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祈るということ  作者: 吾井 植緒
神殿編
16/47

武装神官というもの

神様は万能ではない。

なぜならば、ボクっ子の性別が分からないと言うのだ!


『もう、性別:ボクっ子でいいじゃん』


じぇねーよ!

お前人の心読まないとか言ってたくせに読んでんじゃん。てかそんな気がしてたんだよ。ちょうどいいタイミングでテレパシー来てたからね。ミコを見守んなきゃいけないから、とか言って心まで読むんじゃーよ。読まれてると思うと余計な事思い出しちゃうんだよ。わたしが考えた宇宙共通語とか、惑星暮らしのシュミレーションに費やしたGWとか、ね。


神様は世界のバランスを見るもんだから、一生命体の性別なんて知ったこっちゃねーもん、じゃねーよ。

なんか規模のデカイ言い様がムカツク。もんとか付けるトコがムカツク。


ひとしきり神様への悪態を脳内で繰り広げたわたしは、所詮相手は神様なので仕方ないという結論に至った。

怒るのはそれなりに疲れる行為なので、あまり長続きしないのがわたしである。

それでも軽く脳が疲労を感じていたので、がっくりポーズのままのボクっ子を置いてミコ部屋に帰る事にした。


「ミコ様、待ってよ。ボクも行く!」


わたしが歩き始めるのに気付いたのか、ボクっ子が追いかけてきた。

もちろん同行しているセイが肘で妨害するが、挫けない様子でわたしを覗き込んでくる。

ほっぺたが変形していてもアイドルスマイルのボクっ子を横目で見て、ウンザリしたわたしに罪は無い筈だ。


(え、メンドイ)


「話すことはないんじゃないのか。」


思わず足を止めて、本音を漏らしてしまったわたしの意を汲んだミコ語も呆れた様子である。


「話すことなんてー、別になくてもいいじゃん。」


出たよ、だが騙されてはいけない。リア充は話す事はないと言いながら雑談をする生き物なのだ。

わたしは会話は出来るが、したくないタイプである。

むこうの世界のように社会の一歯車であれば、円滑な人間関係を営まないと迫害されると言う事もあり、雑談もこなしてはいた。だが、この世界ではヒエラルキーの2番目ともいえるミコ様なのだ。下々のご機嫌まで伺う必要はないのである。


「本物のミコ様の方がおもしろいんだもん。ボク興味あるんだー。」


わたしはこの『興味ある』というリア充の言葉で踊らされた人々を知っているので、かなりイラっとした。だが、わたしはこの手のタイプでは逆効果となる『きっとイラッとしたんだろうな』的オーラを出したりはしない。

もちろんわたしの表情筋は通常営業で微動だにしないので、そちらの心配は不要である。


ちなみにこの間も黒髪青目の忍者とセイがわたしの後ろでタッグを組んで、ボクっ子を前に出さないよう頑張ってくれている。

お互い武器は無しなので、じゃれてるようにも見える。

振り返ってその様子を眺めていたら、意外な事にボクっ子の身長が結構高い事に気付いた。

セイと黒髪青目の忍者より低いがわたしよりは高い。身長からボクっ子の性別は探り難いようだ。

そして、さりげなく黒髪青目の騎士を忍者に置き換えていたが違和感がないので、もう彼の事は忍者と呼ぼうと思った。


「ミコ様。」


いい加減ミコ部屋に戻りたいのにぜんぜん動けない現状に救世主現る。

団長である。

ミコ部屋方向から来た団長は、セイと忍者に囲まれたボクっ子を見るといつぞやのカバディポーズをした。警戒しているのだろう。

わたしは真横でカバディポーズをする団長を見上げながら、もう全員置いてさっさとミコ部屋に戻ってもいいんじゃないかと思った。


「ミゲル、なぜこいつがミコ様といる?」


ん?子馬のミゲルがどうしたって?

