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祈るということ  作者: 吾井 植緒
神殿編
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初耳というもの

神様が神殿騎士団はわたし以外を無差別にSATUGAIしかねない物騒な集団だと言い始めた。

本来なら眩しい発光体である神様は、神の間で話す際にはわたしの目にも優しい光でいてくれるのだが、言う事には目が糸目になってしまう事が多い。

平和な日本にいたわたしではあるが、普通に帯剣している人がいる世界が安全だとは思っていない。

恐らく平和で麻痺しているであろうわたしを脅す為に言っているのだろうが、もっと他に言い様はなかったのだろうか。

呆れるわたしに神様はとにかく騎士の前でうかつな事を言うなと念を押した。

言われなくとも会話は最小限である。

ちなみに、人口が減ったらその分出産率を上げないといけないから恋愛フラグを、と言うテレパシーは届いていない振りをした。


本日の祈りの結果は、省略。

崩壊していた橋が再建されて、隔離された状態の村が助かったけど橋の名前をミコ様にちなんだ恥ずかしい名前にされそうとかどうでもいい内容である。

赤髪神官が橋の名前の候補まで教えてくれた。実に神力の無駄遣いである。


最近の祈りの結果に晴れないわたしの気分も爺から夕食に魚が出ると聞いて、一変した。

脱!野菜尽くしである。

食事には拘らないわたしではあるが、流石に毎日野菜は飽きてきたのだ。

味はいい。だが、全て野菜かと思うと何となくウンザリしてくるのだ。わたしは肉好きなわけではないが、草食動物でもないのだ。なぜか毎朝食時に同席してくる猊下は野菜を食べてたら体調がよくなったとか言っていたが、元々体調に不安のないわたしにはどうでもいい事である。


 ※ ※ ※


見通しのいい廊下である。表現がおかしいかもしれないが、直線の廊下で隠れる場所はないという意味だ。


「ミコ様ぁ。」


セイがわたしの前に立ちはだかると同時に声を掛けられた。

どうやらセイで見えないが、前方に人がいるらしい。


「コワー、番犬コワー。ミコ様、僕もこれで一応神官なんですけどー。」


なんという驚きの軽さ!

久々に聞いた、チャラい喋りにわたしは神様の忠告を忘れ、『成敗!』とセイに命じたくなった。

こいつは恐ろしくもリア充の、しかも頭の悪い感じなチャラい喋りをする類の人間である。滅してもミコ様なら許されそうな気がしたのだ。


「二代目ミコ様は本物なんでしょー。だったら色々お話しましょうヨ。」


わたしの気のせいでなければ、語尾は「YO!」である。

しかし、二代目ミコ様、だと?


「そうそう、そんなのに隠れなくても、本物なら堂々としなきゃ。」


別に隠れたわけじゃなく、セイがデカイから隠れてしまうだけである。

わたしがセイの脇から前を覗くと、小柄な人物が腰に手を当てて立っていた。

ボクっ子?

神官服は男女の別に作られるらしいが、実は見た目では区別が付かないようになっている。リジーのように豊満な肉体をしていればいいが、そうでない女性ではどちらかはわからない作りなのだ。

このオレンジ色の髪で顔はアイドル系の人物はどちらなのだろうか。

声は男性のようであるが、女性声優が少年の声を担当すると知ってからは油断できないわたしである。

性別不詳の人ほど間違えると面倒なのだ。

なんとか性別の分かる部位はないかと観察するわたしをソイツはパッチリと開いたこげ茶色の目で見ていた。


「初代はさー、偽者だから。散々ボクを扱き使った癖に、アフロになっちゃったんだよ。ウケル。」


ほう、初代はアフロなのか。わたしはセイが片手でやんわりと人の頭を引っ込めようとするのを避けながら、ボクっ子の話しを聞いていた。避けながらなので内容をキチンと聞けているかは保障できない。


