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三題噺もどき5

自販機

作者: 狐彪

三題噺もどき―はっぴゃくじゅうさん。

 




 重たい戸を開くと、冷たい風が一気に入り込んできた。

 降ろした前髪が思いきり巻き上げられ、思わず顔を伏せてしまった。

「……さむ」

 呟いた声は風にかき消された。

 勢いよく閉まらないように、手で支えながら戸を閉める。

 陽はそれなりに照っているのだけど、風のせいですべてが台無しである。

「……」

 校舎自体はさほど高いわけでもないはずだが、建物と建物の間を走る風は勢いが凄い。ここは裏手に山があるのも関係しているのか、ほとんど嵐のように思えるほど風が強い。

 夏場は多少の涼しさが生まれるのでありがたいが、冬はほんとに地獄のようだ。

 窓を開けようものなら、教室内に貼られている掲示物が飛んでいきそうになる。それでも換気のためだと開けるのだけど。その後片付けを誰がするんだと言う感じだ。

「……」

 まぁ、そんなことはさておき。

 さっさと用事を済ませて、教室に帰るとしよう。

 今は2時間目終わりの、ほんの少しだけ長い休み時間。

「……」

 いつもなら、図書室に行ったりあの子の教室に行ったりするのだけど。

 今日は体育がある日だったのと、図書室は先日行ったのでいいやとなったのと。

 甘くて温かい飲み物が欲しくなったので、学校内に設置されている自販機に向かっているところだ。

「……」

 周りには、体育終わりのジャージを着た生徒や、教科書を抱えた生徒が歩いている。

 移動教室なのだろう。この学校は、クラスのある校舎と特別教室……実験室とか家庭科室とか美術室とか……がある校舎が分かれている。なので、そういう授業の時は移動するのだ。

 家庭科室とかめったに使わないけどな。

「……」

 まぁまぁ、いいから。

 さっさと自販機で飲み物を買って教室に戻らなくては。

 さすがに寒すぎてイライラしてきた。

「……」

 手の中には一応、カイロがにぎられている。

 末端冷え性なのか、常に指先が冷えているせいで、カイロは手放せない。

 直接持っているとよくないみたいな話があって、一時期は専用のポーチみたいなものに入れていたのだけど、それだと全く温まらなくて使わなくなった。

「……」

 今はそのポーチに、小銭が入っている。

 あまり自販機を使ったり、購買部を使ったりする事がないので、財布は持たない。

 こういう時に使えるように、代わりにポーチに少々の小銭を入れているのだ。……観覧車と水玉模様のウサギのキャラクターが描かれているポーチだ。割とお気に入り。

「……」

 そうこうしていると、自販機が見えてきた。

 たいした距離はないはずなのに、やけに遠く思えたのは気のせいだろうか。

 風のせいだろうな。それと寒さのせい。

「……」

 回りを歩く生徒とぶつからないように避けながら、自販機へと向かっていく。

 滅多に使うことがないので、この自販機に温かい飲み物があるか分からないのだが……炭酸がないことは知っている。あの……年に何回かある全校生徒参加の生徒総会と言うので、炭酸を入れて欲しいだとか、アイスの自販機を入れて欲しいだとか言っていた。そのどちらも検討します、で終わっていた。

「……」

 ようやくたどり着いた自販機には、端の方に少しだけ温かいものが売っていた。

 ココアと、コーヒーと、コーンスープ。

 今は、断然ココアの気分だ。ココアがあってよかった。

「……」

 ポーチの中から、120円取り出し、投入口に入れていく。

 売り切れていなくてよかった。寒いからどうだろうと思ったが。

 ピッと言う音と音共に、購入可能な部分だけが赤く光る。

 3段あるうちの、一番下、右から3番目。

「……「わ!!」――!!!」

 びくりと体が跳ね、伸ばしていた指がボタンを押した。

 ―視界が揺れたせいで何を押したかわからなかった。多分、一つ右隣。

 ピ、と言う音と共に、ゴトン、と取り出し口に落ちた音が響く。

「あ、なんか買ってた?」

「……ねーぇ」

 見れば楽しそうに笑いながら、ジャージを身に纏ったあの子が立っていた。

 次は体育の授業なので、長い髪はポニーテールに纏められている。

 ゆらゆらと揺れるその髪が、気まぐれな猫の尻尾みたいで可愛いなんて思ってしまう。

「ごめんごめん」

「ごめんで済んだら警察はいらないんよ」

 そう応えながら、取り出し口に手を伸ばす。

 中身は暖かなコーヒーだった。……飲めるやつだからいいのだが、今はそんな気分じゃない。ココア飲みたかったのに……。

「……握る?」

「え、いいの。寒くってさ」

 差し出したホットコーヒーの缶を受け取り、掌で覆う。

 普通なら、何かしら文句でも言うところなんだろうけど。

 それより寒そうだななんて思ってしまえば、何とかしてあげたいと思うのは当たり前だろうか。

「――ちゃん、いこー」

 少し離れたところから、この子と同じクラスのいつものメンバーが手を振っている。

 よく見れば時間もかなり押していた。少々長いとは言え、限られてはいるのだ。

「ありがとー」

「はいはい。体育頑張れー」

 ちょっとだけぬるくなったコーヒーを受け取り、ひらひらと手を振りあう。

 まぁ、多少なりとも温められたのならいいか。












 お題:ポーチ・ココア・観覧車

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