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祈るということ  作者: 吾井 植緒
神殿編
14/47

審判長というもの

世界を創るのは神様一人でとは限らない。現に元の世界はたくさんの神様が関わっている。まあ、いろんな派閥の神様が関わったせいで逆に色々と大変らしいだったらしいが。

実は神様達にも派閥がある。

やはりというか、この世界の神様は無所属だそうだ。まあわたしに似ていると言うだけはあって、交流やら協調やらが面倒な神様はハブられているわけでもないが、他所の神様との交流もほとんどしないといった感じのようだ。

他所の神様の中には自分の世界の生物の魂を同じ派閥の世界で輪廻させて、魂に刺激を与えた後自分の世界に転生させるといった、実験的な事をする神様もいるらしい。

何でそんな事を言うかというと、案外異世界転生物はこの神様のせいかもしれんと言いたかったようだ。

いい加減フィクションと現実の区別をつけて、異世界系ジャンルから卒業してほしいとノーパソを見せる神様にわたしが糸目で思ったのは言うまでもない。




本日の祈りでは水源になっていたのに毒水に汚染された湖が浄化され、どっから来たのか龍が主として居座っているという。

おっと初の悪い結果かと思いきや、湖の主らしく湖を穢さない限り害がないらしい。

しかし湖の主が魚でなく龍であるとは、神様と転生物について話したせいでファンタジー脳が刺激された結果としか思えない。通常のわたしであれば龍など考えも及ばないからだ。

ちなみに祈りの結果については毎回神様が教えてくれる。

最近、廊下で遭遇するようになった赤髪神官も結果についてアレコレ語ってくれるので神力の無駄遣いでどこまで細部を察知できるのか、密かに検証しているところである。去り際を心得た男は結果について賞賛した後立ち去るので、検証には都合がいい相手である。

この間昼寝をしたせいか、幻聴は聞えなくなった。やはりアノ唸り声は気疲れのせいだったようだ。


 ※ ※ ※


爺が神殿・王家支部から帰ってきた。

1ヶ月位は向こうにいたのではないだろうか。

わたしは過ぎた年月に思いを馳せるタイプではないので、正確にはどのくらいだったか覚えていないが、爺は一度戻ってきて、赤髪神官を捕獲すると再び大陸に渡っていた。

リジーに言わせると、赤髪神官は処刑リスト作りに連れて行かれたのだとか王都に残っている爺の部下は生かさず殺さずが得意だとかいう話になってしまうのだが、きっと爺は赤髪神官の元気よさと去り際の良さが必要になったのだろうとわたしは思っている。

本気で血なまぐさい粛清が必要なら、きっと猊下はリジーを派遣したと思うので、わたしの願望では無い筈である。


「私が居りながら、ミコ様に不快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした!」


爺は顔を合わせるなり、見事なスライディング土下座を披露した。わたしは二度目ながら、その見事さについウムと頷いてしまう。頷いてから、わたしは最近不快な思いをした覚えがない事に気付いた。爺にとって、わたしが不快になったと思う事柄と言えば白髭の事だと思われるが、爺は白髭の際には後から来たので「居りながら」とは別の話しだろうかと思う。

ハテ?と首をかしげるわたしに爺はこれ以上は頭が床にめり込むのではないかと思う位土下座中の頭を下げた。


「王家の神官共が信者を導きもせず、身分に諂ったせいであのような不貞の輩が出てしまったのです。全て審判長たる、私の不徳の致す所でございます!」


どうやら、爺は白髭の一件を謝罪したいようだ。わたしはすっかり忘却の彼方であるというのに、爺は引き摺るタイプらしい。しかも、ややこしい事に白髭は王家支部の神官のせいであんな感じになったと爺は思っているようだ。爺には悪いが、神官が信者の人格にまで影響を与えるとは思えない。いや、そんな影響力のある職業とは思いたくない。信者が皆リジーみたいになったら恐ろしいではないか。


(まあ、気にするな。爺のせいじゃないし、白髭の事は正直どうでもいい)


「審判長のせいではない。神官と言えど、身分や威圧的な相手に囲まれていれば、道を誤る事もあろう。」


ミコ語は爺が悪くないってトコはちゃんと訳してくれたが、神官が悪いみたいになってしまった。しかし偉い人であるミコ様が身分がどうのってちょっとどうかと思うよ。確かに人は身分に弱いけど。