「ちょっと神力があるからって貴族のゴリ押しに屈した結果がアレなんて、神殿の黒歴史だよね。世話係をボクに押し付けた挙句に降格するしさ。」


どうやらボクっ子は初代ミコの世話係だったようだ。しかし神様には初代の存在なんて、聞いてないぞ。

そう思ったら、他のミコなんて認めた覚えはないと言う神様のテレパシーを受信した。初代は非公式の存在だったようだ。


「あの扉に触ってもアフロにならないミコ様に会いたかっただけなのにさぁ。黒い番犬が邪魔するんだもん。

ボクは無害なのに、


ね!」


一瞬の出来事である、と解説したいわたしであったが、肝心な場面はセイの手で目を塞がれた為見ることは出来なかった。

ね!とボクっ子が言った途端わたしはセイの手に捕まってしまったのだ。

キンキン言う金属音になんとか両手でセイの指の隙間を作りだして見たら、黒髪青目の騎士がボクっ子に斬りかかっていた。

騎士?忍者か侍じゃなくて?

そう思ったわたしに罪はない。どうみても黒髪青目の騎士が持っているのはKATANAである。イヤ、刀である。対してボクっ子は鉄の爪のようなモノで刀を防いでいる。そんな武器どこに隠してたんだ、ボクっ子は。

どうでもいいが、ボクっ子といい黒髪青目の騎士といい、どっから沸いてくるのだろうか。

思わず天井を見上げたが、神殿は時代劇のような木の天井ではないので天井裏に潜むのは無理そうである。


「ミコ様、身を乗り出さないでください。すぐに済みますから。」


またセイが頭を引っ込めようと手を伸ばしてきた。

わたしはリアルチャンバラに身を乗り出してはいない。安全なセイの脇から覗いているだけである。

しかし武闘派な神官もいたもんだ。黒髪青目の騎士との立会いはよく出来た殺陣のようである。


「番犬、ダッセー。ミコ様にいいトコ見せなくていいのぉ。」


「ミコ様が居る前で過剰な流血は避けたいんでな。」


ボクっ子の挑発に黒髪青目の忍者、もとい騎士は冷静に答えていた。

二人とも激しい動きに関わらず、よく息が切れないものである。


ちなみにわたしは視力がいい方である。

そしてここは見通しのいい廊下である。

動体視力に自信のないわたしは、素早い二人の動きについていけなかった為にソレを発見した。


遠く、廊下の先にいたそのシルエットは間違いようがない。


わたしは半目を全開に見開いた。


やはり猫だ!初・異世界ニャンコである。


トコトコと歩く姿がシュタッと消えるまで全開の目に焼き付けてしまった。ちなみに色は黒と思われる。


ヤレヤレ、とわたしが二人に視線を戻すとなぜか二人とも膝を付いていた。

どうやら疲れて引き分けとなったようである。まあ、わたしとしても血の海にならずに良かったといえよう。


「流石ミコ様。」


一人満足気なセイに褒められるような事はしていない。

とりあえずわたしはウムと頷いておいた。殿様としては『見事な腕である』と二人を褒めるべきか、『殿中で刃傷沙汰など持っての他である』と喧嘩両成敗にすべきか迷う所である。

だが、そうして考えていると得てして口が勝手に動いてしまうものだ。たまにわたしの口は言う事を聞かない事があるのだ。


(どうでもいいけど、何の用だったんですかね?)


