラルキーのトップグループにいると何事もおおらかにいられるものである。


セイと戯れてご満悦のライをブラッシングする。

ちなみに終始空気になっていたセイはまだ部屋にいたりする。


「肖像画の・・・画家ですが。」


(パンの耳がどうかした?)


「画家がどうかしたのか?」


「いえ、何でもありません。」


珍しく話しかけてきたセイがしまったと言う顔をして、ゆっくりと首を振った。

どうやら本当はパンの耳が気になり、団長と一緒に会話に参加したかったのを我慢して空気に徹していたようだ。

やはり犬係としては団長達に混じるわけにはいかなかったのだろう。


(正直、写真とか苦手なんだよね)


「どう描かれるのだろうな。」


アンニュイなミコ語に溜息が漏れる。

美醜は置いといて、わたしは写真や鏡を見るのが好きじゃない。

身だしなみの為に仕方なく確認するが、自分の姿を見ると何ともいえない禍々しさを感じるのだ。

夜に洗面台で顔を洗った時なんか、自分でいうのもなんだが死んだ魚のような目が怖くて鏡が見れないほどだ。


「ミーミ・ブレッドは天才と言われている人気の画家ですが、気に入らない人物は描かないという変わり者でもあります。万が一、ミコ様を気に入らないだとか不遜な事を言うようであれば即刻処理致しましょう。出来栄えについても、まぁ・・・ミコ様の神々しさまで表現しきれないとは思いますが、少しでも近付くよう何度でも描き直させますから、ご安心ください。」


無口なセイが一行以上話すのは珍しい。そんなにパンの耳について語りたかったのか。

感心していたわたしはノンブレスで語られたその内容を聞き流してしまった。気持ち不穏な単語があったような気がするが、ちゃんと聞いてなかったのでそんな気がしただけだろう。

だがそうして黙っていると、シカトした形になってしまうので、わたしはウム分かっておるぞよという感じに頷いておく。

これは元の世界で培った処世術である。一々聞き返すのが面倒だったので編み出したのだ。

そういえばわたしには歳の離れた弟もいたのだが、小さい弟の要領を得ない話しをほぼ聞き流していたら、いつしか子供とは思えない胡乱な目でわたしを見るようになったっけ。

一人暮らしをしてから暫く会ってない弟はもう小さくもないだろう。確か・・・高校生位だったかな?

わたしが一族の異常な部分を継承してくれたお陰でマトモな跡取りが出来たと喜んでいた分家のおじさんは元気だろうか。

人を異常扱いするんで、つい禿げればいいのにと思ったらホントに禿げるとは思わなかったなぁ。

残った1本、守れているといいね!とわたしは異世界の空に遠い目をしてどうでもいい思い出に浸ってみたのであった。


ミコ様は忍者の行方はどうでもよくなったようです。

原本があれば、FAXかコピー機のような事も出来る神力は相変わらずのデタラメさです。万能です。しかし、写真的な事は出来ない神力。ご都合主義です。

そしてミコ様が初めてフルネームで覚えた画家には、登場前からセイによる粛清フラグが立ってしまったようです。合掌。

ミコ様には妹の他に歳の離れた弟がいるようですが、今の正確な年齢を把握していない模様。ミコ様は実家に帰らないので、小さい頃の弟しか覚えてないようです。


次回は場合によっては中編になるかもしれません。

画家が粛清フラグと戦います。


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