「はっ!二度と道を誤る事がないよう、きっちり教育してまいりました!」


細かい事は置いといて、見上げてきた爺がキチンと仕事をしたなら殿としては労わないといけない。

わたしはウムと頷き返してあげた。

爺の教育と言う言葉に、ギロチンにかけられた神官はいなかったとわたしは確信した。やはりリジーの話は血生臭く脚色されていたのである。


「いやー、こんなに早く教育が済んだのは審判長のお陰でしょう。」


「審判長直々の教育メニューは効果覿面だよなぁ。」


「神官達がまるで別人だと王都の信者も感激してましたよ。」


「洗脳隊が来たとか、奴らホントに神官とは思えない言動でしたもんね。」


爺の後ろで一緒に土下座をしていた爺の部下達の話からすると、爺の教育はかなりの物らしい。

しかし洗脳隊とは凄い呼ばれ方である。別人になるのとリジーの血の粛清を受けるのとはどっちがマシなのか。結論の出ない究極の選択にわたしは考える事を放棄した。

迂闊な言動は洗脳を招く。

ミコ様の格言として、日記に記すのもいいかと思ったがわたしは日記が続かないタイプなので止める事にする。

きっと後日読み返して、意味が分からんとなるのが関の山なのだ。



「審判長。ミコ様にも許して頂けたようですし、そろそろ報告書に取り掛かりませんか?」


それまで黙って立っていた赤髪神官が爽やかな声を出すと、なぜか爺と部下たちがビクリとした。

欧米リアクションの神官達はまるで漫画のように分かりやすい反応をするのだ。

きっと爺たちは書類仕事が苦手なのだろう。二次元だったら、特大のしずくが彼らの頭に乗ってそうである。


「私がお手伝いしますんで、早く片付けましょうね。」


赤髪神官の言葉に爺と部下たちは心底ウンザリしたような顔になった。

二次元なら縦線が顔に入りそうな爺たちに、わたしはそろそろ土下座を解除したらと声を掛けるか迷っていた。


「ミコ様、書類を仕上げてすぐに戻りますから!」


悲壮な顔で立ち上がった爺は赤髪神官が手伝ってくれると言うのに、どんだけ書類仕事が嫌なんだろう。

とりあえず手伝う気もないわたしは、爺に頑張れの意味も込めた頷きを返したのであった。


ちょうど、昼食後のお茶を飲んでいる時に爺たちは来襲したのでお茶はもう冷めていた。

ちなみに昼食には猊下が同席しない。

セイが空気になっていたのを解除して新しいお茶を出してくれる。爺たちが去ったので、食堂は静かだ。


「無事に戻られて、良かったです。」


セイの言い方では、爺は戦地に行ってたみたいに聞えるから不思議である。

まあアウェー的な意味では戦地なのかもしれない。出張先を改善しに行くのは大変な事なのだ。


「ミコ様の食事世話ができなくなるのは残念ですが。」


しかしセイがメニュー以外にこんなに喋るのは珍しい。彼は基本無口なのだ。

だが正直言うとわたしは高級レストラン的なセイの給仕はあまり好きではない。


「審判長に何かあっても、私がおります。」


なんだかわからないが、セイの中では爺の出張は悲痛な話になっていたようである。

それとも爺が出す報告書に何か不備があったら、猊下からとんでもないペナルティが出るのだろうか。

犬係のセイは書類提出とは無縁なのだろう。爺にものすごいペナルティがあっても、自分は大丈夫だと言いたいらしい。

ああ、だから爺はあんなに悲痛な顔をしていたのか。恐るべし、猊下!

とりあえず、赤髪神官に丹念に赤ペン先生をしてもらうといいよ。


わたしは爺に何かあったら、リジー抹殺計画が騎士団によって発動されていたとも知らず、ウンウンと頷いていたのであった。


爺、帰還いたしました。

洗脳隊とか言われてますが、実際どうなのかは不明です。ちなみに爺は真剣に教育メニューに取り組んでいます。熱血です。

書類に不備があるとペナルテイを出すのは、むしろ赤ペン先生な赤髪神官なのですがミコ様は知る由もありません。かといって、爺に無体な事しやがってとなるミコ様でもないので、誤解はそのままかもしれません。


次回は未定ですが、ミコ様視点になると思います。

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