第十六話(作者:大岸都心)
私はその瞬間同僚の手を両手でつかみ振り返った。
「はい!?」
動揺が見て取れるような声を上げられ思わず笑みがこぼれる。
「な、何するんですか!?変態ですか貴方は!」
予想外の事態に驚きながらも体裁を取り繕うと必死な声で訴えかける。
「そんな鳩が三点バーストで豆鉄砲貰った顔される未来はなかったがな」
ふん、と少し軽く笑いながら答える。
「ひょっとして気づいていたんですか?」
ある程度落ち着きを取り戻した同僚が訝しげに尋ねた。
「別に、時間崩壊の弊害でちょっと未来が予想できただけだ」
彼女の手から両手を離し、私はトリックを明かす。
現在の私の行動は予想された未来とは違ったものだ。
――そうしなければ崩壊に飲み込まれやすくなってしまう。
「分かりました。ではある程度の予想は尽きますね?」
やや棘のある言い方と瞳でそう告げる。
「報告書と始末書、それとあなたとスーツの検査の申請書類です。今回は時間崩壊が発生したとのことですのでおそらくはそれほど大した罰則はないでしょう」
「それにしてもまさか内部で時間崩壊が発生するとは予想外でした、そのせいで報告書が倍に膨れ上がっています」
「それと、オヤジさんから伝言です。オモチャが壊れていないか心配だから明日のいの一番に顔を出すようにとのことです」
説明を一気にまくしたてると彼女は息を軽く吸い込んだ。
「わかった、わかったよ。とりあえずデータをくれないか?」
やや狼狽しながらも私は話を進めようとする。
「すでに送ってありますから後で確認しておいてください。私もこれから報告書が山積みなのであまり構っては上げられませんが何か不明な点があれば訪ねてくれてもかまいません」
そう、そっけなく言い放つ。
「昔はこんなに淡白な子じゃなかったんだがなぁ」
一人ごちる。
ぺちん。
頬に軽快な音と共に衝撃が走る。
「痛いな」
「痛くて結構、余計なこと言うと次はこの程度では済みませんよ」
目の笑っていない笑みを浮かべ私を睨みつける。
「悪かったよ、だからやめてくれ」
はぁ、と溜息を吐きながらとりあえずの謝罪を述べる。
「ま、兎にも角にも報告書と始末書です。私も自分の分があるので少しなら手伝いますから手早くすませてさっさと帰りましょう」――どうせ検査などは明日に持ち越しでしょうし、と付け加える。
「そうだな。手早く済ませて料理でもしたいよ、私は」
私は率直な意見を述べながら予想された未来よりもずっと多いデータを眺め二度目の溜息を吐く。
「せいぜいお互い頑張る事ですね」
そう言って同僚と私は自身のデスクのある部屋へと向かった。
デスクのある部屋は必要な物以外は全く置いていない質素な部屋であるものといえば仕事道具と資料の類程度だ。
そこの隅にある自分のデスクに腰かけると私は忌々しいデータの羅列を再確認した。
まず、比較的問題のなさそうな検査申請から目を通し、各項目に記入していく。
スーツの検査まである為難儀しそうではある。もしかしたらしばらく潜る必要性が無くなるかもしれないといった一抹の不安がよぎる。
次に、始末書。
私個人は始末書を書く回数が何度があったためにこれはある程度マニュアル化している為に単純作業の連続となっている。
最後に、報告書を見て、私の手は微動だにしなかった。
どれほどの真実をちりばめていいものか、その内容を考えて頭を抱える。
「どうしたものかね、これは」
とりあえず問題のない個所の報告は打ち終わった。
後は肝心な個所の内容をどうするかだ。
前回私の手番でやっつけ仕事をした事をいろんな方々に申し訳ないと思っとります。真面目にごめんなさい。