「わたしと、何を話したいと言うのだ?」


おっと、ミコ語も大分チクリといきますな。前半本音が漏れたわたしのせいかもしれないが。


「ミコ様。」


ボクっ子なんて見ちゃいけません!と言いたげな顔でセイが背中にわたしを隠そうとするのを、わたしにしては優雅にかつ素早く大胆に避けた。安全地帯からかなり離れたが、最悪『神の衣』があるし大丈夫だろう。

両膝をついているボクっ子を見ると、パッチリお目めと半目が合ってしまった。

目と目が合うなんて恐怖体験は何時振りだろうか。わたしは背中でヤバイ汗が出た瞬間に分解されるという『神の衣』の機能を感じながら、目を逸らせずにいた。バッチリ目が合うと今度は逸らすタイミングが分からなくなるのがわたしである。

いつの間にかボクっ子は鉄の爪をどこかに仕舞ったようで、両手を床につけていた。

幸運な事に最初に逸らしてくれたのはボクっ子である。


「何も、ないよ。話すことなんて、ボク。」


ずいぶんしおらしくなったモノである。隣の黒髪青目のに、騎士を見ると刀を置き跪いて俯いていた。惜しい。刀を背中に持ってくれば忍者なのに、鎧着てるけど。


「用はないそうですよ、ミコ様。」


(ないのかよ。別にいいけど)


「そうか。」


セイがもういいでしょうとにじり寄ってきた。言われなくとも、ボクっ子が話す事はないと言うなら長居する気はない。


(しかし刃傷沙汰が起きても誰もこないんだな)


「神殿は、静かだな。」


爺辺りが『殿中でござる!』と止めに来てくれてもいいのになぁと時代劇気分の抜けないわたしは思った。今更だが、神様も日本人特有の平和ボケを心配するよりこっちを心配した方がいいんじゃないだろうか。


「乱心したボクを処分する為に、番犬たちが人払いしてるんだもん。静かに決まってんじゃん。」


(ほう)


「乱心しているのか、お前は。」


「してないよ!ボクは、本物のミコ様に会いたかっただけなのに。初代関係者は悪影響を及ぼすって、許可してくれないから強行突破しただけじゃん。貴族に負けたのは上層部なのに、悪いのはボクたちって勝手に決め付けてヒドイよね!」


よくわからんが、ボクっ子は神殿に不満があるらしい。分かりやすく言うと直訴だろうか。そうなると今後はミコ様として目安箱を用意してやらないといけないだろう。また同じように暴れられても迷惑である。猊下には後で抗議したい所だが、わたしは正直状況説明も面倒になっていた。


(あ、本物に会えたからもう用はないって事ね。あと忍者はとりあえず処分はやめような。)


「会いたければいつでも来るがいい。ただし武器はなしでな。」


「・・・わかった。」


「騎士よ、わたしには神の加護がある。疑わしいからと言って、処分する必要はない。」


「ミコ様」


黒髪青目の騎士が顔を上げた。そういえば前の時は顔をよく見てなかったが、彼はなかなか渋い顔をしている。ハードボイルド系に出てきそうなイケメンだった。忍者なのに和風顔じゃないのが実に惜しい所である。


(まあ護衛は大変だろうけど、頑張ってください)


「だが、いつも守ってくれる事は感謝している。これからも頼むぞ。」


セイと忍者が「「ミコ様ー」」と大声出したのにはビックリしたが、なんか上手く納まったようなのでウムウム頷いておいた。これにて一件落着である。


「・・・ミコ様って、結構ヒドイよね。」


なぜこんなに慈悲深いミコ様にそんな事を言うのだろう。ボクっ子は不思議な存在である。


新キャラ、ボクっ子登場です。

神官でも戦闘能力のある人間はいるようです。あとミゲル(人)はミコ様の前なので一発で仕留めようと首チョンパを狙ってました。

二人とも異世界ニャンコを見かけた、ミコ様の神力パワーに屈しました。猫がいなかったら流血沙汰です。ちなみにミコ様は武器を持った人を止めるなんて考えはありません。平和な日本人なので。


初代ミコ様が居たという衝撃の事実もミコ様には衝撃的ではなかった模様。神の扉はミコ様にしか開くことはできないのですが、どうやら他の人間が触れるとアフロになってしまうようです。


次回、ボクっ子の性別が明らかになる・・・かどうかはミコ様次第でしょう。

だんだんとミコ様の周囲に不穏な影が忍び寄る、かもしれません。

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