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祈るということ  作者: 吾井 植緒
神殿編
13/47

馬というもの

しつこく馬です。

王家との面会の次の日、神様は俺が本気を出せば白髭を消し炭に出来たとか、神殿騎士にはガス抜きが必要だから我慢したとか、訳の分からん話しをしてきた。正直もう王家の話しはしたくないので聞き流したが、本気を出せばもっと凄いなんて、神様はやはりわたしに似ていないのではないかと思う。

わたしはそんな、馬なんて本気を出せば乗れるぜ!なんて、子馬に跨った高さにビビるまでは思ったりしていないのである。


しかしやはり異世界、子馬が子供とは思えないデカさだった。

パク・・・インスパイアが大好きな神様は想像力に欠けるのか、わたしと同様芸術的センスが絶望的なのか向こうの世界に良く似た物ばかり創っている。ちなみに著作権侵害には当たらないらしい。神様達の宇宙的ルールには模倣禁止の項目はないようだ。

神様の考えた独自の生き物といえば、この世界の宇宙に生息しているかもしれない饅頭に触手が生えたような宇宙生命体位である。あれは独自性はあったが、芸術性のないわたしからしてもちょっとセンスを疑うモノがあった。そんな神様のセンスのみで世界を創っていたら、わたしは子馬にも巡りあえなかったろうし、人の形をしていない独自生命体の中でミコ様としてやっていかなくてはいけなかったかもしれないと思うとインスパイア様々である。

流石に宇宙にロマンを感じているわたしでも常に饅頭に囲まれていたら人恋しくなってしまうだろう。まさに饅頭怖いである。


子馬はある日の午後、わたしが馬を見ようと厩舎に行った際に黒髪青目の騎士が見せてくれた。

乗馬を習うなら、コレ位から慣らした方がいいと連れて来てくれてたらしいのだが、もう大人と言ってもいい位のデカさだった。

わたしの想像した異世界馬はいないということだが、やはり向こうの馬とは少し生態が違うようだ。これでも小柄な方だと言われても頷けない立派な体格である。

わたしは自らの足の長さと子馬の高さを鑑みて、乗るのに少し躊躇したのだが、ここはあえてミコ様らしくカッコよく乗ろうと勢いよく跨ってみせた。なので、いくらわたしのお尻が重いとは言え、黒髪青目の騎士に尻を支えてもらったなんて事実はないのである。

子馬は鞍にわたしがちゃんと座るまで大人しく待っていてくれた。

つぶらな瞳でわたしを気遣うなど、かわいい奴である。


(かわいいですねー、名前は何て言うんですか?)


「名はなんと言う?」


子馬を撫でながらわたしが聞くと、黒髪青目の騎士が「ミゲル」と答えた。

ミゲル、いい名前だ。

子馬が来てから、なぜか不機嫌だった団長とセイが肩を震わせてニヤつき始めたのは不審極まりなかったが、わたしはすぐに子馬のミゲルに夢中になったのでどうでもよくなってしまった。黒髪青目の騎士は空を見上げた後、セイや団長を睨んでいたようだが、勝手に歩き始めたミゲルに追いつくとヒョイっと鎧の重さなど無いかのような動作でわたしの後ろに跨った。

ミゲルはデカイので、大人二人でも余裕で乗れるのである。

黒髪青目の騎士は多少気障な口ぶりが気になったが、教え方は上手かった。

彼は講師に向いているのであろう。

わたしは基本人の数倍はパーソナルスペースを持っていると自負しているのだが、教えを請う相手には

中に進入されても不快値が上がらないのである。

騎士だと当然なのか分からないが、黒髪青目の騎士は鞍なしでミゲルを見事に操った。そんな彼に手綱捌きを教わり、小一時間もするとわたし一人でミゲルを歩かせる事が出来るようになった。

