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第十八話(作者:一日三食)

 ああ、やっぱり削除が一番なのかもしれない…君子危うきに近寄らず。

だが私の好奇心がこれを安易に削除することを拒否してしまうのだ。


 『なにか』が危険な代物なのはおそらく間違いない。

 どのような使い方をしたのかわからないが、世界を時間崩壊に巻き込むような切っ掛けになるのだ。だがこれを親父さんがうまく分析する事ができれば、逆に時間崩壊について一気に究明が進むのではないだろうか?


「余計な事を考えていないで、さっさと終わらせてはどうですか」

 一瞬、自分が考えている事に返事がされたような気がして彼女の顔を見つめる。

だが当然そんなはずはない、こちらの手が止まっている事が気になっただけだろう。


「なんです、いつもの貴方ならもう終わらせている時間でしょう。まさか今日は一つも取得物が無い…とでも言うつもりですか?」

 こちらがどこで詰まっているかもわかっているらしい。

こちらの事より自分の仕事の方を気にかけるべきだろうに。彼女は未だに書類のチェックをしているらしい。


 考えをまとめるために時間を使い過ぎた。

とにかく今必要な事は、この報告書をまとめて取得物と共に本部へ提出する事。そして、してはいけないことは『何か』を本部に提出すること。だが、出来れば取得物を提出して少しでも今日の失敗をカバーしておきたい。

 それならば最善解は――


 私は書く内容を決めると手早く最後の報告書をまとめた。

そして頼み事をするために顔を上げると、丁度こちらを見ていたらしい彼女と眼が合う。


「ようやく終わりましたか。こちらも、たった今終ったところですので今から――」

「終ったのなら丁度いい。頼みたい事があるんだ」


 珍しい事に、一瞬だけ彼女は解り易く嫌な顔を見せた気がするが、私は構わず言葉を続ける。

 彼女の要求とやらを聞くより先に、こちらの用を済ませておきたかった。


「今日入手した取得物はメモ帳でね、変わった取得物だから内容が気になるんだ。だが、そのまま本部に提出すると内容がわからないままになるだろう?」

「つまり、それを本部に提出する前に……私に今すぐ分析してメモの内容を教えろと言うんですね」

 その通り。と私が大仰にうなずくと、さらに珍しい事に彼女の顔は不機嫌で歪んだ。


「私がやる場合は少し面倒になるからな……。私と違って、お前さんなら自由にかつ正確に分析する事が出来るだろう。そう難しいデータでもないから時間もそんなにかからない、頼まれてくれ」


 ガタッ

 言った瞬間、彼女が席を立つ。顔は伏せたままだったが机の上に身を乗り出すような態勢を取り、納得いかないと言う態度を全身で示していた。

 しまった、地雷を踏んでしまったようだ。


「仕事が終わった私にもう一仕事しろと……貴方は今、私に借りがあるんですよ、それを理解した上で、まだ、借りたいと言うのですね?」

 全部を言いきると、顔を上げて真っ直ぐにこちらを見詰めてきた。

ポーズは明らかに怒っているのだが口調はいつも通りで、声だけだと感情が分かりにくいために本当に怒っているのかはわからない。


 だが、彼女からの言葉の棘はいつも以上に感じられた。

彼女の眼が、言葉が、纏う空気が、鋭く貫かんばかりに私に刺さってくる。

通信機越しの棘と今の状態を比べれば、木のささくれと騎兵のランス程の違いがあるだろう。


 ここまで不機嫌にしてしまうとは……正直、発言を撤回したい。

何も言わず、先に彼女の要求とやらを聞いておけばよかった。


 それでも一度口にした以上は、気圧されて要求を引っ込めましたでは恰好がつかない。

「頼む」

彼女の棘を正面から受け止めるように、姿勢を改めて真っ直ぐに目を合わせて答えた。


 私の態度に彼女は怯んだらしい。彼女は目を伏せてから大きく嘆息してから、

「仕方が無い。解りました、これで三つ貸しですよ」

苦々しく頭を掻きながら、そう言ってしぶしぶ了承した。


 貸しの数が合わない。そう頭に過ぎったが、今の彼女を見ていると、それを言葉にはすることは出来なかった。私はうつむいて彼女から視線を外すと、分析を頼むデータ渡すために、今日の取得物のメモ帳のデータを開いた。


 彼女は席に座ると、机の横にある引き出しから分析用機材の使用申請の用紙を取り出した。彼女なら勝手に使っても文句は出ないだろうが、そういう事はきっちりする性格なのだ。


 申請用紙を前にして、彼女はもう一度ため息をつく。顔を上げて彼の方を向き、こちらを向いていない事と聞こえない距離である事を十分確認する。それから小さな声でそっと呟いた。

「せっかく、待ってたのにな…」

扱い酷くてごめんなさい、彼女さん

も一つ、ごめんなさい。この状態でバトンを渡される大岸都心さん

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