団長の低い声が更に低くなっていたから、わたしの耳がきちんと言葉を捉えられなかったのかもしれない。

いくら広い廊下としても馬が居るはずはないのだ。


「武装神官なんて早急に処分しないと危険すぎる。」


団長の更なる不穏な言葉を背中が拾った気もするが、もうわたしはミコ部屋に歩きだしているので、多分きっとあれだ、ドップラー現象?的な幻聴ってヤツだろう。


「「あ、ミコ様!」」


なんか有象無象が気付いて追いかけてくる気がするが、わたしの足は止まらない。

人間はもうたくさんだ。リアルチャンバラも見たし、ミコ部屋に帰ってライとユキをモフモフするのだ。


「ミコ様、大神官が話しがあるとのことでお部屋でお待ちです。」


いち早く追いついた団長の言葉で、わたしの足が止まった。


話しがあるなら朝食の時に言っとけよ!


ああ、わたしはどうも野菜尽くしのせいでカルシウムが不足しているようだ。

穏やかな気質の筈なのに、苛々しやすくなっているのはそういう事だろう。

早く夕食の魚が食べたいと思った。


※ ※ ※


ミコ部屋の前には猊下が仁王立ちして待っていた。

デカイ人間が腕組んで、仁王立ちとか。カバディポーズの団長の次に怖い絵面である。


「ミコ様」


猊下は一言だけなのに『遅かったじゃねーか、俺を待たせるとはいい度胸だな』という副音声が聞えた気がした。

デカイ身長で見下ろされてるせいもあるかもしれない。

幸いというか、わたしは人の顔を見れない人なので、絶対零度の光線とか出ちゃいそうな猊下の瞳を見ることは無い。

あのデタラメな神力なら目から怪光線位出せるかもしれないと気付いたが、神の衣なら防げるだろう。

顔をまっすぐ見るよりいい印象を与えるという胸とか喉の辺りで視線を彷徨わせておく。


「ミ、コ、サ、マ?」


おおっと、句読点がつきやがった。


(何の用でございましょう)


「大神官は、話があるんだったな。」


つい、ビビッてへりくだってしまった本音はミコ語が隠してくれるので安心である。わたしは態度と表情に出ないビビリなので、ミコ語さえあれば威厳は1ミリも減ることはない。

視界の隅でセイが目を細めた気がするが、気のせいだろう。神殿騎士が大神官を睨む訳はないのだ。


「込み入った話なので、お部屋に入れていただけますか?」


丁寧だが、有無を言わせない口調である。猊下は本気だ。わたしは漫画ならベタフラッシュが入るだろうと思いながらも渋々頷いた。


扉を開けて、後ろに続く面々を見ずに部屋に入った。

小説だったら場面は変わってとかできるのに、現実は面倒である。


「なんでお前まで入るんだ。」


「入れたって事はミコ様が許可したって事デショ。」


後ろでのやり取りに、全員入れることもなかったと気付いた。

だが他人を招く時点で全員入れるか、一人も入れないか、しか選択肢が浮かばなかったのである。

すでに全員ミコ部屋に入ってしまっていたので、今更追い出す労力も沸かないわたしは早々に諦めた。

次回は、とできもしない事は誓わないのがわたしである。

出迎えたライを一撫でして、ソファに座る。途端に膝によじ登るユキが、ボスの猫みたいに奴らを威嚇してくれないかとちょっと思った。

ユキは一度もそういった威嚇音を発した事がないので、余計にあのシャーッには憧れてしまう。

ついでにポチっとな、でボッシュートしてくれると助かるのだが、そういった装置はミコ部屋にはない。残念である。


(で、話しってなんですかね)


