第十二話(作者:一日三食)
乱れた息を整えても、私は未だその場を動けずにいた。
命がけで体を動かした後だからだろう、いつも以上に心がすり減った。
手持ち無沙汰になり、じっと通信機をいじりながら、先ほどの島での出来事を思い出し反芻する。
今までプラントでは見たことが無い<何か>の発見と防衛プログラムからの逃走。
好奇心に駆られ、危険は無いだろうと油断していた自分に自己嫌悪する。
渡された携行物資を使い切った原因である収穫のこの<何か>―――これは今日の失敗を帳消しにする程のモノだろうか。だがそれ以上<何か>について考えようとは、今は思えない……島に不釣り合いな空間を見つけた時に燃え上がった好奇心は、水をかけられたたように消えてしまっていた。
今日は他の仕事もあるかもしれないと言っていたが……この有様ではどうすることもできないだろう。
「――こえ…ま…か。いい…げんに返事をしないと本当に循環機構を停止しますよ。」
「だからそれは止めてくれと言っているだろう。」
通信機から、ようやく雑音以外の音が聞こえてきた。だがこの嫌味たらしい声を今聞くくらいならこのまま繋がらない方が良かったかもしれない。
「……ようやく繋がりましたか。今日は馬車馬のように働くよう言いましたよね?今後、通信を放置するようなことであれば大事なおもちゃで遊べなくなりますよ。」
「通信が繋がらなかったのはプラントの影響だ。そして今日はそのオモチャが活躍したので、大目に見てくれると助かるのだが…。」
通信の向こうからいつもより3割増しの棘を感じる。こちらの調子がいつも通りなら軽く流して話を進めるのだが、失敗の後だからかつい下手に出てしまった。
「ああ成程。つまり通信できないのをいいことにオモチャで遊んでいたと言うわけですか。」
おそらく、通信先ではこちらの状態からどのような事態があったのかおおよそは把握しているだろう。
心身共にボロボロなのは判っているのに……いや、判っているからこそ、この態度。言葉にはいつもの棘の他に苛立ちが多分に含まれていた。
「今日してもらうはずだった仕事は明日してもらいます。ですが、明日は携行物資があると思わないことですね。今日の提出を済ませたら、報告と始末書と土下座の準備をして親父のところに向かいなさい。」
一方的に通信を切られた。首になるというのは流石に杞憂だったか、それとも親父さんの判断に任せて勝手なことを言わないだけかもしれない。
もっと嫌味を言われるかと思ったが幸いなことにそんな時間が惜しい程、忙しいらしい。
さて、提出といっても今日提出するこの<何か>は今までと毛色が違う。このまま大人しく提出してもいいものか。親父さんのところに行く前にこれについて何かわかれば、今日の事態の説明がしやすくなり、免罪符として使えるのではないだろうか。
分析など門外漢なために<何か>について今すぐ調べるような真似は私にはできない。しかし、幸いにも一緒に部屋にあったメモ帳のように解りやすいデータなら、(勝手に)機材を使えば私でもすぐに分析することができるだろう。親父さんたちの方は今忙しいだろうから多少報告が遅れてもこちらに催促が来るようなことは無い。
消えたように見えて燻ぶっていた私の好奇心が、再び音を立てて燃え上がっているような気がした。