ミゲルが賢いのもあるかもしれないが、初心者のわたしとしては上出来と言えよう。


黒髪青目の騎士が付いてだが、ミゲルと神殿を一周した時は神の間の扉を外から眺める余裕もあった位だ。

戻るとなぜか猊下が居て、銀色の鬣の白馬を見せてもらった。異世界の馬もカラーバリエーションが豊富らしい。目が青いのである。

名前を付けていいと言われたが、それは宿題にさせてもらった。ミコ様らしく有難みのある名前にしないといけないと思うと、中ニ的な何かになりそうで怖かったのである。わたしは後で神様に辞書でも取り寄せてもらおうと決意した。

ちなみに団長は猊下の連れて来た馬になぜか剣の柄に手をやって睨んでいたが、鞍がついて無いのに気付くと自分がミコ様に相応しい物を用意すると宣言して足早に去っていた。

黒髪青目の騎士の部下だという、いつかの忍者のような騎士がいつの間にかに現れて、ミコ様用の厩舎に馬を連れて行ってくれたがなぜかミゲルも一緒にミコ様用厩舎に連れていかれていた。

知らぬ間にミゲルもわたしの馬になったらしい。

貰える物は貰う主義なので構わないが、わたしの馬となったからには是非世話もさせて欲しいものである。

騎士達の厩舎には専用の馬番がいるらしいが、ミコ様用厩舎の馬番は騎士が交代ですると言う。セイ曰く、セキュリティーの問題らしい。猊下の溜息はきっとミコ様の馬が盗まれる可能性に思い至った為だと思われる。

まあ、持っていれば何か恩恵があるかもと思われるのはミコ様だから仕方が無い事である。



そういえばミコ様を漢字変換すると、神子様が当てはまるようだという事に最近気付いた。

発音じゃ漢字を推測できないと言ったわたしだが、よくよく考えると巫女様の発音は→→様で、神子様は↑→様といった発音になる。もしかしたら『子』は斜め下の矢印かもしれないが、細かい事はどうでもいい。異世界人は→→様とは発音していないのだ。

そんな事に気付いてしまったわたしであるが、今更ミコ様を神子様と変換して考えるのも面倒なので、今まで通りミコ様でいこうと思う。


 ※ ※ ※


爺は神殿・王家支部からまだ帰ってこない。

リジーによるとえげつない方法で神官達を粛清している話にされてしまうが、きっと爺らしく神官達に小言と言う名の教育的指導をしていると思いたいわたしである。


爺がいないので、食事を持ってきてもらえないと思ったわたしはセイに道案内してもらって食堂への道を覚えた。

朝、昼、夜と食堂で食事を取っている。もちろん神官達の食事の時間とはずらして取る。一緒に取った方が厨房の人的にはいいのかもしれないが、どうせ野菜のみのミコ様メニューはわたししか食べないのでいいのである。


「ミコ様、本日のスープは魚介出汁だそうです。」


なぜかセイは爺が帰るまでは自分が給仕するのだと張り切っている。爺はいちいち声を掛けてこないので、セイの給仕はちょっとうっとおしい。普段は喋らない癖にどこの高級レストランだ、と言わんばかりにメニューを語るのである。


「また、王家の宰相より書状が来ました。」


更に猊下の同席である。

近くで話そうぜ、なんて以前に言ってしまった為にこいつは斜め隣に座るようになった。

長方形の長い部分にいる猊下に対して、正面に座ってあげるのが普通の人の対応だと思われるが対人関係に難ありのわたしにそのような高度な対応はできない。猊下もセイもミコ様が上座にいるのを咎める訳がないので、それをいい事に一人長方形の短い部分に座るのだ。それに長方形の長い部分に座って、誰か隣に座られたら、ましてや猊下が隣に座ったりしたらどうするのだ。

