第三話
最初は、コントと思ってください。
◈◈◈◈◈◈◈(アルベリク視点)
朝起きたら、シェリアがいなくなっていた。
努力家で、かわいくて、世界一自慢の妹が――いない。
使用人も家族も総出で探しているが、影も形もない。
「フィナ! シェリアがいないんだ。何か知らないか!?」
フィナ――アルフィナは、俺とシェリアの妹だ。
本当に可愛い。身内びいき? 違うな、事実だ。
金髪にエメラルドのような瞳。
ちなみにシェリアはサファイアのような瞳だ。
結論、二人とも天使。
「お姉さまが!? なんてことでしょう!
さらわれたのでは!? お姉さまの部屋を確認しなければ!」
フィナもシェリアを溺愛している。
だがなぜか、フィナもシェリアも、俺には塩対応か曖昧な笑顔しかしない。
なぜだ? 俺はこんなにも愛しているのに?
「お父様とお母様には伝えましたか?
お姉さまの専属侍女を部屋へ呼んでください!」
それだけ言うと、フィナは全速力で駆け出した。
「おい! 待て!」
俺も追う。
「お坊ちゃま! フィナお嬢様! はしたないですよ!」
使用人に止められたが――
今は非常事態だ! 知らん!
部屋に着くと、フィナと専属侍女マルティナが話していた。
「朝起きましたら、このような手紙が残されておりまして……
シェリアお嬢様の姿が見当たらないのです」
「そんな……お姉さま……!
まず、その手紙を!」
「はい」
フィナが手紙を読む。
そして――崩れ落ちた。
「フィナ!? 俺も読む!」
〘お兄様、アリアナ、お父様、お母さまへ
私は、婚約破棄をきっかけに、旅に出ようと思います。
一か月に一回ほど連絡しますので、心配しないでください。
あと、探さないでください。
一年後か、二年後に、一度は帰ってくるつもりなので、大丈夫です。
それと、元婚約者が私の居場所を尋ねてきたら、
「悲しみで逃げ出してしまった」とだけ、伝えておいてください。
それでは。
アルシェリアより〙
……。
なんてことだ。
俺も崩れ落ちた。
屋敷の床が、こんなにも冷たかったとは。
◈◈◈◈◈◈◈(アルシェリア――ラル視点)
そんな騒ぎなど、つゆ知らず。
「おはよう」
朝起きて、一階へ降りる。
この宿は朝食と夕食付きらしい。ありがたい。
「あ、昨日の坊や! おはよう!」
「女将さん、朝ごはん……ある?」
「あるぞ。私が作ったから、絶対にうまい。」
「わかった。楽しみ!」
「お、言葉遣い直ってきたな!
その調子なら、立派な村の少年だ!」
……村の少年。
辺境伯令嬢からの落差がすごいけど。
「よかった。腹、減ったから、ごはんく…ちょうだい!」
「よしよし。怪しいところがあるけど、まあ、大丈夫だ!」
女将さんは満足げに笑った。
……まあ、悪くないかも。
◈◈◈◈◈◈◈
本当に、女将さんの料理はおいしかった。
自分で豪語するだけのことはある。
「ありがとう。夕飯も楽しみにしてるね!」
「ありがとな!」
軽く手を振って宿を出て、そのまま冒険者ギルドへ向かう。
「あら、昨日の……ラル君ね」
「リティさん。おはよう」
受付には、昨日と同じくリティさんが立っていた。
「依頼を受けたいんだけど、どんなのがある?」
「それなら、あそこにある掲示板よ。
紙の端にランクが書いてあるから、自分のランクと同じか、それより下のものを選んでね。
それを持ってきてくれれば大丈夫」
「ありがとう」
教えられた掲示板へ向かう。
魔物討伐、町の手伝い、護衛依頼――思ったより種類が多い。
けれど、私のFランクで受けられるのは、雑用や簡単な手伝いばかりだ。
……魔物討伐、ちょっとやってみたかったけど。
仕方ないね。
町の手伝いと雑用の依頼をいくつか選び、カウンターへ戻る。
「これ、受けたい」
「分かったわ。それと、これも渡しておくわね」
リティさんは依頼書とは別に、もう一枚の紙を差し出した。
「この紙をなくすと達成扱いにならないから、気をつけて。
依頼の条件や手順が書いてあるの」
「なるほど。気をつける」
「頑張ってね」
「ありがとう! がんばるね」
明るく、無邪気に返す。
こういう性格のほうが、有利だと気づいたから。
……一番の理由は、このほうが言葉遣いが定着しそうだから、だけど。
そのまま私は、受けた依頼をすべてこなし、昼前にはギルドへ戻った。
カウンターへ向かう。
「あ、リティさん。依頼、終わったよ!」
「あら、ラル君。早いわね。見せてちょうだい」
依頼を受けたら、依頼主から達成のサインかハンコをもらう決まりだ。
討伐依頼の場合は、討伐部位を持ち帰るらしい。
「うん、ちゃんとできてるわね。はい、報酬。これからも頑張ってね」
確認を終えたリティさんから報酬を受け取る。
「ありがとう。お昼を食べたら、また依頼を受けに来るね」
「待ってるわね」
ギルドを出て、屋台が並んでいた場所へ向かう。
パン、飲み物、スープ、サンドイッチや串焼き……いろいろ売っている。
「この串焼き、二本ください」
串焼きは初めてだ。
腐っても、元・貴族令嬢だから。
「あいよ。二本で銅貨十枚だ」
「はい」
さっきもらった報酬から銅貨を数えて渡す。
「確かに十枚。ほらよ」
串焼きを受け取る。
「ありがとう! おいしかったら、また来るね」
「また来いよ!」
屋台の人に手を振って、食べる場所を探す。
……って、そうか。
座らなくても食べていいんだ。
まだ少し、貴族の癖が抜けていない。
立ったまま、串焼きにかぶりつく。
「おいしい!」
甘辛いタレと肉の相性が抜群だ。
……また来よう。
心の中でそう決めながら、最後の一口を頬張る。
その後もギルドへ戻り、依頼を受け、こなし、報酬を受け取り――
気づけば、あっという間に一日が終わっていた。
今日は、充実していた。
貴族だったころは、忙しくはあったけれど、
毎日が同じことの繰り返しだった。
けれど今は違う。
この報酬で、一日を生きていける。
無駄遣いせず、少しずつ貯めていこう。
そう心に決めて、私は宿へと戻った。
ちなみに、アルベリクは、黒髪に、エメラルドみたいな色とサファイアみたいな色のオッドアイです。




