深い緑色の彼方より来訪した生娘
この書き物を、ラヴクラフトと海産物を愛する者たちに捧ぐ。
昔々の事。或漁村の浜辺に皆が集まっておりました。白ひ砂浜には、なんと、裸のおなごが打ち上げられて俯せでゐるではありませんか。村長が云ふには、見たことなゐ顔じゃ、何処か遠くから流されて来たのやもしれぬの。すると、げに体格の良ひ漁師が、ひょっとしたら此のおなごは唐から流されて来たんでせう、と声を挟んできます。そうやもしれぬのと、村長は相槌を打ちました。其れは何故かと痩せた漁師から尋ねられたので、村長が、このやうな白磁の肌は磁器を扱う唐人じゃろ、と答へます。然し、おなごの肌の色は説明出来ても、かような髪の色は問はれた場合どのやうに答へれば良ひのであろうかと、村長が首を傾げました。
其れは、若布や昆布のやうに深ゐ緑色とも、或ゐはこの海の深くに広がる深ゐ世界の緑色とも思へました。おなご容姿は、其れ程に変わり者だったと云へませう。
暫くして、おなごは体格の良ひ漁師と其の妻の家で目覚めました。身に付けられてゐる鼠色の着流しに触れて、少し恥じらひます。妻が微笑んで、一緒に御飯を食べませうと声を掛けます。大変、おなごは喜び満面の笑顔で頷いて共に晩を戴きました。お前さんは一体何処から来なさったのか、と尋ねられて、私は深ひ海の底のル・リヱーと云ふ都市から来ましたとそう答へます。更に、明日には我が家へと帰りますと繋げました。其れまでゆつくり過ごしてゆきなさひと、漁師夫婦がまるで我が子のやうにおなごを受け入れます。
そして、丑三つ時。
おなごの何やら抵抗する声の後に、泣き声が漁師夫婦の耳に入って来ました。ただ事でなひと障子を開けて見てみると、そこには、脚の間から赤ひ筋を垂らしている泣き顔のおなごと、躰を幾つもの触手から貫かれている痩せた漁師が居るではありませんか。何事かと体格の良ひ漁師が訊きますと、おなごは泣きじゃくりながら、此の野郎が私のヴァージンを無理やり奪ったのと訴えかけます。そして更には、触手と化した髪の毛を広げて海の向こうへと叫び始めました。
ヰア!ヰア! 私の父なるクトゥルフよ、ルルヰヱから現れて!
其の時です。海原が巨大な盛り上がりを見せたと思つたら、其れを破ひて巨大な蛸の化け物が現れてました。おなごは化け物の元へと駆け寄り、野次馬を作った村人たちに指差して、お父様! 此の村にお裁きを!
そして、其の漁村は消されてしまひました。
おはり
このような書き物に、最後までお付き合いしていただきまして、まことにありがとうございました。
変な物を読ませてしまって、申し訳ないです。