「で、話しとは?」


「えー、じゃーまずミコ様の好きなタイプは?」


「お前じゃない!」


ボクっ子のボケに即ツッコむ団長。わたしと猊下しか座ってないのでコントを見ている気分である。

しかし空気になっていない団長はその図体のせいか、より部屋の人口密度を多く感じさせるのでわたしは視界から外して息苦しさを誤魔化した。


「なんでよー、コイバナなら盛り上がるのは必須でしょ。」


困った時はコイバナ。リア充の必殺技である。

流石ボクっ子、わたしが最も苦手な分野を持ってくるとは。爆発すればいいのに。

ソファに座ろうと近付いたボクっ子を団長がカバディポーズで威嚇しているのを眺めていたら、向かいの猊下が溜息をついた。


「ミコ様。コレが、申し訳ありません。」


ボクっ子をチラリと見て、具体的な事を謝罪しない猊下にうむ、と頷いておく。コレ扱いや何が申し訳ないのか具体的に言わない辺り、猊下も迷惑な存在だとアピールしたいに違いない。


「ミコ様には接触させないようにしておりましたが、神殿には武装している神官もおります。」


なるほど。てか、リジーとか物騒な発言をする神官もいるってのに、実際に武装してる神官もいるのか。


(意外と物騒な宗教なんですね)


「神殿騎士がいるのに、武装する必要があるのか。」


最近の猊下はなんらかの反応を示さないと、何度でも同じコトを言うので発言してみる。

猊下はわたしが難聴か何かだと思っているようなので仕方がない。


「神殿騎士が配置できない場所や、地域に配属される神官と民を守る為です。」


ふーん、と頷いておく。

建前だろうが、世界最大宗教なのだから色々物騒な事もあるのだろう。何しろ、剣と神力のある世界である。


「実は先代の大神官が認めてしまった偽りのミコというのがおりまして。

神の罰が下り、私の代になってからは偽りのミコを支持していた連中も大人しくしていたのですが

ミコ様が降臨され、数々の奇跡を目の当たりにし、連中が不穏な動きを始めたようなのです。」


わたしの奇跡ではなく、神様の力なんだが。とりあえず、理解したと言う意味を込めて頷いておく。


「ミコ様の手柄を横取りしちゃえって事らしいよ。どうせ大神官が作った偽者だろうって、ボクに殺せって持ちかけてきたんだ。ウケル。」


いや、それ面白くないから。

それとお前、わたしを殺しにかかってたのか。


「ボクはね。本物には手を出さないよ。これでも神に使える者だし。だけど、偽者だったら、ねえ?」


団長の広い背中で隠れる前に一瞬ボクっ子が首をかき切るジェスチャーが見えた。

どうやら、あのジェスチャーはこの世界でも同じようである。


「神殿騎士にも、ミコ様の周りに連中が近寄らないよう言い渡してあったのですが

どうも世話係だったコレに過剰反応したようで、本日神殿内で数回騒ぎを起こしてしまいました。

ミコ様の御前でも騒ぎを起こすのではないかと団長を遣わしたのですが、遅かったようですね。」


猊下はボクっ子にアイアンクローをかましていた団長を見た。団長の手に力が入ったのか、ボクっ子が「ギブギブ」とタップしている。

わたしは片手を上げて団長にストップをかけた。

この部屋で殺人事件など起こしてもらっては困るのである。

セイは団長にボクっ子を任せたようで、わたしの斜め後ろに立っている。


そういや、忍者はドコいった?



お待たせしました。

ミコ様はようやく神様が見守ると言う名のプライバシーゼロ行為に気付いたようです。しかし相手は神様と早々に諦めました。

神殿騎士と武装神官の相性はあまりよくありません。騎士は神官とも仲はよくないですが、武装している分警戒が強くなるようです。

猊下はミコ様がコミュ障気味というか人間関係が面倒だと思っているのを薄々感づいているので、そういった面を心配しているようです。流石に人間嫌いとは思ってないようですが、決して難聴とは思ってませんw


次回、消えた忍者の行方と陰謀渦巻くお話の予定。

ミコ様は通常営業なので、そうそう重くはなりません。


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