しかも斜め隣ならば、わたしが顔を向けなければイケメンな顔を視界に入れないで済むのである。

席が近いのは百歩譲るとして、わたしは黙ってモグモグに集中する毎日である。


「会食のお誘いだそうですよ、ミコ様。」


わたしがモグモグと黙っていても気にせず、話しかけてくる猊下はきっと鋼の心臓の持ち主であろう。

それにしても猊下は噛んで飲み込んで話してと器用にこなせるようで、話すタイミングが計れないわたしとしては羨ましい限りである。


「侘びの気持ちはわかりますが、あのような輩を野放しにするような国にミコ様を行かせるわけないじゃないですか。」


猊下の言葉に皿を下げに来たセイがウンウンと力強く同意する。わたしとしても同意である。他所の地に行ってまで偉い人に会う気はない。しかも他人と食事をするのが苦手なので、会食などもってのほかである。


「というわけで、会食したければコッチに来いと返事をしておきました。」


猊下の言葉に、わたしはお茶を口に含んでなくて良かったと思ったのは言うまでもない。


なん、だと?


ゆっくりと猊下の方向を見てみたが、何だか眩しく感じたのでわたしはカップの中で揺れているお茶に視線を戻した。別に手が震えているわけではない。液体とは流動的な存在なのだ。きっと眩しく感じたのもイケメン効果ではなく、奴がいい笑顔をしているからだろう。

クソ、王族フラグ再びと喜ぶ神様の幻が見えてきた。


「国のお偉方なので、早々都合が付くとは思えませんがね。」


『覚悟しておいてくださいね、ミコ様。』わたしの脳内では猊下の副音声が受信されていた。

『だが、断る』というミコ語がいつまでも発動しなかったのは神様の邪魔が入ったからだろう。

わたしの不貞腐れたオーラはもちろん猊下にスルーされ、セイだけがタレ目を吊り上げて猊下を睨んでくれていた。



 ※ ※ ※



憂鬱な足取りでミコ部屋に戻るわたしの前にいつぞやの赤髪神官が現れた。


「ミコ様、おはようございます!」


彼は若いからか元気一杯で、今しがたの精神的な疲労を抱えているわたしとは対照的である。

後ろのセイが一瞬ガショッと鎧の音を立てたのが気になるが、わたしは挨拶は返す主義なので振り返る前に挨拶を返す。


(おはようございます)


「おはよう。」


元気のある若者にウムと頷き返したわたしはちょっと年寄り臭いかと思ったが、偉い人はたいていウムウム頷くので偉いミコ様としては良しとする。


「本日は、霧に覆われていた山を元の緑豊かな山に戻されたと聞きました。着々と世界が安定に向かっておりますね!」


嬉しそうな赤髪神官にわたしはコイツらはどうやってその情報を得ているのだろうと思った。もちろんわざわざ尋ねたりはしない。わたしは会話を続ける位なら気になる事を放置する主義である。

きっと、何でもアリな神力で知ったに違いない。


「ミコ様の祈りの後は我らの神力も研ぎ澄まされるので、すぐにわかりました。」


ホラ、やっぱり神力だ。何でもアリ過ぎだな、神力。

デタラメな万能っぷりを発揮する聖なる力とやらに呆れたわたしの半目が3分の2目になった所で、赤髪神官はお時間を取らせて申し訳ないと去って行った。

去り際を心得た男として、わたしは感心しつつ赤髪神官を見送った。

セイが後ろで唸り声を上げていた気もするが、振り返るとキョトンとしていたので気のせいだったのだろう。どうやら神様の幻に次いで、幻聴も聞えるようになったらしい。

気疲れが溜まっているようだ。わたしは昼寝をするに限ると、早々にミコ部屋に戻る事にした。



神様は危険思想になりがちな騎士達に気付いているので、それとなくミコ様に伝えようとしていますが、お互い伝達力と理解力が低い為上手くいかなかったようです。


あやうく団長に消されそうだった猊下の献上馬は白銀の毛並みをしています。ミコ様は先にミゲル(馬)に会ったせいかあまり観察していない模様。

ミゲル(人)は終始黒髪青目の騎士になってしまいました。団長とセイは『抜け駆けしやがって、ザマァwww』と思っています。


猊下の立てた王族フラグがどうなるのか。爺は戻ってこれるのか。


次回は馬から離れた話になると思います。

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